話をしていると街に着いた。俺達は真っ先にギルドへと向かい、今回あったことを受付で説明する。
「黒いウェアウルフ…ですか。わかりました、討伐依頼を出しておきます」
「討伐依頼ってシルバーか?」
「いえ、とりあえずはブロンズですよ。脅威のほどもわかりませんので」
「ちょっと待ってくれ、あいつは本当にヤバい。シルバーより上にした方がいい」
「そう言われましても、現状、あなた方の言葉しか判断材料がないわけですし…」
くそっ、俺達が弱いから負けたってのか?他の人が被害にあってからじゃ遅いのに…
「わかった、じゃあせめて死にかけたパーティがいるってことは書いておいてくれよ」
「そうですね…、わかりました」
受付嬢は渋々だが納得してくれた。クエスト難易度の判断ってこんなに適当だったのかよ…。通りでブロンズのクエストが多いわけだ。
「今日は解散にするか」
受付で用件を伝えた俺達は、今日はもう帰ることにした。とても次のクエストを受ける気になれなかった。
「はい、クエストには失敗しましたが無事だっただけでも良かったですよ」
「そうだな、今日のことは事故のようなものだ。あまり気にしないでおこう」
二人はそう言って、一緒に帰っていった。俺とレアも屋敷へと歩き出す。
「なあレア、今日の黒いウェアウルフってこの世界のモンスターの中ではどれくらいの強さなんだ?」
「そうですね…真ん中と言ったところでしょうか」
「あれで真ん中くらいか…」
わかっていたことだが俺には力が足りない。もっと力が要る。そのためには…
「悪い、先、部屋戻っててくれ」
既に屋敷の前まで来ていた俺達だったが、俺は思うところがあり、レアに告げる。
「どうし…分かりました。無理はしないで下さいね」
「分かったよ」
そう言ったが嘘だ。俺は強くなるためなら無茶だってする。そう、仲間を守れるような力が俺には必要なんだ。絶対に俺が守らなきゃ駄目だ。絶対に…。
俺は来た道を引き返し、街から少し離れた森へと向かった。久しぶりだが案外忘れないものだ。そして大きな草をかき分け
「アンセット師匠!」
廃墟で何やら木を削っているアンセットに声をかける。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
アンセットも息を切らしながら走ってきた俺に驚いているようだ。
「落ち着きな、何かあったんだろ?話を聞かせな」
俺は話した。ウォルダムでアイヴィスを守ろうとしたが結局クライスに助けられたこと、今日受けたクエストで黒いウェアウルフに襲われ、エイラが居なければ仲間を守れなかったことを。
「馬鹿者、と言いたいところだが大事な人を守るためなら私も同じことをしただろうな」
「師匠、俺、強くなりたい、いや強くならなくちゃいけないんだ。でも自分じゃどうすればいいかわからなくて…」
「あんたの狩人としてセンスは悪く無い、このまま地道に修行を続ければ少しずつ強くなっていくはずだ」
「けどそれじゃ…」
「最後まで話を聞け、狩人としての力だけでは勝てない、魔法だけでも通用しない、なら…両方組み合わせるしかないだろう」
「そんなことができるのか!?」
「できる…が、集中した状態に加えて魔力の制御まで行うのは生半可なことじゃない。それでもやるか?」
アンセットは俺に確認をしてくるがそれしかないなら聞かれるまでもない。
「当然!」
「じゃあこれからはいつもの修行に加えて、狩人用の魔法の使い方も覚えてもらう。狩人に遠距離攻撃用の魔法はさほど重要じゃない。それよりも、こうだ」
アンセットはそう言うと詠唱を始める。するとアンセットを中心に、風が集まる。まるで風を纏っているかのようだ。
「狩人は風魔法を補助用に使う。風の力を借りて自分の体を軽くしたり、自分の体を風で押すことで早く動くことができる」
「へえ、凄いな。魔法にはそんな使い方もあったのか」
「まぁこうしてやってみせてはいるが私も使いこなせてはいない」
「え?でも普通に使えてるじゃないか」
「それは魔法しか使っていないからだ。この状態を維持したまま集中をするのは至難だ」
アンセットですら難しいのか…。俺に出来るだろうか、いや、やるしかない。
流れる風が俺の足元に集まる。そして風は徐々に俺の体を包み…
「上出来だ」
アンセットに風の補助魔法の使い方を教えてもらって数時間、俺はどうにか一番簡単な補助魔法を覚えることが出来た。だが、少し動いたら魔法が解けてしまいそうだ。
「今はまだ、風を纏っているだけだが、その状態を忘れるなよ」
「りょ、了解」
口を動かして声を出すだけでも風が揺らぐ。この状態で動くなんて本当にできるんだろうか。
「じゃあ今日はもう遅いからここまでだ。明日は昼まで用事があるから修行するならそれより後に来てくれ」
そう言われ、俺は頷き、廃墟から離れた。
「疲れた…いや、このくらい何ともない」
一発撃って終わりの通常の魔法と違い、補助の魔法は垂れ流しだ。使っていて、どんどん魔力が失われていくのがわかる。本当に使いこなせるようになるのだろうか?そんな不安は胸に仕舞い込んだ。
「旦那様!こんな時間までどちらに?」
俺が屋敷の扉を開けるとすぐナタリアがやってきて、声を掛けてくれた。
「ははは…、ちょっとした特訓だよ特訓」
「お怪我は、されていないようですね」
「だろ?だから平気平気。心配してくれてありがとな」
俺はそう言ってナタリアの頭を撫で、自分の部屋へと向かって歩き出した。嘘だ、正直、魔力を使ったことによって、もう自分で歩きたくないほど疲労している。しかし、ナタリアに心配はかけられない。これは俺の問題だ。そう俺の…