映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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外伝(みゆき編):私はあまりにも……

 奏遥香の絶望

 

 

 私には、姉がいた。

 

『……よし!出来たわ!』

 

 それは、幼い頃の記憶。彼女は色鉛筆で絵を描いていた。家族の絵だ。自分と、父と、母と、そして今はいない姉を描いた絵。

 

『今までで一番よく描けたかも!パパたちにも見せてこよう!』

 

 幼き遥香は、自分の描いた絵を自信をもって家族に見せに行った。そして、彼女がドアの隙間から見たのは、自分以外の家族の姿。

 

『イヤー流石だなカナタは!』

 

 父が褒めているのは、姉のカナタである。

 

『前のコンクール、また金賞だそうだ。今度のイベントでは一枚描かないかってオファーも来ているよ』

 

 親としても、完璧すぎるぐらい優秀なカナタの存在は、誇らしかったのだろう。だが、ハルカにとっては、それに対して劣等感を抱いていた。

 

『……そうだった。誰も私に期待なんかしてないんだ』

 

 ハルカは、自分の部屋に帰ると、手に持った家族の絵をクシャクシャに丸めて捨ててしまった。そして、ハルカは一人外の公園へと出た。ひとつのブランコが眼に入ったハルカは、それに乗ると、力なく漕ぎ出した。少々不快な金属音を出しながら、ブランコは前後に振れる。

 

『いつもそう……私がどんなに頑張ってもあの人は軽々とそれを飛び越えて行ってしまう』

 

 それは、至極当然なことなのだ。そもそも、同じ家に生まれたとはいっても、生きてきた時間が違う。当時ハルカは小学校低学年、カナタは中高生ぐらいだったはずだ。しいて言えば、もっと歳が近かったらよかったのだろうか。そうすれば、彼女も、いやそうだったら彼女は、姉と同じくらい活躍して、こんな劣等感などという物を抱くことはなかっただろう。

 

『ハルカ』

『え……』

 

 そう、彼女に声をかけたのは、優しく声をかけたのは、姉のカナタだ。

 

『やっぱりここにいたのね』

 

 彼女は、優しい笑顔をハルカに向けた。だが、ハルカにとってはその笑顔すらも疎ましく思ってしまう。

 

『もう晩御飯の時間よ。お父様もお母さまも心配してるわ、帰りましょう』

 

 そう言われて空を見る。いつの間にか空は赤みがかかり、夕日がきれいに見える夕方になっていた。一体、どれくらいの時間ここにいたのだろうか。だがハルカは、カナタのその心配する言葉に対してこう言った。

 

『……嘘よ』

『もうどうしたの?今日はそんなにご機嫌ナナメで……あ、そーだ。何か悩みでもあるんでしょ?何でも相談に乗るからお姉ちゃんに行ってごらん?』

『……ッ!』

 

 言えるはずがない。悩みの正体が、劣等感の元が、その姉なのだから。この最悪な精神状態の彼女にとって、その言葉は、慈しみというよりも哀れみ、そして自分を見下げているのであることと同様であると思ってしまった。

 

『……お姉ちゃんに……お姉ちゃんに私の気持ちが分かるわけない!!お姉ちゃんなんか……大っ嫌い!!』

 

 その言葉にも、彼女は優しい笑顔をしていた。

 

 

 そんな時に、彼女はあいつに出会ってしまったのだ。

 

 

 

 

 みゆき、かずみそしてキャンディの三人は路地裏を進んで魔女の居場所を探していた。本当なら、こんな暗い場所ではなく外の大通りから行った方がいいのだが、真夜中ならまだしも、まだ日の明るいうちからソウルジェムを手の平に乗せて魔女を探すなどという謎の行為をするわけにはいかないので、取りあえず人の目に見えない場所から探した方が目立たなくていいのだとかずみが言ったので、みゆきもそれについて行っていた。そして、ついにその場所を発見する。

 

「ここ!ここに結界がある!」

「この中に魔法少女の子がいるクル?」

「それは、まだ……でも、いずれにしても放っておくわけにはいかない」

「うん、行こう!」

 

 そう言うと、三人は結界の中に飛び込んでいった。その様子を角から見ていた二人は、突如消えた二人の姿を追った者の、もちろんその姿を見つけることはできなかった。

 

