彫像が爆破されたことによって街の住人は驚いていたが、フルストラが連れて行かれたことはまだ誰も気がついていなかった。今のところ知っているのは俺だけ。ギルドの人にも言えなかった。
ふと見上げた彫像は途中で修復が止まっていた。恐らくフルストラの魔力が切れたからだ。一刻も早く助けに行かないと…だが俺では戦うことすらできない。どうすれば…一先ずレアに話そう…。
俺は自分の無力感から俯きながら、屋敷に戻った。部屋へ行くとレアが窓の外を眺めていた。
「おかえりなさい。何やら爆発があったようですが」
「あ、あぁ…実はそのことなんだけど…」
「…?」
「話すと長くなるけど、俺の目の前でフルストラがイズリクスっていう奴に連れ攫われた」
「連れ攫われたって…あなたはただ見ていたんですか?」
「あぁ…。戦う前から罠に掛かってた。今、俺の体には奴の爆発の魔法がかけられてる」
俺が自分の胸を指差すと、レアは近くへ来てまじまじと見つめる。
「…確かにありますね。そのせいで戦えなかったわけですね?」
「そうなんだ…。あいつの気分次第でいつでも爆発させられる。完全に命を握られてる状態なんだ…」
「では解除しておきますね」
「どうすればいい…?少なくともあいつに気付かれたら終わりだ。どうにかして見つかる前に倒さないといけない…けどそんなことが可能なのか…?」
俺は手を額に当てながら俯き考える。こんな無力な俺に出来ることがあるのか?むしろ足を引っ張ってしまうんじゃ…
「…ん?」
「どうかしましたか?」
目の前でレアは不思議そうに首を傾げる。
「今、なんて言った?」
「いや、だから爆発の術式を解除しておきましたって。困っていたんですよね?」
「普通に解除できんのかよ!?」
「な、なんですか。急に大声を出さないで下さい」
「なに普通に解除してんの!?俺は割りと死ぬ気で悩んでたんだけど!」
「普通にではありませんよ。女神の血を体に取り込んでいるあなただから簡単に出来たんです。他の人だったらこうはいきません」
「そうなのか…。ありがとな。今回は本当に助かったよ」
「今回"も"でしょう?世話が焼けるんですから」
やれやれと溜息をつくレア。レアのおかげで即、死に繋がる状態は逃れられたが、問題はフルストラの救出の方だ。
「フルストラを助けに行かないと…そもそもまだこの街にいるのか…?」
「いますよ」
レアが光の本を開きながら答える。
「イズリクスという人は分かりませんが、以前に会ったことのあるフルストラの居場所なら分かります」
「なぁレア…」
「はい?」
「もしかしてお前、凄い優秀だったりする?」
「今更ですね」
ドヤ顔がむかついたが黙っておいた。あとは…
「「ギルドマスターが攫われた!?」」
「しーっ!声がでかい!」
ギルドでサリアとメイルにも集まってもらって、今回のことを伝えると、当然ながら二人とも驚く。幸い、フルストラはギルドにいる間も他人とはほとんど接触しないようで、未だに気が付いている人はいないようだった。だが時間の問題だろう。
「にわかには信じられないが…あの彫像が修復されないのは気になっていた」
「私もですよ…。それで、どうするんですか?手伝えることがあれば何でも言って下さいよ」
「正直、一度、向き合って見たがあいつはまともじゃない。けど一つだけ俺達に有利なことがある」
「有利なこと?」
「ああ、奴は俺にまだ爆発の魔法がかかってて戦えないと思ってる。だから一度だけ奇襲が出来る。そこでだ…」
「…良い作戦だとは思うが、相手の力も分からない以上、危険すぎるぞ」
「そうですよ!それに私がワタルを…」
「気持ちは分かる。けど頼む。フルストラを助けるためなんだ」
頭を下げた俺を二人は心配そうに見つめる。
「大丈夫ですよ。そんなにやわじゃありません。人思いにやってしまえばいいんです」
二人とは対象的にレアは全く心配していないようだ。少しはしろよ、とは思うが。
「あぁ、任せてくれ」
サリアとメイルは顔を見合わせた後、静かに頷いた。