映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
マミの部屋がある高層マンション。そこに、最初に現れたのは杏子だった。
「おい、帰ったぞ」
「おかえり杏子!」
その声と共に、リビングの方からゆまが玄関へと走り寄ってくる。杏子は、ゆまの目線に合わせるようにしゃがみこむと言った。
「あぁ、ありがとな、待っててくれて」
「?うん!」
杏子はいつも思う。やはり帰る場所があるというのはいいことだなと。誰かが待っていてくれるから、自分はそこに帰ることができるということ、今回の戦いではそれを学んだ気がする。
杏子がリビングに行くと、そこにはシプレとコフレ、そしてなぎさの姿があった。なぎさは杏子の姿を見ると言った。
「おかえりなさい、あれ?さやかはどうしました?」
「あぁ、さやかはちょっと野暮用があって、すぐに来るだろ」
「そうですか……」
仁美のことについては今は話さないように、全員が集まってから話そうと杏子は思っている。そして、周囲を見渡して言った。
「マミ達はまだなのか?」
「はい、杏子が一番乗りです」
「ふ~ん……」
シプレがそう言った。よく考えると、工場はここから近い位置にある場所だった。そのため移動距離と時間は自分とさやかの組が一番短かったのだろう。杏子はいつもの三角テーブルに着くと、なぎさの淹れてくれた紅茶を飲む。今日の紅茶は少し苦いと、彼女は思った。
「ただいま~」
「あら、今日は早かったわね」
「まぁ近かったからな」
それから間もなく、えりかとマミのコンビが帰ってきた。マミは帰ってくるなり台所へと直行し、えりかはゆま&妖精ズの所へと向かう。
それから十分ほどしてまどかとつぼみも帰り、そのすぐ後にさやかも帰ってきた。これで全員集合だ。皆でテーブルにつき、いやゆまは隣の部屋で寝に入り、なぎさとさやかはソファーに座った。そして、全員に紅茶が行き届いたところを見てマミが言う。
「それじゃ、今夜の報告をしましょうか。まず、私と来海さんのグループは魔女を一体倒して、グリーフシードも一つ手に入れたわ。と言っても来海さんだけだけれど」
「ううん、マミさんのリボンがなかったらダメだったかもしれない……それでさつぼみ」
「はい?」
話を切ったえりかは、つぼみの方を向いて言う。
「あたしさ、今夜の戦いで思ったんだ……帰ったらゆりさんやいつきに魔法少女の事話そうって」
「え?」
「あたしたちってさ、やっぱりまだ半人前じゃん。一人だけで魔女と戦うのはちょっと厳しいかなって……だから、正直に二人にも話して、一緒に戦ってもらおう」
「えりか……でも……」
えりかの言うことももっともだ。自分たちは魔法少女として戦うには、まだ慣れないところがある。今夜も、まどかの手助けと励ましがなかったら自分は今この場にはいないだろう。
しかし、だからと言って毎回毎回えりかと一緒に行動していたのなら、最初の懸念事項である妹と一緒にいる時間が無くなるということへとつながってしまう。だからこそ、仲間であるゆりやいつきの手助けが必要なのだと彼女も思っていた。しかし……。そこにえりかがつぼみの手を掴んで言う。
「つぼみはさ、怖いの?」
「え?」
「勝手にプリキュア辞めて、それを何も言わないのにこのまま友達を続けてていいのかなってさ」
「……はい」
どちらかというとえりかの言う通りなのだろう。もし二人に正直に話して、それで友達でいられなくなったらどうしようと。そうなったら、たぶん自分は瞬時に魔女と化してしまうのではないだろうか。
今回妹のふたばの一件でも分かる通り、つぼみの心は強いように見えて実は脆いものである。元々弱気だった性格も相成ってふとしたことで簡単に折れてしまう。ほとんどの女性はそうであるが、それはつぼみにも当てはまることだった。えりかは言う。
「でもさ、つぼみも知ってるはずだよ。どんなことがあっても二人は誰かを見捨てるようなことはしないって」
「……」
はっきり言ってしまうと。簡単に誰かを見捨ててしまうような人間はプリキュアにはなれない。と思わせてしまうほどプリキュアは心優しき者たちの集まりだ。中には、例え敵だったとしても、戦うのはいやだと訴え、改心させてしまう者までいる。だからきっと大丈夫なはずである。
「だから、せめて帰ってからでいいからさ……ね」
「……はい」
えりかの言葉を聞いて、そしてつぼみはうつむき気味に小さく答えた。えりかの言葉を聞いて心が動いたのは確か、しかしその後決心がつくまでにはもうひと押し、あとは彼女の勇気が必要であった。
「そ、それじゃ次は私とつぼみちゃんだね」
「はい……」
「私たちも魔女を一体、グリーフシードは一個手に入れたよ」
「それと……痛みを消すのはもうやめようと思いました」
マミはその言葉にそう、と返す。痛みは身体を縛るデメリット。だが、だからこそ痛みは自分が今生きていると教えてくれる大切なものだ。その大事な信号を閉ざすことは、死と同意義に当たる。効率の悪さ等関係ない。ただ、生きているサインが大事な物であると彼女が知ってくれたことがうれしかった。
「んじゃ、最後は私達だな。こっちは魔女を二体倒してグリーフシードもニ個だ。それと、さやかから話がある」
「さやかちゃんから?」
「うん……」
そして、ソファーの上でくつろいでいたさやかは立ち上がって言う。
