映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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外伝(みゆき編):自分の隣にいる人のことを思いなさい

「ま、取りあえず一件落着やな」

「うん」

 

 かずみの一件は、一応解決することができた。しかし、そんな彼女たちの楽観的な言葉と裏腹にゆり、そしてれいかの二人は、顎に手を置いて、考え事をしていた。そんな二人の表情を見て、やよいが問う。

 

「二人とも、そんな難しい顔してどうしたの?」

「あぁ、いえ…大したことではないのですけれど…」

「そうね、ひとつ疑問点があるのよ」

「?」

 

 ゆり、れいかの二人は薫子に聞く。

 

「薫子さんは、魔法少女の事を知っているんですか?」

「え?」

「ソウルジェムという物をご存知でしたし、薫子さんはかずみさんが正体を明かすよりも前に、魔法少女という固有名詞を使っていました」

「あ、そういえば」

 

 薫子は、その言葉に薄っすらと唇の端を上げる。それは、なにか懐かしい思い出を探すように。

 

「そうね、あれは私がキュアフラワーとして砂漠の使途と戦っていたときだから、50年ほど前のことになるわね」

「え?キュアフラワー?」

 

 その言葉を発したのはかずみである。その疑問視のついた言葉に薫子は答える。

 

「えぇ、私も元はプリキュアだったのよ」

「え、そうなの…も?」

「えぇ、実はね…」

「みゆきたちもプリキュアクル!!」

 

 薫子が話そうとした瞬間、横やりが入ったようにみゆきのカバンの中からその声と共に一つのぬいぐるみのような動物が現れる。

 

「え?なに?QB!?」

「うわっ!キャンディだめだって!?」

「あら、いいじゃない。魔法少女もプリキュアも同じようなものだから」

「同じなの!?」

 

 魔法少女という分類で見れば同じようなもの。いや、プリキュアは魔法少女ではないのでは、とか思わないでもないが。

 

「キャンディっていうの?」

「そうクル!」

「私、かずみだよ。QBと違ってかわいいね」

 

 かずみは、なんとも臨機応変に対応している。ちょっとやそっとの事で驚かなくなっているのだろうか。それとも、もはや慣れてしまったといった方がいいのだろうか。かずみにとってはようやく一つの謎が解けた。魔女がソウルジェムに戻ったということ、不可逆性のはずのそれは、プリキュアの力によってもたらされた奇跡だったのだ。プリキュアの存在を知ったのは、全てが終わった後、プレイアデス聖団の生き残りである、親友のカオルと海香の二人からだ。それによると、プリキュアは聖なる力を使うとか、世界中の女の子のあこがれだとか言っていたが、まさか彼女たちが魔女を浄化し、ソウルジェムに変換する能力を持っていたなんて、初耳である。

 

「さて、話を戻すわね。あれは、50年前、当時現役のプリキュアで唯一戦っていたのは私だけだったわ…」

 

 今の時代、プリキュアと呼ばれる少女たちはたくさんおり、およそ50人いるというまさにプリキュアのインフレが起こっている。しかし、大昔にはそれほど数はおらず、キュアフラワーが活動していた時代には薫子以外にプリキュアの仲間と言うのはいなかったそうだ。

 

「砂漠の使途との戦いが終わりに近づいていたある日、私はある女性に出会ったの…」

 

 それは、いつものようにデザトリアンを倒して自宅に帰ろうとしていたときの事であった。ふと気が付いたら、おかしな空間へと迷い込んでいた。もうおかしな空間に入ってしまったと書けば察しが付くかもしれないが、魔女の結界だ。彼女は、即座にキュアフラワーへと変身し戦った。だが、その前に行った戦闘による疲労からくる集中力の低下から、攻撃をよけきれなくなり、ついには変身も解けて倒れこんでしまった。それでも、魔女は止まらない。もうだめだと思ったその時、光のように現れたのが2人の魔法少女だった。薫子の目の前に現れた2人は瞬く間に魔女を倒してみせた。その後傷ついた薫子をその2人が快方してくれ、それが縁で、砂漠の使途を撃退するまで一緒に闘ったそうだ。

 

「そんなことが…あったんだ…」

「その時、彼女達から、ソウルジェムのこと、そしていづれはソウルジェムが濁り切って魔女となってしまう事を知ったわ…」

 

 かずみは、薫子のその表情を見て思う。もうその二人はこの世にいないのだと。魔法少女は、ソウルジェムが砕けるか、濁り切って魔女になることで死が確定する。かずみは思う。魔法少女の寿命は少女時代。つまり、かなり短いものであると。ソウルジェムが濁るのには二つの理由がある。一つ、魔法を使うこと。一つ、恨みや妬み、怒りや絶望や憎しみなどの負の感情を抱くことでも少しづつけがれて行ってしまう。また、肉体維持にもわずかならが魔力を消費しているため、魔法を使わなくてもけがれて行ってしまう。少女のままだったらいい。だが、大人になると、汚らわしい世界をたくさん見ることになる。そうなったら、おそらく。かずみはその後を考えたくなかった。

