幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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穎知の雫 【挿絵】

 俺達は街を一周したあと、アルスター城に戻っていた。屋敷の入口で見慣れた顔を見かける。サリアとメイルだ。

 

 「あれ?どうしたんだ?」

 

 「それが、国王から招待を受けてな。私達にお礼を兼ねて食事を振る舞う、と」

 

 「なんだか緊張しますよ」

 

 「そうなのか、じゃあ飯まで俺の部屋に来るか?」

 

 食事とは恐らく夕食だろう。まだ日は沈んでいない。部屋で話をする時間くらいはあるはずだ。

 

 「そうだな、そうさせてもらおう」

 

 そう言って二人も加わり、五人で部屋へと向かった。

 

 「うわ、どうしたんですか。そんな大人数で」

 

 部屋でくつろいでいたレアが驚きの声を上げる。

 

 「まあ、たまにはいいだろ?」

 

 レアと話をしながら、俺は途中で買った物を思い出す。

 

 「そういや、面白いもの買ったんだぜ」

 

 そう言って俺は店屋で買った小瓶を取り出す。

 

 「なんですの?それは」

 

 アイヴィスが聞いてくる。

 

 「名前は…なんだっけ、なんとかのしずく?って言ってたな。飲むと俺の知らない大切なことを教えてくれるらしい」

 

 「穎知の雫ですよ、そのアイテムは」

 

 レアはこれを知っているようだ。攻略本に載ってたんだろうな。

 

 「へえ、それは面白そうですよ」

 

 みんなも興味があるようだ。レア以外は。

 

 「じゃあ早速…」

 

 俺は蓋を外す、匂いは…しないな。正直、謎の液体を飲むのは抵抗があるが、レアが何も言わないってことは毒ってことはないんだろう。俺は瓶に口を付け、透き通る青色の液体を飲み干していく。

 

 「?、別に何も…」

 

 俺が何も変わらないと言いかけた時、唐突に視界がぼやけ、体が傾く。が自分では立て直すことができなかった。

 

 「あれ…」

 

 俺の意識はそのまま途切れた。

 

 

 

 

 「…様……旦那様」

 

 俺が目を開けるとナタリアが目に映る。朝日が差し込む、眩しい……朝日?

 

 「やっべ!夕食は!?」

 

 俺は慌てて体を起こす。

 

 「もう、寝ぼけているのですか?今は朝ですよ」

 

 ナタリアが呆れたような顔で俺に告げる。どうやら夢でも見ていたようだ。

 

 「朝食ができていますよ。召し上がって下さい」

 

 そう言われて俺はレアに声を掛ける。

 

 「おい、起きろよ。レア、朝飯が来たぞ」

 

 レアは既にベッドには居なかった。珍しいな。俺より先に起きたのか。俺が驚きながらも机を見ると食事がいつもより少ない。どうやら俺の分しか置かれていないようだ。

 

 「なんだ、レアはもう先に食べたのか」

 

 俺がナタリアに話しかけるとナタリアは呆けた顔をしている。

 

 「先に食べたとは一体…?」

 

 「レアだよレア、いつも俺が起こして一緒に食べてるだろ?まったく、それなのに自分が先に起きたら俺を起こさないなんてひどいよな?」

 

 俺は笑いながら言ったがナタリアは訝しげな表情をしている。

 

 「旦那様…?その大変申し上げにくいのですが…」

 

 「どうかしたのか?」

 

 ナタリアの真面目な顔に俺も笑顔ではいられなかった。

 

 「先程から名前をあげられているレア…様とは……」

 

 「どなたのことでしょうか」

 

 

 

 

 俺はナタリアの言っていることが理解できなかった。レアがナタリアにこれほど嫌われるようなことでもしたのだろうか。

 

 「お、おい、なに言ってんだよ。いくらレアが面倒くさい奴だからって居ない扱いは流石にひどいと思うぞ」

 

 「旦那様…、お体の調子でも悪いのですか?その、レア様という方と何かあったのですか?」

 

 あくまでナタリアは知らない様子だ。とても演技には思えない。

 

