幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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炎竜の皇【挿絵】

 俺達はすぐに準備をして屋敷を出た。レアは魔力もあまり残っていないから、と行くのを断ったが絶対面倒くさかっただけだと俺は思う。だが代わりに残っていた魔力を俺に補充してくれた。

 結局、俺、メイル、フェルヴィアの3人で炎竜族の住む場所まで行くことになった。レアもサリアも居ないと何だか不安だが今回は完全に俺とメイルの不手際だったので仕方がない。

 

 「へえ、メイルは火の魔法が得意なのね」

 

 「はいですよ。炎竜族も炎ですよね。気が合いそうですよ」

 

 「ふふっ、そうね」

 

 仲良く話しながら歩く二人。メイルには人当たりがいいんだな。

 

 「で?あなたは何か役に立つの?」

 

 「一応、短剣を使うけど、何が出来るって言われるとな…」

 

 「はぁ…何それ、せめて足を引っ張らないでよね」

 

 「へいへい…」

 

 

 

 「それで、目的地ってまだ結構遠いのか?」

 

 街を出て、延々と草原を歩いていた俺は尋ねる。

 

 「そんなに遠くもないわ。見える?あの山の上よ」

 

 「あぁ、あれか」

 

 視界には映っていたが言われなければ分からなかった。大きな山があり、その周りを森に覆われている。

 

 「飛べればすぐなんだけど歩いて行くとなるとあの森を通っていかないといけないのよね…」

 

 「何かあるのか?」

 

 「蜥蜴人族が住んでるのよあそこ。別に私達に直接関わっては来ないけど山の周りを這いずり回られると何か気持ち悪いじゃない?」

 

 「酷い言い草だな…蜥蜴と竜ってなんとなく似てるじゃん。仲良く出来ないのか」

 

 「あんなのと一緒にしないでよ!蜥蜴人族なんて空を飛ぶことも出来ない劣等種じゃない」

 

 「劣等種ってお前…」

 

 どうも他種族間ってのは上手くいかないらしい。今回は炎竜族が一方的に嫌っているようにも感じるが。

 

 「そんなことより、早く行きましょ」

 

 フェルヴィアは山を囲む森へと歩を進める。炎竜族が蜥蜴人族より優れていると言っているフェルヴィアの考えは驕りでもなく事実なのだろう。けれどその話を聞いて嫌な予感がした。つまりところ互いの種族には確執があるということに他ならないからだ。

 

 

 遠くから見た森は大して広くも見えなかったが実際に歩くと出口の見えない森の中は広く感じる。山はずっと見えているので麓を目指して歩いて行く。このまま行けばすぐに森を抜けるだろう。しかし俺はずっと気になっていた。

 

 「さっきからずっと跡をつけてるよな?あまりいい趣味じゃないな」

 

 「えっ?」

 

 メイルとフェルヴィアは気がついていなかったようだがこの森に入ってからずっと視線を感じていた。

 

 「チッ…ただの人間じゃなかったのか」

 

 草陰から姿を現したのは一見しただけで蜥蜴人だと理解できた。鱗に覆われた緑色の肌にギョロりとした目、手には粗悪な剣のようなものを持っている。

 

 「此処が蜥蜴人族の住処って知って入って来たのか?」

 

 「知ってはいた。ただこの先に用があるから通っていいか?」

 

 答えは分かっていたがあえて聞く。

 

 「それは出来ない相談だな。人間の肉は貴重……ん?お前、この匂い…炎竜族か!」

 

 蜥蜴人が驚いたように目を見開き、歪んだ笑みを浮かべる。

 

 「気安く話しかけないで、汚らわしい」

 

 「人間二匹に炎竜族が一匹か、こりゃツイてる」

 

 蜥蜴人はカラカラと喉を震わせる。すると他にも数人の蜥蜴人が現れた。

 

 「おいお前ら、炎竜族の女を捕まえろ。人間の方は殺しても構わねえ」

 

 分かってはいたが端っからやる気満々かよ。

 

 「メイルは魔法の準備を、フェルヴィアは…戦えるか?」

 

 「当たり前でしょ。あなたこそちゃんと戦えるの?」

 

 「それだけ言えれば十分だ、行くぞ!」

 

 俺は風を纏って蜥蜴人へ駆ける。そして、人間相手だと高をくくってニタニタと笑う蜥蜴人の一匹に短剣を振り下ろす。

 

