メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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14.メダロッ島(四日目)

 メダロッ島ロボトル大会。二日前の試合で人数は絞られたので、今日は四回戦から決勝戦まで執り行う。

 また、四回戦からの追加ルールで最大三体まで使用可能となる。向こうが一体使用に対し、同意さえ得られれば、参戦最台数の三体まで使用できる。

 イッキの相手、ジョー・スイハンは一回戦ではニンニンジャ。二回戦はティーピー。三回戦はサムライを使用したことがアリカの情報で分かった。ジョー・スイハンは、高速型の格闘タイプを好んで戦うスタイルのようだ。主力機がネイティブアメリカンをモデルにしたティーピーなのは納得できるが、他二機がニンニンジャとサムライとは、随分日本的に思えた。

 取材したアリカによると、ジョー・スイハンは親日派らしい。

 十年前、日本で開催された世界大会に参戦したのがきっかけで。以来、日本文化に興味と憧れを抱くようになった。もう一つ、父親のジャー・スイハンと共に参戦した際、準決勝で戦ったとある日本人メダロッター、名は「ヒカル」という自分と同い年の人物との再戦を果たす目的もあり、大学研究論文作成のついでにメダロッ島の大会に参加した。

 アリカが身近にいる同姓同名のヒカルのことを告げたら、ジョー・スイハンは一笑に付した。

 ——まさか、ヒカルをそんな不真面目なコンビニ店員と一緒にしないほうがいい。

 否定の理由に、イッキとアリカは妙に納得してしまった。あのおさぼりヒカル店員がとてもじゃないが、魔の十日間事件を解決した伝説的なメダロッターとは到底思い浮かばない。

 ロクショウ、光太郎と相談した結果。装甲が薄いティーピー、ニンニンジャはロクショウが。装甲は厚いが、二機と比べたら幾分か鈍間なサムライは光太郎が相手をすることにした。

 しかし、相手が三体を使用してくる可能性は十分に有りうる。

 

「使わせればよい。相手が量を持って攻めるならば。こちらは、一瞬の決断と知恵で対処すればいい」

 

 大胆にも、ロクショウはこう言った。

 だが、アリカから聞いた感じ、ジョー・スイハンはそういった戦い方をあまりしなさそう。こちらが一対一を望めば、応じてくれそうだ。

 

 

 

 選手控え室。初日は人種の坩堝と化していたロッカールームも今や残すところ十六人となり、賑わう外と打って変わって、静寂だった。

 ジョー・スイハンは目を閉じ、十年前の記憶を遡っていた。

 叔父がスポンサーとなり、私と父はメダロットの研究に専念できた。その叔父の工場が経営難に陥り、閉鎖されるかもしれない。叔父の経営する、メダロットを含む部品請負の工場により地元は潤っている。

 叔父の工場が潰れれば、研究資金が乏しくなるだけではない。地元のインディアンたちの就職先が失われることにほかならない。

 私と父は叔父が経営するメダロット工場を救うため、日本のメダロット社に却下されたオリジナルメダロット・ティーピーを使い、世界大会に出場した。

 この大会で上位成績を収めれば、デザインがダサいという理由でメダロット社が却下したティーピーの実力が認められる。ひいては工場の宣伝にも繋がり、一定数の注文が入れば、工場と地元は救われる。

 今だから明せるが、攻撃しかできない機体三機で勝ち抜くのは、非常に辛かった。

 だが、私と父であるジャー・スイハンはメダロットに一生を捧げることにした馬鹿。今ここで、その知識と持て余した時間を有効利用しなくてどうする。毎度苦戦を強いられるも、育て上げたメダルと完成された親子のコンビプレイで勝ち進んでいった。 

 そして、運命の準決勝戦。父が体調を崩し、私一人で挑むことになった。相手は私と同い年の日本人。しかも、たった一人で三機を操作してきた。

 昔のことで一番記憶に刻まれたことを挙げるなら、あの日のヒカルとの試合を挙げる。

 父の二機と相手の二機は同時に倒れ、リーダー機である私のティーピーとヒカルのヘッドシザースを残すのみ。小細工無用の真正面からの壮絶な殴り合いの末、私は敗退してしまった。

