メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

12 / 40
11.メダロッ島(初日・二日目)

 波にゆらゆら五時間、天領一家の居る部屋からでもメダロッ島の島影が見えた。

 メダロッ島はシーズン毎に客を分けていて、天領家が選んだ夏休み第一シーズンでは、スタッフを含む総勢一二万人もの大衆が、最小二日から最長一週間メダロッ島に滞在する。夏休みのシーズンでは、外国人のゲストを招いた大規模なメダロットの大会を開催するので、毎年、十万人超えは当たり前。

 シャーク号が港に着くまで、子供たちはメダロットとともに甲鈑や船内を探索し、親はのんびりと船室で寛いだ。一時間ほど前から小雨が振り出さしたので、イッキは携帯ゲーム機に興じ、光太郎は何となく漫画を手に持ち、ロクショウはイッキがママに持たされた十五少年漂流記を読書、チドリは小雨が降る四十分ぐらい前から仮眠していた。

 そうして時間を潰していたら、船内アナウンスが後二十分で船は港に着くと放送した。

 チドリはむっくりと起き上がり、船室内の洗面付きトイレで洗顔した。チドリはイッキに下船の支度をするよう伝え、自身は身近な物をバッグにまとめた。

 ぽー! ぽー!

 シャーク号は出港するときと同じく、二回汽笛を模した機械音を鳴らし、船内アナウンスは残り五分で港に着くことを告げる。

 天領一家に甘酒親娘は下船口近くのカフェで荷物を置いて待機していた。

 体感からして船が止まるのに気づく、イッキは何となく外を見やる。中世ヨーロッパの城下町城門を思わせる作りのメダロッ島遊園地入場口が聳え立っていた。チドリは目覚めのコーヒー代金の支払いを手早く済ませ、天領一家は一拍遅れて甘酒親子の背を追う。船上からでも、既に膨大な人間が港やメダロッ島で動き回る姿が確認できる。

 イッキたちが泊まる予定のホテルは、港から海沿いを歩いて二時間ほどのところにある。歩くには遠いので、各施設から送迎用バスが送られる。

 混雑した中ではぐれぬよう、チドリとイッキは互いの手をしっかりと握り合った。移動の邪魔になるかもしれないので、ロクショウと光太郎はメダロッチに収納、おかげでイッキはロクショウに割り当てた荷物を持つことになり、重いから早く送迎バスに乗れることを願った。

 

「メダロッ島タカサゴホテルお泊りのお客様の方々はいらっしゃいませんか? タカサゴホテル送迎バスはこちらです!」

 

 四十代の男性が人混みの中、ざわめきと各施設の添乗員に負けぬぐらい大声を張り上げていた。

 二組の親子は群衆を掻き分けて、送迎バス停まで何とか行けた。急ぎ、大荷物だけをバスに詰め込み、イッキは肩が楽になれた。

 二組の親子が乗ってから数分後、添乗員の男性が人数を確かめると、バスは発射した。移動の間、イッキは雑談を交わしつつ、シャーク号と港、そしてバスからの景色を眺めた。

 十五分ぐらいで、バスはタカサゴホテルに到着した。タカサゴホテルは四階建ての和洋折衷な建築物。天井は屋根瓦、下は薄い水色と賑やかな点々模様が塗られた近代的なビル。

 パパが四月頃から、ついでに甘酒母子の分も予約していたホテル。書入れ時に合わせて、ホテルはシーズン対応の大サービス格安宿泊期間を設けた。本来、一週間の宿泊料は親子二人(メダロットは荷物扱い)で十一万二百円もするが、サービス期間に付き、家族学生割引で六万円である。パパは会社が用意したところで眠るから、ジョウゾウパパの宿泊代については実質ただである。

 その分、食事やお土産に宴会で元を取ろうという魂胆がある。

 雨が本降りとなり、ホテル前の海辺で遊ぼうにも遊べず、ロボトルもできない。天領一家は三階の305号室、甘酒親子は一つ隔てた307号室。まずは荷物を置いた。外は予報どおりの雨。どうせ濡れるから、イッキはすぐにでも海水パンツを履いて海に行こうとしたが、チドリは波が荒れているので危険だと止めた。

 部屋の窓から海を見ると、確かに波は荒れていた。が、船が転覆するほどのものでもない。イッキは波に揺られたかったが、母親とメダロッチ越しからロクショウにも止められてしまい、渋々と引き下がった。

