翌日、ギルドへ行き、俺とレアは、サリアとメイルと合流する。ここまではいつも通りだが…
「アロレーヌはどうした?」
「まだ来ていないようだ」
「おっかしいなぁ」
時計を見ると既に集合の時間は過ぎている。もしかして、来る途中で何かあったのだろうか。
「ごめんね~、遅れちゃった」
「お、来た。大丈夫か?何かあったのか?」
「ううん、別に。ちょっと身嗜みを整えてたら思ったより時間がかかっちゃって」
悪びれもしないアロレーヌに少し違和感を覚えたが初めてなのだから仕方がないだろう。俺は自分にそう言い聞かせる。
「それで?もう行くクエストは決めてある?」
「まだだよ。みんなで決めようと思ってさ」
「そうなんだ。私は別に何でもいいから、次からは先に決めといてくれる?」
「そうか…?分かったよ」
それから俺達は適当なクエストを選び、クエストへと出発した。アロレーヌが加わっての初めてのパーティなので比較的簡単な物を選んだ。
だが、そんな気遣いは不要だった。不得意な魔法がなく、状況に合わせた魔法を使える彼女の働きは十分すぎるものだった。今までがおかしかったのかもしれないが安定して戦うことの出来るメンバーが一人増えただけで戦闘がとても安定する。ただ、気になるのは…
「メイル、そっちに一匹行ったぞ!」
「はいですよ!」
小さな猪型のモンスターが突進して来るのを見て、メイルが杖を構えて詠唱をする。そして、杖を突き出し
相手は炎に包まれた。けれどまだメイルは魔法を発動していない。少し離れた所からアロレーヌが杖を向けていた。
「大丈夫?私に任せてもらえばいいから」
気がかりなことはアロレーヌが仲間を頼ろうとしないことだ。いや、正確にはメイルを、だ。同じ魔法使いが二人居れば役割が被ることもあるだろうが、分担して行うこともできるはずだ。しかし、彼女にはその様子が見られない。
それでもクエスト自体はスムーズに進んで行く。俺も他のパーティを組んだことがないので何とも言えないがこれが普通なのだろうか?
結局、小さな違和感を抱えたままクエストは何事もなく完遂された。クエストを終え、ギルドへの帰り道でアロレーヌが上機嫌で口を開く。
「どうだった?私、ちゃんと役に立ってた?」
「あぁ、凄く助かったよ。魔法の扱いも上手いしな」
「ありがと。でもこれくらいの魔法の扱いなんて出来て当然だから」
「そんなことないって、俺が知る中じゃ一番じゃないか?」
俺の言葉にアロレーヌがキョトンとした顔をした後、大きな声で笑いだした。
「もしかして、メイルと比べてるんじゃないよね?やめてよもう!あぁ、笑いすぎてお腹痛い…」
「いや、別にメイルと比べたわけじゃ…」
「村の中でも劣等生扱いだったその子と私を比べないでよ。流石に不愉快だわ」
「っ…!」
顔を逸して話を聞いていたメイルがアロレーヌへ、わずかに紅潮させた顔を向ける。それ以上言わないてくれというのが表情から伝わってくる。
「なにその目、私が何か間違ったこと言った?」
「その…皆の前で昔のことは…あまり言わないで欲しい…ですよ」
「あー、はいはい。ちょっとくらいいいじゃない、もう」
話しているとギルドへと着いた。しかし、アロレーヌはギルドの入り口で立ち止まった。
「それじゃ報告しといてくれる?報酬は明日に渡してくれればいいから。それじゃあね」
「ちょ、ちょっと。今日のクエストの反省とかの話し合いするんだけど」
「え?別にいいでしょ?私にどこか問題あった?ないとは思うけど、もしあったらまた明日にでも言ってくれる?」
「まぁ…急ぎの用があるなら別にいいんだけどさ」
「あー、うん、そうそう急ぎの用なの、じゃあまた明日ね」
アロレーヌは手を振って別れると、そのままギルドから歩き去った。
別にパーティ内のルールなんて各々が勝手に決めているものでメンバーを拘束するものじゃない。だからアロレーヌにそれを強要することはできないしする権利もない。けどパーティメンバーではなく仲間と呼ぶならある程度の気を使うものだと思っていた。そう思うことは俺のエゴなのだろうか。
