映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
『次は、風見野~風見野~。忘れ物のないよう……』
この車掌の声を聴くのは何度目だろう。学校帰りに電車に飛び乗った彼女たちは、似たような言葉をこれで十回は聞いている気がする。
ゆりと別れた後、みゆきたちは多くの新聞を広げて、事件欄から該当する事件を探した。そしてある記事を見つけた。ホオズキ市を中心に連続して発生している『女子中学生連続殺人事件』だ。記事によると、全員刃物による斬り傷によって殺害されていて、十代の女の子が四人、犠牲になっているらしい。みゆきたちがこれだと思った理由は二つある。
まず一つ目に、刃物による斬り傷が死因というところ。みゆきが遭遇したすずねは、確かに剣を所持していた。みゆきの首筋にその刃を立てて、少し引いてしまえばその命を奪う準備をしていたことから、その剣が凶器であるというのは間違いないだろう。
二つ目に十代の女の子、というところだ。かずみによると、魔法少女の契約は第二次性徴期の女の子までらしい。第二次性徴期というのは、一般的に言われる思春期の事で、一番の変化として、生殖能力を持ち、子供から大人へと心も体も共に変わっていく大切な時期であり、デリケートな時期の事だ。これについては、みゆきたちが会ったこともないQBの目的が魔法少女が絶望して魔女になる時のエネルギーを集める事というから考えて、そういう情緒不安定になりやすい思春期の女性が一番適切だと考えたのだろうと言っていた。スズネの目的が魔法少女を殺すことというのなら、十代の女の子が狙われるのは至極当たり前のことだろう。
だが、実はその新聞には不可解なことが書かれていた。今夜、一日経っているので昨夜、四人目に襲われた『詩音千里』という少女の通夜が、行われたのだとか。みゆきが襲われたその日に殺された女の子の通夜が、次の日の夜に行われるなんて変だ。殺人事件なのだから、警察の方で検死を行うため、数日は時間がかかるはず。そう思って記事をよく見ると、彼女が殺されたのは先週の金曜日のことだった。今日が火曜日だから、今から四日前のこととなる。みゆきが襲われたのは日曜日の夜だ。どういうことだろうか。と悩んだが、そのまま悩み続けてもしょうがないと、スマイルプリキュアメンバーとキャンディは、電車に飛び乗って、ホオズキ市へと向かったのだ。
「この風見野の次の駅が、ホオズキだね」
「せやな……みゆき、かずみには連絡ついたんか?」
「うん、いまホオズキ駅に着いたって」
「なら、そこであの子と合流ですね」
今日ホオズキ市に向かうこととなって色々と調べた結果、かずみの住むあすなろ市といま彼女たちが向かっているホオズキ市が近い場所にあるということが分かった。そのため、ホオズキに向かうことを一応かずみにも連絡した。そうすると、かずみも一緒に来てくれるということになった。そして、みゆきは言う。
「うん、それにかずみちゃんの友達二人も一緒に来てくれるって」
「二人?その子らも魔法少女なんか?」
「うん、そうだって」
かずみの友達二人。かずみと同じく魔法少女仲間である子も付いてきてくれるそうだ。よく考えてみると、自分たちは魔法少女の事をあまり知らず、どこを探せばいいのか分からない。そのためかずみのような魔法少女の案内人が付いてきてくれることはすごく助かることである。
だが、とみゆきは思う。もしすずねに会えたとしてその後どう説得しようか。命を奪われるようなことはたぶんないだろうが、しかし油断することはできない。戦いに行くわけではないが、もしかすると戦わざる負えない場合もあるかもしれない。もしそうなった場合はどうしようか。数で言うなら、こちらが圧倒的に優位に見える。だが、もしすずね単独ではなく、他にも仲間がいたら、もしもその仲間がすずねと同等かそれ以上の力を有していたら。
いや、戦うことばかりを考えてはだめだ。自分たちは説得しに行くのだから。もう誰かを殺さないようにと説得し、そして友達になれたら、それでいい。それだけでいい。厳しいことかもしれないが、しかし彼女は不可能という言葉を記す辞書をあいにく持ち合わせていなかった。
