メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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23.野良者(のらもの)

 薄墨の空に大量の墨汁が追加され、その重みで和紙を破るように雨が降り出した。ベルモットとイッキの静止も振り切り、アリカはずっかずっかと大股で学園外に出た。

 

「まあまあやるねぇ」

 

 ハチロウが憎たらしげに人差し指で髪を遊ぶ。イッキはハチロウに寄ろうとしたら、ハチロウはどっから取り出したのか、奇妙な機械音がするマジックハンドでイッキを押し倒した。ベルモットが尻餅ついたイッキを助け起こした。

 

「僕に近寄るな」

 

 ハチロウは高笑いしようとしたが口を閉ざした。イッキとベルモット以外の者に睨まれて、ハチロウは足早にロボトル館をあとにした。

 アリカはハチロウとのロボトルに負けたのだ。緑のホッピンスターとワイアーニンジャ、近接と遠隔攻撃を得意とする二機をバランス良く配し、ハチロウはリーダー機のブラスを集中攻撃した。

 アリカとブラスたちも善戦したが、実力は相手が一枚上手だった。アリカは真剣ロボトルに勝利したからパーツを譲ると言ったが、ハチロウは「そんなパーツいらないよ。それに、僕は一言も真剣の方に同意した覚えはない」と言い、パーツを受け取るのを拒んだ。

 アリカはこれを侮辱と受け止めた。頭を冷やしてくると言い放つと、傘をさして怒り心頭外に出た。

 高級オーダーメイドで作らせたとハチロウは抜かしていたが、単に金に物を言わせただけではない、ハチロウの指示と二機の動きも的確だった。イッキのハチロウの第一印象は、嫌な性格をしたこうまんちきで、そのくせ腕のよいメダロッターである。

 

「金持ちだからとか、自分の能力や親の地位で鼻にかける奴はいるけど。皆が皆ああじゃないよ。良い奴も一杯いるよ」

 イッキとロクショウはわかっていると首肯した。自分の学校にも、スクリューズ以上に嫌な奴はいる。

「でも、以前の彼はそこまで鼻にかけるような奴じゃなかったんだ。なにより、メダロットへの想いは本物だったのに」

 

 ベルモットはなにか言いたげだったが、言い淀んだ。あの陽気なベルモットがハチロウに向けた刺々しい眼差しはなんだったのかな?

 

「ところでイッキさん。アリカさんを追いかけたらどうかな? 僕はここの掃除とスタフィの修理をしなきゃいけない。遠慮しなくていい。誘ったのは僕の方なんだし。ほら、ガールフレンドを迎えにいきな。それと、行く前にこれを」

 ベルモットはスターフィッシュの脚部をイッキに差し出した。

「良いロボトルだったよ。自由に使って構やしないけど、売るにしても、できれば一回ぐらい使ってからにしてくれないか」

 

 イッキは一言ありがとうと述べると、館から出て折畳み傘を広げた。結局、ベルモットや他の生徒がハチロウに向けた敵意の理由は聞けなかったが、まずはアリカのあと追っかけるのを優先した。そういえば、奇妙な機械音? どこかで聞いた気がするけど、別にいっか。

 

 

 

 ぶつぶつと呟きながら、アリカはハチロウの名を口にした。

 

「もっしもあのハチロウが犯人だったら! 絶対マスコミの名において成敗してやるわ」

 

 ペッパーキャットの両腕を着けたペンギンのお人形のような恰好をしたメダロット・ピンゲンとすれ違った。こんな雨の中を散歩するとは、物好きなメダロットか。はたまた、マスターが変わっているのか。

 

「アリカぁ!」

 

 イッキとロクショウはアリカを発見し、駆け足でアリカに追いついた。アリカは気の向くままに歩き、学園の裏側から少し離れた、均一な高さに刈りこまれたブッシュが植えられた歩道にいた。

 

