メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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25.社会見学

 花園学園ロボロボ団占拠事件当日。メダロポリスのサウスシティ下水道内の奥深くから、ある物が掘り出された。その物体は二重の遮光幕に包まれて、箱に詰められ密かに運び出された。

 

「ふふふふ。この輝き! このエネルギー反応! 伝承は真実だった。これこそ、コーダイン王国の隠された秘宝に違いない」

 

 久遠の歳月を経て蘇った古代王国は、遥かなる遠方の地から訊ねた客人から(たまわ)れた秘宝だけを奪われてしまい。掘り返されたかつての王国の名残は再び地の深くへと埋められた。

 

        *——————————————————*

 

「えー。つきましては、皆さんの健康並びに」

 

 校長特有の長々ダラダラとしたスピーチは続く。学校に来て、嬉しいような悲しいような気持ちは、校長先生の長いスピーチでそれらは吹っ飛んだ。

 九月の炎天下の校庭で、禿げかかった白髪頭の校長の長いスピーチをじっと立って聞くのは辛い。だが、ヒソヒソと小声で話そうものなら、校長の愛機であるサムライのナンテツやオトコヤマに睨まれて、慌てて口を閉ざす。以後はマークされてしまい、無駄話も碌にできなくなる。

 人間は辛い天候も、ナンテツなどのメダロットたちにとっては良いエネルギー供給になった。

 十分経ってようやく校長のスピーチは終わった。全校生徒にとって、その十分の体感時間は一時間を越しており、登校初日だというのにいらぬ疲れがきた。校長のスピーチのあとはお決まりのように、簡単な行事報告と風紀に関する全体の注意で始業式は閉幕した。

 始業式のあとは長い休み時間を挟み、お昼過ぎの三限目(この時代の小中学校の授業時間は一時間)には授業が終わった。

 アリカは夏休みの間に貯めた写真の整理をすると新聞部の活動に行ったので、イッキのような帰宅部の生徒は早々に学校を去った。

 イッキは小石を蹴り転がしながら、暇そうにつぶやきだした。

 

「あーあ。うちの学校にもメダロット部なんてあればいいのになあ。メダロットを持つことは許しているのに、メダロット同好会すらないなんてなんでかな?」

「答えかねる」

 

 隣で歩くロクショウは素っ気なく返した。

 数日前訪れた花園学園にはそれは豪華なロボトル館やメダスポーツ場があった。あそこまではとはいかなくても、せめて、メダロット部の活動ができるスペースでもあればなあ。

 スクリューズはスクリューズで、元は生徒会室だった場所を平和的に話し合って譲り受けたなどと抜かして、そこをスクリューズメダロット部なんて看板を上げているが、会員は今の所例の三名しかいない。噂では、ギンジョウ小学校の危険人物がそこにたむろしているとも聞いた。

 メダロット部がない嘆きよりも、今のイッキにはそれ以上の楽しみとするものがあった。九月下旬に行われる校外見学学習だ。しかも、訪問先の一つにはかのメダロット社とその工場見学も含まれている。

 メダロットを持ってる子も持ってない子たちも、人の意思を持ったロボットの生産工程が見られるのを心待ちにしていた(ついでに、お菓子工場で貰えるお菓子も楽しみである)。

 特に、アリカのはしゃぎようは凄かった。それもそのはず。その社会見学で、実際にメダロット社勤務のその人達と遠足にきた同学校の生徒たちの前で発売が二ヶ月先まで迫ったエレメンタルシリーズの感想を読み上げるというのだから、この大役にアリカはおおいに燃えて、今日も新聞部に立ち寄ったのは、顧問の先生と所属部員と協力してのスピーチ原稿制作にあった。

 こういうとき、素直にアリカは凄いと思う。やりたいことを早々に見つけて、そのためどんどんと突き進んでいくのは、尊敬とちょっぴり嫉妬のようなものを覚える。

 イッキは考えすぎるタイプであるが、たまにどこか抜けたような脳天気な考え方をする。今回は小石がその思考を上手い具合に発動させて、重くなりかけた足取りは軽やかに小石を家路まで蹴り続けさせた。