 負けたショックは大きく。私は父と叔父、故郷の同胞(はらから)に合わせる顔がなかったが、事態は思いも寄らずに好転した。

 事情を知ったメディアがドラマチックに報道してくれたお陰もあり、叔父の工場にティーピーの注文が殺到。また、メダロットとメダロッターの実力を加味しても、純正攻撃機体三機で準決勝まで勝ち抜けたのは賞賛に値する、と。メダロット社の評価と資金援助も受けて、地元の大手就職先である工場は救われた。

 ジョー・スイハンは眼鏡をかけたガリ勉青年にしか過ぎないと思われているが、見かけよりも体力があり、ロボトルになると内なる闘志をたぎらせる。 

 今日の四回戦の相手。天領イッキ君だっけ? 九歳という年齢ながら、強敵相手にドラマ的な試合展開で勝利し、おまけに愛機はヘッドシザースときた。彼の言うとおりなら、ロボトルの腕前も確かだろう。運命のような物を感じずにはいられなかった。

 闘技台出入口まえで、赤い半袖シャツを着たちょんまげ頭の少年が、二機のメダロットと何やら真剣に話し合っていた。

 少年が私に気付き、会釈した。

 

「やあ、どうも。君は天領イッキ君だね。私はジョー・スイハンと申します。以後お見知りおきを」

 

 ジョーが手を差し出すと、しどろもどろにイッキはジョーの手を握った。勤勉そうな優男な外見と反して、ジョー・スイハンの握力は意外と強かった。

 

「あっ。どうも。よろしくお願いします」

「私と親戚一同で開発したメダロットの力、お見せしますよ」

 

 黒縁眼鏡の奥の柔和な瞳が一瞬、キラリと光ったような気がした。

 

 

 

 二日前同様、ミスター・うるちが開幕を宣言した。

 

「レディース&ジェントルメンの皆さん! 大会を観戦するため、今回もご足労いただき感謝感激の極みでございます。それでは、後半第四回戦第一試合は若手注目度No.2の天領イッキ選手のお相手は……。メダロットの研究と開発を行われている若き天才、さらりと靡く黒髪と円かな瞳が神秘的、本国アメリカで通称”歩くメダロット図鑑”と呼ばれるジョー・スイハン選手!!

 さて、好カード目白押しの後半戦。若きメダロッターたちは白日の下、如何な戦いぶりを見せてくれるか私も観客席の皆様方も期待しております。…では、両者位置について」

 

 イッキとジョー・スイハンは闘技台前まで寄ると、腕に巻いたメダロッチを掲げた。ジョーのメダロッチから、ティーピーが転送された。イッキはロクショウを転送した。

 

「場外。時間内におけるダメージ量の合計。あるいは、どちらかのメダロットが機能停止したら試合終了です! それでは、ロボトルファーィトォ!!」

 

 ロクショウが舞い、ティーピーも舞う。ロクショウが切りかかれば、ティーピーは緑のボクシンググローブの形をした腕で殴り返す。どちらも、紙一重のところで攻撃を避けられている。

 ティーピーのグローブ型の両腕が上下角度八十度に開き、そこから、圧縮された幾つもの硫酸が砲丸となって闘技台に迸る。コンクリートの表面がじゅわじゅわと音を立てて溶け、強烈な臭いが会場内に漂う。換気装置がフル作動して、懸命に臭気を浄化して外へ流す。

 観客とイッキは袖で鼻を覆い、ミスター・うるちはハンカチで鼻を抑えた。ティーピーのマスターであるジョー・スイハンはいつの間にか風邪防止用マスクを装着していた。

 鼻という五感機能が無いメダロットたちは臭いなど気にせず。マスターの指示が無くても戦いの手を緩めなかった。

 イッキもロクショウも、ティーピーから放たれる強力な硫酸砲には注意した。

 試合は数秒経つごとに白熱した。ロクショウ、ティーピーは、互いに首の皮一枚のところで攻撃を当てるようになってきた。

 グシャン! 大口を開けたティーピーの右腕がロクショウの肩に付いた羽状の肩当てをもぎれば、ロクショウも仕返しにと、ティーピーの頭に付いたインディアンの羽飾りを模した物をハンマーでへし折った。ティーピーもお返しだと、硫酸砲を発射。身を捻ったが間に合わず、ロクショウの両角は消滅した。

