幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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ヤキモチ 【挿絵】

 アルスター帝国への道中、馬車の中で俺はアイヴィスに話しかける。

 

 「なあ、アイヴィスはアルスター帝国には行ったことあるのか?」

 

 「いえ、ありませんわ」

 

 隣の国なのに行ったことないのか…箱入り娘というやつだろうか

 

 「じゃあレオムント国王とかエレナと面識は?」

 

 「何度かウォルダム城にいらした時に少しだけお話をしたことがありますわ。正直なところあまり親しいというわけではありませんわね」

 

 そうなのか、エレナも親しい友人は居ないって言ってたしな。王女様同士では気を使うことも多いんだろう。俺が間に入って二人を仲良くさせることができればいいな、と俺が考えていると、アルスター帝国が見えてきた。やはり歩くより断然早い、道中で襲われるようなこともなかったしな。

 

 「大きな街ですわね」

 

 アイヴィスが呟く。たしかにウォルダムよりは大きい。見慣れた町並みだ。なんだか久しぶりに帰ってきたような気がする。

 

 馬車は街道を真っ直ぐ突っ切って行き、アルスター城へと到着する。俺は馬車から降り、アイヴィスに手を貸す。俺達が全員降りると、屋敷の扉が開き、レオムント国王とエレナが一緒に歩いてくる。

 

 二人はジルスタン国王に挨拶をしたあと、国王同士で話を始める。そしてエレナがこちらに歩いてきて

 

 「…アイヴィス様…?」

 

 エレナは俺の後ろに居たアイヴィスを見て驚いた様子だ。そりゃそうだ、話では国王と俺達しか一緒に来ることは聞いていなかったのだろう。そして、エレナは俺の左手に付いた指輪が気になったようだ。

 

 「ワタル?その指輪は…」

 

 エレナが俺に聞こうとした時、アイヴィスが俺の腕に抱きつき

 

 「エレナ様、お久しぶりですわ。ワタルがお世話になっているようですわね」

 

 「ちょっ、おい。なんだよ急に」

 

 俺はアイヴィスを振り払おうとしたが放す様子はない。

 

 エレナが怪訝な顔をしている。こんなエレナは初めて見た。

 

 「アイヴィス様、他の者の目もありますのでご自重を」

 

 クライスがそう言うとアイヴィスは不満そうに手を放す。

 

 「お二人は仲がよろしいのですね」

 

 エレナは笑顔で言ったが、何か含みのある言い方な気がするのは気のせいだろうか。

 

 「お、おい、エレナ?何か怒ってないか?」

 

 「別に何でもありません!」

 

 そう言ってエレナは国王の元へ戻っていってしまった。アイヴィスを見ると、何やら勝ち誇った顔をしている。何がしたいんだこの王女様は…。

 

 俺が疑問に思っていると、国王同士の話が終わり、屋敷へと通された。国王達は用事があるようで、国王の部屋に入って行った。俺達は一度、自由に行動することにした。サリアとメイルは一度宿に戻るようだ。アイヴィスとクライスには来賓用の部屋を用意されているようだ。俺とレアも自分たちの部屋に戻る。

 

 「っと、悪いレア、先に部屋行っててくれ」

 

 俺はそう言うと踵を返し、歩き出す。廊下を曲がろうとした時、誰かとぶつかった。

 

 「悪い、大丈夫か?」

 

 「平気で…旦那様!」

 

 ナタリアは俺の顔を見ると目を輝かせ…ハッとしたように顔を伏せ

 

 「お帰りなさいませ、旦那様」

 

 落ち着いた様子で頭を下げる。嬉しいなら隠さなくてもいいのに。

 俺はナタリアに会いに行こうと思っていたが向こうも同じことを考えていたようだ。

 

 「おう、変わりなかったか?」

 

 「はい、旦那様の居ない屋敷はとても静かでした」

 

 「ははっ、寂しかったならそう言えよな」

 

 俺が冗談でそう言うとナタリアも笑い返してくれた。

 

 「それじゃ、これからまた頼むぜ」

 

 「はい、旦那様」

 

 俺はナタリアに別れを告げたあと、部屋に戻ろうと思ったが、もう一つ大事な用事があった。

 

 「おーい、エレナー、居るかー?」

 

 俺はエレナの部屋をノックする。しばらくの間のあと、返事が返ってきたので扉を開け、部屋へ入る。初めて入ったが俺達の部屋より遥かに綺麗だ。当たり前か。エレナは椅子に座り、机に向かっている。俺はエレナに近づき

 

 「勉強してるのか?」

 

 「はい」

 

 俺は話しかけたが、エレナは黙々と本を読んでいる。

 

 「やっぱ王女様は大変だな、アイヴィスも…」

 

 「アイヴィス様とはどういう関係なのです?」

 

 俺がアイヴィスの名前を出すと、言葉を遮りエレナが聞いてきた。

 

 「アイヴィスとはウォルダムの城で初めて会ってな。国王様から警護を頼まれて助けたらやたらと感謝されちゃって」

 

 「そうですか。それであんなに親しげだったのですね」

 

 エレナの言葉の節に棘を感じる。もしかして…

 

 「ヤキモチ焼いてるのか?」

 

 「っ…!」

 

 エレナはこちらを向き、顔を真っ赤にして何かを言おうとするが、先に俺が言葉を出す。

 

 「馬鹿だな、俺がエレナへの恩を忘れて他の奴に靡くわけないだろ?それに、この城に早く戻ってきたかったのだって、エレナが居たからだよ」

 

 俺がエレナに告げると、エレナは顔を一層赤くし、顔を伏せる。

 

 「本当…でしょうか」

 

 「俺がエレナに嘘をつくわけ無いだろ。もう、心配しすぎだよエレナは」

 

 俺はそう言ってエレナの頭を撫でる。エレナは何か言いたそうだったが、黙って撫でられる。しばらく頭を撫でたあと

 

 「じゃあそろそろ行くわ、悪いな勉強の邪魔して」

 

 俺は立ち上がり、部屋の扉を開ける。

 

 「ワタル!」

 

 俺が部屋から出ようとした時、エレナに声をかけられる。

 

 「おかえりなさい」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 エレナは微笑みながら言った。温かい、いつものエレナだ。

 

 「あぁ、ただいま!」

 

 良かった、誤解は解けたようだ。珍しいエレナを見れたのはいいが、やはりいつも通りの優しいエレナが一番だな。そして俺は、一人で部屋に居るであろうレアの元へと歩き出した。


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