 おかげで、小石を家路まで上手く蹴り続けたというしょうもない達成感に満たされて、イッキは満足そうに玄関のドアを開けた。

 

 

 

 のらりくらりと過ごしてきたる九月下旬。念願の校外見学学習。予定表では、徒歩でまずメダロット研究所を見学後、バスに乗る。見学先は専らメダロポリスと決まっている。

 ゴミ処理場とリサイクル用品販売所、三組に別れてのビジネス会社見学と社会人との対話、メダロポリス市から許可を貰った上でのサウスシティ公園内での昼食。その後、お菓子工場とセレクト隊支部を回り、最後にメダロット社のオフィスと工場に立ち寄って、社会見学の授業は終了となる。

 オヤツは三百円分まで持ち込み可。大声であまり話さず、移動の際は迷惑をかけないよう静かにしなさい、と。電子ノートの「重要」と記された項目にはこれらのことが書いてあった。

 持ち運びが便利なキャリージャケットに0.6リットル入りのコップ有りの水筒を入れてからバッグに付けて、プリントアウトした予定表、楕円長方形のお弁当箱に電子ノートと紙媒体ノートに筆箱も詰めて、最後にメダロッチの予備パーツをちょこっと確認してから家を出た。

 アリカも誘おうとインターホンを押してみたものの、甘酒おばさんが申し訳なさそうに「ごめんね。アリカなら、イッキ君が来るほんの少し前に家を飛び出して行っちゃった」と答えた。

 急いで追う意味はない。のんびりとした歩調で集合場所の校庭まで行き、そこで、アリカや他の同級生にお早うと挨拶した。

 校長先生とナンテツに見送られて、三年生の集団社会見学が始まった。

 一組が八時四十分。二組は八時四十五分。三組は八時五十分といった具合に、各クラスは五分ずつ間を開けて出発した。

 地元なので、教師もやかましく騒ぐ者以外にはそう厳しく注意しなかった。ぞろぞろと話し歩くうちに、いつの間にかメダロット研究所の門前に到着していた。受付嬢とそのメダロットは三クラスを分けて、会場となる部屋に連れていった。

 受付嬢とそのメダロットは、アキハバラ・アトム博士は出張だというので、代わりにナエさん、白玉の他六名の所属研究員が、生徒たちに施設案内とメダロットについての簡単な講義と質疑に応答した。イッキとアリカがいる一組担当者は嬉しいことに、ナエさんであった。もう一人は白玉さんだった。

 普段、イッキとアリカやナエに良からぬ顔を見せる白玉も、この場ではごく普通に振舞っていた。このことに、アリカは胡散臭そうに耳打ちしてきた。

 

「なーんか怪しいわよね。あの人。私たちが夏休みを利用して通っている間、あの人だけ良い顔しなかったし。案外、裏でとんでもないことに協力とかしていたりして」

「考えすぎじゃないの? ロボロボ団は別として、メダロットを研究する人に悪い人なんてあんまりいないと思うけど。それとも、いつものジャーナリストの堪ってやつ」

 

 密かに雑談していたら、オトコヤマに「こら!」と叱られたので、話を中断した。

 教室を出る前、白玉は意味ありげに眼鏡をくいと上げた。僕の講義はつまらなかったのかいと言いたげだ。アリカは見えないよう舌を出したが、イッキは小さく頭を下げた。

 控えめで、のっぺりとした顔に濡れそぼった感じの黒髪のせいで、決してイケメンとは言い難いが、普通にしていれば人の良さそうな顔付きをしていた。

 何より、この前暴走メダロットについてメダロット研究所を訪れた際、「いくらストンミラーが兵器として開発されたからって、人間がメダロットをあんな目に遭わせる権利はないよね」と憤懣し、お悔みを申し上げていたので、根はそこまで悪い人ではないようだ。

 外を出て、右手にある研究所近辺の駐車場に三台のバスが停車していた。各クラスの教員とガイドさんが生徒を誘導して、全員乗り込んだのを確認すると、いざメダロポリスへ向けて出発。

 

 

 