「あの、仁美がさ……魔女に操られて工場の方に来てたんだ」
「え……」
「仁美さんって確か…」
「同じクラスのあのお嬢様の……?」
「うん…」
仁美という名前にはつぼみとえりかにも聞き覚えがあった。今いる見滝原中学校で同じクラスの少女。えりかにとっては初日にまどか、さやかと一緒にファストフード店で買い食いしたこともある女友達だ。それ以降はそれほど接点はなかったのだが、どうしてその少女が……。
「仁美、習い事とか塾とかで参ってて……そこを魔女に付け入られたみたい」
「そんな……」
「私たちが心のよりどころだったらしいんだけれど……この頃魔法少女で忙しくて何もできてなかったじゃん」
「……」
まどかは思い出す。そういえば、最近は忙しさを理由に仁美とろくに話していなかった気がする。主に学校でもそれ以外でも魔法少女としてこれからどうするかとかを話すことが多かったから、一般人である仁美をそういった話し合いに参加させるわけにはいかなく、内輪だけでの会話が多くなっていた気がする。
「それで、仁美を助けて、でさ……」
さやかはそこで一度言葉を詰まらせて、決心したように言葉を紡いだ。
「私、魔法少女の事仁美に話しちゃったんだ」
「え……」
「仁美、泣いてたよ……友達が危険なことしているんだからさ……当然だよね……」
「……」
「でもさ、仁美言ってくれたよ、応援してるって。いつか、私たちが死んじゃっても絶対に忘れたりはしないって言ってくれたよ」
「そう、なんだ……」
それは、まどかにだけ対して言っている言葉ではない気がした。つぼみ、そしてえりかにもその言葉を言って聞かしているようにも思えた。それが本当の友達なのだろう。例え、どれだけ自分達と違う人間となってしまったとしても、心の内は同じ、人の心を持っているのだから。そして、杏子が言った。
「主だったことと言ったらそれぐらいだな」
「そう。それじゃ、今日の所はこのあたりで解散しましょうか」
そう、マミがしめた。それぞれのソウルジェムを確認し、まだ濁りはまだ余裕があることを確認するとお開きとなった。こんな感じで、魔法少女の日常は過ぎ、そして次の朝を迎えるのだ。
そして、魔法少女として別の日常を送っている少女がここにも一人。
「ここにもいい武器があるわね、もらっていくわ」
ある自衛隊の駐屯地。武器や弾薬が置かれている倉庫に、その場には不釣り合いなほどかわいい声がする。
「くそ……」
「ッ……」
そんな少女の後ろには、二人の子供が倒れている。今夜どこかの自衛隊の駐屯地で盗難があるということは分かっていた。しかし、何故かは分からないが場所まで特定することができなかった。そのため、できる限りの特務エスパーで様々な場所に配置されている駐屯地の防衛に付いた。自衛隊員もできる限りの注意を払っていた。しかし、彼女はそれらの防衛網を搔い潜って、ついにその倉庫の中にまで侵入されてしまった。今までに同じように自衛隊の駐屯地に潜り込まれることはあったが、ここまで注意喚起を促していたというのに、そして特務エスパーである自分たちが守っていたというのに、大失態以外の何物でもない。
特務エスパーであるバレットは、腰のホルダーに残っている銃を体が痛みながらも取り出す。しかし、少女がそれを見逃すはずもなく、取り出した側から銃を持つ手を踏みつけて封じる。
「ァァッ!」
「余計なことはしないで。これ以上痛められたくないでしょ?」
その言葉と共に少女はそのまま蹴り上げる。その衝撃でバレットは手に持った銃を手放してしまう。少女は、それを一瞥するとすぐに翻して武器の方へと向かうしぐさを見せた。そして、バレットとティムの目には少女は消えたように見えた。その場にあった多くの武器と共に。
「完敗……かよ」
あっという間だった。自衛隊の人間から防衛ラインを突破されたという連絡を受けて、その後倉庫の扉が開いて、外から一人の少女が入ってきた。最初は何かの間違いかと思った。なぜなら、そこにいた少女はいたって普通な少女であると思えるほど体つきは細く、またたたずまいもそれほど怪しいところはない。左手に見たこともない盾のような丸いものがあったぐらいでそれ以外になにか特別的なものはなかった。
しかし、自分たちは負けてしまった。それも訳も分からないうちにだ。自分も、ティムも、何もできないまま地に伏してしまった。一体彼女は何者だろう。テロ組織、まさか黒い幽霊か。彼らは前の戦いで大きな打撃を受けた。力を蓄え始めているとしても不思議はない。だがあの超能力は何だ。瞬間移動能力者なのだろうか。だがあれだけの武器を一瞬の内に持ち出すことができ等超度6、いや7なのではないだろうか。見たところ彼女は日本人風だった。四人目の超度7だというのか。そんなことを考えながら、彼らの意識は暗闇へと潜っていった。
「この世界の自衛隊はいい武器を持っているわね」
彼女、暁美ほむらは駐屯地から離れた場所にあるビルの屋上でそうつぶやいた。今夜の収穫は上々である。武器庫の中に子供がいたことは気になったが、終ってみれば簡単だった。だが、今日の防衛線はかなり厚かったことから見て、マークが厳しくなっているのは明らか。もうそろそろ武器集めは潮時なのだろう。だが、もはや十分というほど武器を集めることができた。後は……。
「待ってなさいプリキュア……あなたたちを倒して、絶対に取り戻す」
ほむらはそして、夜の闇へと消えていった。