映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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 最近、この小説のタイトルを変えようかなと思ってきました。


外伝(みゆき編):心を奪われたあなたは……今の私の敵じゃないわ!

「はぁぁぁ!!」

 

 仲間たちに降り注ぐ銃弾の雨あられを、梅枝ナオミは念動能力で作ったバリアを駆使して防ぐ。

 

「皆! 今よ!!」

「三人とも! 行って!!」

 

 その後ろから現れたサニー、マーチ、ピースの三人。彼女たちに対して、海香は本を開いて上に掲げる。すると、三人のプリキュアの頭上に模様が出現し、それが上から彼女たちの身体に覆いかぶさる。

 すると、どうしたことか。彼女たちの身体が一瞬だけ光に包まれたかと思えば、瞬く間にその数を増やしたのだ。そう、文字通り彼女たちは増えたのである。それぞれ7人ずつ増えたため合計21、いや本物を覗けば合計18人の少女たちが現れたことになる。

 これは、かつて海香が対峙したことのある魔法少女が使用していた技。といっても、その時にはすでに使用が出来なくなっていたそうだが、ともかくその少女がかつて使用していた魔法である≪ロッソ・ファンタズマ≫と呼ばれる幻惑の魔法だ。

 そう、現在見滝原で戦っている佐倉杏子の魔法である。ロッソ・ファンタズマを魔法でコピーしたことによって彼女も、そして彼女が魔法を使うことによって仲間たちも使うことが可能になるのだ。

 

「行っくでぇぇぇ!!!」

 

 気合を入れるたたくさんのサニーのスマイルパクトから、エネルギー体が出現。

 

「プリキュア! サニィィィィィ、ファイヤァァァァァ!!!」

 

 サニーがそのエネルギー体をバレーボールの要領でスパイクする。すると、エネルギー体は炎を纏って普通の人々の元に向かっていく。

 

「!!!!」

 

 炎は普通の人々の足元で弾け、彼らの周囲を火で囲んだ。

 

「次は私が!! プリキュア! マァァァァァチ! シューーート!!」

 

 続いて、複数のキュアマーチが緑色のエネルギー体を蹴り、次々と逃げ場の無くなった普通の人々を撃墜。

 

「最後は私! プリキュア! はぅ!? ピースサンダァァァ!!!」

 

 締めに、複数のキュアピースが放った電撃が、その場にいた普通の人々を気絶させていく。

 

「これで、終わり!!」

 

 そして、最後の一人はナオミの念動能力で吹き飛ばし、これで普通の人々の殲滅は完了した。

 終わってみればかなりあっさりとした物ではあったが、しかし他の面々と違って彼女たちが戦っていたのは文字通り普通の人々。恐らくカガリ自身さほど戦力としては期待しておらず、単に戦力を分散させる形でしか利用していなかったはずだ。

 

「これで、普通の人々ホオズキ支部は壊滅したわね」

「エスパー差別なんてくだらないことすることするからこうなるんやで」

「今回は手加減したけど、次は容赦しないよ」

「気絶している人間に対して言うことでもないと思うわよ」

「あははは……」

 

 とはいっても、相手は違法な武器も多数所有しているテロリストといっても過言ではないので、これくらい痛い目にあってもらったほうがよかったのだろう。

 マーチの言う通り、今回は彼女たちが手加減をしてくれたおかげでこれだけの怪我で済んだものの、もし本気で戦っていれば普通の人々はそれこそゾウに挑むキリギリスの如くにあっけなく粉砕されていたはずだ。

 これに懲りてもう悪いことはしないでもらいたいと願ってはみる物の、恐らく無駄な祈りとなることだろう。そう思いながら、五人の少女たちは友達の元へと向かった。

 

「グルアァァァ!!!」

「フッ!」

 