 人のモノではない耳障りな悲鳴がこだまする。虚を突かれた相手は想定外のことに面食らっている。

 

 「ぼさっとしてんじゃねえよ!」

 

 俺は別のもう一匹の手首へ短剣を走らせる。深々と抉れ、手に持っていた武器を落とし、悲鳴を上げる。

 

 「この野郎!」

 

 ようやく状況を理解して動き出した蜥蜴人が手に持っていた剣を振り上げる。

 

 「遅せーよ」

 

 振り下ろすより速く、俺は首へ真っ直ぐに短剣を突き出す。

 

 三匹を片付けた俺だったがその間に二匹の蜥蜴人がメイルとフェルヴィアの元へ近づいた。

 

 「イグニススピア!」

 

 「!?」

 

 メイルの放った火魔法に蜥蜴人は反応できず、体を炎の槍が貫いた。

 

 「なんなんだよこいつら…!せめてこいつだけでも…」

 

 残った蜥蜴人がフェルヴィアに手を伸ばす。

 

 フェルヴィアは大きく息を吸い込み、その息は炎となって吐き出された。

 

 「うおっ!」

 

 蜥蜴人の顔が炎に包まれたがそれほど火力はなく、プスプスと音を立てているがまだ動けるようだ。

 

 「こいつ…!」

 

 「おい馬鹿!そいつは殺すなって…」

 

 逆上した蜥蜴人が他の仲間の制止を無視してフェルヴィアに向かって剣を振る。

 

 「えっ…?」

 

 自分には手を出されないと思っていたフェルヴィアは蜥蜴人の予想外の暴走に反応することが出来なかった。

 

 地面に血が点々と滴る。俺は咄嗟にフェルヴィアを庇い、蜥蜴人の剣を逸らそうとしたが無理な体勢で十分に受け流せず、剣先は俺の足を掠めた。

 

 「痛っ…てえなこの野郎!」

 

 俺は短剣を振り下ろし、蜥蜴人の腕を斬りつけた。

 

 「あなた大丈夫なの…?その足…」

 

 「どうってことねえ」

 

 残った蜥蜴人はあと一人、他の仲間に指示を出していたそいつは仲間を見捨て、背を向けて逃げ出した。他の仲間を連れて来られても面倒だ。

 

 俺は手を前に出す。

 

 「『精霊獣の牙』」

 

 光の杭が蜥蜴人の背中を貫いた。消費が激しいので多用したくなかったが仕方ない。これでとりあえず全員片付けた。だが怪我を負いながらもまだこちらに敵意を示す蜥蜴人もいる。

 

 「早くここを離れよう」

 

 俺達は森を走って進み、蜥蜴人が見えなくなったところで一度立ち止まった。

 

 「とりあえず追っては来ないみたいだな」

 

 「ですね。けど早く森を抜けたほうがいいですよ」

 

 「そうだな、行こう。…っ!」

 

 戦闘中は感じなかったが、一息付いた事で切りつけられた足の痛みを認識する。

 

 「その足の怪我、大丈夫ですか?無理してはいけませんよ」

 

 「大丈夫大丈夫…、ほら行こうぜ」

 

 「ごめんなさい、私のせいで…」

 

 フェルヴィアが俯いたまま消え入りそうな声で謝る。

 

 「…フェルヴィア、顔を上げてくれ」

 

 フェルヴィアが恐る恐る顔を上げる。その目には涙を湛えていた。

 

 「いたっ」

 

 そんな彼女の額を俺は指で弾く。

 

 「何言ってんだよ、男が女の子を守るのは当たり前だ。言うならごめんなさいじゃなくてありがとうだろ」

 

 フェルヴィアは呆けた顔で俺を見つめたあと

 

 「…うん、ありがとう。ワタル」

 

 フェルヴィアが初めて俺に見せてくれた笑顔に俺も微笑んだ。

 

 

 

 

 森を抜けた俺達の目の前には大きな山が聳え立っていた。

 

 「この山を登るのか…きっついな」

 

 「大丈夫?ごめんね、私が飛べれば送ってあげられるんだけど」

 

 「怪我してるんだからしょうがないって、気合い入れて…」

 

 俺が一歩踏み出した時、地面を影が通り過ぎた。空を見上げると太陽を遮る十字の影。影は俺達の上で止まり、真っ直ぐにこちらへ降りて来た。

 

