映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
私は罪人、しかしその罪は消えてしまった
私は共に歩く者、しかし相手を消してしまった
私は罪を自覚している
だが、だれも自分の罪を指摘しようとしない
私は、誰を殺した
私は誰の未来を奪った
私は、誰だ
ここは、墓場
ここに私の名前はない
ここに彼女の名前はない
ここに、墓標は、墓地はいらない
「うっ……」
「……なんや、どないしたっちゅうねん……」
突然の光に目をつぶされた彼女たちはしかし、すぐに視力が回復してきた。そして、彼女たちが見たもの、それは……。
「なに……これ……」
「……間に合わなかった」
「ヒュブノ……?」
まるで、幻覚のようだ。いや、幻覚の世界そのものにしか見えない。廃れた墓地のような場所。その中心には、薄気味悪い物体がいた。体は、腕がないこと以外は普通の、まるで花嫁衣裳のようなもの。しかし、頭はと言うと、大きな唇に、その中心に目玉が一つ。そして、唇からは何本も腕が生えており、内、二本に至っては白骨である。まるで、花のように配置されたそれは、気味悪く、気色悪く、そして吐き気もする。なんなのだ、あの怪物は一体。何者かによる催眠能力か、いやそうじゃなくてはならない。こんな事が実際にあるのならば、なんと恐ろしいことであろうか。信じられなければ、信じたくもない。
「なんで、魔女が……」
「魔女?」
そんな言葉が聞こえた。魔女。これが、魔女。自分の思っている魔女のイメージとは、まるっきり違う生き物。いや、ついさっき彼女は己のことを魔法少女と言っていた。もしかしたら、この二つは近いものなのかもしれない。少女の一人が、スズネに聞く。
「間に合わなかったって……ハルカは、ハルカはどうなったのよ!?」
「……あの人なら」
そして、スズネが怪物の方を向いて言った。
「そこにいるじゃない」
それは、実質的な死刑判決であった。
「なっ……!?」
「クッ!!」
「みゆき!?」
ハッピーは怪物にむかい果敢に跳ぶ。そして……。
「気合いだ、気合いだ、気合いだ!!!!」
ハッピーは力を溜める。本日二回目の必殺技だ。彼女が一日一度しか必殺技を撃てないというのは以前教えたが、しかしそれは基本的な場合。多くの戦いを経験し、成長した彼女は、テンションというか、やる気や根気と言ったものがあれば二、三度は撃てるようになっている。前回は、それほどテンションが高くなかったのと、必殺技を使わなくてもよかった状況だったために最後の最後に一度だけはなっただけだった。先ほどの結界で魔女相手に一度撃ったのだが、しかしその攻撃を放つことができるほどの気合いが溜まれば撃てる。彼女を助ける。その一心で彼女の気合は十分であった。
「プリキュア!!ハッピー……シャワー!!」
キュアハッピーの手から放たれたその光は、一直線に魔女へと向かう。そしてそれは、見事に魔女に当たる。
「なに、あれ……!?」
「あれが、プリキュア……」
その攻撃に、魔法少女組は、光から目を守ろうと手を目の前に持ってくる。初めて見るプリキュアの力。それは、彼女たちにとって驚愕に値するものであった。前と同じであれば、これでこの魔女をソウルジェムへと戻すことができるはずだ。
「やった!」
「よっしゃ、これでなんとか!」
だが、前回と違うところがあった。それは……。
「え……」
「そんな、戻らない!?」
どれだけ光が魔女を包もうとも、魔女がソウルジェムへと戻ることはない。いや違う、彼女の攻撃が弱まっているのだ。二回目だからか、いや、今までも一日に二度以上撃ったことだってある。その時にもちゃんと威力は保たれていたはず。そういえばさっきの魔女をソウルジェムに戻した時も、ギリギリ何とかなったというほどだったはず。間違いない、自分の攻撃の方が前よりも弱くなっているのだ。
「あかねちゃん!皆!!」
「「「「うん!!」」」」
みゆきの言葉に同調した少女たちはポケットからスマイルパクトを取り出し、それぞれがリボンの形をしたアクセサリーを取り付ける。
≪≪≪≪Ready?≫≫≫≫
「「「「プリキュア!スマイルチャージ!!」」」」
瞬間、彼女たちを色とりどりの光が囲う。
≪≪≪≪go!gogo!let's go≫≫≫≫
≪sunny!≫
≪piece!≫
≪merch!≫
≪beauty!≫