 鋭い爪を持った手を伸ばして巨大な獣のようになった初音が、腕を伸ばしながらキュアムーンライトへと突撃してくる。ムーンライトは、初音の攻撃を合気道の技を使うように後ろへと逸らす。初音は、空中で身体の向きをムーンライトの方へと向けて地面に着地しようとする。

 

「ハァァァァッ!!」

「ッ!!」

 

 だが、そこに待っていたのはムーンライトだった。

 初音の攻撃を逸らした後、初音がまだ自分の方に背を向けている間に地面を蹴って初音の着地点へと先回りしていたのだ。

 そして、ムーンライトは彼女の無防備な脇腹に横蹴りをくらわす。その一撃を受けた部位の周囲に会った獣の毛は一瞬のうちに飛び散り、初音は建物の壁に激突する。その威力は、建物の壁にできたクレーターを見れば簡単に分かることだ。

 

「グルルル……」

 

 普通の人間であればこれでもう終わりであろう。しかし、初音はそれでもなお腕に力を入れて埋もれた壁から逃げ出そうとしている。

 恐らく、カガリの催眠効果によって強制的に身体を動かされているのであろう。

 当初、ムーンライトは持久戦に持ち込んで初音の体力を減らそうと試みた。相手は操られているだけの何の罪もない女の子、だからなるべく穏便にことを運びたかった。しかし、どれだけ彼女の力をいなして、攻撃を避け、初音の体力を減らすようにしても彼女のスピードは一切衰えることもない。

 それもまた、カガリに無理やり身体を動かされているから。このままでは、彼女の身体は持たないだろう。ならば。

 

「もしも、貴方が心を持っていれば、私も危なかった……けど!」

「ッ!」

 

 もしも、彼女が自我を持って行動していれば、もしも彼女にもいつものように仲間がいれば、もしもかつての自分だったら。果たして、ここまで有利に立ち回ることが出来ただろうか。戦闘経験は同格、くぐってきた修羅場も恐らく同格。だが事前に聞いていた能力の多様さから言って、自分がわずかに劣っていたのかもしれない。

 だが今の彼女になら自分は勝てる。その絶対の確信があった。

 

「心を奪われたあなたは……今の私の敵じゃないわ!」

「グッ!!」

「ムーンライト……シルバーインパクト!!」

「ガァ!?」

 

 キュアムーンライトがゼロ距離から放った紫色の籠った銀色のエネルギー波による力で、壁にめり込んでいた初音の身体はさらに壁をえぐり、次々とその奥にあった壁をも破壊しながら吹き飛んでいった。

 心を持っているかどうか、何のために戦うのか、そして守るべきものが何なのか。そのいくつもの小さな差がこの勝敗を分けていたと言ってもいい。ムーンライトは、獣の姿から普通の女性の姿に変わった初音の顔を一瞥すると、まだ戦いを続けている仲間たちのもとに向かった。

 許せないのだろう。初音の意識を、思いを、そして強さを奪ったカガリという女の子が。その時の彼女の顔つきは、決意を新たにしたかのように凛々しいものだった。

 

「アハハハハ!!」

「カピターノ・ポテンザ!」

 

 一方狂ったかのように笑い続けているアリサと戦闘中のカオルは、自分の足を硬化させる魔法≪カポターノ・ポテンザ≫を使用し、彼女の大鎌による攻撃を受け流し続けていた。

 

「カオルさん! 上へ!」

「ッ!」

 

 自分を呼ぶ声に反応したカオルは、アリサの大鎌を踏み台として大きくジャンプした。

 

「ハァッ!!」

 

 そして、その背後から迫るは氷の剣を持ったキュアビューティである。ビューティは右手に持つ氷の剣で、刀をサヤから抜刀するかのように撫で斬りとする。だが、アリサはこれもまた大鎌を使用することによって防いだ。しかし、ビューティにとって来れもまた想定内の内に過ぎない。いや、むしろ好都合だった。