 「なに言ってんだ、ここにレアの私物だって…」

 

 俺が部屋の反対にある棚に手を掛け、引き出しを引くが、中は空だ。俺は自分の心臓が大きな音を立てて脈打つのが聞こえた。

 

 「旦那様…?」

 

 ナタリアはそんな俺の行動を不安そうに見ている。

 

 「ちょ、ちょっと出かけてくる!」

 

 俺はナタリアに告げ、部屋を飛び出す。ちょうど廊下を歩いてくるエレナが見えた。

 

 「おはようございます、ワタ…」

 

 「レアを見なかったか!?」

 

 俺は挨拶をするエレナを遮り話しかけた。

 

 「レア…?どなたかの名前でしょうか?」

 

 「ほら、俺達が初めて屋敷に来た時!俺ともう一人女の子が居ただろ!?銀髪の長い髪の…」

 

 頼む、居たと言ってくれ。俺は心の底から祈ったが、エレナの様子をみれば返答を待つまでもなかった。

 

 「くそっ!」

 

 俺は屋敷を飛び出し、急いでギルドへ向かう。道中、嫌な気持ちで胸が締め付けられる。

 

 俺は息を切らしながらギルドの扉を開け、中を見回す。サリアとメイルは…居た。

 

 「サリア!メイル!」

 

 二人は俺が普通でないことにすぐ気がついたようだ。

 

 「どうしたんだそんなに慌てて」

 

 「落ち着いて下さいよ」

 

 俺は息を整えながら二人に質問する。

 

 「…レアを見なかったか」

 

 「「レア?」」

 

 二人は顔を見合わせて考えている。

 

 「いつも一緒にクエストに行ってただろ!四人で!」

 

 「なにを言ってるんだ。私達はいつも”三人”だっただろう?」

 

 「そうですよ、今日のワタルは少し変ですよ」

 

 なんでみんなレアを覚えていないんだ?

 なんで俺はレアを覚えているんだ?

 レアを覚えているのは俺だけなのか?

 じゃあ俺がレアを忘れたらどうなる?

 …レアは本当に居たのか?

 馬鹿なことを考えるな!

 なぜかずっとレアの顔を見ていない気がする

 …レアの顔、髪、肢体。

 レアに会いたい…なんでこんなに胸が苦しいんだ…

 そうか…俺はレアを…

 

 俺は視界が暗くなる。だが、もういい、レアの居ないこの世界ならいっそ…

 

 

 

 「…ル…ワタル…!」

 

 俺がゆっくりと目を開けると心配そうな顔をしているメイルの姿が見えた。ここは屋敷…?あれ、俺はギルドに居たはずなのに…。俺が部屋を見回すとみんな、心配そうな顔をしている。そして顔を横に向けると

 

 「レア…」

 

 レアを視界に捕らえた瞬間、俺は目を見開き、立ち上がる。そしてふらふらとおぼつかない足取りでレアの元に近づき…

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ベッドに座っているレアを抱きしめた。

 

 周りで見ていたみんなは驚きに声も出せない様子だ。でも関係ない。レアが俺の前に居てさえくれれば

 

 「ちょっ、なんですか急に!」

 

 レアがあまりに唐突な出来事に声を上げるが、抵抗する様子はない。俺はゆっくりとレアから体を離す。

 

 「ど、どうしたんだ。急に倒れたと思ったら今度は抱きついたりして」

 

 「まったく、そういうことは二人だけの時にして欲しいですよ」

 

 「ワタルったら意外と大胆ですのね」

 

 「アイヴィス様の教育に悪い…」

 

 反応は各々だ。

 

 「いや~…はははっ…」

 

 急に恥ずかしくなってきた俺は、言い訳のしようもなく笑って誤魔化すしかなかった。

 

 どうやらあの薬は大切な物を一時的に欠けさせ、その大事さを分からせてくれる物だったようだ。ずいぶんといかがわしい薬だったが、俺に変わらない当たり前のことだが、大切なことを気づかせてくれた。でも恥ずかしいからみんなには言えないな。特に目の前のこいつ、レアには。


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