「う~、ごめんなさい~もう二度としないから~」
ラントは岩人族と俺達に頭を下げて謝った。それを聞いて岩人族達は怒ることもなく許していた。というより操られていたことすら覚えていないようだ。だが代わりに…
「本当に大丈夫なのか?とても信用出来ない」
サリアはとてもお怒りだ。されたことを考えれば無理もないが。
「まあまあ、今は信じるしかないって。けどもし、またお前が悪さしてるって話を聞いたらその時は…分かってるよな?」
「もうしないってば~」
独特なテンションだがこいつなりに反省しているらしい。今回だけは大目に見るか。それにしても気になるのは…
「なあ、今回の岩人族を操って人間を捕まえるってのさ、お前が考えたのか?」
失礼な話だが、ラントにここまでの周到な策を思いつくとは思えなかった。
「えっとね~…あれ~?これ言っていいんだっけ~まあいっか~」
ラントはぽわぽわと悩みながらも話してくれるようだ。
「実はね~私の友達の~…」
「お前らなにしてるんだ!」
頭上から響いた声に顔を上げると、岩壁の上から小さな影が飛び出した。そして、ラントの前に立ち、庇うように手を広げる。
「あれ~?九ちゃんだ~」
「今、助けてあげるからね」
九ちゃんと呼ばれた少女はラントに笑顔で言った後、俺達に敵意を剥き出しにする。突然、現れた少女に俺は面食らった。
「な、なんだ?誰だよお前は?」
「見せてあげるわ、私の力を!」
聞きやしねえ。
少女が手を組み、何やら唱えている。どうしよう、一応、身構えておいた方がいいよな…。
「あ、九ちゃん~あの男の人ね~」
「燃え尽きなさい!」
ラントが話し掛けていたが少女の耳には入らず、手を突き出した。
「おわっ」
俺の体が青い炎に包まれた。さっき、焚き木の中にいた時も思ったが、本来は熱いはずなのだろうが熱くない。それに服も燃えずに炎はただ俺の周りを取り巻くだけだ。
「…?…?」
九ちゃん(?)はそんな俺の様子を見て理解出来ないという顔をしている。
「あの人ね~炎が効かないみたいなの~」
「先に言ってくれないそれ!?」
まるでコントだが本来なら大火傷なんだよな。ここまでされたら流石に黙ってられない。俺は少女の元へ近づくと
「悪い、一応な」
短剣の柄を少女の首裏へ振り下ろした。小さな悲鳴を上げ、少女は地面へ崩れ落ちた。
「あ~」
それを目の前で見ていたラントが声を上げる。
「ちょっと気絶させただけだから大丈夫だよ。後は任せていいか?」
「いや~そうじゃなくて~」
「ん?どうかしたか?」
「九ちゃんのお母さんは~九ちゃんのことすっごく好きで~こんなことしたってバレたら~すっごく怒っちゃうかも~」
「先に言ってくれねえそれ!?」
思わずこの少女と同じツッコミをしてしまった。忠告がワンテンポ遅いんだよこいつは。
「俺達もう鉱石だけ取って帰りたいんだけど…」
「別にいいけど~九ちゃんのお母さんが怒ったらね~あなたの街まで行っちゃうかも~」
「げ、それは困る」
流石に今回のことはこの子が悪いし事情を説明すれば納得するだろうが、その説明をラントに任せるのはとても心配だ。事実と歪曲して伝わるかもしれない。
「しょうがないな…この子を家まで運ぶか…。サリアもいいか?別に鉱石だけ持って先帰っててもいいんだけど」
「乗りかかった船だ。私も一緒に行こう」
「頑張ってね~」
「いや、お前も来るんだよ」
俺とサリア、そしてラントは九ちゃんとやらの住処へ向かっていた。ラントによるとそれ程、遠くはないらしい。
「なあ、何でこの子の名前、九ちゃんなんだ?」
「えっとね~九尾だから~九ちゃんなの~」
サリアが背負っている九ちゃんをよく見ると尻尾が生えてる。一本だけ。
「尻尾生えてないけど九尾なのか?」
「うんとね~大人になると生えるんだって~」
「へえ~、でも九尾って種族の名前だよな?この子の名前は?」
「フリリラちゃんだよ~」
何で名前を知ってるのにあえて九ちゃんって呼んでるんだろう。まあ俺はフリリラって呼ばせてもらうか。
「そういえば~私も聞きたいことがあって~」
「どうした?」
「どうしてあなたは~火が効かないの~?」
「あー、それなぁ。俺の知り合いの女皇様のおかげ…かな」
恐らく炎竜族の秘玉から錬成したアレのおかげだと思うが確証はない。というか効果が一時的なものなのか永続的なものなのかも分からない。
「よく分からないけど~変わってるね~」
「おい、少しは気を使ったらどうだ。言っておくが私はお前を許したわけではないからな」
俺を焼き殺そうとしておきながら平然とした態度を取るラントの様子が、サリアには気に障ったらしい。俺はもう気にしていないがサリアは仲間思いだからな…。
「ごめんってば~お詫びにこうして~案内してるでしょ~」
「ありがとな、サリア。俺はもう気にしてないから」
「あっ、着いたよ~」
ラントが指差した先には大きな社が建てられていた。何か神聖な物でも祀られていそうだが本当に人が棲んでるのか…?
俺の不安は直ぐ様、払拭された。社の扉が開かれ、中から人が出てきたからだ。
背の低い子供が俺達に気付くと、足早に駆け寄ってくる。
「フリリラ!?どうしたのじゃ!?」
サリアに背負われたフリリラを見た彼女は心配そうに声を掛ける。
「あ~ルルリスちゃんだ~」
というかこの子は誰だ?フリリラと同じ髪の色をした小さな少女…そうか、分かったぞ。
「フリリラの妹ちゃんかな?大丈夫だよ、ちょっと気絶してるだけだから」
俺は少女の頭を撫でながら笑顔で言った。
「えっと~、その人はね~」
俺の言葉に、少女は呆けた顔をして黙って撫でられていたが
「誰が妹じゃー!」
俺のアゴに綺麗にアッパーが入った。なんだこの子、力つよ…
「無礼者め!お主の目は節穴か!」
仰向けに倒れた俺を少女が見下ろす。妹じゃなかったらしい…姉か?
「痛てて…そんなに怒るなよ…」
「ルルリスちゃんはね~九ちゃんの~お母さんなの~」
「…え?」
俺は念の為、少女を指差してラントに確認する。ラントが頷いたのを見て俺はようやく理解した。
「は、ははは…。お母様でしたか…これは失礼を…」
俺は苦笑いしながら今更、体裁を取り繕ったが時既に遅し。フリリラの母ちゃんとのファーストコンタクトは…最悪のものとなった。