 一室の広さは十四疊の広さがあり、二人と二機で過ごすには十分過ぎる空間だった。

 テレビで刑事物ドラマの再放送を見ていたら、メダロッチから転送したブラスも連れて、アリカは天領家の部屋に訪れた。ママはアリカが部屋に入ること喜んで許した。

 

「イッキ、今暇でしょ? だからさあ、一緒に持ってきた宿題片付けない」

「あら、良いアイデアだわね。アリカちゃん」

 

 ママもアリカの言ったことに賛同した。他にすることが無いので、イッキはアリカと宿題をすることにした。ママは甘酒おばさんに用があると言って、部屋を出た。

 イッキが持ってきた宿題は一番嫌いな算数の宿題。夏休みの宿題はこれの他に、社会、国語、日記、歴史などがある。イッキは算数、日記、社会の宿題を持ってきた。アリカは社会と歴史に日記。

 アリカの場合、嫌いというより好きな部類の宿題を持ってきた。

 ロクショウ、光太郎、ブラスが教師役として時に助言を与え、二人の宿題を手伝った。イッキはてんで駄目で、完全にロクショウと光太郎が教師役となり、アリカに「どっちがマスターか分からないわね」と笑われてしまった。

 

 

 

 二日目、昨日のうちにバケツをひっくり返した天気は日本晴れ。九時には早速、メダロッ島遊園地行きのバスに乗った。

 イッキ、それとアリカは、この日のために受けられる限りの真剣ロボトルを受けた。目的は実力向上とメダロッ島での限定品を買う為である。

 ゴールデンウィーク三日前、メダロット研究所に寄った時、ナエさんから一早く情報をもたらされた。メダロッ島夏休み第一シーズンにて、ヴァルキュリア型メダロットのプリティプライン三十式、人魚型メダロット・ピュアマーメイドの後続機メイティン四十式が、ティンペットと抱合せで計百体が限定販売されるという情報だ。

 両機体は今年の一月に新発売されたメダロット。値段は高く、プリティプラインは八万円、メイティンは七万円、それに四万円もする女性型ティンペットも買えば、実際は十二万円と十一万円のお値段が付く。

 その両機体が今年の夏休みメダロッ島夏休み第一シーズンにて、セット一式込みの値段で、七万円と六万円という破格の値段で売られる。

 抽選予約は一万名、インターネットで受付中とのこと。自宅に帰るとイッキ、アリカは即行で抽選予約を済ませた。イッキはママとパパにこのことを話した。両親はイッキが二機目のメダロットを持つことを承諾した。ロクショウがとうに一家の一員として馴染んでいたのも、両親が承諾した理由だろう。

 そんなとき、ゴールデンウィークで光太郎を拾ってしまった。ママとパパは悩んだが、一万名の応募があるので当たる訳がないだろうと思った。

 だが、両親の思惑は外れ、何という強運。イッキ、アリカはプリティプラインのセットを買える権利が当たった。今更捨てろと言うわけにもいかず、チドリとジョウゾウはイッキが買うこと許した。

 

「しょうがなわいね。でも、そろそろ人間の家族が増えてもいいなと思わない」

 

 このとき、ママがパパに対して意味ありげな視線を送り、パパが赤面をして誤魔化すように新聞で顔を隠したのを今でも覚えている。あれはどういう意味なのかな?

 開園前だが、昨日以上に混雑を極めていた。今日の一四時から開催する国外ゲストを招いたロボトル大会の席取りを目的とした客が大半だ。イッキ、アリカは限定商品予約の際にこのロボトル大会の参加申し込みを済ませていた。ゲストの権利として、一枚無料観戦チケットが進呈される。そのため、チドリと甘酒母親の表情は余裕だ。

 イッキがチドリの顔を見上げる。

 

「ねぇ、ママ。大会まで自由に動いていい?」

「そうねぇ。アリカちゃんと一緒なら構わないわ」

 

 アリカもイッキと同じように母親の顔を見た。

 

「母さん、私も大会が始まるまでは自由に動いていいでしょ?」

「イッキ君と一緒ならね」

 

 二人の親の承諾を得て、イッキとアリカは改札口はくぐると、まずは一直線に売店を目指した。人を掻い潜り、押しのけられながら、目的の売店に辿り着こうとしたそのとき、待てと何者かが二人を呼び止めた。

