映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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今回の魔女は直前で設定を変更しました。ディズニーを題材にしたやつはダメって、それじゃディズニーで一度映画化されたのはダメなんだろうか、と思ってしまったからです。
何を言ってんだと思っている人もいるかもしれないが実は私も自分の言葉の意味がわからなかったりする。


外伝(みゆき編):ハッピーを取り戻す!みゆき、独りぼっちの戦い!!

 結界の中を飛んでいたハッピーであったが、どうにも出口が分からないため、地面に降りてトボトボ歩いていた。しかし上からも見たが、この先はひたすら長い長い道しかなかった。正直、この道を歩いていくというのも億劫である。これがもし周りを壁が囲っていたとしたら破壊して横道にそれるという手があるのだが、やっぱり道しかない。

 

「はぁ…出口どこなの~…もうこの際お菓子の家でもいいからさぁ~」

 

 お菓子の家、通称『ヘクセンハウス』といえば思い当たるのはグリム童話のあの話である。が、その場合中から出てくるのは十中八九…。

 

「あっ!」

 

 その時、彼女の目に入った物は道の終わりに存在する一つの家であった。もはや藁にも縋るおもいの彼女は全速力で砂埃を巻き上げながらそこまで向かう。が、近づくにつれその全容が見えてくると彼女の足は止まっていく。

 

「お菓子の…家?」

 

 屋根は板チョコ、壁はクッキーで作られ、飴やグミなどで装飾がつけられている彼女のイメージ通りのお菓子の家がそこにはあった。

 

「えぇっと…確かにお菓子の家でもいいからって言ったけど…」

 

 彼女の顔はややこわばる。もう一度言おう、あの童話の展開からすると、どこからどう考えても家の中にいるのは、アレである。と、いうことで彼女の選択は…。

 

「さぁて先に進もうかな!」

 

 完全無視であった。だが、彼女が家の横を通り過ぎようとすると、お菓子の家のドアが勢いよく開き、中から巨大な腕が現れる。

 

「えっ?嘘、なに!?」

 

 みゆきは後ろからきたそれを避けることなどできず、あえなく掴まってしまった。そして…。

 

「な、なんでこうなるのぉぉぉぉぉぉ……」

 

 家の中へと引きずり込まれてしまう。もはやお菓子の家ではなくお化け屋敷である。そしてみゆきが家の中に入っていったことでその役割を終えたのか、家はドアを閉じ、そのままスーッと消えてしまった。

 

「……………ぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 もし、これが何かのアトラクションであるのならば、もう二度と乗りたくない。そう思うみゆきは手に連れられて(?)またもや見知らぬ場所へとたどり着いていた。

 

「痛たたたた………ここは?」

 

 周りを見渡せば、そこは本棚が天井…いや天井はない。本棚が天高くそびえ立ち、360度その部屋を囲っていた。かなり広い部屋のようだ。そしてその中心には巨人がいた。

 

「!」

 

 巨人はロッキングチェアに座り込み、何かの本を読んでいるようだった。その顔は良く見えはしないがなんだか笑っているようにも悲しんでいるようにも見える。

 

「あの、巨人さん!ここってどこだか知っていますか!?」

 

 みゆきは巨人に届くようにそう声を張り上げる。しかし、巨人は動こうともしない。

 

「えっと…それじゃ巨人さん!ここにある本棚、使わせてもらってもいいですか!!」

 

 そういってからハッピーは本棚においてある一つの本を取ろうとする。その時、紙をめくる音が響き渡る。それも高速でだ。恐る恐る後ろを振り向くと、それは巨人が持つ本から発せられている音であった。何ページもあるであろうその本をみるみる内にめくっている。

 

「えっと…お、怒らせちゃったかな?」

 

 そして本の動きが止まる。ハッピーからは見えないが、そのページには金色の像と一匹のツバメが書かれた絵が描かれていた。瞬間、本から黒い影が何体も出現する。

 

「え、なに!?」

 

 その影は全てみゆきに向かってくる。よく見ると、鳥のようにも見える。そして鳥であったらくちばしに当たる部分でハッピーを突き始める。一匹一匹の攻撃はチクチクするぐらいであるが、何体も集まると、それは痛いという感覚に変わっていく。

