映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
一度助けた命を見捨てなければならない。それは、誰もが忌避することである。だが、躊躇している間にも、周りの-エネルギーを吸い取ってソウルジェムはより一層濁りを増していた。これ以上放置しているのは危険だ。かずみは、意を決したように話す。
「この子の命は…私が壊す」
「かずみちゃん…」
「いいんです、私はたくさんの罪を背負って生きてるんです…この子の命も、またその一つになるだけです…」
かずみは、仲間の罪も背負って生きている。皆が、ミチルのために犯した幾多の殺人。自分が完成するまでに作られた12のクローン。そして、自分もまた魔女を殺し、仲間を殺して生きてきた。今、その手の中にあるソウルジェム野中にある魂。それもまた、自分の罪の一部として、彼女の心の中にずっと居座っていくだろう。だが、そんな彼女に待ったをかける人間がいた。
「待って…」
「みゆきちゃん…?」
「…その役目…私に任せてもらえないかな?」
「え…」
涙も枯れ果て、えずくほどに沈んでいたみゆきは、その言葉と共に立ち上がり、かずみの手の上にあるソウルジェムに重ねるように手を置く。
「…この子の命を救った責任は、私にあるんだもん…だから…私が全部背負う」
それは、覚悟だった。救ってしまったことに対する責任だ。もしもみゆきがあそこで彼女を浄化技で倒さなければ、ここまで苦しむことはなかった。だが、もしもみゆきがそこでソウルジェムに戻していなければ、彼女は無意識の殺人者としなっていただろう。だが、例え救っても、それ以上先が見えないのであれば、ここでその命を絶つことが、その子に対して一番の弔いであるなら、誰かに任す事なんてできない。自らの責任で、それを成さねばならない。だが、正直言うと怖かった。当然だろう。彼女は今まで人の命を奪うなどという行いをしたことなかったのだから。戦いの中で、多くを学んできた彼女であるが、そんな経験はしたことはない。ピエーロもジョーカーも、いうなれば悪の塊、三幹部は元妖精で、最終的には妖精に戻って今も幸せに暮らしている。命を奪ったということは一度もない。奪われかけたことは多数にあるが。昨夜もそうだ。あの銀髪の少女は、自分の首筋に剣を立て、後ほんの少し助けが来なければ自分は死んでいた。あそこまで、死を意識した瞬間はなかった。彼女もまた、魔法少女であり、何人の魔女を倒してきたのだろう。また、みゆきにやったように、魔法少女も殺していたのだろうか。あの彼女の眼は、何のためらいもなかったと思われる。いったいどのくらいの罪を犯したら、そこまでの精神状態になれるのだろうか。一体、どのくらい殺したら、胸が痛まなくなるのだろう。かずみにああも格好良く言ったものの、小刻みに揺れるその手が、彼女の心情を表していた。その時、その手の上に重なる手が1つ、2つ、3つ、4つ。
「え?」
「なにもみゆきちゃん一人で全部背負い込むことはないよ」
「私たちもその荷物、一緒に背負うからさ」
「やよいちゃん、なおちゃん…でも…」
「言うとくけど、これはみゆきに押し付けることの罪悪感とかそう言ったものとちゃうで」
「はい…これは、私たちのただのわがままです」
「あかねちゃん…れいかちゃん…」
彼女一人に背負わせたりしない。正論をすれば、それは集団自殺者の心理だったのかもしれない。皆で行けば恐怖心なんて薄れる。そんな心理と同じだったのかもしれない。友達であれば、ここは止めるべきであると思う者もいるかもしれない。今から彼女たちが行おうとしているのは、人の道を外れた行為に他ならない。けど、それでも彼女一人に背負わせるわけにはいかなかった。そしてそれは…。
「ゆりさん…」
「私にも、あなたを止めた責任がある…ただそれだけよ」
ゆりも同じ考えだった。手を重ねる事、それが罪を分散させることにつながるのか、そんなことあるわけない。むしろ、罪が拡散するだけなのかもしれない。でも、それでも彼女たちはためらわなかった。なぜなら目の前にいるのは、仲間であり、友達であるのだから。そのためだったら地獄の門をたたくことすらもいとわなかった。
「皆…」