 蒸気がもくもくとたちこめるイメージはあったが、それは昔の話のようであり、今はもうダイオキシンなどの有害物質は完全に発生しない造りになっているらしい。

 ロクショウは興味あるなと言ったが、メダロットの立ち入りは禁止されていると教えたら、大人しく引き下がった。

 各自マスクを装着、収集車から大量のゴミが下の堆積場へと落とされる光景。車や大型ゴミがプレスされる様子。プラスチックが高熱で溶かされたり、生ごみを肥料にする様子。円くて巨大な円盤で金属ゴミだけを分別する光景は、がしゃがちゃんと派手に種々雑多な金属同士がぶつかりあったり摩擦する音で見応えがあった。

 一般では市販されていない、こういう処理や工事関係のみでしか見られない現場用メダロットもいた。

 彼らはどう思っているのかな。そして、ロクショウに見せなくてよかったかもしれない。ゴミの中には、僅かにだがメダロットに関する物も含まれていた。あの中には、あの兵器用や光太郎のようなメダルも。

 それはないか。法律では、メダロットのメダルは特殊な廃棄物として処理される必要があるしね。そう分かっていても、パーツやティンペットが実際に処分される光景は気持ち良くなかった。

 

「もったいないね。いらないんなら、くれればいいのに」

 

 一人の同級生の言葉に、イッキや周りの生徒はうんと頷いた。

 処理場見学の次は、一つ壁を挟んだリサイクル用品販売所。簡素な白ペンキで塗られた、は○しのゲンという漫画に出てくるバラックとかいう建物を大きく豪華?にした感じだ。

 ここでは、肥料にガス缶、テーブルや椅子にトイレットペーパーなどの日用雑貨品に、驚くべきことにほんの数点だがメダロットのパーツまで売られていた。これを見て、幾分気持ちが和らいだ。今の財布の現状ではどれも手を出せないが、メダロットや工具用品にキャンプ用具など、男子の大半はそれらを夢中に手に取り、眺めた。

 販売所の訪問はトイレ休憩も兼ねており、十五分後にはリサイクル用品販売所を後にした。

 

 

 

 ビジネス会社の訪問は意外にも盛り上がった。子供たちの質問をいかに挙げれば、

 ビジネスマンって具体的になんですか? 家庭と仕事の両立は大変ですか? 家庭と仕事のどちらが大変ですか? メダロットを持っていますか? 株や相場ってなんですか? 奥さんは怖いですか? どういうとき、仕事に喜びを感じますか? ビジネスマンは儲かりますか?

 子供たちの初々しい質問攻めに、リーマンの方達は誠実に答え、ときに複雑な表情を垣間見せた。

 ビジネス会社訪問も終えて、いよいよ待ちに待ったサウスシティ大公園での昼食と自由時間。

 刈り込まれた緑の平地にピクニックシートを広げ、ついでメダロットたちもメダロッチから解放してやり、アリカや数名とピクニックシートを繋げてランチタイム。

 お弁当の中身は白米豚カツ四切れキャベツさくらんぼ、蓋と蓋の間には鮭のふりかけも入っていた。

 わいわいと無駄話と昼食で時間が過ぎていく。

 メダロットはメダロットで、すぐ近くでは光太郎やアリカのプリティプラインが横たわり、ロクショウは静かに噴水のへりに腰掛け、トモエはブラスやフレイヤに誘われて気ままな散策を楽しんでいた。赤の宝石フレイムティサラは歩く人の注目を集めていた。

 イッキはフレイヤは目立つでのはないかといったが、アリカは首と右手を振って否定した。

 

「いやいや! 宣伝効果も兼ねて、フレイヤはエレメンタルシリーズのパーツを着たまま自由に動かしてくれとお願いされたし。これでいいのよ」

 

 イッキは、寂しげなものがアリカの顔に浮かんだような気がした。あの一カ月の期間、アリカとフレイヤは仲好さそうだったし、自分の見えないところでは色々と話し合ったりしたのだろう。ナエさんはアリカとフレイヤの意思に委ねるといっていたが、フレイヤはアリカのもとを離れることを選択するか?

