映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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私を生き返らせてくれてありがとう

 花咲つぼみは不審に思っていた。

 なぎさとは別の魔女の結界に入って言った物の、その先には使い魔も魔女も存在していなかったのだ。あるのはただただ広い空間だけ。しかし、それと一緒にいつもの魔女の結界のようなあの気持ち悪さもあった。

 この結界を形作った魔法少女も、今までの魔法少女たちのように悲しみと絶望を抱えて魔女になったはずだ。

 その絶望に意味はなかったのだろうか。魔女の結界は、生前の魔法少女の意識や人生が関与して内装が出来上がるそうなのだが、だったらどうしてここまで何もないのか。

 何もない人生なんてない。意味のない人生なんてない。つぼみはそれを知っていたからこそ、その空間が不思議でならなかったのだ。

 

「どうして、この世界はここまで何もないのでしょうか?」

「それに、いつもの迷路ともちがうです……」

 

 シプレの言う通り。いつもだったら、魔女の結界の中には複雑な迷路があるはず。それがないというのもどこかおかしい。

 まさか偽物の結界とでもいうのだろうか。いや、ここに入る前確かに魔女の反応はしていた。微弱ではあるものの、間違いはない。

 結界だけを残して逃げたのか。そんなことができるとはマミからは聞いてはいないが、しかしありえない事ではない、のだろうか。

 

「私と会うのは初めてだっけ、花咲つぼみ?」

 

 頭の中であらゆる可能性を模索するつぼみに声をかけた少女。つぼみが見上げた先にいたのは眼帯をした黒髪のショートヘアーの少女だった。

 彼女の言う通り、自分は彼女を見たことはない。しかし、まどかやなぎさなどからはその容姿について聞いていたためにすぐにわかった。

 変身したつぼみは、警戒を怠らずに言う。

 

「呉キリカさん……ですね。まどかやなぎさから聞いてます」

 

 美国織莉子の仲間である魔法少女。呉キリカ。

 

「ご明察。この結界について不思議がっているようだね?」

「知ってるのですか?この結界が何なのか?」

「知らない……でも、分かってる」

「分かってる?」

 

 キリカの言葉。それは、おそらく正確には分からないが、しかしどういう理由なのかが想像がつくということなのだと思う。

 つぼみは、キリカにその言葉の真意について聞いた。

 

「どういう意味ですか?」

「話せない……織莉子には、悲しい思いをさせたくないから」

「え?」

「……」

 

 つぼみは見た。彼女の顔が、あまりにも悲しい顔をしていたのを。

 

「キリカ、貴方に質問があります」

「なに?」

「……後悔はしていないんですか?」

「後悔?」

「魔法少女を……自分の仲間を殺していることにです」

 

 一度、つぼみは聞いてみたかった。自分と同じ魔法少女、自分と同じ人間を殺しているキリカのその本心が。一体、彼女が何を思って人を殺しているのか。

 殺人犯の心などという狂気の産物を聞きたくはないという思いもある。だが、それと同時に思うのだ。彼女にも、自分と同じ人間の心が残っていない者かと。彼女の心が完全に枯れ切っていないだろうかと。

 興味本位で聞いた質問だったかもしれない。彼女の心に土足で踏み込むようなあってはならない質問だったのかもしれない。けど、それでも彼女は聞いてみたかった。何故ならば、そこにいる少女は、遠くない未来にいる自分かもしれなかったから。

 

「後悔……か」

 

 キリカは、そう言うと自分の手を見つめて言った。

 

「つぼみは、いざとなったら私達を殺そうって思ってるの?」

「……」

「え?つぼみ?」

 

 つぼみのすぐ横にいたシプレは、そのキリカの言葉にまさかというような表情でつぼみの顔を見つめた。

 シプレの行動に気づいたつぼみは、少し微笑みながら言う。

 

「もしも、これ以上キリカや織莉子、ほむらが私たちの事を狙うことがあるとすればいずれは……そうなるかもしれません」

「そんな……そんなことないです!」

「私も……そんなことをするなんて思いたくありません。でも……」

 

 さやかの一件を聞いて思った。もしも、自分にその気がなかったとしても事故という形で誰かの命を奪ってしまうかもしれないと。

 

「……やさしいね、君は」

「え?」

 

 そう言ったキリカは高台から飛び降りる。そして、つぼみに武器である自慢の爪の先を向けて言った。

 