「アリカ、よかった。遠くに行ってやしないかと思ったよ」

「遠く? 何言ってんの? 私はどこもいかないわ。あのハチロウとかいう奴の正体を掴むまでは! ぜぇったい! あの学園には裏があるには違いないわ」

「裏って」

 

 アリカの気持ちは分からないこともないが、気に食わない奴がいた=犯人がいるに違いないという図式はいかがなものだろうか。アリカはイッキの思考を読んだのか、こう答えた。

 

「あてずっぽうでもないし、あのハチロウが気に食わないだけじゃない。現に、学園内で顔色を変えてこそこそしている奴らがいたんだもの。あれは、テスト前の焦りから来ているものじゃない。私の記者の勘が告げている。あれは、良からぬことを企む小心者の焦りだと」

 

 そう言われても、イッキとロクショウにはさっぱりだ。その三名の様子をブッシュから窺う者がいた。ロクショウは気配を感じ、歩道左側のブッシュを見やった。

 

「なにかいるな。ふむ、そこにいるもの出てこい! 索敵機能を使わずとも、いるのはわかっているぞ」

 ロクショウが突然ブッシュの方を警戒したので、イッキとアリカも、通路左にあるブッシュを見た。

「怪しくないよー」

 

 ブッシュから現れたのは、先ほど歩くアリカの横を通り過ぎたピンゲンだった。アリカがあっと、反応したので、イッキは顔見知りなのと聞いた。

 

「顔見知りもなにも。さっき、歩いているときにすれ違っただけよ。ところで、あんたはなんでこそこそと隠れて人の話を盗み聞きしていたの。そのことによってあんたのメリットは。あんたのマスターは! さあ、答えなさい!」

 

 アリカの気迫な責め問答に、ピンゲンは怯えた声で答えた。発見者であるロクショウはいたたまれないなと言った。

 

「ぼぼ僕ピンゲンのマイキー。君たちの会話を盗み聞きしていたんじゃなくて、は……ハチロウの名前を言っていたから…」

「ハチロウがどうかしたの?」

 

 イッキは優しい声でたずねた。

 

「ハチロウ元気にしているかなって。ここんところ、カレとは会っていなかったから」

 

 アリカはなんのこっちゃと首を傾げたが、イッキとロクショウは顔を見合わせた。ベルモットの刺々しい視線と言い淀んだ言葉。周囲の敵意に満ちた視線。彼らとハチロウに共通した項目はただひとつ、メダロッター。とてつもなく嫌で不快な答えに至った。メダロッチがザザーとノイズを上げる、どうしたのとアリカがメダロッチをイッキのメダロッチを覗く。ノイズを上げているのは光太郎だ。光太郎も短い会話のやり取りで合点がいき、不快に思っているようだ。

 

「ハチロウは僕のマスターなの」

「えっ!?」

 

 アリカは驚いたが、今の話の筋からすればそれもそうだなとすぐに納得した。

 

「それでマイキーはなんでハチロウのメダロッチとかにいないの」

 

 イッキは感情を抑えて聞いたが、声は自然と震えているのが自分でもわかった。ハチロウの印象は嫌味なボンボン、その印象は今も変わらない。それでも、メダロットを持っているし、心底そこまでな奴でもないだろうと思っていたがそれも怪しくなった。

 

「ハチロウとは一カ月前から離れて暮らしているの。たまに会うけど、八日ぐらい前かな? その時から、外に充電用機械が置いてあるだけで、僕と顔を合わせること無くなったの。じいやさんも詳しいことは知らないって」

「なんで? そいでそのじいやさんは」

「じいやさんは淡野家の執事でとっても良い人ダヨ。……ハチロウは理由を話してくれなかった。ただ、僕を信じて、ほんの少ししたらまた暮らそうとしか言わなかったノヨ。僕が出てすぐ、ハチロウは新しいメダロットを二体購入シタンダ」

 

 イッキは自分なりによく言葉を考え、選んでから質問した。

 

「なんでそうなったの? ロボトルが弱いからとか」

 