 

 

 ほんの、本当にほんの出来心だった。

 

『願い事?』

『あぁ』

 

 自分の前に突然現れた白い生き物、そいつはこう言ったのだ。

 

『君の望むこと、一つだけ叶えてあげるよ』

『なんでも?』

 

 願い事を一つだけ叶えてくれるなんて、そんなファンタジーなことできるはずがない。彼女は非常に現実的だった。でも、それなら少しくらい不満をぶつけたっていいだろう。今にして思えば両親も姉も皆、私の事を愛してくれていたのだと思う。けれど、それを理解するには……。

 

『私は……』

 

 私は、あまりにも……。

 

『……おねえちゃんを』

 

 子供だった……。

 

『消してほしい!』

 

 

  契  約  は  成  立  だ

 

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

 蝙蝠にシルクハットを合わせたような有象無象の使い魔相手に劣るかずみではなかった。

 

「ハァ!!」

「す、すごい……」

「これが、かずみの力……クル」

 

 かずみの杖さばきは相当なもので、使い魔を殴り、叩きつけ、突き刺し、その圧倒的な力をハッピーとキャンディに見せつけていた。因みに、みゆきは変身していたものの、かずみからは待機してくれと言われた。理由としては、ハッピーも戦いに参加したら、キャンディを守る者がいないため。これが、最深部であればキャンディの周りに結界を張って守ることができるのだが、それまでの通路でそれをちょくちょく使うのは魔力を無駄に放出してしまうため効率が悪い。そのため、ハッピーにキャンディの事を任せて、最深部までは魔女退治の専門家であるかずみが道を切り開く役目を務めることとなった。

 

「よし、この辺の使い魔は倒せた……次に進もう!」

「うん!」

「クル!」

 

 彼女たちは進む、そして数分ぐらい走った結果、ある場所へとたどり着いた。

 

「ッ!」

「さっきまでと様子が違うクル!」

 

 キャンディの言う通り、先ほどまでの細い道とは違い、まるで部屋のように広いその場所。デザインはチェック模様、カラフルなサーカスのようなものであるが、劇場の舞台のような物の上に複数の目が付いた箱が置いてある。そんなもの、今までの道ではなかったことだ。一体、あれは何なのだろうか。

 

「かずみちゃん……」

「うん、ここが最深部……そして、たぶんあの箱が魔女」

「キャンディはここにいてね」

「クル。二人とも気を付けるクル!」

 

 ハッピーがキャンディを下に降ろすと、かずみはすぐさまキャンディの周りに結界を張った。それにしても、あの箱についている目は、なんだか嫌な感じがする。まるで、自分の内面まで見透かされているような、そんな気がしたその時だった。

 

「ッ!」

「なに!?」

 

 箱の中から黒い球体に目が何個も付いている物体が幾重にも連なっている物が、まるでびっくり箱のように出現した。そして、その先端から、何かが吐き出された。人だ。

 

「かはっ」

「あの子、魔法少女だ!」

「大丈夫ですか!?」

 

 かずみ、ハッピーの二人はその子の元へとすぐさま向かう。しかし、触る前に少女はヨロヨロと立ち上がった。そして、不敵な笑みを浮かべて悲しげに言う。

 

「……なんだ……やっぱり……」

 

 どれだけ完璧に繕っても、一度開いてしまった穴はいづれまた破れる。

 

「……私だって……同じじゃない……!!」

「え……?」

 

 そして、少女は泣きだした。それは、少女が友達にもあまり見せない表情。完璧という鎖に体を縛られた、一人の儚い少女の心の裏の面であった。

 

「どうしたの?」

「ハッピー!来る!!」

「えっ……」

 

 魔女は彼女たちに襲い掛かる。ハッピーが、少女に話しかける時間など、存在しなかった。

 

 

「やぁっ!!」

「もらったァ!」

「ハァァァァ!!!」

 

