映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
先ほどまでライトが付いていた手術中のランプが消え、グリーフシードから闇があふれ出す。数舜後、行き止まりであった場所に扉が出現する。その様子は先ほどまでお化け屋敷で会った様相から一変し、ファンシーなお菓子の家のようになっていた。扉を開けるとドーム状の部屋が現れ、その中央に長い脚を持つイスと机、机の上にはコーヒーカップ、椅子にはぬいぐるみが鎮座しているように見える。それはまるでお茶会をしているかのようであった。
「あれが…魔女ですか?」
「そうみたいね…」
「楽勝じゃん!!いくよえりか…じゃなくてマリン!!」
「やるっしゅ!!」
「あ、マリン!!うかつに近づいたら…」
と忠告をするブロッサムの意見も聞かず、ただ前に突っ走る二人。マリンは右手を前に出し、円を描く。手からは泡が出現し、手が描く円と同様の形を作る。
「マリ~ン…シュート!!」
そして両手を前に出すと泡はすべてが魔女に向かっていく。その攻撃に魔女は一切よけるそぶりもしないので、全てに当たり吹き飛んでいく。
「全弾命中!!っはぁ!!」
さやかは追撃するかのように、魔女が座っていた椅子と同じ高い脚を持つ椅子を次々と踏みしめながら飛んでいった魔女に向かっていき、魔女に剣を突き刺す。それを受けた魔女が弱っていると判断したのかさやかはマントを翻し、もう一本の剣を出現させ二刀流で、連撃をかける。
「行ける!これで…トドメだぁ!!」
最後に魔女を一刀両断するように上から下に剣を振り下ろす。二つに分かれることはなかったが、魔女は勢いよく地面に叩きつけられる。土煙が上がって姿はよく見えないが、さやかには手ごたえがあった。
「やったの!?」
「あっ…」
マリン、その他全員には分かった、それがフラグであると。その通り、魔女は生きていた。それどころか、ぬいぐるみの口から明らかに大きさに見合わないサイズのピエロのような顔をした怪物が大きな口を開けながら出現。だが、さやかは空中にいるので逃げることはできない。
「げっ、やばっ!」
さやかの命は風前の灯火となってしまった。
「レガーレ!!」
しかし、その攻撃からさやかを救ったのはマミであった。マミは自分のリボンをさやかに巻き付け、魔女に噛みつかれる寸前で間一髪自身の元に引き戻したのだ。おかげでさやかは魔女のおやつとならずにすんだ。
「もう、美樹さん。いくら相手が弱そうだからって油断してはだめよ」
「マリンもです!今までそうやって突っ走ってどれだけ危ない目にあったのか忘れたんですか!」
「「ご、ごめんなさい…」」
「皆!来るよ!!」
まどかの言う通り、上に口を開けていた魔女は地面にいるマミたちに気が付き、今度は地面をはう蛇のように襲い掛かってくる。
「シプレ、コフレ!」
「分かったです!」
その声と同時にシプレとコフレハつぼみとえりかに引っ付く。すると、二体の妖精はマントに変化した。ハートキャッチプリキュアは妖精がマントになることによって飛ぶことができるようになるのだ。
「私が動きを封じるわ!その間にみんなで攻撃して!」
「「「分かりました!!」」」
「今度こそやるっしゅ!!」
「レガーレ・ヴァスタリア!!」
さやかにやったように今度は複数のリボンが魔女の身体に巻き付いていく。魔女は巻き付きの量に比例して徐々に動きが鈍くなり、次第に止まった。
「いまよ!!」
「マジカルアロー!」
「シューティングスティンガー!!」
「ブロッサム!!」
「はい!」
「「プリキュア!ダブルシュート!!」」
「これで終わりでしょ!!」
各々の攻撃が当たり、もう終わりだと確信するえりか、しかしそう簡単に終わらなかった。
「えっ!?」
「嘘っ!」
「脱皮した…」
「反則じゃんそんなの!!」
彼女達の言う通り、魔女はその傷ついた姿を脱ぎ捨て、口からまた同じ別のボディーになり、それはまさに脱皮と思わせるようなものだった。先ほどまで与えたダメージがまるで嘘のように治ってしまい、さらにマミの拘束を逃れた魔女はまどか達を襲う。
『どうしましょうマミさん!』
『…皆よく聴いて』
こういう時は一番のベテランに聞くのが一番と、まどかはマミに念話を送る。すると今度はマミが全員に向けての念話を送り返す。それをまどかたちは魔女の噛みつきから逃れながら聞く。
『ああいう敵はいくらダメージを与えても脱皮して回復してしまうはずよ…』
『嘘ォ!それじゃあ打つ手ないじゃん!!』
『でも、一つだけ方法があるとしたら…』
『どうするんですか!?』
『みんなで一人づつ攻撃を仕掛けるの』
『へ?それってどういう…』
『いくら再生すると言っても限界があるはずよ』
『分かりました。再生できなくなる限界まで攻撃をかけるんですね!』
『そっか!…でも限界がなかったら?』
『その時は…』
えりかのその言葉に言葉がつまるマミ。もし限界がなかったら、このまま魔法を使い続けて魔力が底をつき、ジリ貧となってしまう。其れだけは避けたい事態であった。自分の作戦でイイのだろうかと、マミは不安になる。自分の考えが間違っていればここにいる全員を危険に晒してしまう。作戦を決行するべきか別の作戦にするべきか、だが、別の作戦などありはしなかった。マミはやはり悩んでしまう。