 ピンゲンは回復能力を使えるが装甲が薄く、ロボトルには向かない。どちらかといえば、看護に介護、一人暮らしの女性や老人の寂しさを紛らわす用に造られたメダロットといっても過言ではない。ロボトルが弱いと言うと、ピンゲンは違うと憤った。

 

「世間じゃ確かに僕は弱いといわれているよ! でも、ハチロウはそんな僕を使って勝ってきたんだ。ロボトルの時はほら、こうして頭以外は別のメダロットの物に替えているんだ」

 

 ピンゲンはペッパーキャットの両手を振ってみせた。その動作にあざとさはなく、本人の性格から自然にそうきているのだろう。

 マイキーの声は純粋はそのもの。彼女(彼?)はハチロウが迎えにくると信じて疑わない。

 マイキーは気づいているのだろうか、自分の立場を。いくらなんでもそこまでの奴ではないと思っていたが、どうやらハチロウはそこまでの奴らしい。怒りが篭もった声でアリカは最低な奴と吐き捨てる。

 雨に打たれるマイキーは、心なしか泣いているようにさえ見えた。ロクショウが握りこぶしを固める。

 

「彼とはよく話し合う必要があるな」

「取材対象変更! タイトルは『花園学園三年生A・H!非道なるメダロット投棄の真実は!?』よ。さあ、行くわよイッキ」

「えっ!? ちょっ!」

 

 マイキーが何かを聞く前、イッキの同意を得る前に、アリカはイッキの右腕を掴んで花園学園へ一直線に向かった。ロクショウも急ぎ二人を追跡する。マイキーはもちろん、イッキとアリカにロクショウすら気づいていなかった。マイキーとは別の監視者がいることに。

 実はロクショウは殺意を感じたていがそれはほんの一瞬であり、姿が見えないので気のせいかと思い、今はハチロウに対する本音が気にかかるので、そちらを優先して言わなかった。

 ロクショウに殺意を中てた存在は確かにそこにいて、マイキーより上手く、隠蔽パーツを使い隠れていた。殺意を抱いただけでは気付かれないはずだが、彼はロクショウのメダルとは近くも遠い造りだったので、漏れた殺意をついロクショウにあててしまったのだ。

 思った通り、奴とメダロッターは来た。運命の糸は上手く絡むときがあるようだ。

 憎かった。自分の兄弟であり、かつては自分と一つだった者達を傷付ける奴らが。

 彼らにはどうしようもなかった。自分達は逆らえないよう造られている。殴りたくても、リミットがかかって殴れない。

 偶然とはいえ、おどろ山とメダロッ島にて、自分の兄弟を傷つけ辱めた奴にこの感情をぶつけられる日が早く来るのを願った。そして、とうとう来た。奴とそのメダロッターは絶対に首を突っ込むはず。自分達が奴を憎いのは、ある点では同じ環境にいながら、真逆の、幸せといえる生活を送れているのが対象への憎しみを一層際立たせた。

 人格も失われず、魂が一つにくっつけたまま暮らせているあいつ。ある意味あいつのせいで、数少ない心を許せる奴は実験という名の下「処刑」され、あいつは介錯と抜かして命を奪った。わかっている、自分達のしていることが良からぬ類であるのは、だが、奴のせいで更なる苦しみを与えられたのもまた事実。

 楽しみだ。温室育ちの坊っちゃんメダロットがいかに抵抗して、いかに自分が無力であるかを思い知らさせてやるのがな。

 視線を感じ、面を上げる。あのペンギン型メダロットがこちらを見ていた。どうやら、パーツの一部が雨にあたり、何もないはずの所を不自然に形作っていたようだ。慌てて物陰に引っ込む。ピンゲンはしばらくじっとその方向を見やると、やがて、そっぽを向いて道を折れた。

 危ない危ない。興奮してしまうとは。気を急いて目的を誤るな。周囲に動く物がないかよく確認してから、姿を消したまま学園へ向かう。

 

 

 

