翌日、俺は目を覚ます。
「おはようレア…」
ついいつもの調子で誰もいない空間に声をかけてしまった。恥ずかしい。そうだった、ウォルダム城では俺達はバラバラの部屋なんだった。すっかり忘れてたぜ。
体は…まだ重いな。前回より重症だったから仕方ない。それに前の時にはナタリアがマッサージしてくれたしな。あぁ、誰かしてくれないかな…。手よりもやっぱり足だな、足がいい。一度考えだすと余計にして欲しくなる。
「はぁ、誰か踏んでくれねーかな…」
思っていたことが口からこぼれてしまった。いかんいかん、こんなところを誰かに見られたら…そう思いながらふと扉の方をみるとクライスが立っていた。ノックされたことにも気づかないほど考えこんでいたらしい。
「勝手に扉を開けてすまなかった。私でよければ踏んでも構わないが」
いや、違うから。そんなハイヒールで踏まれたがってるわけじゃないから。俺はそんな特殊性癖の持ち主じゃないから
「ちげーよ!マッサージ!足でマッサージして欲しかったの!」
「そうなのか、私はてっきり…」
おい、その「てっきり」のあとに続く言葉をちゃんと言えよ。
「それはそれとして、食事ができている、食堂に移動しろ」
「わざわざクライスが声をかけに来てくれたのか?」
クライスって結構立場が上なんじゃないのか?なんでわざわざ俺を起こすために…
「アイヴィス様からの指示だ。城にいる間の、ワタル、サリア、メイル、レアの四名の警護をするよう言いつけられている」
「他の三人は既に食堂に行った。早く着替えろ」
そう言われて俺は急いで服を脱ぎ…
「なぁ、服を着替えたいんだけど」
「?、着替えればいい」
「いや、女の子に見られてるとちょっと…」
俺がそう言うとクライスは笑い出す。ひとしきり笑った後、
「いや、すまない。女として扱われたことなど久方ぶりでな」
「?、なに言ってんだよ。どう見ても可愛い女の子だろーが」
「っ!」
俺がそう言うとクライスは後ろを振り向く。顔が赤くなってなかったか?気のせいか。そんなことを考えながら、俺はいそいそと着替える。
「お待たせ、じゃあ行こうぜ」
俺がそう言うと、クライスはいつもと変わらない様子で俺を食堂まで連れて行った。やはりさっきのは気のせいだな。
「そういえばアイヴィス様に聞いたのだが」
サリアが朝食を食べながら俺に話しかけてきた。
「この街にもギルドがあるらしい」
「そこそこ大きなギルドらしいですよ」
へえ、ギルドがあるのか。体調が良くなったらリハビリがてらクエストを受けるのも悪くないかもしれない。
「そりゃいいな。今日、見に行ってみるか」
「ダメですよ!」
退屈しそうだったので提案してみたがメイルに怒られた。俺は今日一日をどう過ごそうか考えながら食事を取っていたが、ふと自分のポケットに入っている物が気になった。
「あ、そういやこれのこと忘れてた」
そう言って俺は小箱を取り出す。色々あって結局中身を確かめていないままだった。三人も気になっている様子だ。俺は結ばれている紐を解き、箱を開ける。
「なんだこれ?」
箱の中には緩衝材のようなものに包まれた…指輪?俺はそれを掲げてみる。緑色の宝石のようなものが付いている。
「どうやら魔法石のようですよ。少し見せて下さいよ」
指輪を見たメイルがそう言うので、俺は指輪を渡す。
「やはり魔法石ですよ」
「じゃあメイルにやるよ、俺が持っててもしょうがないしな」
俺はメイルにプレゼントのつもりで言ったがメイルはあまり嬉しくないようだ。
「この魔法石は風の魔法を使うためのものですよ。私には必要ありませんよ」
「へえ、魔法石によって特性があるのか」
「そうですよ、見た目で大体わかります。私の杖に付いている魔法石は赤色なので火属性に特化しているのですよ」
そうだったのか、でもメイルが使わないとなると誰も使わないぞ、どうするよこれ。俺は利用価値のなさそうな魔法石の指輪に困惑したが…良い事を思いついた
「じゃあ俺に魔法を教えてくれよ。体は動かしちゃいけないけど魔法の練習なら大丈夫だろ?メイル、頼めるか?」
「それは良い考えですよ。私に任せて下さいよ」
良かった、これで退屈はしなさそうだな。
「ではこの指輪は邪魔にならないところに付けて下さいよ」
どこに付けるかな…とりあえず聞き手にあると邪魔になりそうだから左手だな。親指は入らないし、小指は細すぎる。人差し指と中指もよく使うだろうし…
そう考え、俺は深く考えずに左手の薬指をメイルに向かって差し出した。メイルはしばらく固まり、顔を逸らしながら指輪を付けてくれたが、手が震えていたのは気のせいだろうか。
「あなた、わざとやってるんじゃないですよね」
レアがジト目で俺を見てくる。
「?、何がだよ?」
「別に…」
レアは明らかに不機嫌だ。サリアも何か言いたげな顔をしている。なんなんだよ一体…。
そのあと俺は左手にいつもと違う感覚を覚えながら、残りの食事を食べた。