みゆきは、泣かなかった。けど、笑顔になることもできなかった。それは、彼女が今まで味わったことのない気持ち。それが何なのか言い表せることなどできない。そして、彼女たちは手に力を入れる。
「…」
彼女たちの手の中で、一つの命が砕ける。その時のみゆきの言葉を、覚えている者はいなかった。
それから、何時間たっただろうか。日はすでに夕日へと変わった。真赤に輝く太陽はきれいなものだ。果たして、今日一日彼女たちに起きた出来事が全て、一日の、みゆきの一件も合わせるとたった24時間のうちの出来事であるとは信じられない。みゆきやかずみたちは、それぞれ帰宅の準備をする。
「薫子さん、今日はありがとうございました」
「えぇ…気落ちするなと言うのは酷かもしれないけれど…いつまでも落ち込んでいてはいけないわ」
「…はい」
そう短く答えたみゆきの手の中には、宝石の欠片が握られていた。粉々になったソウルジェムの欠片。彼女たちはそれぞれそれを持って帰ることにした。それは、彼女たちの罪の証だから。
「じゃあね、かずみちゃん…」
「うん…またね」
そして、植物園からみゆきたちの姿は消え、残ったのは、薫子とかずみだけとなった。
「それじゃ、薫子さん…私ももうそろそろ…」
「待って、かずみちゃん」
かずみもそれに続いて帰ろうとするが、薫子がそれを制す。
「貴方、QBの事恨んでる?」
「…」
かずみは、それに口を紡ぐ。そして考える。恨んでいるのだろうか。当たり前だろう。QBのためにミチルは、仲間たちは死んでしまったのだから。でも、それは違うともいえる。なぜなら、もしQBが、魔女がいなくても同じことになっていただろうから、いやもしかしたらもっとひどいことになっていたかもしれない。プレイアデスの仲間たちは、誰もがみな絶望を抱えていた。ある者は、自分の書いた小説を倒錯されたことに、ある者は、飼い猫の異変に気づけなくて死なせてしまったことに、ある者は後悔、ある者は孤独、ある者は…。皆絶望を抱え、それを魔女に付け込まれて自殺しようとしていた。それをミチルが助けて、皆魔法少女になった。でも、もし魔女がいなかったら、ミチルは彼女達を止めることができただろうか。ミチルがQBから願いをかなえてもらえてなかったら、グランマのイチゴリゾットの作り方を教えてもらえていただろうか。少なくとも、6人の仲間達を止めることはできなかっただろう。自殺を普通の一般女子が止めることなんてできないから。自殺なんて手を取らなくても、今でも悲しみの中にいる子がいたかもしれない。自分も、QBや魔女がいなかったら生まれてくることはなかった。QBを恨みたい、でも恨むことはできない。願いをかなえてくれた代償が、魔女と戦う運命だったとしても、自分たちはそれ以上の物を手にすることができたのだから。
「分かりません…プレイアデスの皆が死んだのは、魔女やQBのせいで…でも、みんなが助かったのはQBに魔法少女にしてもらったミチルのおかげで…私も、魔女がいなかったらここにはいなくて…」
考えがまとまらない。いったい、自分は何を言いたいのだろう。何を…。その時、薫子はかずみの手を握った。
「かずみちゃん…私が昔、魔法少女に出会ったって言ったわよね…」
「え、うん…」
「その人たちはね…」
「え…」
かずみは、その言葉に驚きを隠せることができなかった。
そして、罪人は何を思うか。夕焼けが赤焦げて見える中、みゆきたちはゆりとともに駅までの道を歩いていた。流石に精神的にも疲れて、これから飛んで帰ろうとは思えなかったためである。幸い帰り賃は十分に確保できていたため、帰宅方法をそちらに変えたとしても問題はなかった。だが、辛いことには変わりなかった。
「…」
「…」
「…って、メソメソすんのはもうやめや」
「あかねちゃん…」
「もう終わったことや…って人の命軽く扱うことはできんけど…」
「うん…でも、この選択がこの子にとって最善の選択だったって…思おうよ…」
「…うん」
そう言って、みな手中にあるソウルジェムの欠片を見つめる。輝きは失われ、のこっているのは元々の色としてのピンクだけ。太陽にかざせばピンク色に光ることはできるが、それが自分から輝きを放ることは二度とない。