電子音が鳴った瞬間、四人それぞれがスマイルパクトから現れたパフを取ると、それぞれパフで体の部位を叩き、そして服が変化し、髪が変化し、ついに彼女たちが完成した。
「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー!!」
「ピカピカピカリン、じゃんけんポン!キュアピース!!」
「勇気リンリン、直球勝負!キュアマーチ!!」
「しんしんと降りつもる清き心……キュアビューティ!!」
余談、ピースが出したのはグーである。
彼女たちを包んでいた光が拡散し、本来ならこの後辺りに全員での名乗りがあるのだが、今回はそれをやっている暇も余裕もない。ハッピーの緊迫した状況を鑑みて、早急に彼女たちはそれぞれの必殺技を撃たなければならない。
「プリキュア!……サニー・ファイヤー!!」
「プリキュア!うあぅ!!……ピース……サンダーァァァ!!!!!」
「プリキュア!……マーチシュートォォォ!!!」
「プリキュア!ビューティ……ブリザード!!」
それぞれサニーがバレーボールのアタックの要領で上空に現れた炎の弾を叩く。ピースは、自分で自分の技に驚きながらも、出現した雷を飛ばす。マーチは、サッカーボールを蹴る要領で緑色の気を蹴りだす。そして、ビューティは手で氷の模様を描いてから、手から氷のつぶても含んだ吹雪を生み出す。そしてそれらはまっすぐと魔女へと向かって行き、それら全てがクリーンヒットする。
「す、すごい……」
「ハァァァァァァ!!!!!!」
そして、ハッピーが気合を入れるように叫んだ。これならいけるはず。自分と違って他の四人は今日必殺技を別の場所で使わなかったはずだ。もしも別の場所で使っていたとしても、五人全員で攻撃しているのだからきっと大丈夫。その時、爆発が起こった。
「やった!!」
そう思っていた。いや、そう思わざる負えなかったとしてもしょうがない。一人一人で必殺技を使ったとしてもアカンベェを浄化することができていたのだから、大丈夫なはずだったのだ。本来なら。
「キャァ!!」
煙の中から現れた光線が直撃するまでは。それも一つだけでない、二つ、三つ、それ以上の光線が次々とプリキュアたちを襲う。プリキュアたちは総じて聖なる力に守られているために致命傷を逃れてはいるがしかし、その一撃は重く、地面に落ちるだけでは止まることはなかった。何度も何度も地面を転がって、ようやく彼女たちは止まった。
「な、なに?何があったの?」
「分かりません……確かに、直撃したはずなのに……」
その時、煙が晴れた。そこにいたのは紛れもなく先ほどの魔女。無傷のままである。周囲には小さなミラーボールのようなものが何個も飛んでおり、おそらくそれが彼女達を襲ったのだろうと思う。だが、攻撃手段なんてこの際どうでもいい。問題は、魔女が無傷だったことだ。それは、かずみから見ても衝撃的なこと。確かに、先ほどの魔女はソウルジェムに戻っていたはずだ。何故今回に限って、それも5人がかりで元に戻すことができないのだ。力不足なのか、それともあの魔女の絶望が大きかったか、分からない、分からないがしかしこのままではみゆきたちがまずい。
「まだだよ、まだ……プリンセスフォームが、ッ!」
「ハッピー!!みんな、危ないクル!!」
キャンディの叫びが響いた。ハッピー達は立ち上がろうとするがしかし、魔女は追撃するように光線を飛ばす。いくらプリキュアであってもこれ以上攻撃を受けるのはまずい。避けなければならない。だが、身体が動かない。やられる。そう思った瞬間、ある女性の姿が目の前に映った。それは、かずみでも、スズネでもない。
「クッ!!」
特務エスパー、たしかナオミと言っただろうか。彼女が両腕を前にして魔女の攻撃を防いでいるように見える。魔法じゃない、これが彼女の超能力である。ワイルド・キャット、梅枝ナオミは超度6の念動能力者、サイコキノである。7つのレベルがあるうちの上から二つ目に値する彼女の能力は高く、レベル7でチーム作りされたザ・チルドレンのサイコキノである少女が諸事情により出撃できなければ、彼女が代役を務めることもあるほどだ。
だが、今回にあってはその高い能力を生かせることはできなかった。何故なら、彼女は現在リミッターによって超度を下げられているからだ。エスパーは、ほぼ全員が無意識の超能力使用による不慮の事故や暴走、また超能力者を守るという名目でESPリミッターという物をその身に付けている。特務エスパーのリミッターを解除できるのは現場担当主任である人物、今回で言えば谷崎のみ。しかし、その谷崎は結界の外にいるため頼りにはできない。そのため、彼女の現在の超度は3つ下げられて超度3となっている。心許なく頼りはない。
