幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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炎上

 何の臭いだ…?焦げ臭い…。パチパチと弾けるような音…

 

 俺が重い瞼を開くと、見慣れぬ風景と見慣れた少女。サリアが格子状の柵を掴みながら外へ話し掛けている…。

 

 俺はハッと体を起こす。そうだ、俺は岩人族に殴られて…

 

 「っ…!」

 

 後頭部が痛む。服には血の付いた痕があるが既に乾いている。かなりの時間、気絶させられていたようだ。

 

 「おい、サリア、どうなってる?」

 

 俺は檻に閉じ込められているサリアに話しかける。

 

 「ワタル、起きたか。分からない…何が何やら…」

 

 自分が居る場所もサリアとは別の檻の中のようだ。四角い格子状の檻は木で出来ているようだが力を込めてもびくともしない。

 

 檻の中から外を見てみると中央には巨大な焚き火、そしてその周りに複数の岩人族が居るがこちらに興味を示している様子はない。

 

 「もしかして俺達、非常食的なやつにされてるのか…?」

 

 「そんなはずはない、岩人族は摂食を必要としない種族だ」

 

 「じゃあ何で…」

 

 「そもそも彼らが私達に手を上げることからしておかしい。何か理由があるはずだ」

 

 理由を考えてみるがまるで思い当たらない。そもそも岩人族は温厚って言ってなかったか?

 

 「…?なぁ、サリア」

 

 「どうした?」

 

 「岩人族って名前からして岩の種族だよな?」

 

 「あぁ、その通りだ」

 

 「体の隙間に何か生えてるように見えるんだけど…」

 

 見間違いかと思ったが間違いない。岩と岩の隙間に不釣り合いな緑色の芽のようなものが生えている。

 

 「あれはまさか…」

 

 「あれ~?バレちゃった~?」

 

 「うわっ!」

 

 俺は突然、檻の上から顔を出した何者かに驚き、飛び退いた。ずっと上に居たのか、気が付かなかった…。

 

 「な、なんだお前…?」

 

 「アルラウネか」

 

 困惑する俺に対して、サリアが答えた。

 

 「正解~。赤いお姉さん物知りだね~」

 

 「アルラウネ…?」

 

 「確かにアルラウネだけど~私にはラントっていう名前があるんだけど~」

 

 ラントと名乗った緑の髪をした少女は人間にも見えるが…亜人種か。

 

 「合点がいった。ここにいる岩人族はこの少女に操られているんだ。恐らくあの体に生えている植物によって」

 

 「操られてって…じゃあお前が俺達を捕まえたのか!?」

 

 「そうだよ~」

 

 「なんでそんなことを…」

 

 「えっと~、あれ~何でだっけ~…」

 

 こいつもしかしてあれか、頭が弱いやつか。これなら話し合えばなんとか…

 

 「あっ、そうだ~。人間は美味しいから~少しずつ食べようと思ってたんだった~」

 

 「美味しいからって…それだけの理由で?」

 

 「そうだよ~」

 

 欲望に忠実な奴ってのは始末が悪いな…。どうするか…。

 

 「もしかして…今まで鉱山に来た人達も俺達みたいに捕まえてたのか?」

 

 「ううん~人間を捕まえたのは~あなたたちが初めてだよ~」

 

 「そうなのか?じゃあまだ取り返しがつくうちにこんなことはやめた方がいい」

 

 目の前の亜人種からそれほど悪意は感じないため、俺は説得を試みる。

 

 「うーんとね~、でもね~私お腹が空いてるから~せっかく捕まえたし~」

 

 「お腹が空いてるってのは分かった。けど他人を傷つけるのは駄目だろ?」

 

 「…お兄さんの言うことも分かるけど~私が言うこと聞く必要はないよね~?」

 

 あまりに身勝手な言い分が気に障った。

 

 「馬鹿かお前!自分のことしか考えてないのかよ!」

 

 「え~?私~馬鹿じゃないよ~?」

 

 「自分で分からねーから馬鹿って言うんだよ!この大馬鹿野郎が!」

 

 「…」

 

 少女は口を閉ざして黙り込む。もしかして分かってくれて…

 

 俺が入っている檻が大きく揺らぎ、視界が高くなる。どうやら岩人族に檻ごと持ち上げられたようだ。

 

 「大事に食べてあげようと思ったけど~、あなた悪口言うから~、もういいかな~」

 

 岩人族は鈍い足音を響かせ、俺の入った檻を持ち上げたまま燃え盛る焚き火へと近づいていく。まさか…

 

 「お、おい、やめろ!そんな気まぐれで人を…」

 

 「知らない~、ばいばい~」

 

 「ちょ、まっ…」

 

 「ワタル!」

 

 それ以上、問答の余地も無く、俺は檻ごと焚き火の中へと放り投げられた。

 

 バチバチと木の弾ける音が辺り一面から聞こえてくる。

 

 燃える…俺の手が、足が、体が…

 

 木で出来た檻も同時に燃えるがどちらが先に燃え尽きるかは明確だ。無慈悲に燃え盛る炎は周囲の酸素を奪い、呼吸が出来ない。いや、息が出来ないのは俺の喉が焼けたからか…?

 

 サリアが懸命に何かを訴えているようだが炎の轟音に掻き消され、耳には届かない。

 

 赤に覆われる視界。その中に誰かが映った気がした。彼女は…?何かを言っているようだが分からない…駄目だ…もう意識が…

 

 木の檻という新しい燃材を得た焚き火は勢い良く炎を上げていたが、檻が燃え尽きると徐々に火は弱まり、元通りの火力へと戻った。

 

 「そんな…」

 

 呆然と見つめるサリア。そんな彼女に笑顔で近づくアルラウネの少女。

 

 「あなたは~大事にしてあげるから~安心してね~」

 

 「ワタル…」

 

 「むぅ~、もう死んじゃったやつなんて~どうでもいいでしょ~?」

 

 ラントの現実を突き付ける無慈悲な言葉にサリアは項垂れ、その瞳から涙が零れる。

 

 「…俺の仲間を泣かせるな」

 

 俺は未だに炎を上げる焚き火の中から姿を現す。俺の周りで唸りを上げる炎が鬱陶しい…いや、俺が炎を纏っているのか…?今はそんなことはどうでもいい。

 

 「ワタル…!」

 

 「あれ~?何で生きてるの~…?」

 

 「お前と話すことは何もねーよ」

 

 俺は両手を前に出し、唱える。

 

 「『精霊龍の顎』」

 

 ラントは岩人族二人を操り、自分の盾としたが、俺達の放った精霊魔法に弾き飛ばされ、龍の顎はアルラウネの体に食らいつき、岩壁へと叩き付けた。

 

 うつ伏せに倒れ、唸り声を上げるラントの前に俺は立ち 

 

 「今すぐサリアを開放して、岩人族も元に戻せ」

 

 「え~?でも~」

 

 「…今の状況も理解できない馬鹿なら仕方ねーな」

 

 俺は手を向ける。

 

 「風精霊魔法…」

 

 「ちょ、ちょっと待って~、分かったから~」

 

 ラントは地面に手を付けると何かを唱えだした。念の為、警戒していたが、サリアを閉じ込めていた檻は解かれ、岩人族に付いていた芽も外され、地面へと落ちた。

 

 「これでいいでしょ~?私、もう帰るから~」

 

 「ちょっと待て」

 

 何事もなく帰ろうとするラントの腕を掴む。

 

 「悪いことをしたら謝らないといけないよな?」

 

 「え~でも~」

 

 「いけないよな?」

 

 「はい~…」


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