「みゆき、一つ確認してもいいかしら?」
「え?」
そう声をかけたのはゆりである。
「あなたが昨晩出会った少女は、ソウルジェムを持ったみゆきを殺そうとしていたのね」
「うん…私がいくらプリキュアだっていっても信じてもらえなくて…でも、プリキュアに変身したら納得してくれたみたいで…」
「と、いうことは…」
「かもしれませんね」
みゆきの言葉を聞いたゆりとれいかは、何か納得したような表情を浮かべる。
「え?なになに?」
「二人とも、なにかに気が付いたのか?」
「えぇ…その女の子がみゆきさんを襲った目的と、その少女の目的が…何となくですけれど…」
「え?」
「たぶん、その子はソウルジェムから魔女が生まれると知っていたのだと…」
「え…」
「その少女はみゆきさんに対し、『知らない方がいい』と言う言葉を使っています。と、言うことは普通の魔法少女が知らないようなことまで知っていたと考えるべきです」
「そうなれば、彼女が知っていたことと言うのは、ソウルジェムが自分自身の魂の結晶であるということ、そしてソウルジェムから魔女が生まれるということだと考えるのが妥当ね」
「それじゃ…あの女の子がやっていたのは、ただの通り魔なんかじゃなくて…」
「魔女が生まれる前に魔法少女を殺す…『魔法少女狩り』と、言うことになります」
「ひどい…」
「けど、結果論としては魔女を殺すのも魔法少女を殺すのも同意義…認めたくはないけれど、ね」
「…」
今までその女の子は何人の魔法少女を殺してきたのだろう。どれだけの魔女を倒したのだろう。結局のところ、結果は確かに同じである。けど、完全な化け物となった姿の魔女を倒すよりも、人間を殺すという行為は、確実に少女の心を蝕んでいると考えられるだろう。そう考えたとき、みゆきの頭の中にある考えが浮かんだ。
「私、今日もう一度あの子に会ってくる」
「え!?」
「だめクル!それじゃみゆきが危ないクル!」
「大丈夫だよ、私がプリキュアだってこと、あの子も知ってるから」
「まぁ、その子の狙いがほんまに魔法少女だったんなら、そら危険もないけれど…」
「けど、その子は止めてくれるのかな…」
「…私、1人だけでも辛かった…」
「え?」
みゆきは、手のひらの欠片を見つめる。
「この子の命を奪った時、胸がはち切れそうなほど、心が痛かった。でも、その子はたくさんの命を奪って…きっとその子の方が何倍も辛いはず。だから、あの子は笑顔を忘れちゃったんだと思う」
「笑顔…か」
「うん…だから、私あの子に会って…もうこんなつらいことは止めてって言ってくる」
少女は、ハッピーエンドを忘れたわけではない。ハッピーエンドを目指すのをやめたわけでもない。周りにハッピーを振りまくのをやめたわけでもない。自分にそれを目指す権利はもうないかもしれない。でも、せめて自分が見知った少女たちだけでも助けてあげたい。みゆきはそう思っていた。
「でも、昨日みゆきちゃんが行った町ってどこなの?」
「…あっ」
考えが先行してしまうのがプリキュアピンクチームのいいところであるのだが。そういえば、自分は昨日どこに行っていたのだろうか。日本だということは分かるのだが、はっきりと分かることなど皆無である。ヨーロッパ風の雰囲気は出ていたのは分かるが、しかし外国風の街並みなど日本にはたくさんあるため、手掛かりとしては薄いと言わざるを得なかった。
「それだったら、新聞をみればわかるんじゃない?」
「え?」
「その子は通り魔っていうことで特務エスパーに追われていたのでしょ?だったら、新聞にそういった事件がどこかで発生したか載っているはずよ」
ゆりの一声、否鶴の一声であった。
「あっそっか!ゆりさん!ありがとうございます!」
「あっ、ちょまてみゆきぃ~!!」
と挨拶をすると、みゆきは駅まで駆け足気味の速さで向かって行く。残ったスマプリメンバーもゆりに挨拶をして、後をついていく。残ったのはゆりだけとなった。
「…魔法少女…か」
ゆりもまた、手のひらにソウルジェムの欠片を乗せてつぶやく。そして、一言…。
「気のせいかしら…この質感まるで…」
まるで…その言葉を聞いている者は誰もいなかった。
次回の外伝は、スマプリ勢から離れて又もありすの方へと話が飛びます。