 ビューティは、アリサの大鎌の柄を掴むとその場から動かさないように力を入れる。これで、今彼女は無防備となった。

 

「今です!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ビューティが合図を送ったのは上空で縦回転しているカオルだ。

 彼女の武器である大鎌が抑えられ、攻撃を防ぐ手立てが無くなった今、攻撃するチャンスは今しかない。

 カオルは縦回転をつづけながら降下、そして硬化させた足で思いっきりの力を込めてアリサの肩にかかと落としを仕掛けた。

 

「ッア!!?」

 

 頭ではなかったのはせめてもの温情なのか、ともかくさすがの魔法少女であったとしてもこの一撃、いつもの彼女だったらここで戦闘不能になっているはずだろう。

 だが、今の彼女はカガリに洗脳されて傀儡となってしまっている。恐らく残った右手一本でも戦いを続けるであろう。

 ならば。

 

「プリキュア! ビューティ……ブリザァァァド!!!」

 

 今度はビューティの必殺技だ。ビューティは、目の前に大きな雪の結晶を形作ると、それとスマイルパクトから出現したエネルギー体を組み合わせて手から打ち出した。それは正しく暴風雪、ブリザードだ。

 ビューティの凍えるような極寒の攻撃を受けたアリサは、足先から徐々に氷始める。攻撃から逃れるために動こうとしているアリサであったが、しかし既に足元が凍り付いてしまているために動こうにも動けない。そして砕こうにもアリサの力ではプリキュアの聖なる力を破ることはできず、ついにアリサの身体は氷の柱の中に納まってしまった。これで、しばらくはアリサを抑え込むことが出来るはずだ。

 

「これでもう、動くことはできませんね……」

「御免ね、カガリを倒すまでの間だけだから……だから、我慢して」

 

 カオルは、そんなアリサの姿を見ながらかつて自分たちがしていたことを思い返していた。歪んだ魔法少女システムを否定する。そんな偽善のために閉じ込め、そして結果的に自分たちが殺してしまった、そういっても過言ではない魔法少女の女の子たち。

 もしも、自分たちがあのようなことを考えなければ、もしも自分たちが誰かを失うということに、あれほどまでに悲観的にならなければ。もしも、またもう一度彼女のに会いたいと、そう思わなかったら。

 紙一重だった。自分たちも、アリサも。止めてくれる人間がいたから、自分の身を亡ぼすことまでは至らなかった。その代わりに失った物は多いけれど、それでも自分勝手に生き残ってしまった理由を追い求めて、カオルは生きる。生きて、最後まで生きて、そして、地獄に落ちる。それが、自分たちの罪の償いだから。

 でもアリサはまだ立ち止まれる。彼女は誰も殺してはないのだから。確かに魔女となった少女たちを殺したのかもしれないが、でも魔法少女自体を殺していた自分たちよりは断然罪は軽くなるはずだ。だから、もしも神様なんてものがいたら、言わせてもらいたい。彼女の罪も自分たちが引き受ける。だから、せめて、アリサやマツリ、それからプリキュアの子たちは天国に行かせてほしいと。

 カオルは、そんなことを考えながら氷の柱に触れる。

 その時だった。

 

「ッ!」

 

 氷の柱に次々と入っていくヒビ、それと同時に動きが停止したはずのアリサからあふれ出てくる莫大な魔力。何だ、何が起こっている。そう考える暇などなかった。

 

「カオルさん!」

「ビューティ! 下がって!」

「はい!」

 

 その声に、ビューティはカオルと共に地面を蹴ってバックステップで氷の柱から離れた。

 その刹那だった。氷の柱が粉々に割れたのだ。あたりを涼しげな風が伝う。それは、氷によってできた冷気だったのか、それともアリサの戦慄くかのように冷たい魔力に当てられたからなのか、どちらにせよ先ほどまでのアリサとはまた違う何かが、そこにはいた

 