「この子たちは、私が守る!」
光線の威力はかなりのもので次第に彼女は押されていく。だが、退くわけにはいかなかった。ここで彼女が退いてしまったら、後ろにいる少女たちが死んでしまうかもしれない。そんなこと、絶対に嫌だ。ナオミは、気合いを入れるかの如く叫ぶ。掛け声にも、言葉にもなっていない叫び、それだけでどうにかできるとは思っていないしかし、それでもやるしかなかった。光線はなおも数を増やしながら彼女を襲う。その最中、一つのミラーボールが彼女の後ろに周った。
「ッ……!」
やられる。そう思った瞬間、そのボールは破壊される。それを成したのは、魔法少女、かずみであった。そして、他のミラーボールも他の魔法少女たちによって壊される。
「大丈夫ですか!?」
「え、えぇ……助かったわ」
「よかった……後は、私たちに任せてください」
「か、かずみちゃん……」
かずみが魔女へと向かう前に、ハッピーに声をかけられる。しかし、かずみは振り返らず、言った。
「ごめんね、みゆきちゃん……」
「うっ……」
それは、何に対する謝罪だったのだろうか。
ミラーボールを壊すことには手を貸したがしかし、まだ状況を飲み込めなかった者が二人ばかしいた。ハルカの友達のアリサとマツリだ。
「ねぇ、あの魔女がハルカなんて、冗談でしょ!だって、あそこにいるのは私たちがいつも倒している……」
だが、アリサのその言葉をスズネが否定する。冷酷に、そしてハッキリと。
「だったら、そうね……あの魔女を殺せばいい。『いつものように』。けど、もし本当なら……あなたたちは自分の手で仲間を殺したことになる」
その彼女の、いっそ残酷だと言ってしまいたくなるような冷たい言葉に、アリサとマツリは固まってしまった。
「ホントに、ハルカが魔女に……」
「本当の事よ。残念ながら」
「え?」
そう言ったのは、海香だった。続けてカオルが言う。
「友達を殺す苦しみなんてあたしたちだけでいい。あんたたちはみゆきたちを頼む」
「行くよ、海香、カオル」
「えぇ」
「あぁ」
かずみ、海香、カオルそしてスズネの四人は魔女へ向かって跳んだ。すると、魔女はまたもミラーボール型の球体を出現させ、光線を発射させる。
「ッ!」
「海香!」
「えぇ」
それを見たカオルは、海香に言う。海香は、その言葉に呼応して本を見開くと、中から球体のエネルギー体が出現する。エネルギー体は跳ねるように勢いよく飛び出すと、空中に跳んだカオルがそれを腹でボールをトラップするように受け取る。そして、ボールは彼女の少し上で止まり、カオルはそれをオーバーヘッドキックするように蹴る。
「パラ・ディ・キャノーネ!!」
「炎舞……」
イタリア語で、日本語に翻訳するとキャノンボールという名前の付けられたカオルの必殺技が次々とミラーボールを破壊していく。それと同時にスズネもまたザ・ハウンド戦で出した技、炎舞で破壊していく。ミラーボールは次々とガラスの破片が散りばめられるように粉々となり、ついに最後のひとつも壊れてしまった。隙ができた、倒すなら今がチャンスである。かずみは武器の棒を構えるとその技を繰り出そうとする。
「リーミッ!」
しかし、彼女の振り上げたその手は降りることがなかった。回りにいる海香やカオル、スズネもまた同じく身動きがとれなくなる。
「これはッ!?」
「彼女のもともともっていた魔法……魅了の魔法ね」
「動けない……」
ハルカの魔法、スズネは以前それを受けたことがあった。それは、もう一人の彼女たちの仲間であったチサトを殺した後、それに激昂したアリサがスズネに襲い掛かって簡単にあしらい、その後マツリとハルカが現れて彼女を連れて逃げた時。あの時も、動きが封じられて逃げられてしまった。その時よりもまた強化されているかのように感じる。このままだと、彼女が新しく出したミラーボールから発射される光線によって自分たちは倒されてしまう。よく見ると、この技はあの魔女の目から出ているようだ。こういった場合は、大抵本体を攻撃すれば何とかなる。ならば、そう思いスズネは先ほど技として出した複数の炎の剣を動かす。どうやら、こちらにまであの魔法の効果は届いていないようだ。これならば行ける。