 

「痛、痛た、やめて!!」

 

 たまらずハッピーは明後日の方向に走り出す。無数の影はそんな彼女を追いかける。

 

「こないでぇ~!!」

 

 いつまでも続く追いかけっこに業を濁したのか、本はまたページをめくり始める。すると、ハッピーを追いかけていた影はすべて消え失せる。そして本は次第に止まり、現れたページは三匹の豚と狼、そして藁、木、レンガの家が書かれていた。

 

「えっ、うわ!!」

 

 瞬間、上から藁が降ってきてみゆきを囲んでしまう。そして黒い影が本から出てくる。その背格好は狼男のようにも見える。狼は大きく息を吸い込んで、竜巻のような息を吹く。

 

「な、なにこ、うわっ!」

 

 ハッピーは耐えきれずに吹き飛ばされてしまうが、さらに木の板が降ってきて、またもハッピーを囲んでしまう。

 

「な、なんな…のぉ!」

 

 身動きのできない彼女に今度は狼が体当たりをする。ハッピーはまたも吹き飛ばされてしまうが、さらにさらにレンガが上から降ってき、またもハッピーを囲む。

 

「はぁはぁはぁ…これって、まさか…ってあれ?」

 

 ここまで来ればハッピーにも察しがついた。おそらくあの巨人は本の中から世界の童話の登場人物を取り出して攻撃してくるようだ。しかし、ここでハッピーは少し安心する。

 

「絵本じゃ狼さんはレンガの家を壊せないからひと安心じゃん!!」

 

 そう、藁の家は息で吹き飛ばされ、木の家は壊され(物語によって燃やされ)たりするが、レンガの家を作った子豚は無事であった。だからレンガの家であったら大丈夫だと、彼女は完全に安心しきっていた。後ろから熱湯がかけられるまでは。

 

「熱っつ!!え、なんで!?それって狼さんがやられる方だよね!?熱っ!やめて!!」

 

 物語において内容は異なるが、多くの場合狼が煙突から潜入を試み、料理中の鍋の中に落ちるというオチがほとんどである。そのため、まさかハッピーの方がそれをやられてしまうなど思いもよらなかった。ハッピーはたまらずレンガを破壊し、何とか外に出る。息も絶え絶えで、思わず地面に手をついてしまう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…し、死ぬかと思った…」

 

 というか、常人であったらすでに死んでいてもおかしくはない。これこそプリキュアという聖なる力がなせる業である。

 

「間違いない…あの巨人さんは、おとぎ話の登場人物を使って攻撃をしているんだ…」

 

 思い返してみると、リンゴを投げてきた魔女、お菓子の家、ツバメ、狼や藁と木とレンガの家も全部が全部、絵本で見た物語である。しかし…。

 

「でも…そうだっていうなら…私は……」

 

 そう言うと、ハッピーは地面につけている手を握る。彼女の好きなものは絵本、そして絵本に出てくる登場人物であった。それを…。その時、またも本が動きだす。

 

「!」

 

 中から出てきたのはかぼちゃの馬車。ということは、開かれたのは日本では『灰かぶり姫』と訳されるあれであろう。かぼちゃの馬車は馬に牽かれてハッピーに向かって猛スピードで直進する。普通であれば横に飛び退けば普通に避けられるものであるが、彼女はその場に立ったままであった。そして…。

 

「くっ!!」

 

 ハッピーは全体重をかけて馬車を止める。しかし、勢いはすさまじく足は動かしていないものの滑って後ずさりしてしまう。後ずさりすればするほどハッピーの足元からは砂煙が出て、そして本棚にぶつかって止まる。一瞬の土煙が彼女の姿を隠したが、次の瞬間にはまた出現する。その様子は歯を食いしばっていて、ふと見れば鬼人のようにも見える。

 

「絶対に違う…」

 

 ハッピーは、怒っている。何故ならば…。

 

「シンデレラは、誰かを不幸になんて絶対にしない……」

 