 臭気で辟易していた観客も、いつの間にか、手に汗握る試合に見とれていた。

 ミスター・うるちとジョー・スイハンは、既視感を感じた。三対三ではなく、一対一という違いはあるが、あの日あの時の試合展開と瓜二つではないか。

 ジョーのメダロッチに、ティーピーが通信を送った。

 

「あいつは新型だが、同機種であることには間違いない。どうだ、ジョー? あいつをあの日のあいつに見立てて、今度こそ勝利しないか?」

 

 普段、こちらから求めなければ口を開くことが無いティーピーが自ら意思表示したことに、ジョーは驚いた。どうやら、私のメダロットには熊か狼の魂が宿ったのかもしれない。

 

「存分にやれ」

 

 声こそ聞こえなかったが、イッキとジョー・スイハンは同じ指示を出していた。

 両機、攻撃の手を止めて、正視し合う。両機は舞うようにくるくると動き回り出し、戦闘を再開した。戦略も糞もない。ヘッドシザースとティーピー。二体のメダロットは原始的、本能的とでも言うべきか。真正面から激しく殴り合った。

 パーツの装甲が(ちぎ)れ飛び、金属が衝突する鈍い音が途切れることなくドーム内に響く。もしも人間なら、皮がめくれ、爪は剥がれ、折れた骨が体から飛び出すという、見るも耐え難い光景になっていただろう。

 ロクショウの捻れたソードがティーピーの右足を抉れば、ティーピーも右腕でロクショウの右足を破壊した。ロクショウとティーピーは左足に全体重を載せて、渾身の重い左ストレートを顔面に食らわせた。両機体の顔が大きく歪む、どちらもまともに必殺の一撃が頭部に直撃した。

 あわや、両方機能停止かと思われたとき。ロクショウの左膝が揺らぐ。イッキはあっと、叫びそうになった。だが、それよりも先にティーピーのほうがロクショウの足元に崩れ落ち、メダルが外れた。

 息をするのも忘れていたジョーは、溜まっていたものを長く吐き出し、深く息を吸い込んだ。

 また、負けてしまったか。九歳の自分なら、今頃号泣していただろうが。あの日と今日では事情が違う。悔しい感情はあるが、どこか清々しくも思えた。重荷を背負わず、自分とメダロットがやりたいように戦えたからかな?

 イッキはロクショウを、ジョーはティーピーを回収しに闘技台に上がった。イッキとジョーは歩み寄る形となり、ジョーはイッキに謝辞を述べた。

 

「ありがとうございます。前途ある日本のメダロッターと全力で戦えて、光栄の至りです。彼の言っていたとおりの人でしたね」

「いやぁ……それほどでも。それに、頑張ったのはメダロットですし。……彼?」イッキはその人物が誰かがわかった。

「アメリカに帰ったら、カシャッサくんによろしくと伝えておいてください」

 

 ジョー・スイハンは笑顔で頷いた。

 

「それにしても、日本語お上手ですね」

「日本は何かと思い出の多い国ですからね。この大会でのロボトルは、今後のメダロットの研究に活かしたいと思います」

 

 この言葉に、イッキは「光栄です!!」と元気よく返答した。 

 

 

 

 人間の技師と回復機能を持つメダロットがロクショウの治療に当たる中、イッキは次の対戦相手を見て、溜め息をついた。

 次の相手は二日前、プリティプラインのパーツを買いに行く途中、突如としてイッキたちに突っかかってきた、あの中国人風の謎のメダロッターが相手だからだ。実力は定かではないが、ここまで来たということは、決してまぐれや偶然だけでは来れない。

 あのハイテンションぶりとへんてこりんな雄叫びといい。イッキに意味不明な理由で勝負を申し込んだといい。あんなのと戦うかと思えば、別の意味で緊張してきた。 

 そこへ、耳障りな笑い声。嫌な予感がした。

 横を向くと、謎のメダロッターがロッカー前で仁王立ちしていた。

 

「……また……」

「ふっふっふ。遂にこのときが来たようだな。いざ、尋常に勝負」

「わあっ! 早まった真似するなってば」

 