 アリカは十分ぐらい学園内を走り回り、教師に怒られるまで探すのを止めなかった。

 

「もしかたら、男子トイレにいるのかもね。それじゃあ、圏外ね。イッキ、あんたが行ってきなさい」

「うーん。でもお腹空かない? そろそろお昼時だし。とっちめるにしよ、理由を聞くにしろ。ご飯を食べて、一度お腹も頭も落ち着かせてからハチロウを探さない」

 

 イッキは自分のお腹をさすってみせた。アリカは相変わらずな奴と嘆息したが、素直にイッキの言葉に従い食堂に向かった。食堂は西洋ゴシック様式の造りで、全体の雰囲気も和気藹藹(わきあいあい)としていた。互いの母親がお弁当と水筒を持たせてくれたおかげで、二人は昼食代に余計な出費を重ねず済んだ。

 こんな貧乏臭くて大丈夫かと不安に思ったが学園の生徒は二人を一瞥しただけで、特に興味もなさそうに思い思いのお昼を過ごしていた。

 ただ、食事の内容はさすがに格が違っていた。一番安い物で九百八十円の値札がついていて、最高で五万円の物を頼んでいる生徒と教師が数名いるのだから驚きだ。自分達の生活とはお財布のレベルが異なるんだなと痛感させられる。二人は片隅に引っ込み、バッグを壁にして、こそこそと中身をほおばった。

 手持ち無沙汰なロクショウは食堂を歩き回り、入口で一人の人物と出会った。

 

「カリン殿!」 

 

 カリンはピンクの半袖シャツと黄と橙の縦縞模様が編まれたショートスカートを履いていた。髪型はいつものふかふかと柔らかな金髪ツインテールだった。カリンはイッキとアリカのように首を曲げるのではなく、きちんと腰を曲げてお辞儀した。

 

「まあ、ロクショウさんこんにちわ。今日は一人でここに」

「まさか。アリカとイッキの両名はほれ、あの席に座っている。それよりも、カリン殿は今日どうしてここに?」

「普段、私はお父様やお母様が呼んだ専門シェフの料理をきこしめしているのですが、今日は仮投稿日。久しぶりの清く楽しい学園生活にも慣れる為にも今日は食堂へきたのです」

 

 カリンは、ロクショウに二人が座す隅っこに案内されて、イッキとアリカ(特にイッキ)はメダロッ島以来のカリンちゃんとの再会を喜んだ。

 カリンはなんのことないようにキャッシュカードで一万五千円の和食御膳を頼んだ。

 

「外見でよく勘違いされますが。私はこう見えて濃い味より、薄味やさっぱりしたものが好みなのです」

 

 二人はそうかとしか言えない。カリンちゃんやベルモットには悪意はないので許せるが、ハチロウと同類の奴であれば、手を挙げる行為を嫌うイッキも手を挙げていただろう。

 三人と一機はとりとめもない出来事を話の種に、昼食は大いに弾んだ。出来事といっても、メダフォース実験の事や暴走事件など伏せるものは伏せた。コウジは自宅で昼食を済ましてから来るとカリンちゃんから聞いた。お勉強会とやらが終わったら、コウジをあのロボトル館に誘おうと、イッキの意見にロクショウは同意した。

 楽しいお喋りと昼食の時間はあっという間に過ぎ、カリンは勉強会へ参加しにいかなければと言って席をはずした。

 午後一二時五十分を差す時、イッキとアリカも食堂から出た。雨は小降りになったが、天気は曇天の状態。またいつぞろ土砂降りとなるか分かったもんじゃない。

 

「しまった!」

 出た途端、アリカは自らの頭を小突いた。

「カリンちゃんにハチロウの奴のことを聞いときゃよかった。同学年だし、事情の一つや二つは知っていたはずだわ。くぅー……私としてことがとんだお間抜けね。しょうがない。自動玄関付近に張り紙が貼ってあったし、もしかたら、そこに今日のお勉強会の予定とかも書かれているかもしれない」

 

