幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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鉱山に棲む者

 屋敷を出て街の正門へ向かっていた俺だったが、その途中でエンクリットの店がある路地を通り過ぎ、錬成を依頼していたことを思い出した。もし、もう完成しているなら受け取って行こう。

 

 俺は黒い店に入り、店主に声を掛ける。

 

 「なあ、エンクリット。この前、頼んだ奴なんだけどどうなってる?」

 

 「…こちらに…」

 

 机に置かれたのは俺が渡した時のままの小瓶。だが中身は違うようで、珠はなくなり、赤い液体へと変わっていた。

 

 「これは…錬成が成功したってことでいいのか?」

 

 「…はい…」

 

 「そうか!ありがとうエンクリット」

 

 俺は錬成の費用をエンクリットに支払い、小瓶を受け取る。

 

 「それで、これはどうやって使えばいいんだ?」

 

 「…飲んで下さい…」

 

 「えっ!?飲み物なのこれ!?」

 

 正直、予想外だった。こういうのって塗ったりして使うものだと思ってた…。

 

 「…飲んで下さい…」

 

 何故か二回言われた。今日のエンクリットにはどこか強引さを感じる。

 

 「エンクリットがそう言うなら飲むけどさ…」

 

 俺は恐る恐る小瓶の蓋を開け、匂いを嗅いでみるが特に何の匂いもしない。ただ色が赤いのが気になる。せっかく金を払って買ったんだ、まずくても飲むしか無いよな…。

 

 俺は小瓶に口を付けると、一気に中身を飲み干す。それ程、量もなく、何の味もしない液体はするすると俺の喉を通っていった。

 

 「ふぅ…で、これはどんな効果があるんだ?」

 

 「…分かりません…」

 

 「は…?」

 

 「…錬成書に従って錬成しましたが…何ぶん古い本で…効果の項目は読むことが出来ませんでした…」

 

 「得体の知れない物を人に飲ますなよ!」

 

 「…効果が気になったもので…」

 

 特に悪びれもせず淡々と答えるエンクリット。確かに俺も確認をせずに飲んだが…

 

 「…安心して下さい…毒物や劇薬の類は載っていない錬成書なので…」

 

 「まぁ…悪いようにならないならいいけどさ…」

 

 と言いつつ不安だ。今のところは何の変化もないように感じるが大丈夫なのだろうか。

 

 「…効果が現れたら…ぜひ教えて下さい…」

 

 「悪い効果だったら金返してくれよな…」

 

 そして、俺は店を出た。鉱石を取りに行く前に余計な心配事が増えたな…。

 

 

 

 街の入口へ行くと既に準備を終えたサリアが待っていた。俺は駆け足で向かう。

 

 「悪い、待たせた」

 

 「気にしなくていい。私も今、来たところだ」

 

 「そうか…?それじゃ、鉱山に向かうか!」

 

 街を出た俺達は鉱山へと歩く。それ程、距離は遠くはないが、鉱石を持って帰るとなると帰りは大変だろうな…

 

 「サリアはこの鉱山に行ったことあるのか?」

 

 「行ったことはあるが通っただけだな」

 

 「へえ…あえて聞かなかったんだけどモンスターとか居たりするのか?」

 

 「心配しなくていい。あそこにそれほど凶暴な生き物は棲んでいない」

 

 「良かった。それなら何事もなく帰れそうだな」

 

 「あぁ、そう行く先々で問題が起こるわけがないさ」

 

 話しながら歩いていると徐々に草木が減っていき、ついには地面には緑が無くなると、殺風景な大地へと変わった。

 

 「ここか…」

 

 見上げた鉱山は大きく、これ自体がまるで荒削りにされた一つの鉱石のようだ。

 

 俺は地図を開き、レアに教えてもらった場所を確認すると、サリアも一緒に地図を覗き込む。

 

 「現在地がここだな。ってことは…」

 

 どうやら採掘場所は少し中へ入った所のようだ。

 

 「うん、大体わかった。行こう、サリア」

 

 「あぁ、案内は任せる」

 

 そして、俺は地図を片手に鉱山へと足を踏み入れた。

 

 

 

 鉱山は人の手が入っているようで道のようなものはあるが、ひどい荒れようだった。歩けるようになっているだけマシだが。

 

 「なんでこんなに荒れてるんだ…?採掘しに来るのは俺達だけじゃないだろうに」

 

 「分からない。私が以前来た時はもう少し整っていたと思うのだが」

 

 「崩落でもしたのかな。怖い怖い」

 

 「その可能性もあるが…少し嫌な感じがするな。採掘場所はまだ遠いのか?」

 

 「ちょっと待ってくれ。えーっと…」

 

 俺は地図を見つめ、今まで歩いてきた道と照らし合わせる。

 

 「お、もうすぐで着くよ」

 

 「そうか。では早く行こう」

 

 さらに進んで行くと少し開けた場所に出た。岩壁にはほんの少しだけはみ出している黒い塊が見える。

 

 「あれが例の鉱石…か?」

 

 鉱石を見て俺は重大なことに気が付いた。

 

 「なぁ、これ、どうやって採掘するんだ?俺は採掘道具を持って来てないんだけど」

 

 「何を言ってるんだ。これでいいだろう」

 

 そう言ってサリアが提げていた大剣を取り出す。あっ、なるほどね。どうやらサリアは岩壁ごと大剣で削り取るつもりのようだ。

 

 「サリアはそれでいいと思うけど俺はどうするかな…短剣じゃ流石に無理だし、精霊魔法でやってみるか」

 

 俺は手を前に出したが、サリアが明後日の方を向いているのが気になった。

 

 「どうかしたか?」

 

 「今…何か聞こえなかったか?」

 

 「何かって何が…」

 

 聞き返そうとしたが、俺にも聞こえた。岩同士の擦れるような無機質な音。なんだ…?

 

 武器を構える俺とサリア。すると俺達の前にゆっくりと岩の塊が現れた。そして後ろにも…動いてるがなんだこいつら…?

 

 「なんだ、岩人族か…」

 

 サリアが構えていた大剣を下ろす。どうやら警戒をする必要はないようだ。

 

 「岩人族?」

 

 「あぁ、元々この鉱山に棲んでいる者達だ。ちゃんと言葉も通じる」

 

 言われてみると体中を岩に覆われているがほんの少しの隙間には体のような物が見え、人型の生物であることが確認できた。普通に岩に混ざってたら分からないなこれ。

 

 「恐らく私達が話しているのを聞いて様子を見に来たのだろう。心配はいらない。彼らは温厚で、事情を説明すれば鉱石を分けてくれるはずだ。私が話してこよう」

 

 サリアは武器を下ろしたまま、岩人族へと近づいていく。話せると言っていたが俺の後ろに居る岩人族は一言も話さない。無口な種族なのだろうか。

 

 俺は、サリアが彼らに声を掛けるのを眺めていた。少し距離があって何を話しているのかは分からない。

 

 …?別の岩人族がゆっくりとサリアの後ろへ回る。そして、ゆっくりと流れるように、岩で覆われた腕を持ち上げる。

 

 そのまま腕は振り下ろされた。まるで巨大な岩のような手がサリアの頭を打ち、サリアは短い悲鳴を上げて倒れた。

 

 「な、何を…!」

 

 同時に俺の後頭部にも衝撃が走った。鋭い痛みの後、目の前に火花が散り、視界は黒に覆われた。


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