俺は中学、高校と部活動はやっていなかった。なぜなら不運な事故で怪我をするからだ。だから身体能力は平均以下だ。だがそれにしても…
「はぁ~、もう歩けねえよ~」
汗だくで街道脇に座り込んだ俺をレアは息一つ乱さず見下ろしてくる。
「あなた体力なさすぎですね。男なのに情けなくないんですか?」
「だってさぁ、あのギルドの建物、視界には入ってるけど歩くとめちゃくちゃ遠いんだよぉ」
「レアはなんでそんなに余裕なんだ?女神の力か?」
休憩の時間稼ぎにレアに聞いてみる、もちろん冗談だ
「そうですよ」
「だよなぁ、ハハッ…えっ?」
「女神である私は脆弱な人間よりも高ステータスを振り分けられています。」
「マジかよ…俺も身体能力にもうちょっとステータス振り分けてもらえばよかった…」
そんな会話をしている俺達の前を荷物を抱えた男が走りながら通り過ぎる。
「なんだ?やけに急いでるな」
「誰かその人を捕まえて下さい!」
大きな声ではないが確かに聞こえた。助けを求める声だ。なるほど、さっきの男…
考えるより先に、体が動いていた。俺は大声で叫ぶ。
「そこのお前!!待てよ!!」
泥棒男は俺の声に気づいたが無視して走り去ろうとする。その時だ。
――ガッ
こちらに気を取られた男が地面の出っ張りに気付かず転倒する。
「っし!しめた!」
派手に転げてうめき声を上げる泥棒男を上から取り押さえる。その間にも周りに人が集まり、泥棒男は観念したように力を抜いた。
憲兵に連れられて行く男を見送りつつ、取り返した荷物をよく見てみる。箱だな…っと、持ち主の人は…
人混みをかき分けながら一人の少女が俺の前に現れる。
「ありがとうございます。なんとお礼を言えば良いか…」
フードを被っているからよくわからないが、俺と年は大差なさそうだ。金色の髪…とても目立つな…、だからフードを被っているのか?なんてことを考えていると
「正義の味方ごっこはもう終わりましたか?私は早く行きたいんですが」
捕まえることに必死でレアのことをすっかり忘れていた。
「悪い悪い、じゃあ俺たち行くから!」
少女に別れを告げ、再びギルドに向かって歩き出す。
「あの!お名前だけでも教えていただけないでしょうか!」
少女に問われ
「四宮!四宮渉!」
端的に名前だけ伝え、先に行ったレアに追いつくため走りだす。
「シノミヤ…ワタル…」
少女はつぶやくように繰り返し。取り返した箱を強く抱きしめた。
大きな建物に大きな扉、そして何かを象ったエンブレム。
「やーっと着いたぁぁぁ」
俺は大きなため息を吐きながらギルドの扉の前に座り込む。
「そんなところにいると通行の邪魔になりますよ」
汗一つかかず、俺を見下ろしながら言うレア。この流れ、前にもあったな。
「ほら、ここまで頑張って歩いた俺への賞賛とかないわけ?」
「ありませんよ、ほら入りますよ。座るなら中にして下さい」
扉を開けてまず驚いたのは人の多さだ。ほとんど空いている席がないほど人が居る。
「こりゃまた絵に描いたようなギルドだな、クエストボード的なものに、受付嬢的な人までいるな、わかりやすくていい」
「でも、俺達はクエスト受けに来たわけじゃないんだよな」
「そうですね、とりあえずその辺の人に話を聞いてみましょう。聞き出す内容は一つ。『女神と対話するアイテムについて何か知らないか』です」
「俺はもうちょっとファンタジーを楽しんでもいいと思うんだけど…」
――キッ
レアに睨まれたのでこれ以上言うのはやめておこう。
話を聞き出すといったが…まぁとりあえずその辺の人に聞いてみるか。そう考え、近くに座っている若い男二人組に声をかける。
「あの~、ちょっとお話よろしいですか~?」
「あん?なんでバッジも付けてない奴がここに居るんだよ。知り合いかと思われるだろうがあっちに行け」
…バッジ?たしかによく見るとここにいる人は皆、左胸に小さなバッジのようなものを付けてるな。
他の人に話しかけているレアも同じようにあしらわれてる感じか。
「レア、どうだった?」
「駄目ですね、ここで仕事をすると言ったらほとんどギルドでの仕事になるようです。そしてギルドメンバーの証であるバッジをつけていない者は浮浪者と同義のようです。」
「女神である私が…浮浪者…」
勝手に落ち込むレアは放っといて、これからの方針を考える。
「まずはギルドメンバーにならないと情報収集のしようがないんじゃないか?」
「たしかにそうですね…ではあなたはギルドに加入する方法を聞いてきて下さい」
「え?レアは?」
「え?なんで女神である私がギルドの仕事なんてしないといけないんです?」
「…」
「…」
この静寂にも慣れたな…
「なんで自分だけ楽しようとしてんだこの浮浪女神が!」
「失礼ですね!私は職業女神なんです!ただの人間のあなたと一緒にしないで下さい!」
「ふざけんなよ…お前の悪い噂ギルド中に流して皆が侮蔑の目でお前を見るようにしてやんぞコラ…」
もちろん冗談だ…冗談だよ?
「わ、わかりました!でも形だけの加入ですからね!私は戦えないんですから!」
「はいはい」
なんとか俺だけが苦労させられる展開は避けられたが…この女神がクズすぎて泣きたくなってきた。