 と、騒ぎを聞きつけて。出入口で選手にエールを送る係員の男性が二人の間に割って入った。

 

「こらー! 何をしておる!闘技台意外でのロボトルは原則禁止だ。やるんなら、次の試合まで待て」

 

 意外にも少年は大人しく引き下がった。

 

「ふっ。命拾いしたな」

 

 そう言って、謎の少年はイッキの前から消えた。

 試合前から、早くもこの展開。ここまできて試合放棄をするわけにはいかないが。できることなら、相手を変えて欲しかった。

 

 

 

 五分前にはロクショウの修復が完了。光太郎の両腕パーツだけ付け替え、試合に臨む。イッキはメダロットたちに聞いてみた。

 

「あの男の子。見たことないメダロット使ってきたけど、どういった戦い方してくるかな?」

 

 光太郎が気の抜けた声で言った。

 

「分からんなあ、見た目は格闘系やけど。そもそも、何考えているから分からん」

「うむ。それに、前のジョー・スイハンという方はこちらが一対一の戦いを望めば、それに応えてくれたが。あの少年は、何を考えているのか理解できない。だが、一度戦って勝ったことには間違いないから、リベンジとして同じ二体を使用してくる可能性があるな」

 

 イッキもロクショウと同じことを考えていた。あの少年が何を考えているのか不明ではあるが、リベンジとして、あの二体のメダロットを使用してくることは十分有りうる話。

 イッキたちが早く闘技台に着いた。イッキたちの予想通り、少年はあの二体のメダロットを連れて出場した。

 

「これより、第五回戦第一試合。天領イッキ君VS。イッキ君を何故かライバル呼ばわりする、毒貝型アンボイナを使用する謎の上海出身の中国人メダロッター・リョウ少年との試合を行います」

 

 ミスター・うるちの宣言で、初めて少年の名前と国籍、そしてメダロットの名称を知った。試合前だというのに、リョウはイッキにつっかかった。

 

「正義の名の下に葬ってくれる。お前の名を聞いておこうか? 名無しでは墓も作れまい?」

「だ・か・らぁ。どうして、そう僕に突っかかっるの? しかも、僕の名前なら審判の人が言ったばかりじゃないか」

「理由? そんなの無い! 『侍を倒せ』。そうじいちゃんに言われただけだ! お前の髪型とお前の使っているメダロットは、どう見てもその類だ」

「えっ!? そんな理由で」

「それでは、ロボトルファイトォー!!」

 

 これ以上、無駄な会話で引き伸ばされてはたまらない。ミスター・うるちは強引に試合開始を告げた。

 光太郎は限界まで体を縮め、右のナイトシールドで全身を隠し。ロクショウはソードを抜き、メリケン型のハンマーを構えた。

 

「む! そっちのクワガタは良いとして、そっちのトンボの態度はなんだ! もうお手上げという合図か? 例え戦う意思を見せなくとも、俺は手を緩めんぞ。いっけーーぇ!! ビューティ・キィッス! キラキラーン・ムチュー♥」

 

 二体の毒貝は、ドリルという海洋生物らしからぬ武器を回転させて、ロクショウと光太郎に突進した。車輪タイプの脚部だけあって、コンクリートなど整備された平坦な場所での移動は素早い。あの勢いでドリルでぶん殴られたら、如何に硬い装甲を持つメダロットでも無事では済まされない。

 イッキから見て、左はロクショウ、右は光太郎に向かった。

 二メートル手前、ロクショウは高々と跳躍し、アンボイナの背後に回ったが、アンボイナも負けじと急旋回。ロクショウと向き合った。一方、光太郎は微動だにせず体を丸めたまま、アンボイナが来るのを待った。

 

「一体貰ったぁ!」

 

 リョウが勝鬨を上げる。それはすぐに、何!? という驚愕の台詞に変わった。

 ドリルで光太郎を殴る直前、アンボイナがピタリと静止した。アンボイナの左腕に、沢山の針が深々とアンボイナの腕に突き刺さっていた。アンボイナが右腕で殴り返そうとしたら、今度は右腕にどこからともなく針が突き刺さった。光太郎がひょっこりと盾から顔を上げて、戸惑うアンボイナに至近距離から頭部の重力波射撃を撃った。一体、機能停止。

