メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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この小説はあくまでゲーム版メダロット2を原作とした物であります。
登場人物の性格や展開においては、アニメ・漫画の一部を参考にしていますが、基本としてはゲーム準拠。
例を挙げれば、イッキの性格は、漫画の暗めな性格とアニメの腕白(わんぱく)小僧を一部取り入れた、基本は口調も態度も大人しい一人称は「僕」のイッキです。

また、バージョンによって、一部の展開や入手メダル・メダロットも異なります。



プロローグ.きっかけは押し売り

【メダロットとは?】

 

 2001年度に発売されてから、2022年度まで広く世界の市場を席巻する日本独自の完全オリジナルロボット技術の最高峰、それがメダロット。

 

 メダロットはコンピューターの頭脳ではなく、「メダル」を頭脳として動く、これまでのロボット学の常識を打ち破ったロボット。メダルで動くロボット、だから略して「メダロット」

 

 メダロットは「ティンペット」と呼ばれる骨組みをベースとして、様々なパーツを組み合わせることにより、無限の力を引き出すことができる。その他、メダロット社が開発した「オートマチックジェネレーション」、「マッスルケーブル」などの独自の技術によってメダロットは構成されている。

 メダロットには「スラフシステム(通称:脱皮)と呼称されるシステムがあり、メダロットは傷付いてもある程度なら自己修復を可能とする。

 

 メダロットの利用範囲は子供の遊び相手に止まらず、医療、果ては軍事利用にまでメダロットは普及している。

 

 また、一部「レアメダル」という物があり、現在メダロット社(株)から発売されているメダルの殆どは、この幾枚かの「レアメダル」をコピーして製造されている。と、インターネットではこのような情報が流れている。

 

     *****

 

 キーン、コーン、カーン、コーン!

 

 始業式の終了を告げるチャイムが鳴る。

 形式ばった校長先生の長い挨拶に、生徒一同はやや疲労気味。

 三年生の列にいるちょんまげ頭の少年も、周りの生徒と同じく校長の挨拶が終わったことに、ほっと胸を撫で下ろしていた。 

 僕は天領イッキ、小学三年生。歳は九歳。自分でいうのも何だけど、チョンマゲ頭を除いて、これといった特徴が無い。

 更にメダロットを持ってないという点が、僕の存在の薄さに拍車をかけている。まあ、それというのも……。

 イッキ少年の自己紹介はまだまだ続きそうなので、ここで打ち切ろう。

 それに、自己紹介は最初の一行部分だけであり、後半はメダロットに対する願望と、メダロットを持ってない愚痴と決まっているから。

 

 

 

 教室で暑苦しいオトコヤマ先生のホームルームも済むと、イッキはいつも通り靴箱に向かい、下履きから上履きに履き替えて、帰宅しようとしたら、

「イーッキ!」

 と、元気一杯な女の子がイッキの名前を高々と叫んだ。

 イッキは声の主のほうを振り向くと、パシャという音と共に眩しい閃光が目を襲ったので、イッキは立ちくらんだ。

 

「何するんだよ、アリカ」

 

 イッキは閃光を放った少女に文句を言った。イッキにそう文句を言われても、アリカと呼ばれた少女は悪びれる装い全く見せず、ただ、ニコニコと屈託ない笑みを浮かべている。

 肩辺りでボーイッシュに切り揃えた茶色がかった髪、ぱっちりくりくりとした二重の瞼に、意外にも整った目鼻立ち。

 少女は純白のワンピースやドレスなどがとても似合いそうだが、白シャツの上に着込む機能重視の紫のオーバーオールの服装と、屈託ない笑みの裏で相手を抜け目なく観察しているような目が、無言で周囲に少女が「女の子らしい」服装を拒んでいるかのような印象を与える。

 アリカは見せつけるように、イッキの眼前にカメラを突き出したので、イッキは思わず顔だけ一歩退いた。

 

「イッキ! ねえ、これ見て! 貯めた小遣いで変えたのよ」

 

 この子はアリカ、僕の幼馴染。六歳の頃、父親にカメラを貸してもらい、撮った写真を両親に褒められたことがきっかけで、ジャーナリストを志すようになった。

 初めはジャーナリストという響きがかっこいいから憧れていただけのようだったが。

 去年、偶然にもスリ師の犯行の瞬間を撮るという、正に決定的なジャーナリズムな場面を撮ったことにより、単なる憧れから、本格的にジャーナリストを目指すようになった。

 男っぽい姉御肌のアリカ。アリカにイッキはよく引っ張り回される。

 