「後悔なんて、しないわけないだろ?」

「キリカ……」

「人を殺すんだよ、人生を奪うんだよ、例えそれがいずれは魔女になってしまうのだとしても、そこにいるのは人形じゃなく、人間なんだから」

「……」

「知ってる?地獄に落ちた人間がどうなるのか」

「え?」

「何千何万年と責め苦を味あわされて、もう嫌だって思っても無駄で、永遠に苦しみを味わうんだ……そういうのを知ったら、怖いに決まってるよ」

「だったら、どうして……」

「……私と織莉子が出会ったのは……ついこの間、なのにもう何年も前のことのように感じるよ」

 

 キリカは語りだす。自分と、美国織莉子との出会いを。

 

 キリカは、この世の全てが嫌いだった。いや、正確に言えば興味がなかった。

 友達同士の会話も、全て友情ごっこと断じていた。

 男子と付き合っている二人を恋愛ごっこだと斬り捨てた。

 この世の全ての人間が希薄な人生を過ごしていて、興味本位、退屈しのぎに同性や異姓との付き合いをしていて、空虚に無駄に時間を過ごしていく。それを見る事すらも彼女はいら立ちを感じていた。

 友達なんて一人もいなかった。でも、悲しくはなかった。むしろ、変な友情ごっこに引き入れられなくて清々していた。だが、それは仲のいい人間が一人もいないからこそ孤独を感じなかったと言ってもいいのかもしれない。

 彼女は孤立していた。この世の全てから。でも、彼女はそれに気がつくことができなかった。彼女が世の中に興味を持てなかったのと同時に、世の中の全てが彼女に興味を持っていなかったからだ。

 その内、彼女は学校に行くことが少なくなっていた。不登校になって、たまに暇つぶしに学校に行ってもまるで影のように教室の隅に隠れて、誰とも話そうとしなかった。

 彼女は、孤独だった。

 だけど、彼女は悲しくなかった。

 そんなある日だった。彼女の人生を変える出会いが訪れた。

 

『あっ……』

 

 ジャララという、金属が床に落ちる音があたりに響く。

 コンビニでお金を払うために財布を開けた時、うっかり財布の中身を落としてしまったのだ。

 

『ち、うっぜえな早く拾えよ』

『すげぇ待ってるんですけどぉ―』

 

 お金を拾っているキリカの背中に並んでいる人達からの罵声が浴びせられる。

 人はそんなに早くお金を拾えるように作られていない。

 待つ時間があるのだったら拾うのを手伝えばいい。

 このように大人でさえも時間に追われているのが見て分かるし、面倒くさいことはたとえ小さな親切でもしないもの。

 結局は誰もが自分と同じ。自分以外には興味を持っていないのだ。興味がないから、自分の時間を有効に活用したいから他人のためになることですらもしない。自分の時間を大切にしたいから、他人には興味を示さない。

 人類は誰もが孤独。

 だから、彼女は悲しくなかった。

 例え、膝を立ててお金を拾って、それを見下ろされていたとしても、彼女は悲しくなかった。見世物のようにされていたとしても、悲しくはなかった。

 そんな自分を蔑むような人間はいない。だから、だから、だから。

 

『え?』

 

 彼女の事が、まるで天使のように見えた。

 その女性を敬称するのであれば、光だ。彼女の目の前に急に現れた女性は、自分が落としたお金を拾い始めた。

 先ほどまでは、道に落ちたただの石ころのように誰もが見下していたお金、そして自分に興味を示してくれた女性のその行動に、彼女は目を奪われた。

 

『はい、これで全部かしら?』

『う、うん……』

 

 そう言うと、女性はどこかに去っていった。初めて会った女性だった。

 自分の見知らぬ女性、だから彼女も自分の事を知らないはず。それなのに彼女は自分と同じように地面に膝を立ててお金を拾ってくれた。ただ、それだけが途方もなく嬉しかった。

 その時のキリカの心には、今までになかったような感情が芽生えていた。

 

「その日から、私は織莉子の事を街で探すようになった。それに夢中になって、それまで少しは行ってた学校にもほとんど行かなくなって、でもそんなことも気にはならなかった。それほどまで、私は織莉子のことに夢中になっていた……」

 