 お昼時間一杯まで、クラスメイトと一部のメダロットも交えて鬼ごっこに興じた。アリカはカメラを引っ提げてあちこちを巡り、プロのカメラマンの方と一緒に各クラスの写真撮影を行っていた。十三時半頃、バスは次なる目的地に向かって発進した。

 

 

 

 お菓子工場では全員給食係りの恰好で見学した。見学後、従業員と工場長の人の手から直接お菓子を詰めた袋を配られた。

 共通してチョコポッキーだが、もう一つ別な物を詰めているよと工場長は説明した。イッキの袋の中身はチョコポッキーとミニカステラだった。たこ焼きが入っているわけないよね。

 四番目はメダロットを使って市民の安全を守るセレクト隊の東京二番支部。ヒカル兄ちゃんの小学生時代では憧れの職業ランキング上位に食い込んでいたそうだが、今やトップから五十位以内離れたところに来るのが恒例である。

 幸い? というべきかな。この前のメダロッ島や花園学園の事件でイッキはアワモリという隊長の男に顔を覚えられてしまったので、その隊長さんが出張でいないと聞いたときは何故か胸を撫で下ろしていた。

 代わりに、トックリという、つんつん頭と丸いグルグル眼鏡が特徴的な副隊長格の男性と、ヘルメットを被っているので顔と年齢はわからないが、やや老けた感じの隊員がセレクト基地を案内した。

 セレクトPC(パトロールカーの略称)。情報を受け取る部屋。装甲車。

 新セレクトのメダロット、アタックティラノ、エアプテラ、ランドブラキオのイケてる恐竜メダロット三型を見て子供たちは喝采を浴びせ、柔剣道空手では隊員たちが懸命に汗を流していた。この訓練が実際の事件に役立てばいいのにと思う。アリカは、肝心なところを撮れなくて惜しいと不満を露にしていた。

 他、セレクト隊の警察とは異なる役目を教えて、短い質問時間のあと、セレクト隊訪問は終了。

 いよいよ、社会見学の締めであるメダロット本社とメダロット生産工場見学の時がきた。

 

 

 

 バスを本社駐車場に停車させてもらい、メダロット本社オフィスビルへ。

 白衣を着た研究員三名。キララさんと名乗る、ハーフと思しき、金髪を小さく一纏めにした青眼(せいがん)の女性と二名のオフィスレディが三クラスをエスコートした。

 一組はキララさんと、鹿児島出身で眉が太くて小柄なわりにはがっちりした体型な研究員の二名がガイド役だった。事前の説明で、メダロットを転送しても良いと許可は降りていたので、イッキはメダロッチの三体を転送した。

 研究員の紹介のあと、キララが自己紹介をした。

 

「教頭先生お久しぶりです。そして、皆さん初めまして。私は秋田・アドラー・キララといいます。キララとでも呼んでください。実はですね、私は皆さんと同じギンジョウ小学校の卒業生なのです。だから、今日はギンジョウ小学校郊外見学学習で教頭先生や後輩たちにお会いできることが、とても楽しみでありました」

「キララさんは日本人ですかぁ?」

 

 誰かのぶしつけな質問に、キララはさも慣れているといった感じに微笑みながら答えた。

 

「私の母はドイツ人で、父はイギリスの日系二世です。でも、私自身は英語もドイツ語もそこまで話せないの。もしも、英語とかを教えてもらいたいと思って質問したのなら、期待に添えなくてごめんなさいね」

「うちの生徒が無礼な質問をして済みません。ほら、お前たち今度は無駄口叩くんじゃないぞ」

 

 オトコヤマに軽く一喝されて、騒ぐ生徒たちは黙った。

 

「いえ、お気に召さらずに。もう慣れていますので。皆さん。角山さんと私に付いてきてくださいね」

 

 オフィスビルでは、メダロット本社の施設概要と一般公開されいてる一部だけを案内された。

 メダリンク回線に繋がる大スクリーンで、本社所属研究員のブラックメイルと海外支社所属の研究員のビーストマスターがロボトルする様は、映画を見ているみたいで中々見ものだった。因みに、勝敗はブラックメイルの判定勝ちであった。 

 その次に行く工場で、今日の郊外学習はしまいである。

 担任のオトコヤマと教頭、キララと研究員角山の四人からヘルメットを渡された。生徒の中には、ヘルメットを被っただけで興奮する者もいる。工場入る前にもう一度、キララは生徒達を注意した。

