幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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手に入らなかったもの

 「あぁ、むかつくむかつくっ…!何よ偉そうに…!」

 

 街道を足音を鳴らしながら歩くアロレーヌ。怒りのあまりギルドを飛び出したが、まだ溜飲は下がらない。

 

 「ちょっとパーティを掻き乱してやろうと思っただけで別にどうしても入りたかったわけじゃないっての…!」

 

 「私の優秀さが分からないなんてほんと馬鹿…」

 

 「った…!」

 

 下を向きながら、ぶつぶつと呟いていた彼女はすれ違った通行人にぶつかり、歩みを止めた。

 

 「どこ見て歩いてるの!?気をつけなさいよ!」

 

 「は?そっちからぶつかってきたんだろうが」

 

 顔を上げると、ぶつかった相手は三人組の男のうちの一人だった。相手を確かめずに突っかかったことを少し後悔する。

 

 「…ふん、私、急いでるから。それじゃ」

 

 「おい、待てよ!」

 

 横を通り過ぎようとしたアロレーヌの肩を男のうちの一人が掴む。

 

 「手を放しなさい。今は機嫌が悪いの。どうなっても知らないわよ」

 

 「はぁ?どうなるってんだよ」

 

 「こういうことよ!」

 

 アロレーヌが杖を手に取り、相手に向け

 

 その途中で杖を持った手を掴まれる。

 

 「アホかお前、こんな近くで杖なんか振らせるわけねーだろうが」

 

 掴んだ手に力が込められると、痛みのあまり、杖を放してしまう。

 

 「痛っ…!放して!放してってば!」

 

 「うるせぇな…一回黙らせるか」

 

 腕が振り上げられ、アロレーヌは目を閉じる。

 

 痛みに声を上げたのは男の方だった。目を開けると、アロレーヌの方ではなく後ろを振り向いていた。

 

 「女の子一人に男三人ってのはちょっと格好悪くないか?」

 

 「…ワタル…?」

 

 「あ?誰だお前、関係ねーだろうが」

 

 「いや、それが…仲間の知り合いっていうか、さっきまでパーティメンバーだったというか…とにかく他人事じゃない。だから…」

 

 「ごちゃごちゃうるせーよ!お前から先に…」

 

 「やめろ」

 

 紅に染まった瞳で命令する。金縛りにあったように動きを止めた男を見て、残りの二人も俺を見る。

 

 「お前、こいつに何しやがっ…!?」

 

 目を合わせた二人も動きを止める。

 

 「悪い、しばらくすれば動けるようになるからさ。ほら、アロレーヌ、今のうちに逃げようぜ」

 

 俺は未だに状況が理解できないという様子のアロレーヌの手を取り、走り出す。

 

 「え、あ、ちょっと!どうして逃げるの!?あいつら動けないなら打ちのめしなさいよ!」

 

 一緒に走りながら物騒なことを言うアロレーヌ。

 

 「そうもいかないだろ。途中から見てたけどお前も悪いよ、さっきのは」

 

 「っ…!それはそうかもしれないけど…」

 

 しばらく走り、姿が見えなくなったところで足を止める。

 

 「あんまり無茶するなよな」

 

 「別に。私だけでも何とか出来たわ」

 

 「ほんとかよ、まったく…」

 

 走り疲れた俺は、壁へともたれかかる。

 

 「なぁ、なんでメイルにあんなこと言ったりしたんだ?別にあいつは何もしてないだろ」

 

 「あんなことって何?私は普通にしてただけだけど」

 

 「あれが普通ってのは無理あるだろ…。初めから様子がおかしかったしそれに…アロレーヌだってほんとはメイルを傷付けたりしたくなかったんじゃないか?」

 

 「っ…!あなたに何が分かるっていうの?落ちこぼれ同士が集まってパーティを組んでるあなた達なんかに…」

 

 アロレーヌは顔を伏せる。

 

 「あなた達と違って、どこのパーティでだって私は優秀だった。パーティの一員として全力を尽くしていたしメンバーとも仲良くしようとしてた!けど…」

 

 「表向きは仲良くしていても裏では私のことを悪く言ってた。『魔法の扱いが上手いからって調子に乗ってる』『誰かれ構わず愛想を振りまいて鬱陶しい』、色んな街のギルドでパーティを組んでみたけどどこでも一緒だった。どいつもこいつも自分より優秀だからっていう理由で毛嫌いする。私は何も悪いことをしてないのに…!」

 

 彼女の言葉には悲しみが籠っていた。

 

 「この街に来たのは偶然だったけどギルドでメイルを見かけた時は驚いたわ。村で一緒に魔法を習ってた時と全然変わってない…なのに彼女は楽しそうにパーティを組んでる。私がどれだけ求めても手に入らなかった物を持ってるのが妬ましかった」

 

 「だから壊そうとした!最低なのは分かってるわよ!けど嫉妬でおかしくなりそうだった…だけど、メイルには関係ないことよね…どうしようもないくらい最低だわ、私…」

 