 そして彼女は見つけた。ある駅のホームに、織莉子の姿を。元々制服が見滝原の物ではなく、別の街の私立の学校の物だったから、見滝原に住んでいる女性ではないなとは思っていたから、それをネットの制服関連のサイトで検索し、あとはタイミングの問題だった。

 織莉子の姿を見たキリカは、話しかけようとした。自分の事を覚えていますか。ただその言葉を言いたかっただけなのかもしれない。

 一人でもいい、この人間関係が希薄すぎる世の中に、自分の事を少しでも覚えている人がいてくれたら、ただそれだけが彼女の希望だったのかもしれない。

 でも、彼女は声をかけることができなかった。

 織莉子は電車に乗って去ってしまった。そして、織莉子に声をかけるために伸ばした手をスッと下に降ろして心でつぶやいた。

 

『私の事なんか覚えてるわけがない』

 

 世の中に興味がない?違う、本当は妬んでいた。羨ましかったのかもしれない。

 友達とたわいのない会話をしたい。放課後に一緒にお茶を飲みたい。くだらないことで笑い合いたい。そんな心の奥底から出る欲求を、興味がないという言葉でごまかしていたのかもしれない。

 時間なんてたくさんある。でも、人生は一度きりの物。誰もが同じこと。でも、その人生の中で自分の事を心の隅に気に留めてくれる他人がいるのだろうか。

 もしいたとして、その人の事を自分は気に留めるだろうか。

 キリカは今見つけた。恐らく、生涯自分の心に残るであろう女性の事を。自分が、心の底から友達になりたいと思える、友人の事を。

 でも、それは自分勝手で独りよがりな考え。例えあの出来事が自分にとっては心に来るものであったとしても、彼女にとっては人生の中で起こったちょっとした出来事。

 彼女が覚えているわけがない。

 もしも、話かけて、貴方は誰ですかと言われてしまったら、いや確実にそう言われることだろう。その時、自分の心は耐えることができるだろうか。自分は、自分を保っていられるだろうか。

 目の前に舞い降りたちょっとだけの希望、しかしそれは自分の事を壊してしまいかねない絶望にも簡単に変わることができる。

 こんな自分じゃダメだ。こんな自分じゃ、きっとこの先も一人ぼっち。誰も相手にしてくれない。誰も振り向いてくれない。誰も、自分の事を覚えてくれない。

 変わりたい。変わって、あの女性にも振り向いてもらえる人間になりたい。

 

『それが君の願いかい?』

 

 そして、私は魔法少女になった。

 

「それから色々あって、私は織莉子に一生付き従う事に決めて、そして魔法少女狩りを始めた」

「……」

 

 似ている。自分とキリカ、そしてほむらも似ている。そうつぼみは感じた。

 今でこそかなり明るくなっており、誰にでも話ができるようなつぼみではあるが、元々は引っ込み思案というか臆病というか、とにかく自己主張を行うのが難しい人間であった。

 そんな彼女を変えてくれたのはあの街で、えりかに出会ってから。それからプリキュアになり、たくさんの友達を作れるようになって、いつのまにか今の花咲つぼみになることができた。とはいえ、時たま引っ込み思案な彼女が顔を見せたりはするのだが、それも自分の個性であると今では好意的に受け止めている。

 自分はえりかに会って、プリキュアになることによって変わることができた。

 キリカは織莉子に会って、魔法少女になることによって変わることができた。

 ほむらはまどかに会って、魔法少女として戦うことにより変わってしまった。

 自分の人生を変えてくれる人間に出会うことができた。そこまでは同じであったというのに、なった者が違うだけでここまで人生が変わるのか。改めて思い知らされてしまった。重ねてつぼみは思う。自分は、なんとも幸運な出会いをしたのだろうかと。そして、改めて思う。自分たちは、なんと幸運であったものかと。

 だからこそ思う。辛いはずなのだと。いくら願いで性格が変わったとしても、その本質は変わっていないはず。辛いはずだ、苦しいはずだ。先ほど彼女の口から出た地獄の話がその証拠。間違いなくキリカは罪悪感にさいなまれているのだ。

 

「織莉子は言ってた。自分が生きる意味が知りたいって。それがQBに託した願いなんだって。父親に、友達に、学校に……世の中の全てに裏切られた自分が、父親の娘としてしか見てもらえていなかった自分が生きる意味を知りたいんだって、だったら私は織莉子の願いを……」