 シンデレラは、彼女の好きな物語であり…。

 

「シンデレラは、どんなにいじめられても灰をかぶっても…夢見る心を忘れないで、いつかくるハッピーエンドのために頑張った一人の女の子の物語…」

 

 シンデレラは…。

 

「そんな女の子が、その夢に向かうために使ったかぼちゃの馬車を利用するなんて…」

 

 彼女自信でもあるのだから。

 

「許さないんだから!!」

 

 ハッピーは馬車を持ち上げ、巨人に向かって投げる。しかし、馬車が巨人に当たった瞬間、巨人は霧のように消失してしまう。そして、巨人が持っていた本が羽ばたき、空を舞う。

 

「もしかして、あっちが本体!?」

 

 ハッピーは巨人が本を操っていたと思っていたが、本の方が自分で動いていたことにようやく気が付いた。

 

「逃がさない!」

 

 ハッピーは跳びあがり、本棚を足掛かりにして空中にいる本の元にたどり着く。

 

「ハァァァ!!!!」

 

 そして本に思いっきりのかかと落としを繰り出す。本は地面に大きなクレーターを作ってめり込む。身動きが取れなくなった本に、地面に降りたハッピーは言う。

 

「私が、シンデレラやツバメさんたちのハッピーを取り戻す!」

 

 そういうと、ピンク色の光がハッピーを包み込み、柱状に光りが天まで伸びていく。

 

「気合いだ気合いだ気合いだぁぁぁ!!!」

 

 ハッピーは力をスマイルパクトにため込んでいく。スマイルプリキュアのメンバーは必殺技を使うとき、スマイルパクトに気合いのエネルギーを注ぎ込むことで、必殺技を撃つことができる。しかし、彼女たちの場合ほかのプリキュアと違い使用者に多大な疲労をもたらしてしまうために以前解説した通り一度の変身で一度しか放つことができない、まさに一発勝負である。ある特定の場合では、二発以上放つことができたりするが、やはり主には一度しか放つことができない。そして、ハッピーがほかのプリキュアと違うのは、エネルギーをためるときに自分を鼓舞するように『気合いだ!』という言葉を叫ぶことだ。

 

「プリキュア!」

 

 エネルギーを十分にため込んだハッピーは、大きくハートのマークを両手で描く。そして両手をハートマークの形に組んで、そのエネルギーを手中に入れる。最後に…。

 

「ハッピィィィィ………シャワァァァ!!!!」

 

 エネルギーを押し出すように両手を前に突き出す。すると、両手にため込んだエネルギーが光の奔流となって敵に向かって放たれる。これが彼女の必殺技までのプロセスである。

 

「!!!!」

 

 敵である本の怪物は、それに飲み込まれる。その光は強く、そしてまばゆいぐらいに輝き、そして…。

 

「…」

 

 暖かく心地よかった。

 

「ハァ…ハァ…ハァ………」

 

 光が拡散し、結界の中にいたのはハッピーただ一人であった。ハッピーは体力の消耗が激しく、女の子座りで床に座り込み変身が解ける。その時、みゆきはクレーターの中心に小さな光を見た。恐る恐る近づいて持ち上げてみる。どうやら宝石のようだ。ピンク色をしたその宝石は、少しの汚れもなく光輝いていた。瞬間、本棚が景色に溶け込むかのように消えていく。そして現れたのはどこかの道。ビルとビルに挟まれた裏道と言うものであろうか。

 

「ここって…え?」

 

 みゆきが辺りを見渡そうとしたその時、首筋になにかひんやりとするものが付けられた。横目で見ると、巨大な剣がそこにはあった。首を動かそうとすると切れてしまうために後ろを振り向けない、そのためそこにいるのが男なのか女なのかもわからない。

 

「教えて…貴方の名前」

 

 どうやら女性であるようだ。声色からして自分と同じ年頃であろうと予想できる。時刻はまもなく午前零時、彼女のハッピーエンドという魔法が解けようとしていた。




絵本の魔女グレーテル
性質は怠慢

プリキュアに出るたびに改変されていくシンデレラの物語…。

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