映画 プリキュアオールスターズVS魔法少女まどか☆マギカ 悠久の絶望は永久の希望に 作:牢吏川波実
「花咲さん!」
「看護師さん…」
「ふたばちゃんの容体が…」
「!!」
つぼみはその後、どうやってPICUの前に来たのかは覚えていない。気が付いたらガラスを隔てた向こうでで人工呼吸器を付けられたふたばと、その近くで多くの医者や看護師がいる様子、そして自分の隣には母のみずきがいた。
「ふたば!」
「つぼみ!!」
そこに、えりかたちが来る。
「ふたばちゃんは…」
そう言いながらえりかはふたばを見る。だが、多くの医師や看護師が作業している様子は、素人が見ても危険な状態だと思われるものであった。そのうち、心電図の波形がだんだん弱まっていき、バイタルの数値も小さくなっていく。
「ふたば…っ!!」
「つぼみ…!」
つぼみはPICUから走って出る。みずきの目にはつぼみが出ていく直前、転びそうになっているように見えた。えりかたちもまた、それに続いて外に行く。みずきはそれを止めなかった。当然のことだと思ったからだ。自分の妹が死ぬかもしれない、そんなの見てるのも辛いから出て行ったのだと思った。だが、えりかたちは違った。確かに見えたのだ。彼女が出ていく直前、地面にいたQBを持ち上げたことに。
病院の屋上そこは庭園になっていた。色とりどりの花や、草があり、そこに向かって石畳が敷かれていた。今の時間はそこに人影は見えないが患者のリハビリスペースでもあり、癒しの場でもある。昼間ならココから遠くのビルが見えるのだ。今は、夕方から夜に変わろうとする時間帯なので、薄らとビルに明かりがついているのと、きれいな夕日が見える。そこに一人の少女がドアから飛び出してきた。
「QB、お願いします…」
「前例があるとはいえ君みたいな少女は珍しいよ。真実を知ってもなお、契約しようとするなんて」
つぼみはQBと契約し、ふたばを治してもらおうとしていた。そこにまどか達が駆け付ける。
「だめだよ!つぼみちゃん!!」
「そうだよ!契約したらつぼみは…」
「もう、昨日から決めていたことですから…」
「でも、昨日とは状況が違うですっ!」
「つぼみ!」
「花咲さん!」
「それでもっ!」
皆のその否定する言葉を大声で遮る。そして魔女の結界でまどかに向けたのと同じ笑顔で、そして目に少しの涙を浮かべて。
「私、ふたばのお姉さんになりたいんです」
「え…?」
兄弟や姉妹というのは、名称の上での話である。血のつながっていない赤の他人であっても兄弟に、姉妹になることもできる。つぼみはまだ、ふたばから姉であるとは言われていない。だからまだ自分はふたばの姉ではないと考えていた。このまま、ふたばが死んでしまったら、姉になるチャンスが奪われてしまう。姉として妹の成長を見たい。妹を守ってやりたい。妹と一緒に生きたい。そのためだったら、つぼみは悪魔に魂を売ることにためらいはなかった。
「決心はついたかい」
「はい、私の願いは唯一つ。ふたばの身体を健康にしてあげてください!」
「契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した」
それは幻想的な光だった。つぼみの胸にQBが耳毛を置いた瞬間、つぼみの胸から光が現れる。まどか達現魔法少女はその光景を一度見たことがあった。その時は気が付かなかったがソウルジェムが魔法少女の魂であることを知ってから改めて見ると、確かに胸のある位置は心臓の位置、つまり魂の位置であることが理解できた。
「つぼみ!!」
ソウルジェムが生成された後、つぼみは後ろにゆっくりと倒れる。
「つぼみ、大丈夫!?」
「は、はい…これが私の…」
「そう、受け取るがいい。それが君の運命だ」
それはまどかと同じ、そしてプリキュアとしての色と同じピンク色の宝石であった。それが壊れた瞬間、自分も死ぬ。その重みは実際に持ってみる以上の物であった。そして、これが濁りきってしまうと、自分は魔女になり、呪いをまき散らす存在になる。その苦しみは想像を絶するだろう。だが、つぼみはそのことよりももっと先にやるべきことがあった。