 

「かずみ…」

「え?」

 

 彼女に声をかけたのはゆりである。

 

「このソウルジェムは、どうするの?」

「…それは」

 

 口を結んだ彼女の代わりに、薫子が答えた。

 

「そのソウルジェムには、持ち主の魂が入っているから、認識的にはまだ生きている状態だわ…でも、この子の身体は…」

「身体は?」

「魔女の結界に取り残されて、使い魔に食べられたか…結界が消滅したときに一緒に消えたのか…」

「そんな…それじゃ、私が行った時にはまだその子の身体が…」

 

 薫子の答えにみゆきは、ソウルジェムを見つめたまま立ち尽くす。あの魔女を倒したとき、この子の身体がまだあったのかもしれない。この子を救い出せたかもしれない。もうすべては終わったことだと分かっている。だが、割り切れないことだってあるのだ。

 

「みゆきは知らなかったんだから…そんなに気を病まなくていいよ…」

「でも…」

「プリキュアがグリーフシードを浄化できたことだけでも驚きなんだもん…そこから、ソウルジェムを身体に戻すなんてことまで…私たちは求めていない…」

「…」

 

 魔女からソウルジェムを救出しただけでも上出来だ。そう言われても、彼女は若干納得できない。このソウルジェムの持ち主の人生はどうなるのだろう。このまま、魂だけがこの世に残って、ただの石ころとして、動くことも死ぬこともできずに、ただ朽ち果てていくのみなのだろうか。みゆきはかずみに聞く。

 

「それじゃ、この子はどうなっちゃうの?」

「…私の仲間は…プレイアデスの皆は、ソウルジェムを濁らせないように休止させる、いわゆる仮死状態にする方法を確立していたけれど、それも緊急避難に過ぎない…やっぱり身体がないんじゃ…」

「それじゃ、この子はこのまま永遠に石ころのまま生きなければならないってことか…」

「…どうだろう、というか身体を完全に失った子のソウルジェムなんて初めて見たし…この先どうなっていくのか…」

 

 ソウルジェムには何もない。何もついていない。目も、耳も、口も、鼻も、あるのはただ魂だけ。何も見えず、何も聞こえず、何も言えず、ここにあるたくさんの芳しい花の匂いすらも嗅ぐことができない。絶望もしなければ、希望も持つことができない。こうなってしまえば本当に、ただの石っころである。ソウルジェムを観察する中でかずみは、あることに気が付いた。

 

「濁りはある…みゆき、ソウルジェムに戻したとき、この濁りはあった?」

「え、ううん…きれいだったよ…」

「じゃあ、やっぱり何もなくても濁るんだ…」

「それじゃあ、このまま放って置いたらまた魔女になっちゃうんじゃ…」

 

 やよいのその仮説は、皆が考えたことである。いづれ、このソウルジェムはまた色を黒く染め、グリーフシードへと姿を変え、そしてまた魔女へとなってしまうだろう。どうするべきか…。かずみは、みゆき達に残酷な結論を示さなければいけなかった。

 

「壊すしかない…」

「え?」

「この子がもう一度呪いを生み出す存在になってしまう前に、ソウルジェムを壊すしか…」

「ちょっ、待ってな!ソウルジェムはこの子の魂なんやろ!?それを壊すっちゅうことは…」

「この方を殺すということに…」

「そんなの、だめだよ…」

 

 か細く、みゆきはそう言った。本当に消えてしまうような言葉でそう、言葉を紡いだ。かずみにも分かっている。それが倫理的に見たら、殺人だと分かっている。みゆき達も分かっている。いや、分かりたくなかった。自分達プリキュアには、その子を石の檻から出してあげることはできない、プリキュアの限界であるのだと。自分の数倍大きな敵であっても迷わず飛び込み、子供達の夢や笑顔を守ってきたプリキュア。だが、彼女達もまた一人一人が普通の少女である。年相応に悩み、そして苦しんできた少女たち、ハッピーエンドを疑わない彼女達スマイルプリキュアにとって、それを受け入れるのは、特にみゆきの心を崩壊させてしまう恐れすらもあった。ハッピーエンドという妄想を本当に信じ、そして実現させてきた彼女の心を…。

 

「でも、これしか…この子を、本当に助ける方法は…」

「ッ!…そうだ、QB…」

「え?」

 