 他の誰かを呼び止めたのだろうと思い、先を急ごうとしたが、またしても待てと叫んだ。

 

「一体誰なんだよ? 姿を表したらどうなんだ」

 

 イッキの要望に答え、颯爽と花垣を飛び越えた人影。

 忍者のような着地姿勢を取るその人物は、黄土色のダブダブのパーカーと緑色のカーゴパンツを履いた、眼光鋭い辮髪頭の少年がイッキとアリカの前に立ち塞がった。

 

「そこのオトコ! イケメンさすらいメダロッターであるこのリョウ様と勝負しろぃ!」

「はっ! 何言っているの? 今、急いでいるんだけど」

「オトコの日本語もとい、勝負に二言はないっ! メダロット転送ー!」

 

 リョウという少年はイッキとアリカに見せるように掲げたメダロッチから、メダロットを転送した。リョウのメダロッチから転送されたメダロットは、見たことが無い。右手は小さなドリル、左手は大きなドリル、脚部はブリキ玩具のような形をした四つの車輪、頭はキノコの形をした赤い配色で染められたメダロットだ。

 イッキが何か言おうとする前に、謎の少年リョウが先んじて二体のメダロットに指令を出した。

 

「行くぞ、ワサキック!!」

 

 リョウが蹴るポーズを取ると、二体の謎のメダロットが右腕のミニドリルでイッキの足元の土を抉った。削られた土がぴしぴしと服や顔に跳ね返る。

 

「いったーい! 危ないじゃないの!」

「女郎は黙れ! オトコの世界に顔を挟むな!」

 

 この言葉がアリカを怒らせた。リョウに突っかかると思いきや、アリカはイッキの背中を押した。

 

「やっちゃいなさいイッキ!」

「え! そんなぁ」

「何をごちゃごちゃ話している! 喰らえぃ、ワッサドリーールッ!!」

 

 今度は左腕のでかいドリルが足元の土を抉り飛ばした。がなるドリルとリョウ少年の大声で周囲は騒ぎに気付き、危ないぞ、他所でやれと文句を言いつつ、暴れる血気盛んなリョウを止めようとする者はいなかった。

 

「何人たりとも我らの聖戦は止めさせんぞ!」

 

 メダロッチからロクショウと光太郎が声を発した。

 

「イッキ、私と光太郎を転送しろ。話しが通じそうな相手ではない」

「あないな相手には、ちょいともんだる必要があるさかい」

 

 仕方なく、イッキはロクショウと光太郎を転送した。リョウが不気味に笑い出した。

 

「ふっふっふ……。覚悟は出来たようだな」

「出来てないよ」

 

 リョウはさらりと受け流した。

 

「ふっふっふ! 受けてみよ、我が究極必殺奥義! ビューティ・キィッス! キラキラーン・ムチュー♥」

「無茶苦茶だあー!」ツッコミで返すイッキ。

 

 突進するリョウのメダロットたち。応戦の構えを取るロクショウと光太郎。

 

「こらー! やめなさい!!」

 

 この騒動を仲介にしきたセレクト隊員。全ては、同時に起こったことだった。リョウが振り返り、二体のメダロットもマスターと同じく行動をした。どうやら、リョウのメダロットはリョウと同じ行動を取る、一心同体なのかもしれない。イッキも隊員を見た。だが、ロクショウと光太郎はもう攻撃の手を止められなかった。

 硬い金属同士が二回接触する音が響く。一体のメダロットはキノコ頭を切られ、一体は胸部が凹み、二体は同時に機能停止した。

 全ては一瞬の出来事だったので、当事者たちには何がなんだか理解不能だった。

 たった一つ理解できるのは、形はどうあれ、イッキのメダロットがリョウのメダロット二体に打ち勝ったのだ。

 

「ほら、これ以上、面倒事に巻き込まれちゃかなわないわ」

 

 アリカがイッキの腕を掴んで人混みに紛れた。リョウ少年はショックで立ち尽くしていた。現場に駆け付けたセレクト隊員がリョウを羽交い締めにした。

 

「こら! こんな場所で騒ぎを起こすなどけしからん奴であります。設営支部まで一時連行するであります」

 

