幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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喜ぶこと

 隻眼の黒狼人を討伐した俺達は、街へと戻り、真っ先にギルドへ向かった。クエストを受けずに討伐してしまったが問題ないよな…?

 

 「勝手なことをしないで下さい!」

 

 ギルドで受付嬢に事の顛末を伝えたら怒られた。

 

 「まあ、無事に討伐してきたわけだし…」

 

 「そういう問題じゃありません!あなた達の真似をしてシルバーレベルのモンスターをブロンズが狩りに行ったりしたらどうするんですか!ギルドは秩序によって成り立っているんですよ」

 

 「はあ…ごめんなさい」

 

 俺は納得いかなかったが謝っておいた。

 

 「では、今回のことはクエストを受けてから討伐しに行ったことにしておきますので。現地で討伐対象を確認次第、報酬をお支払いします」

 

 「えっ、報酬くれるのか?ラッキー」

 

 「あなた、反省してませんね?」

 

 「いやいや、してるしてる」

 

 嬉しい誤算に思わず喜んでしまった。報酬のためではなかったとはいえ、頑張ったのは事実だからな。

 

 「あとはこちらに任せてもらっていいですよ、また後日ギルドへ来て下さい」

 

 「はーい」

 

 俺はそう言って三人の待つ席に戻った。

 

 「勝手に討伐に行くなって怒られたよ、でも報酬はくれるんだってさ」

 

 「怒られたか、まあそれはそうだろうな」

 

 「ギルドはお役所仕事なところがあるので仕方がないですよ」

 

 「一緒に報告に行かなくてよかったですね」

 

 「後日またギルドに来るよう言われたし、今日はもう帰ろうか。俺も精霊魔法三発撃って結構限界だし」

 

 「それなら私が補給しますよ」

 

 「一日休めば大丈夫だよ、それにメイルも魔法使ってただろ?もし、明日にも回復しなかったら頼むよ」

 

 そう言ってから俺は立ち上がった。

 

 「それじゃ今日は屋敷で休ませてもらうわ、また明日」

 

 俺は二人に別れを告げて、レアと共に屋敷へと歩き出した。

 

 

 

 「旦那様!レア様!どちらへ行かれていたのですか!?」

 

 屋敷に戻った俺達に、ナタリアが声をかける。どうやら早朝から勝手にいなくなった俺達を探していたようだ。

 

 「悪い悪い、ちょっと狼退治に…な」

 

 「狼退治…もしかして、旦那様が以前襲われた隻眼の黒狼人ですか?」

 

 「そう、それそれ」

 

 俺の言葉にナタリアは信じられないといった顔をする。

 

 「どうしてそんな危険なことを!無事に討伐できる保証なんてなかったはずです!」

 

 「まあ、そうなんだけどさ。最初に俺達が黒狼人を逃がしたせいで他のパーティが襲われてたんだ。放っとけないだろ?」

 

 「それはそうですが…私には声くらい掛けて頂きたかったです…」

 

 「まったくですわ」

 

 玄関で話していた俺達に気付いたアイヴィスとクライスが歩き寄ってくる。

 

 「朝起きてワタルが居なくなったと聞いて驚きましたわ。言ってくだされば協力致しましたのに」

 

 「そういう訳にはいかないよ、これは俺達のパーティで起こったことなんだからな」

 

 「そういうところは変に真面目ですのね」

 

 そう言ってアイヴィスは微笑んでくれたが、ナタリアは不満気だ。

 

 「悪かったって、次からはちゃんとナタリアには言って行くよ」

 

 俺はそう言いながらナタリアの頭を撫でる。

 

 「…約束、ですよ」

 

 「ああ、約束する。…じゃあ俺は部屋で休ませてもらうよ、全力で戦ってへとへとなんだ」

 

 三人にそう告げ、俺は自分の部屋へ歩き出す。迷惑をかけないためなんて言って黙って出て行ったが、結局、みんなに心配をかけてしまったようだ。

 

 部屋に戻った俺はベッドに横になり、すぐ眠りについてしまった。今まで心を圧迫していたものが消え、清々しい気分での就寝となった。

 

 

 

 

 「なあ、女の子って何をもらったら嬉しいんだ?」

 

 俺は本を読んでいるレアの近くに行き、話しかける。レアは心底どうでもよさそうな顔をしている。

 

 「今回、みんなには迷惑かけたし助けてもらっただろ?特にサリアとメイルには。だから何かお礼がしたいんだよ。だから女の子がしてもらって喜ぶこと、もらって嬉しい物を教えてくれよ」

