映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に   作:牢吏川波実

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計画通り


『ただいま』

「トッカ!!」

 

 えりかが苦戦しているころ、マミはリボンによって自殺を使用としている人たちを助けることに必死となっていた。

 

「この辺は、もう安心ね…」

 

 ここまで長時間に及んでいるのは、主に2つの理由がある。1つ目に、その量である。こんな深夜までここまでの人が残っていただなんて驚愕である。正気の人間が残っていれば、その人にとって自殺を止めてくれるかもしれない。しかし、そんな人間見たところひとりもいない。いや、もしいたとしても普通の人間の力じゃ、せいぜい2人ぐらいしか助けられないだろう。そのため、マミはビルとビルの間にリボンを橋渡しし、バンジージャンプなどでよく見かける網状のハンモックのようなものを形作っていく。これなら、下に落ちたとしても安全となる。だが、結局のところそれも問題に繋がる。そこに降りた人間も、所持しているカッターナイフ、ペンでも構わない。とにかく自殺に繋がる物を確実に持っているのだ。だから、マミは一人一人を縛り上げなければならいため、意外と時間を食っているのだ。

 

「来海さん…大丈夫かしら?」

 

 その途中、マミは結界に一人置いてきたえりかの事を気に掛ける。実際、1対1での戦闘は、マミにとってはもう慣れたものではある。しかし、えりかにとってはそうではない。大勢で戦うということによる安心がなくなってしまえば、待っているのは孤独感との戦い。今まで一人で戦ってきていないえりかにとってはまさに試練である。

 

「まだ、早かったかもしれない…ううん、あの子ならきっと大丈夫」

 

 マミは思う。えりかならきっと気づいてくれる。えりかなら絶対に間違えないでくれると。この試練の本当の目的は…。

 

「急がなくちゃ…」

 

 自分がずっと昔から過ごしてきたこの街で血しぶきなど上げさせてなる物か。そんな決意と共にマミは跳ぶ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 そのころ、えりかは絶賛大ピンチ中であった。

 

(やっぱりきつい…)

 

 当然であろう。空中を自由に飛びまわる一体の魔女と8体の使い魔など、えりかの今の実力では勝てるかどうか微妙なのである。前回、接近戦も遠距離戦も不可能であると書いたが、やはり針だけではどうにも攻め手に欠ける。ほかの魔法少女が応用できる武器ばかりであるのに対し、えりかの針では、刺すか殴るかくらいしか方法がない。あとほかの所持品と言えばマミのリボンぐらい…リボン?

 

「そういえば、マミさんの本当の武器はリボンだって…」

 

 それは、かつて河川敷で特訓していたときにまで遡る。確かにあの時、マミはマスケット銃は自分の武器ではなく、リボンの方が本来最初の武器であったと話していた。なんでも、リボンだけだと間合いや攻撃力において不十分であるため、それらを底上げするために生成しようとした結果が銃だったらしい。だが、リボンでは近代的な兵器を作るのは困難だったらしく、結果少し古風なマスケット銃となったそうだ。リボンと銃では、全く違うようにも思える。だが、それでも作ることができたということは、武器の生成はちょっとの無理が効くということである。原理としてはおそらく、リボンを筒状にしてマスケット銃に変化させ、弾はリボンを丸めて魔力を込めることにより形作り、発射するときも魔力を火薬代わりにする。これらのことによってマスケット銃という武器が完成したものと思われる。

 

(それじゃ、私も武器を変化させれば…でもどうしよう)

 

 武器を作る際、イメージが大事である。武器を変化させるというそのイメージにはかなりの時間がかかる。マミがベテランだったからこそできた技。それを、今、この場所ですることなどできるのか。いや、そもそも針などと硬いものを変化させて何ができるのだろう。だがやるしかない。この状況を打破できるのはそれしかない。えりかは考える。すぐにイメージできないのであれば自分の身近にあるものをイメージすればいい。身近にあるもの。

 

(考えないと、私の身近にあるもの…身近に…みじか……あっ)

 

 その時、えりかは自分の手の中にある裁縫針を見て思いついた。だが、結局のところそれも接近しなければできない事。

 

(でもだめ…それも接近できないと…ちょっと待った…!)

