映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
『さすが、先輩!尊敬しちゃいます!』
ちがう
『成績も優秀で、誰からも尊敬のまなざしを送られて』
私は、そんなすごい人間じゃない
『どうしたら、先輩みたいになれますか?』
必死に装っていただけ
『何か、悩みでもあるんでしょ?なんでも相談に乗るから』
完璧なんかじゃない
『あなたにだって一度くらいはあるんじゃない?誰かを殺したいほど憎んだこと』
本当の私は……。
スマプリ組は、かずみとその友達二名と合流した後、三組に分かれて行動することになった。その内、みゆきはキャンディとかずみと共に、取りあえず一番近くにある中学校の登下校に使われているであろう道を捜索することとなった。みゆきから見た感じからして、少女は自分たちと同じ中学生であると考えた。そして、この時間帯ならば、おそらく少女も下校しているかもしくは家に帰って魔女を探しに行くかの間くらいだ。そのため、こうして登下校のコースを散策しているのだが、スズネは一向に見つる気配すらなかった。
「見つからないね、スズネちゃん……」
「もう家に帰ったかもしれないクル」
「その可能性もあるけれど、もしかしたらどこかの魔女の結界に入っているのかも……ちょっと探してみるね」
かずみたちは、人ごみを避けるように裏路地のほうへと入ると、ソウルジェムを取り出す。すると、すぐさまそれは反応した。
「光った!」
「それじゃ、この近くに魔女がいるクル?」
「うん、たぶんそうだよ、すぐ近く……こっち!」
かずみは、ソウルジェムが反応した方向へと走り出す。みゆきとみゆきに抱かれてぬいぐるみのふりをしているキャンディもまたそれについていった。周りの人達はそれが路地裏で行われていたために暗がりであったことも幸いして、その行動にすら気が付かないものがほとんどであった。
「あら?」
そう、全員ではなかったのだ。
「どうした、ナオミ?」
「いえ、今路地裏に入って行った子たち……」
「ん?そういえば、二人ほどいたような……」
谷崎は、ナオミの言葉を受けて、うっすらとしか残っていなかった記憶をひねり出した。二人は、特務機関B.A.B.E.Lに所属している特務エスパーとその主任の関係性にある。ナオミは現在大学生で、今日も大学の講義終わりにこのホオヅキにやってきたのだが、少し機嫌が悪かった。というのも、本来なら今日は来年後輩になるであろう友達と一緒に病院へ見舞いにいく約束をしていたからだ。だが、それは自分の関係者ではなく、友達の仲の良い同級生だ。心臓が弱く、おいそれと簡単には外に出ることのできない少女。それがつい先日ようやく手術を受けることができたと、友達は喜んでいた。そして、ようやく今日面会が許されるようになって、自分も今日見舞いに行こうとしたのだが残念ながらそれは叶わなかった。
今回、三日ほど前に負傷した特務エスパーの代わりにこの街に来たのだが、手掛かりは二枚のモンタージュ写真しかなかったため操作は難航していた。そんな時、路地裏に入って行く不審な二人組を発見したのだ。
「暗くてよく見えなかったけれど、その内の一人が、あのモンタージュ写真の女の子に似ていたんです」
「なに!?それじゃ……」
「事件に関係している可能性も……」
なお、モンタージュ写真というのは、この世界においては過去の産物とされている。そもそも接触官能能力者という能力を持っている者がいるのだから、そんなものを書かずに、被害者のイメージの中にある姿を印刷というか、映し出せばいいだけなのだから。しかし、何故かザ・ハウンドのメンバーのイメージはぼやけてしまっており、事件に深くかかわっていたと思われる二人の少女の顔は判別することができなかった。そのため、唯一意識のあった小鹿の証言を元にモンタージュ写真を作ったのだ。その内の一枚の絵、それと先ほどみた少女の顔が暗くてよく見えなかったものの似ていた気がしたのだ。ナオミと谷崎は、路地裏に消えた二人を追うことにした。
所変わって、また別の場所を探っていたあかね、なお、そしてかずみの友達である牧カオルは、捜索の途中で特になおとカオルの二人がかなり仲良くなっていた。
「へぇ~それじゃカオルはサッカーしていたんだ……」
「そう、でも魔法少女になってからは、ボールにもほとんど触っていないけれどね」
牧カオルは、サッカーが上手であり、そのサッカーセンスはトレセンに選抜されるほどであったのだ。トレセンとは、トレーニングセンターの略で、日本サッカーの強化・発展、優秀な選手の発掘や育成、選手指導者のレベルアップ等々を目的とするもので、女子はU-12、U-15、U-18という世代ごとに分けられている。
その選考基準は一般には公開されておらず選考方法や基準などが地域や年度、時期によっても違うのであるが、少なくとも彼女がかなり上手な選手であるというのは確かである。だが、それも昔の話だ。彼女は、ある練習試合に置いて、相手チームの部員の足が彼女の足を削り、それが原因で脚の骨を折り、選手生命を絶たれてしまった。それが原因で、相手の少女はいじめに遭い、自殺未遂、意識不明の重体になってしまった。それをふとしたことで耳にしたカオルは心が病み、魔女の口付けによって後にプレイアデス聖団となる者たちとともに自殺を選ぼうとした。それを助けたのが和沙ミチルであり、その後「自分がケガをした試合で傷ついた全てのヒトを救うこと」を願い、魔法少女となった。