「……」
スズネが向けた炎の剣は、その方向を魔女に向ける。そして……。
「オオオオオオオオォォォォォ」
炎の剣、そしてそれと同時にエネルギー体が魔女の後ろから当たった。あれは、先ほどカオルがけり出したボールだ。どうやら、ミラーボールを破壊した時に使ったそれには回転がかけられており、それによって半円状の軌道を描いて魔女に当たったようだ。この想定外ともいえる攻撃によって魔女は苦しみ、彼女たちの動きを止めていた魔法は途切れ解放される。今なら、あの魔法をもう一度繰り出すということはないだろう。
「……今ね」
スズネは、魔女に向かって跳ぶ。魔女がその動きを察知することはできず、彼女は魔女の目を大剣で突き刺す。そして、かずみもまた同じく武器を構えなおす。
かずみは、後悔していた。彼女がみゆきから連絡を貰った時、本当は止めなければならなかったのだ。彼女には、こんな裏の世界ともいえる魔法少女の仕事を見てもらいたくなかった。魔法少女が魔女になって、そして仲間の目の前で殺される、そんな光景だけは見てもらいたくなかった。そして……。
「か、ずみちゃん……」
あんな、悲しい顔だけはしてもらいたくなかった。
「ごめんね、みゆきちゃん……それに……」
「……さよなら、奏……ハルカ」
スズネが魔力を込めた瞬間、剣が突き刺さった目の中から炎が湧きあがる。そして……。
「リーミティ・エステールニ!」
気絶する彼女が見たもの少女。それが、ハルカだったのかもしれない。
助けるって言ったのに
元に戻せるって言ったのに
なのに、どうして助けてくれなかったの?
ねぇ、教えて?どうして、私はこんなところにいるの?
暗い、寒い、凍えそう
痛い、痛い、痛い
でも、どれだけの苦痛がのしかかっても死ぬことはできない
だって
死んじゃってるんだもの
あなたが、
殺した
私が、殺した
この、人殺し
それなのに、どうして
貴方は笑っていられるの?
「ッ!!ハァ、ハァ、ハァ……ゆ、夢?」
みゆきは、布団から跳び起きる。ひどい悪夢を見た気がする。息も絶え絶えで、心臓がバクバクと音を立て、それに汗もびっしょりとかいて布団がぐっしょりと濡れている。それに、手も小刻みに震えて、まるでアルコール中毒の患者のよう。
夢、そうあれは全部夢。ひどい悪夢。そう思いたかった。
「目が覚めた?」
「えっ……」
その少女の顔を見るまでは。ベッドの横でイスに座っていた少女。それは、紛れもなく彼女の、あの魔女となってしまった少女の仲間だった女の子だ。
「自己紹介もまだだったよね。私は、日向マツリ……ハルカの、友達」
「ハ……ルカ……」
信じたくない。信じたくなかった。だが、その名前には聞き覚えがあった。あの、魔女に向かって彼女が叫んでいた名前。それが、ハルカだった。だったら、あの悪夢は。
「それじゃ、あの……夢は……」
「……」
彼女は、悲しげに首を振った。それを見て、彼女は知ってしまった。あれが、夢などという非現実的な物ではないということを。自分は、彼女の友達を助けられなかったということを。あの、悲しそうな顔をする少女を助けられなかったという事実を。
「ごめん……」
「……」
「ごめん……なさい、私、あなたの友達を……助けられなかった」
「……」
「助けられたはずだったのに、私……私……」
みゆきは毛布の端をギュッと掴むと、悔しそうに大粒の涙が、どこからかあふれ出てくる。いや、そうに、ではない。悔しいのだ。それは決して止まらないダムの放水のよう。たった一つしかない人の命。自分には助けることのできる力があったはずだった。思いあがっていたわけじゃない。高飛車になっていたわけじゃない。ただ、助けられるという実績が彼女を動かしていた。それなのに、自分はあの少女を助けることができなかった。その事実が、彼女を苦しめ、そして夢の中で言われた言葉が壊れたレコードのように繰り返される。
『どうして貴方は笑っていられるの?』
自分には、笑顔になる権利なんてない。失笑にすら値しない自分の考え、それがこのような結果を生み出してしまった。今まで経験したことのないほどの絶望、それは彼女の心の支えであった笑顔すらも破壊し、そして彼女の希望も砕け散ってしまった。
そんなみゆきを、マツリはそっと抱きしめる。そして思う。
彼女が笑顔になることは、もうない。
そしてみゆきも思う。
もう、笑顔を取り戻すことはできないと。