 盾から姿を現した光太郎の右腕を見ると、発射されるまで見えない針のトラップを自身の周囲に張り巡らす、トラップ系攻撃のシュートスパイダの腕を装着していた。気取られぬよう、イッキと光太郎が案じた苦肉の策に、リョウは見事に引っかかってくれた。

 

「己ー! 卑怯千万許すまじ! 正義の名の下に、絶対に負けんぞ」

 

 ロクショウと相対していたリーダー機は、正に獅子奮迅の如き抵抗を見せた。ここまで来ただけの実力はあり、残る一体はしぶとかったが、時間の問題である。

 光太郎が頭部の全エネルギーをアンボイナの足止めに使い、動きが止まったアンボイナを一閃二閃、ロクショウが目にも止まらぬ早業で二回斬った。

 二体のアンボイナをメダロッチに収納したリョウは、「さあ、煮るなり焼くなり好きにしろい!」と叫び、失笑を買った。自分が笑われたわけではないのに、イッキは赤面した。

 

「糞ぅ! このまま退がっては、生き恥を晒すのもいいとこだ。おい、お前! これを受けとれい!」

 

 リョウはいきなりポンと、イッキの足元にアンボイナのパーツ一式を置いた。

 そうして、何も語らず疾風迅雷の勢いで会場から去った。結局、リョウが具体的に何をしたかったのか最後まで分からずじまいだった。ともかく、イッキはありがたくこのアンボイナ一式を頂戴した。 

 

 

 

 お昼休憩一時半間後に、準決勝。決勝前にも十分の休憩がある。

 しかし、イッキと準決勝で相見えるコウジにとっては、準決勝こそ実質上決勝のようなものであった。

 昼休み。ほぼ、全員集合した。ママ、パパ、アリカ、甘酒おばさん、ブラス、アリカの新しい仲間であるプリティプラインのマリアンが。昼食を取りながら、イッキ、ロクショウ、光太郎の健闘を褒め称えた。

 風で流れてジョウゾウの足元に転がってきたゴミを、モンキーゴングがひょいと背中のポリバケツに捨てた。ちらほらと、数体のモンキーゴングや後続機・ターンモンキーなどの猿型メダロットたちが、人間と共に施設の清掃やゴミ拾いを行なっていた。

 後続機であるターンモンキーが発売されて、あわや生産終了かと思われがちだが、清掃業務など細かな技量が要求される仕事ではまだまだ需要がある。

 ロボトルでの活躍はもはや機体できないが、その身軽さ故に、メダスポーツでは現役バリバリのメダロットとして活躍している。

 新しい物を求めがちな僕が偉そうなこと言えないけど。やっぱ、人もメダロットも使いようだな。

 皆揃ってのお昼の時間はまたたく間に過ぎてしまい。イッキは手っ取り早く用を足した。控え室に行く前、ジョウゾウがイッキに一声かけた。

 

「イッキ。勝つ負けるかは置いといて、自分とイッキが育て上げたメダロットたちの力を信じて、全力でぶつかってこい。パパから言えるのは、これだけだ。おっと、もう十分前か。お前のことだから、一人で落ち着く時間が欲しいだろう? 邪魔をして悪かったな。んじゃ、パパは観客席で応援しているよ」

 

 ジョウゾウは飄々と気の抜けた表情で、客席に向かった。

 

「イッキやんのおとんて。なんか、意外にも掴み所が無い感じやねんな」

 光太郎が独り言を呟いた。

 

 

 

「この先に熱いバトルが待っている。準備は出来たかい?」

「はい」

 

 準決勝でも、選手闘技台出入口前で立つ係員の男性はいつもと変わらぬことを言った。

 いよいよ、コウジとそのメダロットたちのバトル。おどろ山のときは運で勝てたが。今度はもう、小手先の知恵や運だけでは勝てなさそうだ。もっとも、それはこの大会で戦ってきた全ての相手に言えること。

 事前にメダロットを転送するという真似もしない。ロクショウ、右腕にナイトシールドを着けた光太郎を初めから転送した状態で、闘技台に向かった。

 