 

「皆さん。もうわかっていると思いますが、出来る限りお口を閉めて見学してくださいね。分かった人達は、手を上げてください」

 

 一組一同の生徒とメダロットは担任も含めて手を一斉に上げた。キララはよくできましたとニッコリと白い歯を見せて微笑んだ。

 

「それでは、メダロット生産工場の中をご案内致します」

 

 角山とキララ、ついで教頭先生がを先頭をいき、オトコヤマは生徒が騒いだりはぐれたりしないよう最後尾で目を光らせていた。

 メダロット社のHPのイメージで、メダロットの生産は一部を除き、機械の手やらドリルやら金床でけたたましい機械音が轟いているかと思いきや、そうでもなかった。逆に、純粋な機械任せの工程のほうが一部であった。

 メダロットのティンペット、パーツの多くは、角山さんのように白衣を着た何百人もの研究員や青い作業着の従業員の手作りで行われていた。パーツ・ティンペットの元となる細かな部品の大半も、メダロット社直属の下請け会社がこことは別の工場で受注している。メダロットが好きで、よく知っているつもりであったが、この事実は初めて知った。生徒たちの多くはイッキと同じ反応を示した。小学生たちの素直な反応を見て、エスコート役の二名は得意気な表情だ。

 

「ほほぅ。興味深い光景だな。自分が今着ている物はこう作られていたのか」

 

 ロクショウは熱心に。ヘッドシザースのパーツが作られる工程を見入っていた。

 工場見学も終えて、いざ帰ろうかという雰囲気になったとき、再びメダロット本社に戻ることになった。エスコート役の人達は、サプライズを行うとしか言わなかった。

 本社の広い空室に三クラスの生徒達が座り込み。サプライズがどんなものかと期待した。エスコート役とは別の四人の研究員が、何かに黒い布を被せたカートを運んで入室した。キララさんたちがその布をさっと引き取ると、子供たちは驚きのあまり大声ではしゃいだ。

 四台のカートには、右から順に炎のようなメダロット。ずんぐりした緑のメダロット。翼が生えた済んだ空のような色合いのメダロット。深海色のメダロットが鎮座していた。宝石のような輝きに女の子は見とれ、男の子はかっこいいと賞賛した。

 キララがマイクを持って説明した。

 

「ギンジョウ小学校の皆さん。このメダロットたちは右から攻撃のフレイムティサラ、防御のアースクロノー、特殊のウインドセシル、回復のアクアクラウンという機体名称があります。このメダロットは二ヶ月先で発売が決定した『エレメンタルシリーズ』という自然界の精霊をモチーフにして作られたメダロットです。実は、皆さんの中に、このエレメンタルシリーズのテストプレイヤーをして下さった方がおります。

 このお部屋に皆さんを集めたのは、そのテストプレイヤーの方から私達メダロット社勤務の社員並びに、ギンジョウ小学校の方達にこのメダロットの感想を聞かせてもらうため、この部屋に集まってもらいました。では、どうぞ前へ甘酒アリカさん!」

 

 ざわざわと、全ての注目がアリカに注がれる。アリカは様々な思いが込められた視線など意に介さず、ぴんと背筋を伸ばし、堂々と三年生たちの前に立った。

 アリカの両横にはブラスとフレイムティサラのフレイヤがいた。アリカはまた堂々とカンニングペーパーを盗み見ると、一つ深呼吸して、胸を張って演説した。

 メダロット社の社員が機体するような機体性能に関する事はあまり無かったが、短い期間、フレイヤと共にいて本当に楽しくて、助手も増えて大助かりしたなど、アリカは自分の日常生活におけるフレイヤとの関わりを中心に語った。

 華美装飾が一切ない、自分の心に素直でストレートなアリカらしい感想だ。言い切ったのか、アリカはふぅと肩を落とした。真っ先に拍手をしたのはキララさんだった。

 

「素敵な感想ありがとうございます、アリカさん!」

 

 この場に居るスクリューズやいじけた心を持つ数名以外は、皆アリカに拍手を送った。アリカはてへへと恥ずかしそうににやけ、誤魔化すため、撫でるように頭を掻いた。

 

