メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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10.メダロッ島(初日)

 彼はある人からの指令を請けて、メダロッ島へ向かう。

 常に微笑む白い仮面を付け、ばさりと漆黒のマントを翻し、彼は愛機と共にメダロッ島へと出発した。

 

 

 

 金魚鉢ヘルメットを被り、全身白いアンダースーツを着込んだいかにも変質者な風体の人物が、こそこそと下水道を移動する。見張りらしき者に合い言葉を伝え、下水内部の更に下、密会所があるマンホールに潜る。

 ロボロボ、ロボロボ、ロボロボ!

 わいわい、がやがやとは騒がず、金魚鉢集団は男も女もロボロボと騒いだ。そう、ここは悪の秘密結社ロボロボの秘密の集会所。上座の太いアホ毛を伸ばした男は団員が集合したのを見やり、立ち上がって簡単な挨拶を述べる。その男を含む上座に座る四人だけ、何故か全身を黒いアンダースーツで身を包み、頭には先が丸っこい二本の角を生やしていた。

 四人の中でも一際大柄の男は傍目から見ても、明らかに気を落としていることが見て取れた。大柄の男は、おどろ山にてイッキたちと交戦した、ロボロボ団幹部シオカラであった。おどろ山での失態を、シオカラはリーダーに同格の幹部たちから酷く糾弾されたのだ。

 おっほん! アホ毛の男が気取った咳払いをする。

 

「諸君も既に周知のとおりであろうが。今宵、我々ロボロボ団は例のマル秘大作戦を実行するときが来た。そして、今回の陣頭指揮はサラミが取る」

 

 四人の中でも一番背の低い、おしゃぶりをつけたせいぜい五歳から七歳ぐらいの男の子が壇上に立つ。サラミと思しき男の子は、幼い声ながらアホ毛の男以上に気取った喋り方をした。

 

「手筈は整っておる。後は、諸君らは工作員として乗り込むだけだ。目下のところ、私は諸君らの報告を受けるだけだ。だが、急を要するときは私自らが手を下す。それは即ち、幹部であるボクちゃ……私が自ら現場に赴かなければならないほどの非常事態である。できれば、諸君らの迅速かつ優秀な働きにより、私自らが手を下さなければならない事態が起きないことを願う。では、散開! 健闘を祈る!」

 

 掛け声と共に、白い集団はゴキブリの如き速さで密会所から一斉に移動した。

 

 

 

 カシャッサくんと別れて五日。どうしているかなとか、寂しいという思いが少し薄れる頃、イッキにややショックな報せがもたらされた。夏休みのメダロッ島旅行に行けそうにないとパパは言った。

 

「言い方が悪かった。正しくはメダロッ島には一緒に行けないだけだ」

「どういうこと?」

「パパはちょうどイッキたちが行く前日には、仕事でメダロッ島へ出張するんだ。毎日は無理だが、イッキがママと滞在している一週間のどこで暇を作るよう上司に頼んだどいたから、滞在期間の間に三日間ほどぐらいなら、一緒に遊んでやれるぞ」

 

 食べている時にも関わらず、イッキは嬉しさのあまり飛び跳ねて椅子からこけてしまい、チドリママに叱られた。ロクショウはそのイッキを見て、くくと微笑した。

 話を聞いていた光太郎がロクショウにこっそり尋ねる。

 

「ロクショウ、どうや?」

「どうとは?」

「わいな、一度は行ってみたいと思っていたんや。いやー、こうも早う実現するとは。互いにマスターがイッキやんで良かったな!」

 

 現金な奴めと、ロクショウは苦笑した。そう思いながら、自身にもメダロッ島への興味があることを否定できなかった。

 

 

 

 メダロッ島出港当日。イッキはお気に入りの漫画数冊、携帯ゲーム機、母親に読むように言われて無理矢理詰められたズッコケ三人組に十五少年漂流記などの児童文学小説二冊など暇つぶし用の荷物が入ったバッグは自分で担ぎ、着替えのバッグはロクショウに担がせた。イッキは旅行先で使いそうにない余分なお荷物まで持っていくタイプであった。

 ソルティは、ご近所の萩野さんが預かってくれた。

 イッキは、チドリ、ロクショウの三人は、萩野おばさんが運転する車で送ってもらった。

 メダロッ島の夏休み一般便の出港時間は朝の八時四五分。十時五十分。十三時二十分の三便に分けて出稿する。イッキたちは最終便の一三時二十分発に乗船する。

 

「萩野さんありがとうね。お土産ちゃんと買ってくるわ」

 

 チドリ、イッキ、ロクショウは萩野さんにぺこりと頭を下げた。港に着いた大抵の人は船を見上げた。船の大きさもあるが、鮫をモデルとした青く奇抜な船型が珍しいからだ。メダロッ島運航船、かのシャーク号とはこれのこと。他の人につられて、チドリも携帯のカメラでシャーク号を撮影した。

 今日はあいにくの曇天。天気予報では台風の恐れはないらしく、船は通常どおり運航。また、一週間の間は概ね晴れと予測された。

 チドリはうきうきとする我が子の手をしっかりと握り、船員に乗船券を見せた。

 

「どうぞ、ごゆるりと船の旅をお楽しみください」

 

 船員のマニュアルどおりの挨拶を受けて、三人は乗船した。

 

「イッキー! あんたもきたのね! あっ! おばさんもこんにちわ!」

 

 船縁から身を乗り出して元気よく声をかけたのは、アリカだった。そのアリカを、背後から甘酒おばさんが注意した。

 入船すると、イッキは、お前らはと大声を上げそうになった。それは、お前らと言われそうになった者たちも同じだ。

 キクヒメ、イワノイ、カガミヤマ。あのスクリューズの三人も乗船していた。スクリューズに挟まれて、眼鏡をかけた気の弱そうなイワノイの父親がいた。イワノイの父親は天領親子の存在に気付き、挨拶した。

 保護者同士が穏やかに挨拶を交わす中、当の子供たちとそのメダロットの間では、緊迫感が漂っていた。

 そこへ、また懐かしい二人が乱入してきた。

 

「よう、イッキ。久しぶりだな」

「あら? 皆さんお久しぶりです」

 

 右側通路を見たら、カリンちゃんとコウジ、そして、見知らぬ男性と執事っぽい男性がカリンとコウジに付き添っていた。さらにさらに、アリカと甘酒おばさんも加入した。

 子供たちはメダロッ島で一波乱起きることを予想した。蚊帳の外の保護者たちは、呑気に子供たちのじゃれ合いを眺めた。

 

 

 

 

 ただ一人、ロクショウは船先に佇んでいた。保護者の方々もいるので騒動は避けえたが、どうも嫌な予感がしてならない。メダロットを使用した犯罪を警戒して、セレクト隊もメダロッ島警備に就くと、イッキの母上から聞かされた。

 スクリューズ、高名な家柄の親族と思われる例の子供二人、セレクト隊。もしも……だが……これで、ロボロボ団に怪盗レトルトまで現れれば、役者が勢揃いすることになる。

 考えすぎだな。単なる杞憂にしか過ぎんだろう。ロクショウが船先からとっくのとうに遠のいた御神籤町を見つめていたら、イッキ、光太郎もデッキにきた。

 しばらく、じっと遠のく景色を眺めた。これから、一週間はメダロッ島でバカンスを過ごす。イッキや子供たちは楽しみでしょうがなかったのに、こうして町から離れると、何やら物寂しい感情も湧いた。

 メダロッ島バカンス初日は曇天な天候を除けば、順調かつ快適な旅立ちだった。シャーク号の汽笛を模したけたたましい機械音がとよもす。

 

 


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