「そうだ、ふたば!」
「あっ、つぼみちゃん!」
「つぼみ!!」
つぼみ、まどか、そしてシプレの二人と一体はPICUに向かっていく。それ以外は、その場に残った。
「花咲さん、契約してしまったわね…」
「しょうがないよ、つぼみはあれで結構頑固だしね。…私もね」
「え?」
さやかはえりかの最後の言葉に疑問を覚えた。そして…。
「ねぇQB、ちょっと質問なんだけどさ…」
その時、一陣の風が彼女達の髪を撫でた。
「ふたば!」
「つぼみ…」
つぼみたちが先ほどのPICUの前まで戻って来た。みずきは医者の先生と話していたようで、ガラスの向こうのふたばの近くの看護師に先ほどの慌ただしさもなかった。そしてみずきのその目にはやはり涙が浮かんでいた。
「ふたば…は…あっ…」
その瞬間、みずきはつぼみに抱き付いた。
「…一命をとりとめたそうよ。それどころか、病巣も無くなったって…」
「それじゃあ…」
その言葉と同時につぼみの方に手を置いたまま、顔が離れていき、通常の距離感に戻る。そしてその目にたまった涙を、右手で拭き久方ぶりの笑顔をつぼみに見せた。
「そうっ、先生がもう命の心配はないって…」
「よかった…」
「奇跡が…起こってくれたの……」
「…はい!」
奇跡、その奇跡のためにつぼみが自分の人生をなげうったことを知らない。だからこそ、それを奇跡と呼ぶことができる。だが、奇跡は奇跡である。ふたばが治ったこと、そしてそのおかげで母に笑顔が戻ったこと、それは紛れもない。つぼみの祈りが生み出した誠の奇跡であった。
「つぼみちゃん…」
「まどか…ふたばが治ったって、もう命の心配はないって…」
「よかったね、つぼみちゃん…よかったね……っ」
まどかにはただつぼみを抱きしめてあげることしかできなかった。だが、つぼみはただまどかに祝福してもらえるだけでうれしかった。自分の祈りが無駄でなかった、その結果がうれしかった。ガラスの向こうでふたばはぐっすりと眠っていた。その顔は、天使の寝顔であった。それはつぼみが己を犠牲にして手にした、ご褒美だったのかもしれない。
それからしばらくして、ふたばは小児科の普通病棟に運ばれていった。みずきはそれに着いて行き、そこにいるのはつぼみ、まどかそしてシプレのみとなった。
「つぼみ…これからどうするです?」
シプレのその質問に、右手の薬指に指輪状に変化したソウルジェムを見ながらつぶやく。
「そうですね、まずえりかには…魔法少女になるのはやめてもらいましょう…」
「えりかにはえりかの人生があります…私に付き合って、それをふいにしてもらいたくは…」
「つぼみ」
その声が後ろからつぼみを直撃した。振り向くと、えりかたちがそこにいた。マミだけは魔法少女姿でリボンを出している。
「えりか…その魔法少女のことですけど…えりかは」
「そこまで、ほらこれ見て」
えりかは握っていた自分の右手を開く。そこには海のように深い青色のソウルジェムがあった。つぼみにはそれがえりかの物だとすぐに分かった。
「!えりか…」
「約束したじゃん、つぼみが魔法少女になるときは私もなるってさ」
「でも…」
約束だからと言って自分に付き合わせた罪悪感がある。だがえりかはそれを察したのか続けて。
「これ以上言いっこなし、つらいことは二人で分け合ったら半分になるでしょ」
「…えりか……」
「これから魔法少女もがんばろ、親友」
「…はい!」
えりかはいつもと変わらない笑顔を見せてくれた。それを見てつぼみは何も言えなかった。ただ先と同じ、大粒の涙がその目にあった。つぼみは、自分はふたばが病気になってから弱くなったなと感じた。思えばえりかと出会う前まで弱気だった自分を変えてくれたのはプリキュアとえりかだった。辛いとき、悲しいとき、いつも目の前にえりかがいてくれたことで史上最弱のプリキュアと言われた心の弱い自分は変わることができた。つぼみにはえりかが必要であった。二人は切り離すことができない、友達という関係を超越した関係になっていた。これから彼女達にどれだけの困難が待ち受けているのだろうか。だが、つぼみは思う、えりかといっしょなら何だって乗り越えられると。そういえば、とつぼみは思い出したようにえりかに質問する。