「そのために、自分の心を犠牲にするんですか?」

「……間違ってる?」

「方法なんていくらでもあったはずです。なのに、人類の救済なんて建前を付けて……魔法少女を殺すなんて……どれだけ大きな大義があったとしても、人殺しという手段を取ってはいけないんです。それは、人が一番やっちゃいけない事なんです!」

「……」

 

 キリカは目をつぶった。まるで、彼女の言葉を噛み締めるかのように。

 彼女の言い分は確かにもっともな話。どうして自分たちは魔法少女を次々と殺していたのか。そもそも少女たちを殺す必要があったのだろうか。

 織莉子は、魔法少女を殺す理由について鹿目まどかを上げていた。彼女の言い分では、魔法少女が次々と魔女となれば、その分魔法少女たちの負担が大きくなり、その何人かが魔力の使いすぎて魔女になってしまうかもしれない。もしその何人かのうちに鹿目まどかがいたら、その瞬間強力な魔女が産まれて世界は終わる。だから、魔法少女の数を少なくして魔女の数を減らさなければならない。そう彼女は言っていた。

 でも冷静に考えたらそれはあまりにも遠回りな発想だ。第一、もしも鹿目まどかを魔女にしたくないというのならば鹿目まどか自身を殺せばいいだけの事。

 この疑問に関して織莉子は言った。鹿目まどかの力は自分たち二人がかりで戦っても比べ物にならないほどに強く、また彼女には優秀なボディガードのようなものがいるため直接戦っても勝ち目がないのだと。だから、魔法少女を狩ることによって遠回りにでも世界を救わなければならないのだ。

 

「確かに君の言う通りだ。けど、もし私たちが動かなかったら、とっくの昔に地球は滅んでいた」

「え?」

「私たちが、無差別に魔法少女を殺してるって思ってたの?違う。未来で鹿目まどかとたたかう魔女になる魔法少女を殺してたのさ……まぁ、あまりに選別しすぎると今度はグリーフシードが無くなってダメになるんだけどね」

「それじゃあ、これからもまどかと戦うはずの魔法少女の子たちを殺していくんですか?」

「……いや、今日で終わりだと思う」

「え?」

「今日で終わりってどういうことですか?」

 

 シプレが聞いた。だが、彼女は何も答えなかった。いや、よく見ると眼帯のしていない方の目から何かがこぼれる。あれは、涙か?

 

「キリカ?」

「フフッ、変だと思うよ。他人を殺しても涙が出なかったのにさ、いざ自分が死ぬかもしれないって思ったら……泣けるんだからさ。……さようなら、つぼみ」

「え?」

 

 その言葉を最後に、キリカの姿が消えた。それと同時に、結界もまた同じように消える。魔女を逃がしてしまったか。いや、この様子はどちらかというと結界がキリカに付いていったと言った方が良いのかもしれない。

 だが引っかかる。自分が死ぬかもしれないとはどういうことなのか。織莉子の未来予知で自分が死ぬ、それもあの様子だと今日中に、それを知ったというのだろうか。

 何故だろうか。なんだかとても嫌な予感がする。もしかして、自分はなにか大切な事を見落としているのだろうか。

 

「とにかく、なぎさと合流して逃げた魔女を……」

 

 つぼみは、もう一方のほうの魔女を追ったなぎさと合流するために後ろを振り返ろうとしたその時である。

 

「つぼみ……」

「え?」

 

 なぎさの声。か細く、消えそうなほどに小さなその声の意味を考えるまでもなくつぼみは振り返った。そこにいたのは……。

 

「……」

 

 泣いているなぎさ一人。

 

「なぎさ?どうしたんですか?」

「私は……自分の事を全く知りませんでした」

「え?」

「百江なぎさという一人の少女は5年前のあの日に……もう、死んでいたんです」

 

 死んでいた。それは、魔女になったことで死んだという意味なのだと思う。だが、そんなことはすでに承知なこと。だから、魔女となったなぎさをソウルジェムに戻した後に、えりかがなぎさの身体をQBに願った。

 

「でも、生き返った、魔女から元に戻ったじゃないですか」

「違うんです……」

「え?」

 

 つぼみは、彼女の言葉の意味が分からなかった。違うとはどういうことだ。だったら、今自分の目の前にいるなぎさは何だというのだ。つぼみはそう聞いた。すると、彼女は涙を目に浮かべたまま言う。

 

