映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
奇跡のその裏で起こった出来事、一体この場所で何が起こっていたのか。その真実を探るためには時間を少しばかり戻さなければならない。
「かずみちゃん! 左!」
「ッ! ハァ!」
かずみは、マツリに言われた通り《目の前にいる》カガリを攻撃するその杖を、左方向に伸ばした。
《誰もいない》空間に向けて。
もしも今カガリに攻撃が攻撃してくればかずみはひとたまりもないだろう。しかし、目の前にいるカガリは攻撃する様子もない。
それもそのはず。彼女が《カガリだと認識していた少女》は、実はスズネであったのだ。
そして、彼女が攻撃した《何もない空間》にいたのは。
「チッ!」
カガリである。
一体、何が起こっている。カガリは困惑の中にいた。
ハッピーたちの脳内をいじって、見当識を狂わせて自分の姿を消したり、味方の姿を自分に見せて、そうやって戦っていた。
結果彼女たちは今自分が戦っているのが自分であるか味方であるかを識別できなくなり、まるっきり見当違いの方向に攻撃をしたり、味方に攻撃をしようとしたりしていた。
確実に自分の方が有利だった。
なのに、なのに、何故。
「ハァァァァ!」
カガリは、今度はハッピーの脳内をいじる。今目の前にいる《自分》がスズネ、《かずみ》を自分の姿に見せるように彼女の見当識をいじくったのだ。
これで、彼女はかずみを攻撃するはず。
で、あるのに。
「ハッピー! 右斜め前!」
「ッ!」
まただ。また《自分》が攻撃された。
さっきまでとは全然違う。まるで自分の能力が効いていないかのように彼女たちは目の前にいる《偽物の自分》には目もくれずに一直線に《本物の自分》を攻撃してくる。
もちろん、自分の能力が衰えたわけじゃない。彼女たちが自分の姿を見られるようになったわけでもない。
そう、逆境を逆転させた最大の要因は、今も後ろの方で彼女たちに指示をだしている少女にあった。
(見えてる、みんなの動き。みんなの居場所を)
日向茉莉である。
彼女には、他人の気配を探るサーチ能力が存在している。椿の魔女を倒した後の意気消沈したスズネや、目の前で姿を消して移動した彼女の魔力の気配を追った魔法だ。
この力は、使用相手の魔力や気配を追うものであるため、カガリの使用している意識を改ざんする魔法には一切効果がないのだ。
偽物に、本物が負けることは決してないのとおんなじだ。たとえどれだけ精巧に作られたものであっても、所詮は偽物。本物が形作る意識や心、気配には到底敵わないのだ。
「スズネちゃん! 後ろ!」
「ハァァァァ!!!」
「クッ!」
また一撃。これまでの攻撃はなんとか防ぐことができていたカガリだが、そろそろ限界が来たようで、スズネの攻撃が肩を掠めて行った。
やはりこれだけの敵を相手にして戦うのは分が悪すぎる。だからこそ、自分は特務エスパーの少女や警官たち、そして成見亜里紗を自らの魔法によって操ったというのに、これではまずい。
「邪魔しないでよッ!! マツリィィィィィ!!」
「ッ!」
まずはマツリを何とかしなければ。スズネの前に殺るのは心苦しいが、しかし順番が変わるだけ。彼女の能力がサポート系であるのならば、自分でも彼女を殺すことは可能。
そう考えたカガリがマツリめがけて突撃してくる。
だが、マツリはカガリの武器の一つであるレイピアを簡単にいなすと、その手に魔力を込め始める。
「これで……ッ!」
そして手をカガリの腹部に手を添えると、光の弾を放った。
「が……ぁッ!」
カガリは、何メートルもある路地裏を吹き飛んでいった。地面を背中にこすり、土煙があたりを舞う中、マツリは言った。
「やっぱり、もうやめよう……こんなの、なんの意味があるの? マツリは、これ以上カガリと戦いたくないよ……」
もう、これ以上姉と戦いたくはない。これ以上戦ってもなんの意味も持たない。これ以上戦っても、誰も喜ばない。だからもう、戦うのはやめよう。素直に、自首して。そう、マツリは願う。だが、土煙の中立ち上がったカガリはボロボロのままで言った。