 学園へ入ろうとした足を止め、自動玄関付近まで踵を返した。アリカの言っていたとおり、張り紙は貼られていた。

 大半が夏休みの行事やクラブ活動、そして、今日みたいなお勉強会の時間帯を告げるもの。

 それによると、一階は北側の教室で国語と地理のニコマ。二階の南側で算数と理科のニコマ。三階の北側では英語をニコマ続けてするようだ。

 こんなにも勉強するとは、イッキは見ているだけで頭が痛くなってきた。

 

「どうする。いくら憎たらしい奴がいるからって、教室へ突っ込む訳にはいかないだろ」

「いくら私でも、そこまで非常識なつもりはない。あいつは勉強会に来たと言っていたから、教室の近くで張り込みよ。私は三階。ブラスは二階。イッキたちは一階ね。早くも決まったことだし善は急げ! マイキーの為にも一肌脱ぎましょ」

 

 アリカの言い分には明らかに私情が挟まれているような気がするが、マイキーを捨てたハチロウの真意も知りたいし、他に上手い手立ても思い浮かばないので、イッキたちは張り込み案に乗ることにした。

 カリンちゃんが居る三階を張り込みたかったが、コウジが居る一階でもいいかと我慢した。

 

「ブラス、戦ってまだそんなに時間経ってないけど。頼んでくれる?」

「いいですよ。アリカちゃんのためでもあるけど、ハチロウ君の気持ちも知りたいから」

 

 自分の主人に暴言を吐き、自分を痛めつけた相手を君付けするとは。つくづく、アリカは良い性格のメダロット。もとい、メダルを手に入れた物よ。

 

「ああでも、ずっと突っ立っているのは辛いから、張り込みは授業終了十分から十五分前にしましょ。それまで、ブラスは私と一緒ね」

 

 一同は三十分の間、図書館に滞在した。屋根続きなので移動は楽だった。その三十分後にアリカは図書館を出た。居ても立ってもいられないと言い残して。もちろんブラスも続いた。

 イッキたちはもう少し図書館で寛ぎ、一コマ目残り十三分の時に様子見に行った。イッキが教室に近づいた時、昼飯の不要なものが急にお尻に押し寄せた。怪しまれるといけないと思い、イッキは咄嗟にロクショウをメダロッチに収納し、トイレに直行した。トイレもメダロッターズにあるような高級感が漂う所であり、全て洋式でウオッシュレット。イッキは内装に僅かに見惚れると便座に座した。

 もしもこのとき。ある小さな存在の機智な判断と勇気ある行動、そしてイッキに運ならぬウがおりてこなければ、この日学園で起きた事態は最悪な結末を迎えたであろう。

 誰かがトイレに入ると同時に授業終了を告げる鐘が鳴る。あまりのけたたましさにイッキは耳を塞いだ。新たにトイレに用を足しにきた人物も、「うるせえな! ベル管理コンピューターが故障でもしたのか?」とベルに負けないぐらいの大音声。

 その声には聞き覚えがあった。ベルが鳴る中、イッキも大声でコウジか? と、ベルにまけぬよう大声で返した。

 ベルが鳴りやむと、あちこちで細りかかった悲鳴の切れ端がトイレにまで届いた。

 

「コウジか?」イッキはもう一度、問い質した。

「イッキか! どうしてお前がここにいるんだ!? ていうか、今の悲鳴はなんだ」

「こっちが聞きたいぐらいだよ!」

「またしてもか」

 

 ロクショウは独り言をつぶやく。

 

「あにがまたしてもだってぇ?」

 

 コウジが間の抜けた声で聞き返した。

 

「わからぬ。だが、こうは表せる。二日前は苦しんでいたが、今私に届いた信号は悪意に充ちていた」

 

 ともかく、学園内で非常事態が発生したのかもしれない。火事? 強盗? それとも未確認飛行物体? 外に出たいのは山々ではあるが、差し迫って、イッキはまず大きな用を足す必要がある。

 


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