 そして、二体のセレクト隊御用達の恐竜型メダロット、ティラノザウルス型アタックティラノとプテラノドン型エアプテラが二体の機能停止したメダロットを回収した。と、リョウ少年が悔しげに吠えた。

 

「クソー! 次は負けんぞ!!」

「さっさとこい」

 

 群集の隙間から、リョウが羽交い締めのまま引き摺られていく姿を見届けた。トラブルや余計な証言を避ける為、二人は二十分程度売店から離れた。売店近くのゲームセンターに入り、百円でゾンビを撃つシューティングをプレイ。それから、ゲームセンター内を適当にうろつき、頃合を見て売店へと向かった。

 こちらは外ほどではないが、やはり人が多いので係員が客を整列させていた。二人は引換券を見せて、列に並んだ。どうやら、自分たちが最後尾らしかった。主に若者やファミリーを中心に、プリティプラインとメイティンのパーツが入った箱、ティンペットBOX、メダルの三点セットを持って店から出てくる。胸が高鳴ってきた。三人目にして、最後の仲間を迎えられる。

 プリティプライン一式を買うために、戦利品であるパーツの多くを切り売りするのは惜しまれたが、その惜しさも目的を目前にして消えた。

 前に並ぶアリカがパーツ、ティンペット、メダルの三点セットを先に購入。自分も引換券とお金を渡し、さあ、ご対面。そのはずだったが、世の中そうそうイッキの思い通りにはならなかった。

 女性店員が非常に済まなそうな顔で言った。

 

「誠に申し訳ございません。さきほどの方でメダルは品切れとなりました。次回までの入荷は未定となっております」

「そんなぁ。パーツやティンペットも? メダルも一緒じゃないの」

「いえ、パーツやティンペットはお売りいたします。ですが、メダルは別売りとなっておりまして」

「えー! 普通、そういうのも一緒に渡す物じゃないの」

 

 アリカがイッキの肩に手を添えた。言わずとも、今は無用なトラブルを避けろと言いたいのが分かった。イッキは渋々、大人しくプリティプラインのパーツとティンペットだけを受け取った。

 アリカは嬉しげにシノビをメダルを陽にかざしたが、イッキは溜め息をついた。折角入手しても、メダルが無ければただの人形。動いて会話できてこそ意味があり、そうでなければ意味が無い。かと言って、このまま手放すこともできない。

 メダロッチの時計を見た。十時中頃を指していた。こうなれば、僕ができることは一つしかない。

 

「何がなんでも入賞しなきゃね。確かベスト4に入れば、メダル、パーツ一式、ティンペットのどれか一つを貰えるんだよね」

 

 アリカはイッキの考えたことを読み取った。イッキは一応、聞いてみた。

 

「勝たせてくれるの?」

「まっさかー! 前は負けてあげたけど、今度は手抜きなしよ。優勝はこの私とブラスと……えーっと、何て呼べばいいかな?」

「どこか落ち着ける場所で組み立てから、名前を決めましょ」とメダロッチからブラス。

「そうね。というわけでイッキ。大会の間はライバル同士よ」

 

 そう言って、アリカは何処へと去っていった。残されたイッキはただ一人、途方に暮れた。なんだかなあ。まっ、愚痴を言ってももう手遅れか。こうなれば、やるだけってみるしかないよなぁ。やるのは、メダロットたちのほうだけど。イッキは俯いまま言った。

 

「ロクショウ、光太郎。頼んだよ」

 

 

 

 メダロット関連の大会を行う場所は、外観は東京ドームそっくりだった。

 受付で身分を証明して、選手控え室に入った。控え室内は、黄色人種、黒人、白色人種と、人種の坩堝(るつぼ)と化していた。指定ロッカールームの鍵を開けて、買ったばかりの二点セットや財布などの貴重品を置き、中に敷かれたトーナメント表を見てびっくりした。出場選手の多さにもそうだが、一回戦第一試合の相手は何と、柔らかい金髪ツインテールが印象的な、美少女メダロッターカリンちゃんが相手だった。

 その他、コウジやスクリューズのイワノイ、カガミヤマとは大分離れており、幸か不幸か、アリカの一回戦の対戦相手はコウジだった。キクヒメとは、キクヒメと自分が勝てた場合の話だが、二回戦で当たることになる。コウジとは準決勝で相見えることになりそうだ。

 ドームスピーカーが、天領イッキと純米カリンの出場を告げた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。