 「フェルヴィア様!このようなところで何を?それにその者達は一体?」

 

 「その…ちょっと翼を怪我して歩いて帰ってきたの…彼らは私をここまで送ってくれたの」

 

 「お怪我を?お待ち下さい、他の者を呼んで参ります」

 

 フェルヴィアとの会話から炎竜族の仲間だと分かる。それにしても

 

 「様付けで呼ばれてたけどフェルヴィアって偉かったんだな」

 

 「あれ、言ってなかった?私のお母様は炎竜族の女皇よ」

 

 「聞いてないけど!?…他の炎竜族の前ではフェルヴィア様って呼んだ方がいいか?」

 

 「ううん、いいの。皆が私を敬うのは私がお母様の娘だからっていうだけだから…」

 

 「そんなことないって、さっきの人もフェルヴィアのこと心配してたじゃないか」

 

 「違うの…お母様が言い付けられてそうしてるだけ。お母様が『娘に構うな』と言えば誰も文句も言わずに従うわ」

 

 「大げさだな、そんなこと言う母親はいないだろ」

 

 「…」

 

 フェルヴィアは表情を曇らせ口を閉ざす。炎竜族にとって女皇の存在は母娘であっても特別なようだ。

 

 しばらくして数人の炎竜族の仲間がやって来た。俺達を連れ、空へ舞い上がる。見慣れぬ景色に正直怖かったが、滅多にない機会なので眼下に広がる景色を俺は目に焼き付けていた。

 

 

 

 雲に遮られた山の頂上には大きな城が建っていた。あそこが炎竜族の住処のようだ。俺達を連れた炎竜族は滑空し、城へと入って行く。

 

 城の頂上付近の広場に俺達は降ろしてもらった。

 

 「ありがとう」

 

 「いえ、当然のことをしたまでです。どうぞ奥へ、女皇様がお待ちです」

 

 俺達は城の奥へ進められ、大きな扉の前に案内された。

 

 「二人とも、これだけはお願い。エルドラお母様…いえ、エルドラ・レクスサンドラ様には失礼のないようにして」

 

 「…?大丈夫だよ、こう見えても謁見するのは慣れてるんだ」

 

 「わ、私は少し緊張しますよ」

 

 「本当に…お願い…何があっても絶対にお母様には逆らわないで…」

 

 「それはどういう…」

 

 俺がフェルヴィアに聞き返す間もなく扉が開かれる。玉座の間は広く、数人の炎竜族と思しき者が両脇に控えている。そして中央の階段の先には玉座に座る女性が一人、こちらに視線を向ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「お母様、フェルヴィア、只今戻りました」

 

 「…随分と遅かったわね」

 

 「申し訳ありません…。道中…」

 

 「言い訳はいいわ」

 

 「っ!申し訳ありません」

 

 有無を言わさぬ女皇の言葉に俺は少し気に障った。事情を話すべきだ。

 

 「あの、女皇様?実は俺達がフェルヴィアに…」

 

 「貴方は黙っていて」

 

 「なっ!」

 

 「ワタル…!」

 

 あまりに横柄な態度に何か言い返そうとした俺をメイルが制する。

 

 「…」

 

 女皇が俺達を見下ろす。冷たく、感情のこもっていない目だ。

 

 「フェルヴィア、来なさい」

 

 「はい…」

 

 女皇に呼ばれ、フェルヴィアが立ち上がり、階段を上がって行き、女皇の前に跪く。

 

 鋭い音が響いた。フェルヴィアの頬が女皇の手によって弾かれた。

 

 「躾が足りなかったようね。この愚娘を調教用の部屋に連れて行きなさい」

 

 女皇の指示に控えていた従者がフェルヴィアに近寄る。

 

 あまりに唐突なことに面食らった俺だったが頭が追いつくと理不尽な行動に怒りが湧いた。

 

 「何やってんだよお前!」

 

 「…!ワタル、駄目ですよ!」

 

 「『お前』…?まさか私のことを言っているの?」

 

 「他に誰がいるんだよ」

 

 「気高い炎竜族の女皇である、この私を『お前』と言ったの…?」

 

 「そんなことどうでもいいだろ。お前、怪我して帰ってきた娘に他に言うことはないのかよ!」

 

 「…」

 

 女皇…エルドラはゆっくりと玉座から立ち上がる。同時に控えていた炎竜族の仲間が俺に向かって敵意を示す。


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