「何を変えたんだよ?」

「んもう! わかんないの? ほら、レンズよ、レ・ン・ズ!」

「レンズが変わって、どうしたっていうの?」

「はあー。あんたねぇ、メダロット以外のこともちょっとは興味持ちなさいよ。前のレンズは古くて、写りに何かしら不調があったけど、今度のは違うわよ。望遠・広角の二種類対応、微妙な光量調節も可能で、状況に応じて撮影が可能。まあ、瞬間的なところを撮るのが難しいけど、そこはジャーナリストの感と腕でカバーするわ」

「つまり、何が言いたいわけ?」

「だから! バージョンアップした私のニューカメラ被写体第一号として、あんたを撮ってあげたのよ。ちょっと嬉しいとか思わない?」

 

 そう言われても、素直に喜べない。不意打ちな状況で撮られたので、間の抜けたポーズに顔が写っていることが容易に想像できるからだ。

 

「じゃ、これで」

 

 この適当にあしらう感じの言葉が良くなかった。背後のアリカが不快のオーラを発していることを感じたイッキは、まるで地雷原を歩くかのようにそそくさと学校から出た。

 イッキが去った後、アリカは小さく独り言をつぶやいた。

 

「せっかく、記念として撮ってあげたのに」

 

 

 

 イッキの家は、ベッドタウンである御神籤町(おみくじまち)にはよくある二階建ての家に住んでいる。周囲の家と異なる点は、屋根が赤く塗られているぐらい。

 イッキは帰宅すると、早速、母親のチドリから、今晩のお献立レトルトカレーを買ってくるよう言いつけられた。ママの手には、はたきが握られていた。

 

「ママ。僕、今帰ったばかりなんだけど」

 イッキは両親のことをママ、パパと呼ぶ。

「そんなこと言わずに行ってきてちょうだい。私はお掃除で忙しいの。ちょうどお金も崩したいしところだったし。今回は大サービスとして、お釣り二百円をあげるから」

 

 イッキママことチドリは、髪型からして何となくアリカに似ている。だが、アリカと違ってこちらは女性を意識しており、髪の毛も緩やかにウェーブがかかっている。

 イッキママはご近所でも美人な良妻として評判である。大概の子供は親が褒められるのを聞いても、「何で、あんなおばさんやおじさんが褒められるの?」と思うが、いざ、自分の親の良い噂を聞くと、やはり嬉しいものである。

 帰ったばかりで面倒臭いが、二百円の餌に釣られて、イッキはママの一万円札三枚を半分に折って短パンのポケットに突っ込み近所のコンビニへと向かう。

 

 

 

 歩いて十分程度のところ、そこにセブントゥエルブのコンビニがある。因みにメダロットは大型デパートばかりではなく、イッキが産まれる少し前から、コンビニでも売られるようになった。

 普通、コンビニといえば、入店したら店員が笑顔で「いらっしゃいませ」と挨拶するが、イッキが入店すると、挨拶ではなく耳をつんざくばかりの怒号で入店を歓迎された。

 バッカもーん! 給料ドロボー! 間抜け! 消費税三十パーセント人間!

 大量のお叱りの罵声が、若い店員を襲う。若い店員はロン毛で、額のところで髪を大きく左右に分けている。

 店長にこっぴどく叱られている彼の名は、アガタ・ヒカル、大学生。彼はどうやらあまり真面目に勤務するほうではないらしい。彼のシフトは週三日分のようだが、三日に最低でも一度は店長から厳しくお小言をもらっている様子を目撃される。

 店長は温厚な人柄だが、ヒカル店員の仕事ぶりには目に余るものがあるようだ。

 今日は特に激しい。

 いつもなら、店長は耳打ちでお小言を言うのであるが、客が入っても気にせず怒号を叫ぶのは珍しいことだ。カウンターの女性店員も手をこまねいている。

 

「誰が! だ・れ・が! こんな高いおニューパーツを仕入れろと言った! これの旧式型番を一体注文しろと、三度も言ったぞ」

「店長、それも三度め」

 

 ああ、どうやらヒカル青年は、雰囲気や状況を読み取れないタイプの人間のようだ。自らの手で油を注いだヒカル青年。店長のお説教もいつもより長く、イッキも脇でそれを見つめるだけ。