「そうか。お前はまだ二体しかいないもんな。なら、俺も正々堂々二体でやるぜ」

 

 後ろから、コウジがきざったらしい喋り方をした。コウジはウォーバニットのアーチェに、セキゾーの右腕を装着したアーマーパラディンを転送した。

 コウジの言動に、イッキはちょっとむかついた。

 

「いいよ。別に三体使用してきても」

「ああ、そうだな。三体使えば楽勝かもな。だが、それじゃ意味がねぇ。緊急時じゃない限り、俺は相手と対等といえる状況で戦い、そして勝つ! ましてや、まぐれとはいえ、お前は俺とアーチェを一度負かしたんだ。だからこそ、今度も俺はお前と対等の条件で戦いたんだ。俺にとっては、それこそ意味があるんだ」

「いいよ。でも、今回も負けるつもりはないから」

 

 イッキが珍しく強気の口調で言った。

 

「俺もだ。イッキ、お前とは今日こそ決着をつけてやるぜ!」

 人間だけではない。メダロット同士も相手を意識していた。戦う前から、二人と四機のメダロットは互いに火花を散らした。

 

 

 

「長らくお待たせいたしました。これより、準決勝第一試合を執り行いたいと思います。若手選手で注目されている選手二名が、よもやの準決勝進出! 数々の勝負の審判をしてきた私でありますが、柄にもなく鼓動が高鳴っております。では、合意と見てよろしいですか?」

 

 イッキとコウジは意志の強い目で互いを見合ったまま、頷いた。

 

「……さあ、それでは。ロボトルファィトーー!!」

 

 四機のメダロットは闘技台を周回した。ここまでくれば、メダロッターは時折間違い修正の指示、あるいは状況をよく観察することだけを求められる。

 ウォーバニットのアーチェが先制攻撃。ロクショウ回避……と思いきや、右腕上腕部に命中した。アーチェは前より更に射撃の熟練度が上昇していた。

 アーマーパラディンが右腕のトマホークを発射! 弾道は見事、飛び回る光太郎に命中。咄嗟に構えた盾で機能停止には至らなかったが、爆発による衝撃は大きい。そうこうしているうちに、アーチェはアーマーパラディンの影に隠れ、弾丸を雨霰の如く撃ち、その上、アーマーパラディンのトマホークというおまけ付き。

 互いの長所を生かしあった戦いに、イッキは舌を巻いた。こんな戦い方をされたら、大抵の相手はやられてしまう。かといって、同じ戦い方をすれば勝てるというわけでもない。

 光太郎も懸命に打ち返し、アーマーパラディンの装甲を地味に削った。イッキはウォーバニットのライフルがロクショウを狙っていることを素早く告げた。間一髪、ロクショウは脚部の破壊を避けえた。

 光太郎の努力が実り、遂に鉄壁アーマーパラディンが崩れてきた。同時に、光太郎も場外に墜落した。

 

「あかん! 頭以外もう動かれへん」

 

 光太郎が叫んだ。機能停止はしてないが、光太郎は場外アウトの判定をくだされた。

 空を飛び回り、ただでさえ狙われやすい立場にいるのに。アーマーパラディンのトマホークを二発と、ウォーバニットの弾丸を無数に食らってしまい、頭以外のパーツが壊れて飛べなくなってしまったようだ。

 だが、光太郎はしっかりと仕事をしていた。アーマーパラディンの右腕パーツは完全に大破しており、分厚い装甲もあちこち凹み、片側の車輪が外れてバランスに欠けていた。

 防御役は迅速に仲間を護衛することこそ本命。機動力を失い、あなぼこだらけになったとあれば、防御役としての機能は失ったも当然。

 実質、機能停止したも同然のアーマーパラディンの影から出てきたアーチェに、ロクショウが低姿勢で一気に詰め寄る。アーチェの弾丸が先か、ロクショウの刃が先か。と、ここでアーマーパラディンが最後の行動をみせた。右にもたれかかっている状態にも関わらず、左側の車輪が壊れるのも一向に構わずアーマーパラディンは左側に倒れて、ロクショウの進路を塞いだ。

 衝突直前で跳躍。イッキは危ないと叫んだ。跳躍したことにより、無防備となったロクショウの胸に、アーチェの右腕のライフルが発射された。凄まじい勢いでロクショウは空中で一回転した。