「私は……人間じゃないんです」

「え?」

「私は、百江なぎさの魔女が産んだ使い魔が成長した姿。魔女が親だというならいわば子、だそうです」

 

 つぼみはなぎさのいう言葉の意味が理解できなかった。魔女が産んだ使い魔が成長したのがなぎさ?確かに、マミからは以前使い魔が成長したら魔女と同じ姿になるというような話を聞いた。その魔女もオリジナルの魔女と同じくグリーフシードを産むから、悪い魔法少女の中にはグリーフシード目当てのために、使い魔が人を何人も殺して成長して魔女となってから倒すのもいるのだとか。

 

「あの日、つぼみとえりかが倒した魔女は、元々の魔女の使い魔が成長した姿だったんです。だから、そのグリーフシードから再生された私の魂は……偽物なんだそうです」

「だそうですって……それは、誰から聞いたんですか?」

 

 なぎさのその発言から、それに自分自身で気がついたわけではなく、誰かから聞いたというような表現に見える。つぼみは、それを誰が言っていたのかについて聞いたのだ。すると、なぎさはか細い声で言う。

 

「織莉子です……」

「織莉子さんが……」

「でも、それはなぎさを混乱させるために織莉子のついた嘘なのかも知れないです!」

 

 シプレの言い分はもっとも、というよりもそちらの方が高いだろう。自分たちと織莉子たちは敵対している関係。彼女がなぎさを混乱させるために嘘の情報を流したという可能性はあるはずだ。しかし、なぎさは首を振っていった。

 

「それだけじゃないんです」

「え?」

「その少し前からなぎさは……違和感を感じていたんです」

「違和感?」

「はい、過去の思い出が鮮明に、まるで写真のようにすぐに思い出されたり、大好きだったチーズケーキの味もまるでひきだしを開けたようにすぐに頭に出てくるんです」

「……」

「それは、全部百江なぎさという一人の少女の記憶だった。なぎさは、いえ使い魔の私はそれを全てインプットされて百江なぎさの肉体を奪ったんです。私が魔女になったのが美空市だったのに、はるか遠く離れた見滝原にグリーフシードがあったのはそれが原因だった」

「……」

 

 つぼみは言葉が出なかった。まさか自分たちが助けたなぎさは、使い魔から成長した者だったとは。でも……。

 

「でも、なぎさはなぎさです!」

「……」

 

 シプレがそう叫んだ。しかし、彼女は何も言わない。それに続いて、つぼみも言う。

 

「そう、確かになぎさはすでに死んでしまっているかもしれません。でも、そのなぎさの記憶や思い出を全部受け継いだあなたも、百江なぎさなんじゃありませんか?」

「……」

 

 オリジナルであった百江なぎさは死んだかもしれない。でも、その百江なぎさの記憶を受け継いだ目の前にいる彼女が、本当に百江なぎさとは別人であると言えるのだろうか。果たして、オリジナルとは、偽物とは何なのだろう。過去に死んだ人間がオリジナルであるという事が紛れもない事実であるかもしれない。しかし、今つぼみ達の目の前にいる百江なぎさは、そのオリジナルの残した物を全て引き継いだ一人の人間である。魔女という化け物でも、使い魔でもない。今まさに、そこにいるのはヒトというこの世で最も感情があって、そして慈悲深い生物なのだ。

 

「だからなぎさ……」

「つぼみ、シプレ……」

 

 だが、それでも彼女は止まらない。止まることができない。抑えることができない。

 

「えりかに、伝えて下さい。私を生き返らせてくれてありがとう……それと、ゴメンって……」

「え?」

 

 どんなに言いつくろっても、綺麗事であったとしても、自分自身が元は怪物であったという事実が変らなければ、彼女の心を救う事にはならなかったのだから。

 その瞬間、怪物として生まれ、怪物として生き、人間に生まれ変わって生きた一人の少女は……。

 

「なぎさ!!」

 

 またも怪物となる。これは、必然の出来事であり、逃れることのできない真実である。

 美樹さやかと百江なぎさ。二人の魔女化により、美国織莉子の計画は次のステージへと移行する。




 織莉子とキリカの魔法少女狩りの原作での目的がQBにまどかを見つけないようにするための目くらましだった。だったら、すでに魔法少女であるこの世界での二人の魔法少女狩りとは何なのか?という今まで自分が考えあぐねていた答えを提出した所存であります。

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