「まだそんなこと言ってるの? マツリは嘘ばっかりだね。昔からそう……思ってもないこと言ってごまかそうとする。ホントは私なんかいなくなっちゃえばいいって思ってるクセに」
嘘だ。本当は、マツリの言う通り、これ以上もうマツリとは戦いたくない。
自分の本当の目的はスズネただ一人。彼女を殺すことができれば、ただそれだけでいいのに。どうしてマツリとも殺しあわなければならない。
彼女が自分のことを思っているのはわかる。でも、わかってもなおそれでも言えない一言がある。
「そんなこと、あるわけないでしょ!? マツリは……」
「もう、いいよ」
「ッ!」
もう、自分は引き返せない。自分はただの犯罪者だ。大勢の人間の頭をいじくって、洗脳して、スズネを犯罪の道具にして大勢の罪のない人間を犠牲にした。
ここで戻るわけにはいかない。いや、もし戻ったとしても待っているのはよくて刑務所、あるいは―――。
だったら、もう自分は突き進むしかないのだ。この道を。この犯罪者という自分を貫くしか方法はない。
本当は、自分の手で殺したかった。自分の手で、彼女のソウルジェムを砕いて、そしてマツリのソウルジェムも砕いて、最後に自分を殺して逝きたかった。椿のところに。
でも、もうそれもかなわないのなら。この方法しかない。
この、方法しか。
ハッピーは気が付く。なんだ、いまカガリはどこに目を向けた。自分たちの方じゃない。路地裏の、さらに裏の道だ、と思うが。でもなんでそんなところに目を向ける必要がある。一体、何が―――。
「ッ! スズネちゃん!!」
「!」
それは、咄嗟に出た行動に過ぎなかった。
スズネだから助けたとか、自分の命なんて軽いものだと考えたから行動に移したというわけじゃなかった。
本能だったともいってもいい。それしか方法がなかったといってもいい。彼女が、誰かのことが大切に思うことができる人間だったからこそ起こった悲劇。
彼女が、スズネの体を押しのけてその位置が入れ替わった。その瞬間だった。
一発の銃声が響いた。
「あっ……」
「え?」
マツリも、かずみも、そしてスズネでさえも一瞬だけ頭が真っ白になった。
すべてが無音に包まれた空間。倒れたハッピーに近づいたのは、マツリだった。
「は、ハッピー……!」
うつぶせになった彼女を仰向けにしたその瞬間、気が付いた。自分の手に付着した血に。
彼女の服に付いた血痕と、そして破れた服の隙間から見えた銃創。そして、そこからあふれ出てくる血。
信じられないことが起こった。信じたくなかった。
これもまた、カガリが自分たちのことを惑わすための幻術であると信じたかった。でも、違う。これは本当に今、目の前で起こっていること。
ハッピーは、撃たれたのだ。
「そんなッ」
「あ~あ、外しちゃった」
「チィッ!」
マツリの次に動くことができたスズネは、すぐさま周囲を警戒する。そして、見つけた。ビルとビルの合間から、自分たちに向けて銃口を向ける一人の女性を。
スズネは、すぐさま女性に近づくと、彼女の体内に魔力を送って気絶させる。
女性の顔を見たスズネは、すぐにその素性の見当をつける。
「この人は、この間の……」
そう、その女性は5日ほど前に詩音千里を殺害した後、自分が魔法少女であると誤解した星空みゆきを殺そうとした時に出会った特務エスパーを指揮していた女性だ。確か、小鹿と言ったか。
そうだ。考えてみれば、その時に自分と戦った特務エスパーの少女もまた先ほどの戦場に現れてた。なら、必然的に彼女もまたここにきていてもおかしくはなかったはずだ。
だが、まさかカガリがこんな奥の手を残していたなんて、そして、それがハッピーを撃ってしまうなんて、最悪な結果になってしまった。
「ハッピー!!」
「ハッピー! しっかりして! ハッピー!!」
「ッ!」
マツリとかずみはハッピーの、みゆきの名前を呼び続ける。
スズネは、女性を横にすると再びカガリの前に立つ。
そして―――。
「アハハハハハ!!」
カガリは、ただただ狂ったかのように笑い続けるだけだった。
その間にも、みゆきの身体からは血が流れ落ちていた。
ドクドク、ドクドク、と、落ち続けていた。
「ッ! みゆきちゃん!!!」
ドクドク、ドクドク、ドクドク。