 しかし、機能停止状態にも関わらず、闘技台を蹴ると、アーチェに突進した。ロクショウの気迫に押され、アーチェは右腕のライフルを構えたものの、間に合わなかった。ロクショウは最後にウォーバニットの右腕を縦に切断するという抵抗を見せた。ロクショウが闘技台に突っ伏した。

 ロクショウの背中からメダルが飛ぶ。ミスター・うるちが辛口コウジの勝利を高らかに宣言する。

 

「準決勝第一試合は辛口コウジ選手の勝利! しかし、素晴らしいファイトでした! 私は、両名とそのメダロットたちに心からの祝杯を送らせてもらいます」

 

 観衆に。観戦していた参加者たちに。そして、ミスター・うるちはナイスファイトを見せてくれた二名のメダロッターとメダロットたちに惜しみない声援と拍手を送った。

 慣れた様子で手を振り返すコウジ。反面、イッキの耳には多少、耳障りに思えた。

 

 

 

 ………………………。

 落ち着け、負けた経験は初めてじゃない。大体、前は運で勝ったような相手だ。これが、今の実力差だろう。

 

「イッキやん」

 光太郎がイッキを呼んだ。

「気持ちは分かるで。でも、とりあえずあんたの為に応援してくれた両親やら友人に観客の人たちに、せめて顔を上げたらどうや?」

 

 負けたばかりなのに、光太郎は観客に応えろと言った。メダロットのほうが僕より精神年齢で上だな。イッキは手を振り返さなかったが、顔だけは懸命に上げた。そうして、拍手喝采が鳴り止む頃に、係員の人と一緒にロクショウと光太郎を選手控え室の治療室に連れていった。

 少し遅れて、コウジも治療室にきた。

 

「怒らずに聞いてくれるか?」

 

 無言で首を縦に動す。

 

「俺、今まで単純に勝つことだけ考えてきたけどさあ。イッキとの戦いって、何というか、他の奴よりもっと勝ちたいって気持ちにさせられるんだよな。俺も具体的には言い表せないけど、お前との戦いって何だかわくわくするんだよな」

「コウジさん、イッキさん。お疲れ様」

 

 どこからともなくカリンがきて、コウジとイッキに労いの言葉をかけた。カリンに続くように、パパたちもきた。ジョウゾウがコウジにお辞儀をし、コウジもお辞儀を返した。

 

「やあ、コウジくんだね。私はイッキの父親だよ。いやー、見るも熱いものを見せてもらったよ。二人とも」

「ありがとうございます」

 

 アリカが座る二人を写真に収めた。

 

「いやあ、ロクショウも光太郎も善戦していたわね。二人とメダロットたちの戦いを記事の特集にしよっかな」

 

 イッキ以外の人物は軽い雑談をした。準決勝第二試合で敗北した選手が治療室に来る頃には、コウジのウォーバニットとアーマーパラディンは完治していた。光太郎は後一分、ロクショウはもう少し時間がかかるようだ。

 

「俺たちはもうしばらくこの島に滞在する。機会があれば、また会おうぜ」

「さようなら、皆さん。イッキさん、ロクちゃんと光太郎さんによろしく言っといてください」

 

 コウジとカリンが治療室を出ると、イッキは瞳から涙を滲ませた。涙なんて出ない。そう思っていたが、コウジとカリンちゃんが部屋を出たら、堰を切ったように流れ出した。負けた悔しさに、傷つき倒れたメダロットたち。悔しさと不甲斐なさで泣いてしまった。服の袖が鼻水と涙で濡れるのも気にせず拭いた。

 静かに泣くイッキに、チドリはそっとハンカチを手渡した。

 




*原作との相違
 とりあえず五つほど。
・アリカ、キクヒメ以外のスクリューズメンバーとは戦わない(ゲームでは戦う)。
・キール王子がキヒクメと戦う(ゲームではイッキ)
・ヘベレケの演説が大会終了ではなく、前半戦終了時になっている。
・アンボイナはロボトル大会における優勝商品(リョウが一式を丸々くれるわけではない)
・スプキーモとの面会・戦闘無し(カブトにて描写)

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