 スズネは、三人それぞれの攻撃を上手に捌き、そして反撃の機会を探っていた。三対一という状況ながらうまく立ち回る物である。とは思うが、それにもちゃんとした理由があった。彼女たち三人の内、アリサが大鎌を使用しての攻撃が可能だ。だが、彼女以外の二人、マツリはサポート系魔法に特化しているので、あまり攻撃は得意とは言えない。そして、海香もまた本を使用しての解析魔法が得意というサポート系。一応、表紙と裏表紙の部分を刃に変えて、杖上の取っ手で繋いで槍のようにしての武器を使用することもあるのだが、あくまで解析魔法に特化しているのかあまり攻撃力がないと見える。つまり、この中で確実な決定打を当てることができるのは実質アリサだけであると言える。

 

「ッ!」

「きゃぁッ!?」

 

 スズネは、三人に囲まれた瞬間、爆炎を作り出し、三人はそれぞれに後ろへと下がる。

 

「くっ!」

「強い……なるほど、魔法少女同士の戦いには慣れているという感じね」

 

 海香は、そう感想を述べる。彼女自身、他の仲間達と一緒にスズネと似たようなことをしていた経験があったため、魔法少女戦は慣れていた。だが、彼女たちの場合は大抵同じ魔法少女に襲われるという恐怖によって動けなくなっていたし、ソウルジェムを奪うというだけでよかった。それに比べて、スズネは魔法少女の命そのものを奪おうとする。その二つは、似て非なる物。戦い方もまた同じく。海香は思う。まだ出会って間もない二人との連携にも限界があるということを。となれば、自分のやることは一つ。次に戦うときのことを考えて、彼女の能力を解析する事だ。そのために、彼女は左右にいる二人に声をかける。

 

「二人とも、彼女の足を止めてくるかしら?」

「何か秘策でもあるの?」

「今日勝てるかは確約することはできないけれど、ね」

「……足止め、すればいいんだね」

「アリサ!もしかして……」

 

 マツリは、アリサが何をするか考えつき、慌ててそれを止めようとする。しかし、アリサは言う。

 

「どうせやらなきゃやられんのよ!!なら、やってやるわ!」

「ッ!魔力が上がった……」

「ブーストォ!!」

 

 瞬間、アリサの周辺の空気が一変するように揺らいだ。アリサの髪が舞い上がり、ピリピリとした気力が肌に当たって痛い。

 

「行くわよ!!」

 

 瞬間、アリサは飛び出し、武器の大鎌を振るう。その攻撃をスズネは先ほど同じように受け流していくが、しかしその攻撃が先ほどよりも早く強くなっているということを感じた。

 

「はぁぁぁぁ!!」

(身体能力を飛躍的に向上させる……強化魔法ね)

 

 スズネは考える。恐らく、彼女はQBに自分の身体を強化する系統の願い事をしたのだろう。それが、こうして自分の身体を強化する能力を付与させたのだろう。しかし、先ほどのマツリの反応からしてこの魔法の身体への負担はかなりの物があるはず。ならば、時間をかければいいだけ。だが、スズネ自身は、身体能力強化についてはあまり得意ではなかったために、次第にその攻撃を受け流し切れずになる。そして、重い一撃が体を守るように横にしていた剣に当たった。

 

「!」

 

 瞬間、スズネの身体がグラついてしまう。足止めとまではいかないものの、スキができたのは確かだ。

 

「今よ!!」

 

 その言葉を聞いてか聞かずか、海香は本を広げてスズネに向ける。そして言う。

 

「イクス・フィーレ!」

 

 瞬間、本が光りを放ち始め、真っ白なページに文字が刻まれていく。『おうか』『かげろう』『えんぶ』この調子だ。あと少しで、彼女の能力を完璧に映すことができる。だが、無論のことそれをさせてくれるスズネではなかった。

 

「っ!」

 

 スズネは剣の形をした炎を出現させ、それが海香を襲う。海香は瞬時に本を閉じて、それを避ける。そして次の瞬間、マツリがスズネの死角であるはずの後ろから彼女を攻撃しようとする。だが、その攻撃が彼女に当たることはなかった。

 

「……残念だけどそろそろ時間切れよ……『陽炎』」

 

 瞬間、スズネの身体は揺らめき、そして消える。

 

「なっ……」

「き……消えちゃった……!?」

「あれは、彼女が使用する魔法、陽炎よ」

「え?」

 

 その魔法の正体をしゃべったのは海香だった。先ほどの解析魔法は、途中で止められてしまったが、取りあえず何とか入手できた情報はいくつもあった。

 

