「おーい、早く行くぞー」
「もう、急かさないで下さい」
俺達は、久しぶりにクエストを受けるためにギルドへと向かおうとしていた。廊下を歩き、玄関の扉を開けようとした時、アイヴィスとクライスに会った。
「おはようアイヴィス、クライスも」
「おはようございます。どこかに行かれるのですの?」
「ああ、久しぶりにクエストでも行こうと思ってな」
俺がそう言うとアイヴィスは少し考え
「でしたらクライスに手伝わせますわ」
「アイヴィス様!」
アイヴィスの言葉にクライスは即反応する。よほどアイヴィスから離れたくないらしい。
「冗談ですわ。あなたは私を守るのが仕事ですものね」
正直、クライスが一緒に来てくれれば心強いが、この様子では無理だろうな。それにしても二人は前より仲良くなった気がする。
「じゃあ俺達は行ってくるよ」
「お気をつけて、いってらっしゃいまし」
そうして俺達は屋敷から出て、ギルドへと歩き出した。
ギルドへと到着した俺達は、ギルドの扉を開け、二人を探す。居た。というかあの二人の髪の色は目立つな。分かりやすくていいが。
「よう、お待たせ」
俺は二人に声をかけて、席に座る。
「早速クエスト行くか、何か行きたいのあるか?」
俺は三人に聞いてみたが特に決まっていないようだ。なので俺達はクエストボードの前へ移動し、適当に討伐の依頼書を手を取り、三人に見せてからクエストを受けた。
久しぶりのクエストだったが、特に何の問題もなく、俺達は依頼された敵を狩っていった。近接戦闘のサリア、遠距離魔法のメイル、安定しない二人をカバーする俺、補助魔法を使うレア。驚くほど安定して戦うことができている、これなら誰にも負ける気がしない。
結局、この日は三つのクエストを受け、全てやり遂げた。今までのクエストがいつも何かしら問題が起きていただけに心配しすぎていたようだ。これが普通なんだろう。
「ふぅ、今日はとても順調だったな」
「新しい魔法石も良い調子でしたよ」
「疲れました…」
クエストを終えた俺達はギルドで今日のクエストについて話していた。疲労は溜まったがとても充実した気分だ。
「俺達って結構良いパーティなんじゃないか?」
「そうだな、私もパーティの一人として役に立てて嬉しいよ」
「私もこのパーティでクエストに行くの好きですよ」
二人も笑ってそう言ってくれた。俺もつられて笑顔になる。
「じゃあ、明日も頑張ろうぜ!」
俺は三人に告げる。この調子で行けばシルバーに上がれる日もそう遠くはないだろう。俺は嬉しかった、「このパーティで負けるはずがない」そう確信できたからだ。
……俺は気づいていなかった。自分の知る世界はとても狭いということを
屋敷に戻り、夕食を終えた俺は、俺も部屋へ戻ろうと廊下を歩いているとアイヴィスと出会った。
「あっ、ワタル。少しお話でもどうかしら」
「もちろんいいよ」
廊下での立ち話だが、少しの時間ならいいだろう。
「夕食を国王様と一緒に食べたけどさ、やっぱ緊張するな」
「そうでしたの?気を使わせてしまいましたわね」
「あ、いやそういう意味で言ったんじゃないんだけどさ…そういや、国王様はこっち来てるけど王妃様…アイヴィスの母ちゃんはどこ行ってるんだ?ウォルダムの城にも居なかったよな」
「お母様は別の国務で国を離れていますわ」
「アイヴィスの母ちゃんなら綺麗な人なんだろうな」
「ワタルは、お上手ですわね」
アイヴィスは笑ってそう言ってくれた。
「そういやエレナの母親も見たことないんだよなぁ…」
そして俺はふと気になったことを口に出してみたが、それを聞いたアイヴィスの表情が曇る。
「そのことは…エレナ様には聞かない方がよろしいかもしれませんわ」
アイヴィスの態度を見る限り何かあったのだろうか。
「エレナ様の母君は、彼女が小さい頃に病気で亡くなったと聞いていますわ。そして、レオムント国王様はその後、他の女性を娶ったことはないそうですわ」
そうか、だからエレナはあんなに父ちゃんに気を使って…。母親の愛情を受けずに、それでもいつも笑顔で、誰にでも優しく接して…でも、そんなの…
「悪い、ちょっと用事ができた」
俺がそう言うと、アイヴィスは微笑み、見送ってくれた。俺が見えなくなってからアイヴィスは呟く
「…羨ましいですわ」
「エレナ、まだ起きてるか?」
「ワタル?はい、大丈夫ですよ」
エレナの部屋に着いた俺は、エレナに声をかけて部屋の扉を開け、中に入る。
「?、どうかしましたか?」
突然の訪問にエレナは困惑しているようだ。俺も俺で居てもたっても居られなくなってエレナに会いに来たはいいが具体的にどうするかを決めてなかった。どうするか…母親の話をして欲しくはないだろうし…俺が考えているとエレナは立ち上がり、
「何かお飲み物でも淹れますね」
逆に気を使わせてしまった。
「エレナ、無理してないか?」
「急にどうしたのですか?私はいつも通りですよ」
たしかにいつも通りだ。エレナはいつもこうやって、きっと小さい頃からずっと…
「エレナ」
俺も立ち上がり、エレナに声をかける。そして、俺の声に振り向いたエレナの肩に手を掛け、抱き寄せる。
「ワタル…?」
「エレナが人に弱みなんて見せないのは分かってる。それでも、もし本当に辛い時は…俺に頼って欲しい。俺じゃ頼りないかもしれないけどエレナの負担を俺にも背負わせて欲しい」
俺は胸の内を伝えたが、エレナは黙っている。
「わ、悪い。急に変なこと言って」
俺はそう言ってエレナから手を放す。
「違うんです。私、嬉しくて」
エレナは瞳から溢れる涙を拭いながら言った。そして今度はエレナの方から俺に体を寄せてくる。
「たまに…こうして甘えてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん」
俺はそう答え、エレナの頭を撫でる。静かな時間が流れる。どれだけの時間が流れただろうか。
「エレナ様、お召し物を持って参りました」
部屋の外から聞こえた声に俺達は慌てて離れた。今更になって恥ずかしくなってきた。エレナも同じようだ。お互いに顔を伏せて赤くなっている俺達を見て、部屋の中に入ってきたメイドは不思議そうな顔をしていた。