『次は~ホオズキ~ホオズキ~お忘れ物のないよう……』
そんなことを考えているうちについにみゆきたちはホオズキ市へと到着した。これからどんなことが起こるか分からないがしかし、みゆきは誰よりも早く座席を立つと、忘れ物がないのを確認して、すぐさまドアの前へと立つ。それは、みゆきのはやる気持ちを表していたのかもしれない。ほかの四人と一体もまた、みゆきの後に続いてドアの前に立つ。そして、ゆっくりと電車は止まり、空気が抜けるような音と共に、そのドアは開かれた。
今から四日前のすずねとの戦い。その戦いで傷を負ったのは、なにもみゆきだけではな
かった。物理的な意味でである。
「う、うぅ……」
一人の瞼がおもむろに動き、そしてその目が開いた。
「こ、ここは……?」
自分は、確かホオズキ市に連続殺人事件の調査という名目で明や小鹿と共に行ったはず。そこで、死体を見つけて、血の乾き具合から、まだ近くにいるんじゃないかってことになって、それで……。そう、襲われていた。女の子を助けるために飛び込んで、それで、戦って……。
「そっか、初音……負けたんだ」
一瞬の隙をつかれて攻撃を受けて、自分は負けてしまった。そこまではようやく思い出すことができた初音は、上半身だけ起き上がると、周囲を見る。そこにあったのはプライバシーに配慮するために付けられているカーテンだ。どうやらここはB.A.B.E.L.に設置されている個室のようだ。
この場所はB.A.B.E.L.内にある医療機関と同等の施設と機器を設置しており、通常この部屋では、超能力を使用した後の精密検査を行ったり、任務でケガした場合の治療のために使われる。
「明……小鹿は?」
二人はどうしただろうか。恐る恐る初音は地に足を付けてみる。
「痛ッ……」
痛い、少し筋肉が弱っているだろうか。自分は何日くらい寝ていたのだろう。一日?二日?だがちゃんと立つことができるということは、そんなに長くはないはずだ。初音が地面に立った瞬間、扉が開かれた。
「初音ちゃん!」
「小鹿……」
扉から現れたのは自分たちザ・ハウンドの担当指揮官である小鹿一曹だ。小鹿は、手に果物や花を入れたカゴを持っている。どうやら、自分たちのお見舞いに来たようだ。
とりあえず、いったんベッドに戻り、小鹿の持ってきた果物を皮ごと食べる。初音はかなりの大ぐらいであり、そのため空腹は死活問題なのだ。この四日間眠り続けていた初音には、果物ぐらいで腹が膨れるということはないものの、れんぞくして 空腹が続いた後であまり固形物を腹に入れるべきではないと小鹿に説得されて果物だけで我慢した。
ここで、果物を頬張る手を止めて初音が聞く。
「小鹿、明は?」
「明君はまだ……体を強く打ったみたいで……」
「そう……」
初音にとって明はチームメイトであり、家がらみでの付き合いが長い。そのため……。
「あの女、絶対に許さない!」
彼が傷つくと、かなりの確率で激昂してしまうのだ。
と、その時扉が開き一人の男性が言う。
「そうやっていきり立つのはいいが、今はゆっくり休んどけ」
「賢木……」
現れたのは賢木だ。彼は、特務エスパーであるのと同時に、バベルの医療研究科の医師でもある。
「取り合えず精密検査では異常は見つからなかった。もちろん明にもな」
「そう……」
「でも、まだ戦うのは無理だ。もう少し体を休めておいた方がいい」
「……分かった」
因みに、賢木の能力接触官能能力は検査等にも使える。普段は主にあるチームの体調管理やサポートをしているのだが、ヒマな時にはこうして別チームの診断もしているのだ。ただ、高レベルのエスパーの診断では自身の能力が相手のエスパー能力によって少しだけ弱まってしまうことがあって正しい診断ができない。そのため、普通の病院での検査のように大掛かりな装置を使って検査するのだ。
「小鹿、任務は?」
「あぁ、あっちは別のチームに引き継いだわ」
「別のチーム?チルドレンか?」