「では、そろそろお時間が迫りましたね。ああ、アリカさんは少し残ってくれませんか」

 

 教師と社員に生徒が連れて行かれるなか、キララはタイミングよくイッキの肩を腕を掴み、注目されないようにこっそりと部屋に戻した。

 キララは一言詫びると、探るような目付きでアリカを見た。

 

「アリカさん。今後も、この子と一緒にいたい?」

 

 この子とは、当然フレイヤのことだろう。アリカは目を逸らさず、「はい」とだけ答えた。次に、フレイヤを見た。

 

「あなたはアリカさんと一緒にいたい?」

 

 フレイヤは少し間を置いて答えた。

 

「アリカさんとアリカさんのご家族が迷惑でないのなら、これからも一緒に…」

「そう」キララは頷いた。

「じゃあ、ナエさんと博士に伝えておくわね」

「え? 何を?」

「何って? そうね。フレイムティサラはもう正式にあなたのメダロットになったということよ」

「ええ?」

 

 少し理解するのに時間がいりそうだ。この人は、メダロット博士とナエさんとどういった関係なのだろう。イッキたちの疑問をよそに、キララはあっけらかんと喋った。

 

「私はね。詳しいことは言えないけど、アキハバラ博士とナエさんと懇意の仲なの。今日、大学の夏休みを利用した研修身分の私があなたたちのエスコートを出来たのは、ほかならぬ博士の働きがあったからよ。それでね、ナエさんから二人を見極めてほしいって頼まれたの」

「ナエさんが」

 

 一瞬、暗い顔をしたアリカをキララは慌てて宥めた。

 

「誤解しないでね。ナエはあなたとメダロットの仲を疑ったわけではないのよ。念には念を入れてと言えばいいかな。まあ、でも、今日会ったばかりだけど、あなたの素直で率直な言葉を聞いて、私はあなたがその子を持つに値すると人とわかったから。だから、ナエを責めないでちょうだい。そして、自分はこの子のマスターなんだって胸を張りなさい」

 

 アリカはブラス、そしてフレイヤと顔を合わせた。フレイヤが先に動いた。

 

「アリカさん。改めて、よろしくお願いします」

「セフィス。こちらこそ、今度ともお願いします」

「私もよろしくお願いね」とブラスも腰を曲げた。

 

 こうして今日、フレイヤは正式にアリカのメダロッチに収納される最後のメダロットとして迎えられた。

 キララ、イッキ、ロクショウと光太郎にトモエは彼女らを祝福した。と、それはとてもいいことだとして、僕が呼び止められた理由は?

 イッキが何か言いたげにキララの方を向くと、

「あっ! ごめんごめん! ちょっと頭から存在が抜けていたわ!」

 こう言われて、イッキはずっこけそうになった。

 

「あなたを呼び止めたのは、あなたのお顔を一度拝見したかったのよ。あなたがようく知っている身近な人やあいつから、あなたの活躍は聞いているわ」

「あいつって?」

 

 そう指摘されて、キララはしまったと焦ったが、さらりと受け流した。

 

「ううん。気にしないで、別の仕事の付き合いがあるちょっとした馴染みとでもいいのかな? ともかく、また会う機会があるかもしれないし、その時までよろしくねイッキ君」

 

 キララの差し出された手をイッキは握り返した。キララはアリカやメダロットたちともそれぞれ握手を交わし、六名を駐車場まで連れていき、オトコヤマに詫びた。

 

「オトコヤマ先生でしたか? 済みませんねぇ、生徒を私用でお借りして、その上バスまで待たせてしまいまして」

「いえいいお構いなく! 立派な先輩から直接話を伺えて、こいつらも喜んでいることでしょう」

 

 帰りのバスでは、お菓子工場から貰ったポッキーとミニカステラをぱくついた。今日の社会見学は、今まで受けたどんな授業よりも実りがあるものだった。

 バスから降りると各担任が紙媒体のプリントを配った。名前と学年の記入欄、黒い何本もの行間があるプリント。

 

「今日の感想文は一週間後までには提出するように。休みを挟むので、それまでに書くのは簡単だろう?」

 

 イッキは久しぶりに真面目な気持ちで感想文を書くことにした。

 


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