俺はアロレーヌの振る舞いに思う所はあったがみんなの前では口にしなかった。そういうのは陰口みたいで嫌だし、直接、本人に言わなければ何も解決しないと思ったからだ。どうやらサリアとメイルも同じ考えのようだ。レアはどう思ってるのかよく分からない。そもそも興味がないのかもしれない。
次の日も、その次の日も俺達は変わらずにクエストへ行った。いつもと違うのはパーティメンバーが一人多いということだけだ。クエストは何の問題もなく進んで行った。優秀なメンバーが一人加わるだけでこれほど違うのか、と何度も思った。そして
クエストを終え、ギルドへ戻った俺達。今まで、クエストを終えるとすぐに俺達と別れていたアロレーヌが珍しく顔を出していた。笑顔で席に着く彼女が口を開く。
「ねえみんな、私がパーティに入ってから今日までクエストをしてきて何か思うことはなかった?」
アロレーヌの質問に俺達三人は首を傾げる。
「何かって…特にないけど」
「またまた~、流石に自分の口からは言いにくいかな?私も言いづらいんだけどね」
アロレーヌがメイルの方をチラリと見る。
「このパーティに魔法使いって二人必要だと思う?」
「えっ」
思わずメイルの口から言葉が溢れる。
「だからね?私はこのパーティに魔法使いは二人要らない。一人で十分だと思うの。今日までのクエストでそう思ったでしょ?」
思った。口には出さなかったが俺以外の二人もそう思ったはずだ。このところ、メイルがクエストで活躍することはなく、アロレーヌが魔法に関する役割を全てカバーしていた。それがどれだけパーティにとって助かることか。
「ねえ、ワタルもそう思うでしょ?」
俺は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
「実は俺も薄々感じてたんだ。今のパーティに魔法使い二人はバランスが悪いかなって」
アロレーヌが口の端をわずかに歪める。
「だからさ、悪いんだけど…」
メイルは俯いたまま俺の話を黙って聞く。
「パーティ抜けてくれるか?アロレーヌ」
俺の言葉にメイルが顔を上げる。目の端が赤いのは涙を堪えていたからだろうか。
「…は?」
信じられないといった顔をこちらに向けるアロレーヌ。
「私にパーティを抜けろ!?なんで私?メイルじゃなくて私が?なんで?おかしいでしょ!」
「ん?別におかしくはないだろ」
俺の平然とした態度が気に入らなかったアロレーヌが机を叩いて立ち上がる。
「おかしいに決まってるでしょ!私の方が色んな魔法が使える!私の方が上手く魔法を扱える!私の方が役に立ってる!」
「あぁ、その通りだな」
「じゃあなんで…!」
「確かにメイルはアロレーヌと違って、魔法は火魔法しか使えないわ、その火魔法は不安定だわ、おまけにお化けは怖がるわでどうしようもないよ。けどな…」
俺は目を細めてアロレーヌを睨みつける。
「メイルは誰かを悪く言ったりはしねーよ。お前と違ってな」
「ワタル…」
「っ…!っ…!」
口を開くアロレーヌだったが顔を真っ赤にしたまま、言葉が出ないようだ。数瞬の後
「こ…こんなパーティこっちから願い下げよ!」
もう一度、両手で机を叩き、アロレーヌはずかずかとギルドを後にした。
「ふぅ…良かった、喧嘩になったらどうしようかと思った」
俺は溜息つく。
「いやでもよく言ってくれた。私も同じことを思っていた」
「言う時は言うんですね」
「そりゃまあ仲間を悪く言われて黙ってられないだろ」
俺は先程から帽子を深く被って黙り込んでいるメイルに声を掛ける。
「巻き込んで悪かった。メイルも一緒に嫌われちまったよな…。まあ、俺が悪いんだよ。だからさ…」
帽子の上から頭を軽く撫でる。
「もう、泣くなよ」
「別に…泣いてなんて…いませんよ」
「そうだよな。パーティに一人しかいない大切な魔法使いが泣き虫じゃ困るもんな」
「…ええ、その通りですよ」
顔を上げたメイルは笑顔だった。ここしばらく不安もあっただろうしアロレーヌから心無い言葉を言われて辛かったはずだ。もっと早くこうしておけば良かったと後悔もしたが、メイルは済んだことをいつまでも引きずるような奴じゃないだろう。むしろ心配なのは…