メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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17.メダロッ島(最終日)

 メダロッ島にある、とあるホテルの静謐(せいひつ)な一室での通信器を使用した密談。

 

 ——無事、任務完了しました。ええ、彼が転んで怪我をするという想定外のアクシデントが発生しましたが。その点は、深く反省しております。しかし、彼があんな怪我を負ってまで懸命に追いかけてきたのは、こちらとしても嬉しい誤算でしたよ。他の子供たちが追いかけてきたことも。他の子供たちを動かしたのは、彼と親しくしていたリーダーシップを取っていた男の子が追いかけたことも関係しているでしょうが、その男の子を動かしたのも元はといえば彼ですからね。

 

 多少、他の子より浮き沈みが激しく、流されやすい一面もありますが、意外にも大した器の持ち主でしたよ。

 …………。

 

 ——彼が追いかけてこなかったらどうしたって?……もちろん、それでも返しましたよ。ですが、分かりますでしょう? その場合、近いうち、自らの意思でメダロットたちは彼から離れたでしょうね。

 …………。

 

 ——今回。ロボロボのここで犯した悪事といえば、すり、誘拐、不法侵入、建築物の違法建造、器物破損。どれも罪といえば罪ですが、どうも本筋とはあんまり関係なさそうな行動ですね。

 …………。

 

 ——そうですか。了解。では、今後も私は彼女と共に奴らの妨害工作。捜査。及び、暇なら彼らの観察を続ければ良いのですね。……では、グッジョブ!

 

 報告も終わった。これで、一息つける。今日は自分と相棒たちの褒美として、ビアーガーデンに行ってみるか。

 それにしても。彼の力量を測るためにしたこととはいえ、子供から罵倒されるのが酷く心を抉るとは、この歳になって初めて気が付いた。それ以上に、自身では最上級にカッコイイと考えたこの格好が、あんなにボロカス言われたことが普通の悪口より堪えた。

 何だか、別の意味で泣けてくる。

 

        *——————————————————*

 

 ・ある記者に送られたセレクト隊員Aさんの告白を元にした文章

 

 私が今回、このような告解を貴方に送ったのは。私が不当な移転処置を受けたところに所以する。

 理由は本文に記載。

 本当なら、怪盗レトルトよりも一足先にロボロボ団の潜伏地に突入できるはずだった。だが、機動二番隊のA隊長は、余計な混乱を招く恐れがあるかもしれないし、確定できる証拠までは掴めてないというのうで、捜査は延期。しかし、T副隊長に協力して潜入捜査を行なった隊員の証言を伺う限り、その隊員の有力な証言だけでも、魔女のお城という場所への捜査を行えるに足る確かな証拠であった。

 もし、もっと早い突入を行えていれば。怪盗レトルトによって罪もない子供が傷付くということは無かったはずだし。上級団員二名以下、サラミという、有力な情報を握っているはずの子供幹部の容疑者も捕縛できたはず。

 下っ端団員の大半は捕らえたが、どれも大した情報を持っておらず。ゲーム感覚で危険を味わえる仕事をしたかったという馬鹿者もいれば、金がなく、悪事と理解していても食うために手を貸してしまったという者もいた。なお、子供幹部の名前が判明したのは、捕らえた下っ端団員の中に二名ほど正規雇用の者がいたからである。

 ロボロボのメダロットたちからも情報を得ようとしたが、残念ながらそれは不可能であった。何故なら、メダロッチにメダルが存在しなかった為だ。

 捕らえた団員たちの証言だと、間違いなくメダロッチに入っていたとのこと。我々がロボロボを追いかけていた時、ごく短時間、メダロッ島内にて電波障害が発生した。一人の少年の証言を信じれば、特殊な電波とやらを使った回収であろう。当然、団員たちに問い質したが、そのような物があるとしか聞いてないと答えた。厳しく追求していくが、あまり良い返答は聞けそうにない。

 私にも全く責任は無いとは言わない。それでも、私は二番隊A隊長以下、今回の事件で上層部のA隊長に対する責任追求が軽いことに不満を覚えた私は、A隊長と上層部を批判する旨をしたためた文を送り付けた。その結果、私は大阪支部の小さな事務に移転された。

 警察。検察。そして、セレクト隊。魔の十日間事件以降、国の治安を守るはずのこれら三つの組織はどこか捻れてしまったように思える。

 ロボロボ団のようにメダロットを使った犯罪集団が増えるのも懸念だが、国を守る組織は腐敗してないか。これも、今の私が抱える懸念の一つである。

 

 P.S.

 余談であるが、私のもう一つの懸念はメダロット排泄主義運動の高まりである。私の大阪にいる知人で、彼は現在、親族とは縁を切り、一家共有の財産として一台のメダロットを所有している。

 彼の祖父は蜻蛉型のメダロットを所有していた。その祖父の方が亡くなられた際、あろうことか、彼の親類はその蜻蛉型を含む数台のメダロットを仕事の際に立ち寄ったどこかに、エネルギーを抜いて不法投棄した。どうやら、彼の親類は排泄運動に関わるついでに、メダロットなど然るべき手続きを踏んで処分する必要がある物を危険物と共々投棄する行為にも関わっていたらしい。

 人間同様な意思を持ち、人間のような行動を可能とする存在。それらの存在に人間が不条理な嫌悪感や嫉妬を抱くのは致し方ないこととはいえ、彼らを見つけ、彼らに体を与えたのは、その人間であるということも忘れてはいけない。

 エネルギーを抜かれても、メダロットたちは僅かながら意識下での行動ができることは最近立証された。そんなメダロットたちが再び動けるようになった時、人間に危害を加えないという保障はない。

 私個人の意見では、セレクト隊はメダロットを使用して人間を守るだけでなく。このような、不当な扱いを受ける人間に近い意思を持った「彼ら」も守るべきだと提言したい。

 

        *——————————————————*

 

 予定では、朝一番の便の乗るはずだったが、帰航は夕方の便に変更となった。

 六日目は丸一日病室で寝泊り。次の日の昼ごろ、保護者同伴可でのセレクト隊による事情聴取を受けた。といっても、救出されて間もなく、子供だから心身による疲弊は大きいだろうと配慮され、簡単な受け答えで終了した。

 保護者の方から、少しずつでもいいから、お子様から聞いて下さいませんかと、病室の向こう側から聞こえてきた。

 今日、救護施設から退院し、今は船室内のベッドに座った状態で外を眺めている。パパとも一緒に帰りたかったが、パパは一仕事あるというので帰りは後日となる。ただ、見送りには来てくれた。イッキはもう大丈夫だよと言ったが、チドリとジョウゾウは聞く耳は持たず。安静しなさいと厳しく言った。

 短くも長く感じたメダロッ島での滞在。人生の波乱万丈を一つに凝縮したような目に遭ってしまった。正直、陸の孤島から離れられて、ある程度陸続きな身近な地へと戻れるのをイッキは喜んでいた。

 ゆらり。ゆらり。波に揺れる海面は夕陽を反射し、一瞬の閃光が幾重にも重なりシャーク号とその船室に届く。船内放送が出港まで後十分だと告げた。

 考えたいことは山程あるけど、今はこうして、ママとメダロットたちと一緒に静かに夕陽と揺れる海面を眺めていたかった。

「外からだと更に良き眺めであろうな」

 ロクショウがぼそりと呟いた。

 


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