「えりかは何を願ったのですか?」
そう、えりかが魔法少女になったという事は何かをQBに願ったという事だ。いったい何を願ったと言うのだろうか。
「その前にさ、ほらこの子」
よく見るとさやかが誰かを背負っていた。その子はどうやら服を着ていないようであったが、マミがリボンでぐるぐる巻きにしていることが見て取れた。そのため肌の露出は顔以外一切ない。
「その女の子は誰です?」
「ほら、さっきの魔女の…」
「あっ…」
さっきの魔女、それは病院の前でまどかたちと一緒に戦ったあの魔女。彼女はその魔女の元になった魔法少女であった。
「それじゃあ…」
「そっ、QBに聞いたら、身体にソウルジェムを引っ付けるだけで大丈夫だって聞いてね」
「でも、この子の身体は魔女になった時に結界に取り残されて、使い魔に…」
「だから、救う事ができるんだったらって、この子の身体を」
「そうだったんですか…」
その女の子が服を着ていなかったのは、願いでよみがえったからだったのだろう。女の子は、みたところあどけなさが残る顔立ちで、どうみても自分達と同年代とは思えなかった。
「見たところ小学生ぐらいですね」
「小学生…か」
「そういえばマミさんも…」
「えぇ、この子も辛かったでしょうね…」
「これからは私達でこの子を支えていきましょう」
「という事でマミさん、これからもよろしくお願いします!」
「え?…私で、本当にいいの?」
マミはまどかのその言葉に驚いた。さっきまで自分を殺そうとしていた人間にまだ師事してくれるというのだから当り前であろう。
「あんなことを言われて、取り乱さない人はいません。マミさんは持ち直したじゃないですか」
「そっ、絶望を知った人って一番頼りになるんだってどっかで聞いたよ」
「…みんな、ありがとう……」
マミは、本当の意味で仲間を手に入れることができた。それは彼女が魔法少女になって長い間、欲していたものだった。少女の心というのはどうにもセンチメンタルでもろい。だが、そのセンチメンタルな心を乗り越えたその先にマミは仲間を手にできた。本当に自分のことを信頼し、そして共に歩もうとしてくれる仲間たちを。
「それじゃ、まずは魔法少女新人の二人を鍛えないとね」
「え?いやいや、私たちはプリキュアになれるから…へ?」
そう言いながら、えりかは懐からココロパフュームを取り出したが…。
「ココロパフュームが、砂になっちゃったです!」
「え、な、なんで!?」
手に取った瞬間砂になってしまったココロパフューム、そんな現象は今まで一度たりとも、あえて近い現象を言えば消滅したことがある。だが、その時はちゃんとした理由があった。が、今回の理由は推測も交えなければならなかった。
「私達が魔法少女になっちゃったからでしょうか…」
「魔法少女とプリキュアは両立できないってことかな?」
「もう、プリキュアにはなれないの?」
まどかは二人の心情を心配し声をかける。
「分かりません、でもいつかきっと…」
「そう、女の子は誰だってプリキュアになれるんだもん、いつかまた…さ」
それでも希望は失わない。なぜなら彼女たちは…。
「…私もいつかなれるのかな?」
「もちろんです!」
「です!」
まどかのそのつぶやきにシプレとコフレが肯定する。
「シプレ、コフレ、プリキュアじゃなくなっちゃったけど…」
「大丈夫です。えりかたちがプリキュアじゃなくても、僕たちはずっとえりかたちのパートナーです!」
「うん、これからもよろしくシプレ、コフレ」
「です!」
プリキュアではなくなってしまった、だが彼女たちがこれから生きていくことには違いない。辛い現実を受け止めた彼女達魔法少女、そしてあらたに魔法少女としての過酷な運命を背負う事になったつぼみたち、果たして彼女たちに未来が来るのだろうか。そしてその未来は明るいのだろうか。
この辺りで一通り書き溜めていたやつを出した感じです。
ここから先の構成は頭の中でできています。が、一度書いてみたけど、なんか納得いかないから今書き直ししている最中のため、待っていてくれるのなら僕に1週間だけ時間を下さい。