 「…最低だな」

 

 黙って聞いていた俺だったが、これ以上聞いていられなかった。

 

 「…ごめんなさい。どのみちお父様の用事は終わったから私は今日でこの街を出ることになってるの。だからメイルにも謝ってたと伝え…」

 

 「え?何でアロレーヌが謝るんだよ」

 

 「何でって…」

 

 「俺が許せないのはアロレーヌの気持ちも考えずにありもしない中傷をした元パーティメンバー達だよ。理由を聞けて本当に良かった。もしまたこの街に来ることがあったら声を掛けてくれよ。その時はまたパーティを組もう。いや、今度は本当のパーティを組もう」

 

 「っ…」

 

 アロレーヌが驚いた顔をした後、瞳を伏せる。そしてもう一度開くと

 

 「ど、どうしてもって言うなら考えても良いけど!ただし今のままじゃ駄目ね。私に釣り合うくらいになっててもらわないと!」

 

 「ははっ、そうだな」

 

 「ちょっと、なんで笑ってるのよ!」

 

 

 

 

 

 

 「あっ…」

 

 「どうした?」

 

 街道を歩き、宿まで送っていた途中、思い出したように呟いた。

 

 「杖、置いてきちゃった…」

 

 「あ、悪い。気が付かなかった」

 

 「どうしよう…取りには戻れないわよね…」

 

 「まぁ、あいつらがいなくなった後で見てくるよ。今は代わりの杖でもいいか?」

 

 「代わりの杖?ワタルが持ってるの?」

 

 「そうじゃないけど、ほら」

 

 俺が指差したのは目の前の建物だ。通ったのは偶然だが、ここはメイルの宿の前だ。

 

 

 

 

 「ってわけだからアロレーヌに、メイルが使ってない杖を貸してやってくれないか?」

 

 「えっ、あっ、はい。もちろん良いですよ」

 

 突然の訪問にメイルは驚いたようだったが、話を飲み込むと部屋へ通してくれた。

 

 「こんな物しかないので申し訳ないですよ」

 

 メイルは立てかけられた杖の中から一本を取り出し、アロレーヌへ手渡す。

 

 「…作りが雑。しかもこれ火魔法に特化した杖でしょ」

 

 「申し訳ないですよ。うちにはこんな物しか…」

 

 「贅沢言うなよ。無いよりマシだろ?」

 

 「ふん、まぁ借りといてあげるわ」

 

 つっけんどんな態度を取るアロレーヌ。

 

 「なぁ、さっきまでと態度違くないか?どうしたんだよ」

 

 「メイルの前だと何かやりにくいのよ…!」

 

 「めんどくさい奴だな…」

 

 小声で話す俺達を不思議そうに見つめるメイル。

 

 「今日には街を出ちゃうんだろ?謝っとかなくていいのか?」

 

 「うるさいわね。言われなくたって…」

 

 「あの、二人とも何か変ですよ?」

 

 アロレーヌがわざとらしく咳払いをする。

 

 「メイル」

 

 「え、は、はいですよ」

 

 「その…何ていうか…今まで、私が…あなたに……~っ!」

 

 アロレーヌが手をついて立ち上がり、メイルを指差す。

 

 「精々、パーティの足を引っ張らないことね!」

 

 ビクンと震えるメイル。溜息を付く俺。顔が真っ赤のアロレーヌ。ほんとにこいつは…

 

 「それじゃ!私、もう行くから!」

 

 「え、ちょっ、待てよ!悪い、ありがとな、メイル」

 

 そそくさとメイルの部屋を去ったアロレーヌを追いかける。既に彼女は宿を出ており、街道を見回すと、居た。

 

 「あぁ…やっちゃった…どうして素直に言えないんだろう、私…」

 

 街道脇にうずくまり、小さくなりながらぶつぶつと呟く彼女。自分でも嫌になる程の自己嫌悪に見舞われている。

 

 「まぁ、その…頑張ったよ。今日もう行っちゃうんだよな?俺からメイルに言っとこうか?」

 

 「それじゃ駄目よ」

 

 蹲っていたアロレーヌが立ち上がる。

 

 「今度会った時にちゃんと自分で言うわ」

 

 「うん、そうだな。それが良いと思うよ」

 

 こういうところは律儀なんだな。あとは素直にさえなれればメイルとも上手くやっていけるだろうに。

 

 「あなたにも迷惑かけちゃったわね」

 

 「どうってことないって。気にしなくていいよ」

 

 「…ありがとう」

 

 「え?」

 

 小さく呟く。

 

 「何でもないわ。それじゃ、私はもう行くから」

 

 「あ、あぁ…またな」

 

 俺は、メイルに借りた杖を背中に掲げて歩き出したアロレーヌを見送った。その後姿が一瞬、メイルと被って見えたのは見慣れた杖を提げているからだろうか。いや、違うか。きっと二人の根幹にある部分が似ているからだ。きっとその事に自分でも気が付いたから素直になれないんだろう。だけど次は言えるといいな。そうすればきっと…


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