『マミさん!』
『!』
その悩みを遮ったのは後輩と、これから後輩になるかもしれない人物であった。
『私はマミさんを信じます!やりましょう!!』
『でも、もしだめだったら…』
『それでもやらないよりましです!やらないで後悔するより、やって後悔しましょう!』
『…』
まどかの、そしてつぼみの自分を信じてくれる想いを聞き、マミは覚悟を決めた。
『分かったわ…皆の命、私に預からせて!!』
『マミさん!』
『分かりました!!』
「ほんじゃま最初は…」
特攻隊長美樹さやか、魔女の正面に立つ。先ほどのように魔女がさやかにめがけて突進を繰り出してくるが、先ほどと違うのは今度は地面であるという事だ。
「私からっ!!」
魔女が目の前に迫ったその時、飛び上がって回避し、そのままさやかは縦に回転する。
「ハァァァァ!!!!」
それは木を裁断するのこぎりのように魔女の身体に傷をつけていく。だが、やはり魔女は脱皮し、完全回復する。
「脱皮した!!」
「今度は私が!!」
次にまどかが桃色の光をもった矢を弓に装填する。
「トゥインクルアロー!!」
弓の弦を引き絞り、桃色の矢が魔女に向かっていく。矢は魔女に突き刺さり、その勢いに任され魔女は壁に磔にされる。だが、それでもまだ魔女は脱皮し、攻撃を仕掛けようとする。
「今度は…」
「私達の番だよ!!」
「「レッドの光の聖なるパフューム!シュシュッと気分でスピードアップ!!」」
次にプリキュアの二人は赤い宝石を取り出し、アトマイザー、もといココロパフームに装填する。そして香水を身体にかけると、二人の身体が赤く光りだす。
「ハァッ!!!」
「ハァ!!」
「速い…」
「これがプリキュアの力…」
通常の三倍になってるかは兎も角、目にもとまらぬスピードで魔女を翻弄しながら打撃を加えていく。その力を初めて見た魔法少女は、まじかでみた都市伝説に驚愕するばかりであった。と、その内、つぼみの踵落としで魔女は地面にめり込む、だがやはり脱皮してその場から退散しようとする。が、
「逃がさないわよ!!」
上空にいるマミは右手を挙げ、空中にマスケット銃を出現させる。その数は、マミの周りの空間を埋め尽くす数であった。
「無限の魔弾よ、私に道を開いて!」
右手を下げ、全ての銃の撃鉄が落ち、弾が雨あられのように地面を這いつくばる魔女を襲う。魔女の周りは煙で覆われていく。だが、それでも魔女は堕ちない。魔女は空中にいるマミに向かって飛び上がり、マミを食らおうとする。そして魔女は、マミをその口で確かに捕えた。
「マミさん!!」
その様子にまどかは悲痛な叫びをあげる。だが、マミの身体は崩れ、細い黄色のリボンに代わっていく。
そしてマミだと思ったそれにかみついた魔女はそのリボンに逆にとらえられる。
「すり替えておいたのよ」
マミは地面にいた。巨大な銃をその手に持って。
(体が軽い…こんな気持ちで戦うの初めて…)
それは、マミの必殺技であった。幼いころ、テレビで見た魔法少女のように必殺技の名前を叫ぶことで死と隣り合わせの戦いから逃げ出したくなる自分を奮い立たせるために考えた技…。たった一人で戦ってきたから、たった一人で全てを背負ったからこそ生み出されたのがソレであった。今、その必殺技を新しくできた仲間たちの前で放つ。
「もう、何も怖くない!」
その名前は…。
「ティロ・フィナーレ!!」
銃から放たれた魔弾は魔女に一直線に向かっていく。幸か不幸かしかし攻撃は、魔女を縛っていたリボンの一端が不意に外れてしまったことにより、魔女の態勢が崩れクリーンヒットしなかった。
「外れた!?」
「でも、もう再生しないみたい!」
「では、これで終わりです!!」
先ほどまでであったら、すぐに脱皮し、回復していたような攻撃でも回復しなくなった。これは限界が来たという事ではないか、そう考えたつぼみとえりかは最後の攻撃を繰り出す。
「「集まれ!二つの花の力よ!!」」
そういうと、多数の花びらが二人の手に集まっていき、それがタクトのようになっていく。
「ブロッサムタクト!」
「マリンタクト!!」
「「プリキュア・フローラルパワ―!フォルテッシモ!!」」
二人はタクトを振り、それぞれ音楽のフォルテの記号を描くようにピンクと青のエネルギーを生み出していく。そしてそれを身に纏い、敵に向かって勢いよく突撃していく。魔女はそれを口を開けて待つが、二人はその口をハート型に突き抜け、魔女の後ろに出現した。
「「ハートキャッチ!!」」
その言葉と同時に魔女は大爆発を起こす。そして二人はタクトのクリスタルを回しだす。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
魔女は光に包まれ、消滅。それと同時にその姿は見えなくなってしまった。
「やった!!」
「ブロッサム!マリン!!」
まどかのその言葉につぼみは笑顔で返した。そして魔女の結界は徐々に消え、これで全てが終わった。そしてこの後は空からグリーフシードが落ちてきて、それを拾い終わりのはずであった。…これが普通であったなら。
「え?」
だが、そこに落ちてきたのは光であった。その光をまどかは両手で受け止めると、光はだんだんと消失していく。そして現れたのは薄紫色の宝石。
「ソウル…ジェム?」
魔法少女、その真実に耐えられるのか…。