 

 「そういうことですか、けどそんなの人それぞれだと思いますが」

 

 「じゃあレアがもらって嬉しい物は?」

 

 「そうですね…」

 

 レアは手を顎に当て、しばらく考え

 

 「お金、でしょうか」

 

 「お金は物じゃないから」

 

 この女神、守銭奴か。女の子らしく「お花が好き」とか言えないのか。

 

 「今思いついたんだけどさ、花とかどうだ?」

 

 「私は興味ありませんが、好きな人はいるでしょうね。けどそれよりも確実に二人が喜ぶ物がありますよ」

 

 「え?そんなのあったっけ」

 

 「新しい武器ですよ」

 

 「あー…」

 

 レアの言葉はもっともだ。が

 

 「それじゃ金渡すのと変わらないだろ」

 

 「まあ、そうなんですけどね」

 

 その後、俺は部屋を出た。結局レアから有益な情報が何一つ得られなかったな。

 

 「旦那様、お出かけですか?」

 

 廊下でナタリアと会った。ナタリアにも聞いてみるか。

 

 「そうなんだけどさ、ナタリアが今、俺にしてもらいたいこととか欲しい物って何かあるか?」

 

 俺の質問にナタリアは直ぐに首を横に振る。

 

 「旦那様が私のそばに居て下さればそれだけで十分です」

 

 ナタリアの言葉は嬉しいが、模範解答過ぎるな。

 

 「そう言ってくれるのは嬉しいけど…今は駄目だ。何か具体的な物をあげなさい」

 

 俺は柄にもなく旦那様っぽくを言ってみる。

 

 俺の言葉にナタリアは考え込む。ちょっと意地悪だったかな。俺が無理して答えなくていいと言おうとした時

 

 「頭を…」

 

 ナタリアが俯きながら消え入りそうな声で呟く

 

 「頭を撫でて頂いても…宜しいでしょうか…」

 

 「そんなことでいいのか?」

 

 俺はそう言ってナタリアの頭を撫でる。ナタリアは俯いたまま撫でられているが顔が見えないので喜んでいるのかどうかがわからない。

 

 「も、もう十分ですので…」

 

 そう言ってナタリアが俺から少し離れる。しかし、ずっと下を向いたままだ。

 

 「ナタリア?どうかした…」

 

 「な、何でもありません!失礼します」

 

 俺が顔を覗き込もうとしたらナタリアは体を反転させて足早に去ってしまった。

 

 ナタリアが廊下を曲がる。そこから入れ替わるようにアイヴィスとクライスが現れる。二人は俺のそばまで歩いてくる。

 

 「今のメイド、大丈夫ですの?顔が真っ赤でしたけれど」

 

 「ナタリアか?さっき俺がちょっと頭を撫でたんだけどそのせいかな」

 

 「頭を?ワタルが!?どうしたらそんな状況になるんですの?」

 

 俺は二人に、ナタリアに聞いたことを説明した。

 

 「…ってわけでさ、二人にも聞いてもいいか?」

 

 「して欲しいこと…欲しい物…」

 

 俺の話を聞いたアイヴィスは考えこんでしまった。先にクライスに聞くか。

 

 「クライスは何かあるか?」

 

 「私は特にはない。が、貴様が居るとアイヴィス様が喜ぶ。それだけで十分だ」

 

 クライスは相変わらずアイヴィス一筋だな。全くブレない。

 

 「クライスは良い事を言いましたわ。ワタルはずっと私のそばに居れば良いのですわ」

 

 「ちょっ、もうちょっと軽いお願いで頼むよ」

 

 「仕方ありませんわね」

 

 そう言ってアイヴィスは身につけていた白い手袋を外し、俺の前に手を差し出す。俺が意味がわからず困惑していると

 

 「私の手の甲に口づけを、親愛の印ですわ」

 

 「まぁ、それくらいなら…」

 

 そう言ったが正直恥ずかしいな。だが一度言ったからにはやらなければ。俺はアイヴィスの手を取り、体を屈め、顔を近づける。そして、緊張して乾いた唇をアイヴィスの手の甲に重ね、離す。

 

 「あぁ、素晴らしいですわ。なんだか私、言いようの無い高揚感を覚えてしまいますわ」

 

 「お、おう。喜んでもらえたみたいで嬉しいよ」

 

 恥ずかしかったがアイヴィスが嬉しそうなので良しとしよう。


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