 

「二か月の間、お前の時給は九百五十円から八百円だ! それと、何としてでもこれを片付けろよ」

 

 反省しているように見えて、内心どこ吹く風だったヒカル青年だが、最期の台詞はズシンときたようだ。

 店長はそれに気づいたのか、鼻を鳴らすと、レジのお姉さんに「済まんが、今日は君とあいつで頑張ってくれ」と言い残して、店から出た。

 横目でちらとイッキを見て、片手できまり悪げに頭を掻くヒカル。彼の右手には、KWG型ヘッドシザースのパーツ一式が入った箱が抱えられていた。

 イッキは週刊メダロットを毎週欠かさず見ているので、メダロットの知識だけなら、誰にも負けないつもりだ。

 ヒカルが持っているヘッドシザースは、現在市場で出回っているヘッドシザースとは異なる。

 旧型のヘッドシザースの配色は主に白色なのに対し、新型のヘッドシザースは薄紫の配色が占める。旧型と異なるのは配色だけでなく、装甲全般に両腕の攻撃力などが改良された。

 シアンドッグに並ぶ、メダロットの最有力候補の商品にこのヘッドシザースが名を連ねている。

 

「まいったな〜。試しにあいつに着けてやろうと思ったのに」

 

 誤魔化すように頭を掻くをヒカルをよそに、イッキはヒカルの横、インスタント食品コーナーの棚を指した。

 

「あの、そこの」

 

 もしも、イッキがこのとき叱られたばかりのヒカルを全く気遣うことなく「そこのレトルトカレーを買いたいです」とでも言えば、イッキは無事にカレーを手に入れることができたはず。

 ヒカルはイッキ少年を見た。イッキ少年が指指す方向は自分の右手に抱えられている物、片手には、一万円札が三枚握られていた。ヒカルは目を輝かせて、イッキの元に近寄った。

 

「はいはい、わかりました! これですね、これ! いやー、これに目を付けるとは、以前から思っていたけど、君は本当に目の付け所がいいね」

 

 目の付け所がいいねと言われたが、メダロットはまだ一度も購入したことは無い。

 

「いや、だから、そこの」

「分かっている、分かっている。初めからこんな高いパーツを扱えるかどうか不安なんだろ? 大丈夫。人間その気になれば、何でもできる」

「えーとですね。僕は」

「よーし、今なら出血大サービスとして、ティンペットもお付けしちゃおう! 今、こんな逞しいメダロットを近所に持っているのは君だけになる。きっと、目立つよー?」

 

 断ることもできた。しかし、今この機会を逃したら、意志の弱い僕ではしばらくどころか一生をメダロットを持てそうに無い。

 何より、ヘッドシザースは男の子の憧れであるクワガタムシをモチーフとしたメダロット。イッキはクワガタムシが大好きであり、一号機目は絶対にヘッドシザースと決めていた。

 そして、おまけにティンペットも付けられると聞いて、イッキの心の善が悪に押されてしまった。

 ヒカル青年の押しにやられた面もあるが、一番の原因はメダロットに対する欲求を抑えられなかった自分の心。

 コンビニから出たイッキ少年の腕には、レトルトカレーの代わりに新型ヘッドシザースのパーツ一式とティンペットが抱えられていた。

 

 

 

 コンビニを出る前は心は天にも昇らんばかりの気持ちだったが、コンビニを出た途端、その気持ちは雲散霧消した。

 後には、やってしまったという後悔ばかり。ママにどうやって言い訳しよう。今更、「やっぱり要らないです」とは言い辛い。それ以上に、抱えている物を手放したくない気持ちがまさっていた。

 家に帰りたくないと思ったが、帰る場所はそこしかないので、やはり自宅に帰るしかない。

 溜め息をつくと、何となくヘッドシザースのパーツをじっと眺めた。それが起動して、ママから叱られる自分をかばってくれることを期待し、すがるような眼差し。

 ある程度歩き、溜め息をつき、パーツを眺める。そんな動作をすればするほど帰る時間も遅くなり、ママの堪忍袋の尾をますます切らせてしまうことをイッキは気付いているのだろうか。

 




*原作との相違点
ママは厳しい(ゲーム準拠)。三万円でメダロット「ヘッドシザース」一式を購入(ゲームでは、五千円)。
今後も、毎回ではありませんが、必要だと思ったときにはたまに相違点を挟みます。

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