なお、その後かずみに自分の願いを話した時は自分の願いは、「一生サッカーができる丈夫な身体」であると嘘をついた。このことについて、なぜそのような嘘をついたのかは不明だが、かずみは彼女が嘘をつきたかった気持ちを察しているそうだ。だが、一つ確実なことはある。彼女の願いで、彼女の足は完全に回復したわけではない。
「ケガ……か、今でもリハビリを?」
「うん、といっても魔女倒すこと自体がリハビリみたいなものだし、ほとんど治っているのと同じだけれど」
「そっか……」
因みに、なおもまたサッカー部に所属しているスポーツマンである。その腕前、いや脚前だろうか、ともかくうまいと言えるものであるのかは不明ではあるが、プリキュア陣営の中でも五本の指に入るほどの運動神経の良さであることは確かだ。
「でも、もしサッカーができるようになっても、サッカー部に戻るかどうかは分かんないけどね」
「え?」
「……」
「私たちは、ミチルを失って、これ以上の悲劇を生まないために魔法少女の皆からソウルジェムを身体から離して、その動きを停止させた」
「それが、かずみの言っていた罪かい?」
「いや……うんそう、その一つだね」
カオルは、それに対して曖昧にするだけだった。
「その中に……トレセンで一緒にサッカーしていた子もいて……たぶんあの子は、サッカー続けてたんだろうな……」
「……それで、その子たちのソウルジェムは?」
「色々あって……壊れて皆、死んじゃった……」
「……」
その経緯についてはやや長くなるために割愛してしまうが、ある事件のために彼女が保管していたソウルジェムは全てグリーフシードへと変換されてしまい、結果何十人もの命が散ってしまった。それについて最後に手を下したのは別の仲間の魔法少女であったが、自分たちがソウルジェムを集めたことによって、その子たちの命の期限を減らしてしまったと彼女は考えている。無論、その時に彼女の言うトレセンでの仲間の魔法少女も死んでしまった。
「その子からサッカーと、人生奪っといて……私が復帰するわけにはいかないよ」
「……アホらし」
「え?」
「自分かずみに何言うた?『サッカーできる丈夫な身体』って嘘ついたって言っとったよな」
「言ったけど……」
「うちには、まだサッカーに未練があるんやって聞こえたんやけど?」
「それは……」
「それは、なんや?」
これは、一人の勝手な妄想である。何故、彼女がかずみにサッカーができる身体などという嘘をついてしまったのか。それは、ただ彼女は希望を話したかったのではないだろうか。確かに願いを叶えたのはQBかもしれない。だが、彼女に希望を残したのは、生きるという希望を残したのはかずみに思いを託したミチルだ。それは、決意表明だったのかもしれない。かずみに、ミチルとしての記憶を持っていなかったかずみへの、自分がサッカーをしている姿を見せるという訪れるかもしれないそれへの決意表明だったのかもしれない。
「その子の事よりも、前の事だから……」
「関係あらへんことないはずや、それに自分は、かずみだけやのうて、もう一人サッカーをしている姿見せなあかん人がいるはずやろ?」
「え?」
「ほら、カオルをケガさせちゃった子さ」
「そっか……そうだね、今もサッカーやってるか分からないけれど、あの子のためにも頑張んないといけない……か。それに……」
「それに?」
「いや、なんでもない」
「?」
カオルは思ってしまう。もしも、あの子が自分をケガさせてなかったら自分は今でもサッカーをしていたのは確実だ。でも、彼女のおかげで自分は大切な友達と出会うことができた。この時点でプラスマイナスゼロかもしれない。では、ここからプラスにするには?決まってる。あのピッチにもう一度立つことだ。少しだけでもいい。アディショナルタイムのだけでもいい。走って、攻めて、守って、そしてゴールを決めて。自分はまたサッカーを始めたということをあの子に伝えたい。そして、お礼を言いたい。貴方のおかげで自分は、一生の親友に出会うことができたと。
「なおも、サッカーしてるんだよね。だったらさ、また今度リハビリに付き合ってくれない?」
「あぁ、プリキュアの中にも運動神経のいい子や、フットサルをしている子もいるから、きっとみんな手伝ってくれるさ」
「そっか……」
「ほんなら、この話はとりあえず終わりや、捜索に戻ろ」
そうあかねは手を叩いて言う。そうだった、そういえば今回はスズネという女の子を探しに来たのだった。
「うん、スズネって子はどうやらこの辺にはいないみたいだね」
「てか、情報が銀髪の中学生なんてもんぐらいしかないからな」
「確かに……で、どうする?」
「う~ん……」
ここで早くも詰んでしまった感がある。そもそも、人探しと言っても情報が少ない。せめてどこの中学校に通っているのかぐらいわかればいいのだが、みゆきの見たのは魔法少女としての姿のみのためそれも無理だった。ここは、他の場所で捜索しているれいかたちのグループに合流して作戦を立て直さなければならないかもしれない。その時、あかねの電話が鳴った。
「ん?」
携帯を取り出し、あかえは発信元をみた。どうやら青木れいかからかかってきた物のようだった。あかねは、通話ボタンを押してその電話に出る。
「もしもし、どないしたん?」
『あかねさん、こちられいかです』
「いや、わかっとるわ、で見つかったんか?」
あかねは、社交辞令ばりに緩くツッコミを入れた。
『はい、ですが少々ややこしいことになっています。すぐにこちらに向かってもらえませんか?』
「ややこしい?」
ややこしいとは何のことだろうか。ここでれいかたちの状況を整理するために場面を転換する。