幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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傲遜の結珠

 屋敷へと向かう街道を歩いていた俺は、見覚えのある二人を見かけて足を止める。サリアとメイルだ。

 

 「よっ、どうしたんだ?こんなところで」

 

 「ワタル、お昼の買い出しをしていたのですよ」

 

 「バッタリ会ってな、一緒に買い物をしていたというわけだ」

 

 俺は二人の話を聞きながらも頭では別のことを考えていた。

 

 「なあ、面白い物買ったから見ててくれよ」

 

 そう言って俺は買ったばかりの傲遜の結珠を取り出す。

 

 「飴玉…か?」

 

 「変なものを食べてまた倒れないで下さいよ」

 

 「大丈夫大丈夫」

 

 俺はそう言って飴玉を口に放り込む。微かに甘い、しばらく舐めていたが面倒だ。飲み込んでしまえ。

 

 俺は喉を鳴らして飴玉を飲み込む。俺は自分の体を眺めてみるが変化はない気がする。時間差があるんだろうか。俺が考察をしていると

 

 「「…」」

 

 二人は黙ったまま俺の顔を見ていたが、しばらくして口を開く。

 

 「…ワタル、今日のお昼は私達と食べましょうよ」

 

 「…あぁ、それがいい」

 

 「えっ、いや、昼飯は屋敷で用意してくれてて…」

 

 俺が断ろうとしたら二人に手首を掴まれた。

 

 「ワタルの意見を今、聞いていませんよ?」

 

 「さあ、早く行こう」

 

 二人はそう言って手を引いて歩いて行く。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

 

 俺が足を止めると二人は俺の方を向き、

 

 「遠慮することはない、私達が良いと言っているんだ」

 

 「そうですよ、ワタルは私達の言うことを聞くべきですよ」

 

 そう言う二人の様子がおかしい。目の視点が合っていない。というかそもそもこんなことを言うような奴らじゃ…

 

 「わ、悪い!ちょっと用事を思い出したわ!」

 

 俺は嫌な予感がして二人の手を振り切り、その場から走り去った。

 

 「なんだったんだ…?」

 

 俺は疑問に思いながらも歩を進め、屋敷へと戻った。玄関の扉を開け、部屋へ向かおうとした時、クライスとすれ違った。俺は軽く声を掛けてそのまま歩き出す

 

 「…待て」

 

 クライスは立ち止まり、俺に声をかける。どうかしたんだろうか。

 

 「貴様と一対一で話機会はそう多くない。なので今のうちにあらためて礼が言っておきたい」

 

 「どうしたんだ?急に」

 

 「貴様のおかげでアイヴィス様とも以前より親しくなれた、感謝している。そこでだ」

 

 クライスは靴を脱ぎ、素足を俺の前に晒す。

 

 「踏んでやる。そこに四つ這いになれ」

 

 「えっ、ここで?廊下なんだけど」

 

 クライスは気の強い奴だがここまで無茶を言う奴じゃない、さっきの二人といい様子がおかしくないか?もしかして、傲遜の結珠の効果って…飴玉を舐めた奴が強気になるんじゃなくて舐めた奴を見た奴が強気になるんじゃ…

 

 「手間を取らせるな」

 

 考え事をしながら無防備に立っていた俺はクライスに足を払われ、廊下に倒れこんだ。そして仰向けになった俺の胸にクライスは足を乗せる。

 

 「どうだ?こうして欲しかったのだろう?」

 

 「ちがっ…!」

 

 俺は否定しようと思ったが意外と悪くな…いや!この状況は俺の中のプライドが許さない。

 

 「何をしているんですの!?」

 

 俺が抵抗しようとした時、アイヴィスが見えた。よかった、アイヴィスがクライスを止めてくれるだろう。

 

 「ワタルを足蹴にするなん…て…」

 

 アイヴィスが俺を見た途端、様子がおかしい。嫌な予感がする。

 

 「いつも凛々しいワタルが…こんなところで…あまつさえ私の従者に足蹴にされて…」

 

 アイヴィスがゴクリと喉を鳴らす。

 

 「アイヴィス様、これはワタルの望んだことなのです。以前、悶々としながら『踏まれたい』と言っているところを私が聞いております」

 

 おい、余計なことバラすんじゃねーよ。変態かと思われるだろうが。

 

 「そうでしたの?言ってくだされば私がいつでも致しましたのに」

 

 アイヴィスがやると絵面的に似合いそうだがやめて欲しい。

 

 「でえええい!」

 

 俺は二人が話している隙に体を捩り、どうにか立ち上がり、その場から走り去った。とりあえず自分の部屋に逃げるしかない。俺はそう考え、自分の部屋の扉を開け、逃げ込んだ。

 

 「旦那様?」

 

 部屋にはレアとナタリアが居た。ナタリアは部屋の掃除をしてくれていたようだ。ナタリアは俺に近づくと乱れていた服装を直してくれた。

 

 「そんなに慌ててどうされたのですか?」

 

 ナタリアはそう言いながら今度は汚れた顔を拭いてくれる。そして汚れた服を脱がし…

 

 「ちょい、待て。服はいい、自分で脱ぐから」

 

 俺はそう言って自分の服に手をかけようとしたがナタリアに手を掴まれた。

 

 「旦那様は何もしなくてよろしいのです、私が全てやります、旦那様のことは全て…。あぁ…旦那様の自由を全て奪って私が全て補って差し上げたい…」

 

 ナタリアは恍惚とした顔をしながら語っている。

 

 おいおい、ナタリアが一番やべーんじゃねーかこれ…。俺がそう考えているとナタリアがハッとしたような顔をしたあと、俺の顔をしばらく見つめたあと

 

 「わ、わ、私は何を…!?」

 

 顔を真っ赤に紅潮させてナタリアは言った。おや?これは

 

 「よかった、戻ったみたいだな」

 

 「旦那様、違うんです!さっきのはその…!」

 

 「分かってるって、ちょっとおかしくなってただけだよな?」

 

 俺はナタリアを落ち着かせながら言った。

 どうやら飴玉一つでは持続時間は長くなかったようだ。助かった…

 

 「そういやレアは何ともなかったな」

 

 俺はレアに話しかける。視界には入っていたはずだ。

 

 「心外ですね、そんな二流アイテムが私に通じるわけがないじゃないですか」

 

 そういや忘れてたけどレアは女神だったな。高ステータスに加えてデバフ無効とか強すぎないか?

 それにしてもちゃんと説明を聞かずにアイテムを買うものじゃないな、次からの教訓とすることにしよう。迷惑かけたみんなにもあとで謝らなきゃな…。


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