「なんなんですか、あの力……一体どこからあのような……」

『あれは、アリサの魔法である身体能力強化……それを身体の限界を超えるまでに強化した物さ』

「!?」

 

 この声、まさか。カオルが顔を下に向けた時だった。そこには、既に見慣れたと言ってもいい白い悪魔の姿。自分たちの人生を狂わせた大元の元凶がそこに穿いた。

 

「QB!」

『やぁカオル。それに、君はキュアビューティだね』

「QB……先ほどの、あれがアリサさんの魔法であるというのは、事実なのですか?」

 

 目の前にいるのが、魔法少女の女の子たちの魂を宝石に変えたという悪魔なのか。いや、今それを突き詰めている場合ではない。ビューティは先ほどのQBの言葉の先を聞く。

 

『そうさ』

「これだけの魔力……今までにあってきたどの魔法少女よりも強いかもしれない」

『それは、彼女の願いが、力に特化したものだったからさ。と言っても、これまでは自身の負担が大きくなりすぎるからリミッターをかけていたんだけれどね』

「リミッター……なら、洗脳されたことによってそのリミッターを無理やり解除されたということですか!」

『そういう事になるね』

 

 自身の負担のことを考えて抑えていた力。この言葉を聞いただけでビューティは気が付く。まずいと。

 

「なら、一刻も早く彼女を止めないと……」

「え?」

「先ほど、彼女は自身の負担のことを考えてリミッターを付けていたとQBは言っていました。その負担とはつまり、使えば使うほど、強大になるほどにソウルジェムの汚れが増えるということなのではないでしょうか?」

「あっ……」

 

 考えれば分かることだ。リミッターを外して魔力を使用することによって身体に負担を与えてしまう。それだけの魔法を使用すれば使用するほどにソウルジェムが汚れてしまうのであれば、今リミッターを外した彼女のソウルジェムは急激に汚れていっているのかもしれない。その負担を回復させるために魔力を使っているのであればなおさらだ。

 

『勘が良いね、青木れいか。少ない情報でそこまで考えることが出来るなんて、君ならいい魔法少女になれると思うよ』

「そうですか……」

 

 この場合のQBの言葉、魔法少女の真実をしっているものからしてみれば嬉しくない物であることは間違いない。しかし、そのことについて深く追求している時間などないと彼女は思っていた。

 

「アハハハ、アハハハハハ……」

 

 彼女の様子が徐々におかしくなっている。いや、それまでもおかしかったのではあるが、徐々にそのおかしさが増して言っているのだ。

 もしかして、カガリの洗脳が深くまで浸透しているのではないか。彼女の洗脳能力がどれほどまでの効果を持つか分からないが、もしも時間をかけすぎると彼女の記憶や人格すらも取り戻すことが出来ないのではないか。そんな危惧をビューティは抱えていた。

 

「ビューティ!」

「カオル!」

 

 そんな中、別の場所で戦っていた他の仲間たちが合流する。

 その仲間たちも、アリサが醸し出す強大な魔力を感じ取っているようで、その顔には緊張の色が浮かび上がっている。

 

「この魔力……本当にあの子なの?」

「そう、リミッターを解除したって……早く気絶させるかしないと……」

「そうね」

 

 だが、本当に助けることが出来るのだろうか。彼女は多種多様な能力を持っている初音と違い、ただただ力押しの魔法を使用している。それは、カガリの単純な洗脳能力と相性が良かったのかもしれない。

 手加減などして彼女を助けることなんてできない。それこそ、彼女を殺すかもしれないそんな力でぶつかっていかなければ。カオルと海香は声には出さないしかし、心の奥底ではあることを二人とも決めていた。

 もしも、彼女を助けられない時。仲間たちの命に危険が迫ったその時には、自分たちがその業を背負おうと。

 

「アハハハハハハハ!!!!」

 

 せめて、彼女がまだ人間であるうちに殺してあげようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!!」

「え?」


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