 それは、一番してはいけない選択。が、それしか方法がないため、最善の選択となってしまうもの。

 

「QBは、願いを一つ叶えてくれるんだよね!だったら、QBにお願いすれば…」

「あかんてみゆき!そんなんしたら、みゆきの心も石ころに変えられてまうねんで!」

「そうだよ、きっとほかに方法があるかもしれない!それを探せば…」

「でも、かずみちゃんも方法はないって……それに、この子を助けられるなら…!」

「その後はどうするのですか!」

「そうだよ、いずれ魔女になってしまうか、戦いで命を落としてしまうのか…待っているのは、みゆきの未来を奪う運命なんだよ…」

「それでも!ッ!」

 

 その言葉は続かなかった。みゆきの頬を強烈な痛みを襲い、それ以上言葉を紡がせなかったのだ。みゆきの頬を襲ったそのはたきは、あかねの物でもない。やよいの物でもない。なおの物でも、れいかの物でも、薫子の、かずみの、ましてやキャンディの物でもなかった。

 

「だれかの幸せを願うのなら、まず自分の隣にいる人のことを思いなさい」

「ゆりさん…」

 

 それを行ったのは、月影ゆり、その人だった。

 

「もしも、あなたが魔女になった時、それと戦うのはあなたの仲間なのよ。…姿かたちが変わってしまったとはいえ、自分の友達であった人を…親しかった人間を、繋いだ手で、共に歩いたその足で痛めつけないといけないのよ」

「…」

「結果として、この子のように魔女から元に戻れたとしても、また同じことの繰り返しになる。そんな非情な連鎖をあなたは友達に強いるつもりなの?」

「でも…でも…」

 

 みゆきは涙目になってでも反論しようとする。だが、結局は口からその言葉が出ることはなかった。その場にいる全員が考えていた。もしも、自分が逆の立場であったらどうしていたのだろう。特に、スマイルプリキュアの4人は、考えた。おそらく自分達もみゆきのように、その子を助けたいと願うだろうと。だから、みゆきを止めるときも、あまり力づくでもなかった。止めれなかった。優しい世界しか見ていな彼女達には、そんな決断することができなかった。だが、ゆりは、ゆりだけは…。

 

「みゆき、この子を助けたことだけでも凄いことだわ…でも助けたことの責任を負う必要はないの…」

「…」

「みゆきちゃん、辛い決断になるかもしれないけど…これ以上悲劇が起こるのは、この子もタエさんも望んでいないはずよ…」

「おばあちゃん…」

 

 薫子の言うタエと言うのは、みゆきの祖母である。彼女は、プリキュアのおばあちゃん最強伝説に漏れないすごい人なのだが、それを語るにはまず、スマイルプリキュアの敵について語らなければなるまい。バッドエンド王国は、その名称の通り世界をバッドエンドへ導く事を目的とした組織である。人間の負の感情から産まれるバッドエナジーを集め、悪の皇帝ピエーロを復活させることを目的としていた組織である。以前、みゆきたちは夏休みに、タエの家へと遊びに行った。その時も、敵の幹部がバッドエナジーを集めるべき奮闘していたが、なんとその時タエからバッドエナジーが出ることはなかったのだ。それどころか、狼の姿をしているバッドエンド王国の幹部に対してそんなおびえることもせず、キツネ扱いするほどだった。そんな彼女が、その時語った言葉がある。

 

『なぜ絶望しない!』

『絶望なんてしないわ』

『これから先ずっと悪いことばっかだぞ!!』

『生きていれば、そう言うこともあるわよ』

『ずーっと真っ暗なんだぞ!!』

『天気が悪い日もある物よ』

『ッ…!』

『必ずお天道様は昇ってくる。ずーっと真っ暗なんてことはないのよ』

『…』

『何があっても笑顔で一生懸命生きていれば、いつかきっと幸せがやってくるわ』

 

 絶望に負けなかったおばあちゃん、そんなタエが、自分が命を捨ててでも見ず知らずの女の子の命を救いたいと言ったらどういうだろうか。たぶん、否定も肯定もしなかったのかもしれない。けど、絶対にそれをさせないように優しい言葉をかけてくれるだろう。でも、結局最後に考えなければいけないのわ自分。自分はどうしたい。自分は、友達を、未来を、人生を、何もかもを無下にして、それを成したいのか。いや、自分の未来や人生よりも、友達、家族のことを考えると…。

 

「…ッ!」

 

 何も言えない。ただ、目から涙があふれ出て、止まらない。けど、それを見て誰もが安心し、そして同時に、辛い決断を迫ったことに心を痛めていた。




自分の精神状態に左右される小説って…。結果配分がめちゃめちゃになり、ほんと色々な意味で大丈夫かな…。

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