映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

64 / 82
外伝(みゆき編):ごめんねやっぱり私じゃダメだったみたい

 二人の男女は道の角をいくつも曲がって路地裏に消えていった二人の少女を探す。だが、その姿は忽然と消えてしまった。見失ってしまったらしい。仕方なく一人空から探すことになったが、もはや日も落ち始めており、段々暗闇が増し始めているため見えない。路地裏以外では段々と明かりが付き始めているためそんなことはないが、肝心の場所が見えないのであれば意味がない。今日は捜索をあきらめるか。いや、ようやく見つけた手がかりなのだ、次にいつチャンスが巡ってくるのか分からない。こうなったら、しらみつぶしにでも探すべきだ。そう思った矢先、彼女の目に明るい光が見えた。

 

「あれは……」

 

 間違いなくあれは路地裏。しかもかなり深い場所だ。そんなところから突然の発光なんて不自然である。もしかしたら何かがあるのかもしれない。そう思った女性は、すぐに飛んで向かった。地上にいる男性を置いて。

 

「おい、ナオミー!!どこに行くんだナオミー!?」

 

 女性はその叫び声を聞かなかった。それからすぐ後、彼女は目的の場所に降り立った。そこにいたのは二人の奇妙な服を着た少女達と一人の制服を着ている少女。それから、ぬいぐるみらしきもの。制服を着ている少女は、地面に座り込んで泣いているようだ。立っている二人は、髪形や服装が違う物の自分が探していた二人であることは間違いない。とにかく少女たちに話を聞かなければ。

 

「ちょっといいかしら?」

「え?」

「あの、貴方は……」

「私は、特務エスパー『ザ・ワイルドキャット』、梅枝ナオミよ」

「特務エスパー、それってこの前の……」

 

 この言葉、やはり彼女はなにか知っている可能性がある。ナオミは続ける。

 

「この辺りで発生している事件について、話を聞かせてもらえるかしら?」

「え?えっと……どうしようか、かずみちゃん」

「一応、話した方がいいんじゃ……」

「でも……」

 

 二人は、何か迷っているようだ。この反応からして、彼女たちは知っているどころかもしかしたら当事者、犯人を知っている可能性すらもある。それも彼女たちに近い人間なのだろう。赤の他人であれば何の躊躇もなく犯人に関する情報を提供してくれるはずだ。しかし、それがもし近しい人間であれば逮捕などしてもらいたくないだろうから話したくても話せない。だから、この事件の犯人は、多分彼女たちの友達なのだろうか。だが、もし本当にそうであれば少し厄介な問題が付与してくる可能性も……。

 

「やっと見つけた」

「!」

 

 その声は、ナオミの後ろから聞こえた。主任の谷崎だろうか。いや、彼はこんな高い声を発しない。ならば、誰だ。

 

「ここにいたのね」

「スズネちゃん……」

「スズネ?」

 

 二人の女の子の内一人がそう言った。みると、手には大きな剣を持っている。よっぽどでなければそんなもの日本で見ることはない。つまり、彼女がこの事件の犯人ということなのだろう。確かに、小鹿からは大きな剣を持った女の子とだけ聞いていたが、なんとも冷えた表情、身が凍えてしまうような表情をしているのだろうか。ただ目の前にいるだけでも背筋に冷たいものが走る。一体、どんな過酷な人生を送ってきたらこんな顔をすることができるのだろうか。彼女は今までたくさんの犯罪者に出会ってきた。中には、スズネのように子供の犯罪者にも出会ってきた。だが、ここまでの恐ろしい空気感を出していた人間がいただろうか。何人もの人間を殺してきたような冷たい目、彼女が殺ったのは間違いないはず。だが、それでもまだ信じられない心も彼女の中にはあった。ともかく、今は彼女を逮捕しなければならない。まだ奴がいないために本気を出すことはできないが、戦うしかない。一度、深呼吸をしてから言う。

 

「……特務エスパー『ザ・ワイルドキャット』梅枝ナオミです。この近辺で起きている連続殺人事件の重要参考人としてあなたに……」

「そう、あなたも特務エスパーなの。どうでもいいけど、先に仕事をやらせてもらうわ」

「ッ!」

 

 スズネは、ナオミの言葉を無視するが如くに剣を持ち直すと、ゆっくりと歩き出す。予想通りではあった物の、やはり彼女と戦わなければならないようだ。だが、弱っている自分が戦うことができるだろうか。下手をすれば戦闘ではなく、一方的な暴力となってしまいかねない。しかし、スズネがナオミに接近する前に後ろにいた二人の女の子がナオミの目の前に立った。

 

「待ってスズネちゃん!」

「貴方は……みゆき」

「よかった。私の名前覚えてくれてたんだ」

「私は昴かずみ、あなたと同じ魔法少女だよ」

「魔法少女?」

 