「彼女は、自分が倒した魔女の能力を一つだけ手に入れることができる魔法を持っているわ」

「それじゃ、あの魔法も……」

「えぇ……でも……」

「でも、なに?」

「……いえ、私からは何も言えないわ」

 

 海香は思う。確かにスズネの魔法は、倒した魔女から能力を奪うこと。ではあるが、その実は、もっと根本的な所から魔法を盗んでいるのだ。そう、その魔女が魔法少女であった時の魔法、それを盗む。いや、受け継ぐと言った方がいいかもしれないが、それが彼女の魔法なのだ。だが、それを二人に話していい物だろうか。もしも、彼女たちが魔法少女の真実を知らなかったら、そして真実を知って絶望してしまうとしたら……。いづれ、知らなければならないことかもしれないが、今は時期尚早なのではないかと彼女は思う。

 

「どっちにしろ見えないんじゃ追いかけようがないわ。アンタ、何かあいつを探す方法はないの!?」

「残念だけどね、ただ私の仲間が彼女を探して……」

「海香!」

「っと、その仲間が来たわ」

 

 そこに、魔法少女の姿となったカオル、そしてあかね、やよい、なお、れいかの四人も合流する。

 

「スズネは?」

「ごめん、取り逃がした……かずみと連絡は?」

「すみません、何度コールしてもつながらなくて……」

「てことは、魔女の結界の中……か」

「……あ!そうだ!」

「え?」

 

 その時、考え事をしていたマツリが一つ思いつく。

 

「もしかしたら、マツリの力でスズネちゃんの気配を感じ取れるかも……」

「本当?」

「うん……でも、キュウちゃんでも気づかないって言ってたから無理かもしれないけど……」

「……いいわやって」

「そうね、このまま手をこまねいているよりもマシよ!」

「うん……やってみる」

 

 そして、マツリは目を閉じて魔法を使用する。その瞬間、マツリの頭の耳飾りから簡素な魔法陣のようなものが出現する。そして、マツリはスズネの魔力の残存を追っていく。

 

「どう?」

「ちょっと待ってて……もう少し……」

 

 あと、もう少し。彼女が掴めるところまできた。その時、暗闇の中に光りを見つけた。あの時のように、光が彼女の眼の中に入ってきた気がした。

 

「見つけた!」

「本当!?」

「うん、あっちの方……」

「そっちからは魔女の結界の反応もあるわね」

 

 海香が、ソウルジェムを出現させてそう言った。確かに、ソウルジェムは淡い光を放って反応しているようだ。その時、なおがあることに気が付く。

 

「ちょっと待って、かずみは魔女の結界の中にいるかもしれないだよね?」

「ってとは……みゆきとキャンディも魔女の結界の中にいるかもしれん、っちゅうことやな」

「それじゃ、もしかして……」

「えぇ、その可能性が高そうです」

「なに?どうしたの?」

「いえ、私たちの仲間がそちらにいるかもしれないと……」

「仲間って、まだいるの!?」

 

 マツリはその発言に驚く。今のところここにいるだけでも六人。自分たちは四人だったため、それよりもまだ多い人数がいるということだ。そして、アリサは不思議に思っていた事を聞くことにした。

 

「というか、あんた達二人は、さっき戦ってなかったけど……本当に魔法少女?」

 

 それは、やよい、そしてれいかに向かっての言葉だった。それに対してなお、あかねも含めて顔を見合わせ、そして同時に頷くと代表してなのか、れいかが言った。

 

「私達四人は、魔法少女ではありません」

「はっ?それじゃ、なんなの?」

「いずれ話します。今は、スズネさんを追うのが先決です」

「そうね……アリサ、マツリ、時間がないから手短に話すけれど、この子たちは魔法少女じゃないわ。けど、十分戦力になりうる存在よ。じゃあ、行きましょう」

「え?……うん」

 

 なんだか、かなり足早に話が終わってしまったことに納得がいかないアリサではあった物のしかし、海香の言うことはもっともであるため、取りあえずこの話は置いておくことにし、スズネのもとへ、ひいてはおそらくそこにいるであろう自分たちのもう一人の仲間、ハルカの元へと向かうことになった。


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