「いや、あいつらは別の任務に就いてもらっているから、今頃はナオミちゃんがホオズキに行ってるはずだ」
「ナオミ……」
初音は考える。彼女で大丈夫だろうかと。ナオミと言うのは、超度6の念動能力者だ。超度は7までしかないので上から二つ目ぐらいの強さを持っているということになる。それほどの強者であれば、普通ならば安心できるだろう。だが、相手は普通ではない。少なくとも、自分はそう感じた。ここでふと、小鹿が思い出したように賢木に聞く。
「そういえば、賢木さん。ここ数日いなかったみたいですけれど、どこに行っていたんですか?」
「ん?あぁ、ちょっくら任務で見滝原のほうにな」
「見滝原……ホオズキの隣町ですね」
「あぁ……だが、今回の事件とは関係はないはずだ、が……」
「が?」
「いや、何でもない……」
「?」
賢木には一つ気になることがあった。小鹿の遭遇した『すずね』という人物。報告書によれば、彼女の能力は超能力とは違う物に見えたという。そして、彼女の口から出た魔法少女。あの見滝原にある美国邸で見たビジョンに出てきた美国織莉子の姿は、魔法少女と呼称されてもおかしくないほどの恰好をしていた。もしも、本当に彼女がすずねの言っていた魔法少女であれば、関係ないとは言えなくもないのではないだろうか。
それともう一つ。小鹿の出会ったプリキュアと名乗る少女。だが、B.A.B.E.L.のデータベースにはあの周辺に住んでいるプリキュアはいなかったはずだ。もう少し早くに教えてもらえていればありすに聞くこともできたであろうが、あいにく聞く前に彼女は立ち去ってしまった。
分からないことが増えていくが、もっとも分からないのがすずねの顔だ。先も言った通り、賢木の能力は、超能力者相手では無意識に抵抗されてしまう。だが、ノーマルであればそれはない。そのため、エスパーである初音や明の思考を読み取れることはできなくても、ノーマルである小鹿の思考を読み取ることはできた。それによって、すずねの顔を知ることもできるはずだったのだが、しかし彼が見たとき、すずねの顔は霧がかかったようにぼやけてしまい、よくわからなかったのだ。似たようなことは確かに経験がある。だが、あれはエスパー、それもエスパーの中でもかなりの高レベルエスパーだったときだ。小鹿の証言のおかげでモンタージュ写真は作ることができたのだが、しかしそれすらも過去の技術にある物のため心許ない。
何だろう、何か嫌な予感がする。こういう時の嫌な予感は大体当たる者なのだが、今回ばかりは、当たってもらいたくない。そう賢木は思っていた。
その時、賢木の携帯が鳴った。ここは、病院でもないので関係ないが、昔は携帯電話の電磁波による医療機器の誤作動の可能性が考えられていたために病院での携帯電話の使用を禁じていたが、今では、携帯電話の電波自体が以前より弱くなって、人工呼吸器や人工透析などに使う医療機器も、電波の影響を受けにくくする対策が進み、誤作動が起きる恐れが低くなった等の理由によって、昔ほど制限はされなくなった。それはともかく。賢木はその電話に出る。相手は、昨日ひょんなことからある女の子の手術を一緒にした病院の先生だ。
「俺だ」
『昨晩はおつかれさまでした。彼女が意識を回復したのでお伝えしようかと』
「そうか、それでどうだ?後遺症とかは……」
『言語機能にいささか問題がありますが、対応が早かったこともあって、リハビリをしたら、すぐによくなるかと』
「そうか……わざわざどうも」
『いえ、ではこれで』
「あっ待った、彼女に伝えてくれないか?」
『何です?あまり卑猥な内容は止めてもらいたいのですが?』
「そんなんじゃねぇよ……ただ、いつかあんたの歌を聞きたいってだけ、伝えてくれ」
『フッ……人間にも面白い男がいるものですね』
「あっ?」
『いえ……分かりました。伝えましょう。では』
「あ、あぁ」
そう言って、賢木は電話を切る。昨晩の女性とは、何のことなのか。またいずれこれについて語るときがやってくるだろう。
表の前に裏を固めていくスタイルで進行中。