 

 動けなければ…。動く…。

 

「あるじゃん、動いてるの…」

 

 一か八かこれしかない。えりかは、裁縫針にリボンを括り付ける。今度は穴だけでなく、先端にも。えりかが思いついたのはほぼ運に頼り切った物。一歩間違えれば死んでしまう。が、これしか方法が思いつかなかった。えりかは決心する。

 

「つぼみ…みんな、私に力を貸して…」

 

 一応言っておくが、一人たりとも死んでいないのであしからず。

 

「ッ!」

 

 使い魔の一体が、えりかに向かってくる。だがえりかは動かない。心臓はバクバクと大きな鼓動を立てている。緊張しすぎて手には汗が滲んでいる。だが、彼女は逃げなかった。

 

「くぅ!!」

 

 えりかの声が少し響く。そして、使い魔は飛ぶ。砂塵の中から現れた使い魔の背中にはえりかが乗っていた。使い魔とえりかの距離が数cmとなったその時、えりかは跳びあがる。そして、使い魔の顔にリボンをひっかけ、自分は使い魔の背中に乗り、針を掴む。さしずめ、乗馬のような格好となった。えりかは、片手で針を持ち、もう一方の手にもう一つの針を出現させ、そして  

 

「こんな事ならロデオとかしとけばよかった!?」

 

 暴れ馬となった使い魔を操作しながらえりかは言う。だが、この手だけは離さないと。上に下に、時に地面にぶつかる衝撃に耐えながらえりかはその時を待つ。待つ。待つ。待つ。待つ。待つ。来た。使い魔が一体、横をすれ違う。

 

「来た!届えぇ!!」

 

 えりかは、片手に持った武器を振るう。だが、横をすれ違ったといっても、まだ距離はあった。だが先端だけでも、かすりさえすれば、えりかは必死で腕を伸ばす。そして…

 

「やったしゅ!」

 

 瞬間、使い魔の体に青い印が付く。同じようなことが6回。最後に、乗っている使い魔にソレを付けて、えりかは使い魔から飛び降りる。先ほどまでの針であったら今の攻撃はかすり傷程度にしかならなかっただろうし、現在形状を変化させたことによってかすり傷すらも付いていなかった。だが、印をつけたことには確実に意味がある。その結果はこれから明かされる。えりかは、ペン型に変化した方の武器を投げ捨て、先ほどまで使い魔の手綱となっていた針のリボンの結び目をほどきリボンを右手に括り付ける。そして、投擲のポーズを取る。だが、それでは動き回る使い魔相手には不利であるのは前回言った。いや、えりかには考えがあった。使い魔を捉えるぶっつけ本番の方法。成功するかは、まだわからない。

 

「三度目の正直ってね!いっけぇ!!」

 

 その声と共に、針を明後日の方向へと投擲する。その反動でえりかは地面に叩きつけられるが、そこは先まで何度も激突していた経験が生きて、うまく受け身を取ったことによりダメージはさほどなかった。一方針はと言うと、何もない場所へと進んでいき、そこには、岩はおろか使い魔の姿はなかった。だが、針は突然方向を変えて、まっすぐと別の場所へと進んでいく。そして当たったのは使い魔の背中だった。

 

「やった!!」

 

 針はそれで止まらず、貫通し、また別の方向へと飛んでいく。そこにはまたも一体の使い魔、それも貫通して次々と使い魔を貫いていく。そして、最後の一体の体を貫いたとき、針はその動きを止めた。針が貫いたのはどれもあの印があった場所である。えりかは一体何をしたのか。その答えは、えりかが変化させたその武器にあった。今も空中に浮いている先端が青色に、逆側がブラシ型になったソレは、裁縫の世界ではこう呼ばれている、『チャコペン』と。裁縫の際、ボタンの位置や縫い目線などの印をつけるために使用されるそれである。えりかはそのチャコペンの用途を元にした武器を作り出したのである。つまるところ、えりかが使い魔に付けた印はインクでつけられたものではなく、いうなれば魔力の残存だ。えりかの放った針は、動脈に向かって飛ぶ蚊のように魔力の跡を追って飛んでいったのである。余談だが、この技は後にマミ等によって『大海の仕立て屋(サルティネロセアーノ)』という名前を付けられるわけだが、結局えりかはその名前を最後まで覚えることはなかった。

 

「!!!」

 

 仲間の使い魔が倒された魔女は、えりかに向かって直進する。だがえりかはそれを待ってましたと言わんばかりにリボンを右手に巻き付けるように所持し、反対側のリボンの端を左手で持つ。そしてしばらくして、えりかに到達した魔女はその手に持った武器を突き刺そうとする。が、それを寸でのところで変わり、逆に今度はその魔女の腕にリボンを巻き付ける。これで、えりかと魔女は、お互いにリボンでつながった状態となった。そう、それは以前つぼみがほむらに使用した戦法である。これならば、魔女とえりかは一定の距離感の中で戦うことが可能となる。

 

「やるっしゅ!」

「!!」

 

 えりかは左手に針を出現させ、魔女を突き刺そうとする。しかし、魔女は巻き付かれた方に持っていた武器をすかさず右手に持ち替えて応戦する。一進一退の攻防と呼ばれるものだ。えりかの攻撃を魔女は退け、魔女の攻撃を同じくえりかもしのいで、だが先ほどのように縦横無尽に戦っていたときとは違い、機動力を失った魔女は、さして脅威ではないと思えた。

 

「はぁ!!」

「!」

 