 そういえば、小鹿が言っていた。少女は自身の事を魔法少女と言っていたが、魔法少女とは到底思えない恰好だったと。確かに、自分からしてみれば彼女たちの恰好を、一人を除いて魔法少女としては見れない。だが、それでも彼女たちは自分たちの事を魔法少女という。果たしてどういうことなのだろうか。それに、同じ魔法少女と言っても仲間関係にはないようだ。色々と分からない事はあるが、ともかくナオミはその間に、すぐ後ろで座り込んでいる少女の下に行く。ひどく落ち込んでいる。泣いてもいるようだ。それに、これは血なのだろうか。

 

「そう、ならあなたも……」

「もしかして……スズネちゃんは知っているの?魔法少女の秘密……」

「貴方……知っているの?」

「やっぱり……」

 

 秘密とは何のことだろうか。少なくとも、それを魔法少女全員が知っていることではないということだけは分かる。ただ、その秘密がこの殺人事件のきっかけの可能性が上がってきた。

 

「……真実を知っている以上、今すぐにあなたを殺さなければならないわけじゃなくなったわ。そこをどいて」

「どかない!例え……私達魔法少女に最悪な未来が待っていたとしても……今ここで彼女を殺していいわけじゃないよ!!だって……」

「例えそうなったとしても……私が助ける。そうすれば、もう……あなたが誰かを殺す必要なんてないはずだよ」

「なら、世界中に存在するすべての魔法少女を助けられるというの?」

「それは……」

「確かに、貴方は周りにいる魔法少女を助けることはできるかもしれない。でも、それだけ。世界中に何万人といる魔法少女全員を助け出すことなんてできないわ」

 

 どういういことだ。魔法少女は世界中に不特定多数いるということなのだろうか。だが、その数を彼女達も把握できていない様子。それに救うとは、助けるとはどうして、どうやって。分からない。彼女たちの事も、あのスズネという少女の目的も分からない。スズネがみゆきと呼んだ少女、その手の中にある綺麗な宝石を見せて彼女は言う。

 

「それでも……目の前で苦しんでいる子の事を放っておくわけにはいかないよ……」

「そう、残念ね」

 

 スズネは剣を構える。それを見て、二人もまた戦闘態勢をとる。その間ずっと、ナオミの側にいる少女は身動き一つ取らなかった。だがなんだ、この嫌な予感は、寒気は、なにか嫌な気持ちが彼女からあふれているようだ。ここにいるのが、怖い。今すぐにでも逃げ出したいほどに、その気持ち悪さはあふれ出している。その時、遠くの方から声が聞こえる。

 

「いた!ハルカも無事みたい!!」

「待ちなさい!スズネ!!」

 

 その声と同じく、何人もの少女がその場に現れた。なんだこの人数は、何人いるのかは暗くてよく分からないが、しかし相当な数の少女たちがそこにはいた。

 

「ハッピー、無事か!?」

「うん、なんとか」

 

 どうやら、彼女達は二人の味方のようだ。これで、スズネは彼女達と板挟みにされてしまった。まさに万事休すであろう。しかし、戦闘態勢を解除する様子は見て取れなかった。

 

「……また、あなたたち……」

「天乃スズネ……」

 

 一番先頭にいるピンク色の髪の少女が、スズネの名前を言う。なんだか、こちらを向いているようだ。いや違う。彼女は、自分の隣で座り込んでいる少女の事を見ているのだ。

 

「悪いけど、アンタをぶっ潰す前に言わなきゃいけないコトがあんのよ」

 

 そして一瞬の間をとったあと言った。

 

「ハルカ……この前はなんていうか……自分でもどうしたらいいかわかんなくて……アタシ……八つ当たりしてた。ごめん……ハルカ」

 

 ハルカと呼ばれた少女は、その言葉を受けて立ち上がる。しかし、その身体に覇気など全くなく、体制はかなりふらついている。今すぐにでも倒れそうだ。

 

「だからまた一緒に……」

「ううん……悪いのは全部私の方よ……」

「ハルカ……?」

「あなた……大丈夫?」

 

 ハルカはナオミの心配する声を無視して立ち上がると、誰もいない虚空を見ながら言った。それは、まるで懺悔しているようだ。なにか、自分の罪を。

 

「自分勝手で……人の気持ちも考えないで……」

「まさか、まずい!そこの人逃げて!!」

「え?」

 

 二人組の黒髪の少女、かずみといったか。彼女が自分にそう声をかけた。だが、そんなことを言われても何故、それに一体何から逃げなければならないのかも分からない。そうして、立ち尽くしていたその時、突風、そしてガラスが割れる音が巻き起こった。

 

「……ごめんね、やっぱり私じゃダメだったみたい」

「……!」

「あっ!スズネちゃ……」

「待てっ……」

 

 かずみに連れられる自分が最初で最後に見た少女の顔。それは、血の涙を流している姿だった。スズネは、その様子をみて一目散にハルカに向かう。しかし、間に合うことはなく、あたりは大きな光に包まれた。その時だった。ようやく彼がその場に到着したのは。

 

「はぁはぁはぁ……な、ナオミ?」

 

 しかし、そこには誰もいなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。