 えりかは、魔女の武器とつばぜり合いになったタイミングで魔女の腹部に跳びあがって両足で蹴りを入れるドロップキックを繰り出す。魔女はその衝撃で吹き飛ぶが、それはリボンでつながれているえりかも同様であった。えりかは気が付いていないが、これがこの場所が月でも宇宙でもなく、正真正銘魔女の結界の中だと証明するものだ。詳しくは説明できないが、おそらく今のドロップキックを実際に宇宙でやると、それほど強いキックが出せないはずなのだ。もし出せたとしても、えりかは魔女が吹き飛んだのとほぼ同じスピードで後ろに跳んでいくはずである。何故、なのかは知らないがたぶんそうだ。魔女の態勢は崩れていて構えることもできない。今しかない。えりかは、リボンを巻き取るように右手を回し、魔女とに確実に針を突き刺せる距離、魔女が避けられないであろう距離まで近づいた。そして、

 

「いっけぇぇぇ!!!!」

 

 えりかは、魔女の中心に針を突き刺す。針は魔女を突き抜け、その先の地面へと突き刺さり止まる。えりかは、休むことなく針をさらに数本出してそれらを魔女に突き刺していき、終ったその時にはまるで剣山のように針が突き刺さっている状態となっていた。

 

「!!!」

 

 瞬間、魔女の体にひびが入っていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 魔女に絡みついたリボンはほどけ、伸び続けたリボンは、元の短いサイズへと戻っていく。

 

「…っっっ!!!」

 

 そして、魔女は崩壊した。崩れ落ちていく魔女の体を見ながらえりかは思う。やっぱり、自分は一人じゃ何もできないのだと。もしもリボンがなかったら使い魔相手にあのような行動もとれなかったし、魔女との戦い方もつぼみの話から閃いたものだ。結局自分は、誰かの助けがなければ魔女一体倒すことのできない弱い人間なのだと。そして、えりかは気が付いた。そうかこれが…

 

「マミさん…もしかしてこれを教えたくて…」

 

 自分を一人にした理由。それは…。魔女の体が完全に崩れ去ったのち、グリーフシードが落ちてくる。それを拾った瞬間、結界も崩壊を始めていく。そして現れたのはコンクリートジャングルと、真っ暗な何も見えない空であった。

 

「…帰ってきた」

 

 両方の狭い道には、気絶した人間。おそらく、魔女が消えたことによって洗脳のようなものから解かれて、気絶しているのだろう。間違いない、自分は帰ってきたのだ。

 

「来海さん、大丈夫?」

「マミさん…」

 

 その時、マミが上からやってくる。マミも、魔女の口づけが亡くなったことからえりかが魔女を倒したのだと分かって、駆け付けたのだ。

 

「…リボン、ありがとうございました」

「いいのよ」

「それから…」

「ん?」

 

 えりかは、一度口を閉じて、少し考えた後決意したように話す。

 

「私、帰ったら友達に全部話す…それで、また一緒に戦ってくれるように頼んでみる…」

「そう、よかった…私と同じ道を歩まなくて…」

 

 マミは、その言葉を望んでいた。自分は、結局一人で戦うことしかできなかった。杏子が離れていくときも、引き留めることができなかった。一人で戦うことの寂しさ。だれも頼れるものがいない悲しさは彼女がよく知っている。それをえりかたちに味合わせたくなかった。今回の試練は、頼れる仲間がいる事がどれだけ頼もしいことか。そして、どれだけ自分が拒否していたとしても、仲間が助けてくれることがどれだけうれしいことなのか。それをただ、教えたかった。

 

「それじゃ、帰りましょうか」

「はい」

 

 そして二人は帰っていく。仲間たちの元に。友達の元に。

 人は一人で生きられない。それは、数多くのきれいごとの中でも数少ない真実である。だから人は人を求め、人は人といることを望む。だから彼女はソレを選んだのだ。そして選んだ自分に絶望した。だが、絶望から立ち直ろうともした。たった一度の絶望がなんだ。世間の目がなんだ。犯罪者としての経歴がなんだ。結局は自分の気持ち。たとえどれだけ地べたを這いずり回っても、泥水で口を漱いだとしても、諦めずに、ただ前を向いて歩いていけばいい。そしていつか、心の中で決心がついたら言えばいい。どれだけ自分がそれを拒否していても、自分を待っていてくれている人がいる、その場所にたどりついたら言えばいい。ただその一言を。

 

 

『ただいま』




恥ずかしがり屋の魔女
ナターリエ
性質は鈍感

実は本来ならえりかが一人立ちできるようになるというものが結論になる予定でした。けど、なんか違うなと思って書き換えたら、ひとりぼっちになったらだめという結論になりました。これによって頭の中にある今後のストーリー展開に矛盾が生まれてしまいましたが、でもなんとか修正していく予定です。
前書きはあることが予想していた展開となってくれたため。

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