幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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一夜の警護

 「広い部屋だな…一人でこんな広いと逆に不便だろ…」

 

 俺が独り言をつぶやいていると

 

 「入り口で呆けていると邪魔よ、どきなさい」

 

 アイヴィスが部屋に戻ってきた。今日はもうあとはこの部屋で過ごすらしい。

 

 「そこの下僕」

 

 アイヴィスが話かける、誰に話しかけてるんだろう

 

 「そこのお前よお前」

 

 「もしかして俺のことっすか」

 

 「そうよ、退屈だわ。なにかしなさい」

 

 「ちょっ、宴会じゃねーんだからさ、無茶振りすんなよ」

 

 俺がそう言うとアイヴィスは少し考え

 

 「そうね、そこで三回回ってワンと鳴きなさい」

 

 「ふざけ…」

 

 俺は当然拒否しようとしたがクライスに剣を突きつけられる

 

 「やれ」

 

 「ぷぷっ、お似合いですね」

 

 おいおい、マジかよ。この部屋に鬼畜しかいねーんだが。誰か助けてくれよ。

 

 仕方ない、適当にやっとくか。と思い、俺が立ち上がった瞬間

 

 城の反対側から爆発音が聞こえ、鈍い振動が響いた。どうやら賊が襲おうとしているというのは本当だったらしい。廊下を警備兵が走る音が聞こえる。そしてクライスも廊下に出て…だが待て、王様の部屋でも王女様の部屋でもないところを爆破して何の意味が…俺は数瞬考え、答えに辿り着く

 

 「クライス行くな!罠だ!」

 

 俺がクライスを呼び止めた時にはもう遅かった。ガラスの割れる音が聞こえ、振り向くと賊が窓から入り込み、すぐさまアイヴィスに近づきナイフを首に添える。

 

 「動くんじゃねえぞ、少しでも変な動きをしたらコイツを殺す」

 

 「たっ、助け…」

 

 くっそ、やはりクライスをアイヴィスから離すための陽動か…もう少し気づくのが早ければ…

 

 「おい、武器を捨てろ」

 

 賊はクライスを最警戒しているようで、クライスに武器を捨てるよう促す。アイヴィスを人質に取られては抗うことはできず、剣を捨て…賊の一人がクライスを後ろから鈍器で殴る。

 

 「ぐっ…!」

 

 クライスは声を上げ、倒れる。まさか死んではいないだろうが意識がないようだ。

 

 「お前らは何だ…?」

 

 賊は情報にない俺達に困惑しているようだ。だがどう見ても警備兵には見えないだろう。その隙に俺はレアに小声で指示を出す。俺が簡潔な作戦を伝えるとレアは頷く。そして俺は覚悟を決め…

 

 「アイヴィスを放しやがれ!」

 

 俺は短剣を抜き、猛然と賊に走りかかった。賊が首に添えていた短剣をアイヴィスに突き刺す…ことはできなかった。俺がレアにシルトを発動するよう指示を出していたからだ。予想外のことに賊が呆気に取られている、隙だらけだ

 

 俺は賊の短剣を弾き飛ばしたあと、脇腹に短剣を突き立てる。アイヴィスのピンチだ、手加減してられない。

 

 賊は倒れ、俺はアイヴィスの前に立つ。

 

 「おい、逃げられるか?」

 

 俺はアイヴィスに話しかけたが、アイヴィスは震えるばかりで動く様子はない。こんな狙われやすいところで戦うなんて自殺行為なんだが…

 

 「きゃあ!」

 

 「レア!」 

 

 賊達はレアを突き飛ばし、こちらにボウガンを構える。俺の動きを見て接近戦は危険だと判断したんだろう。アイヴィスのそばを離れるわけにはいかないし、これじゃ的だ。俺はなにかいい方法を考えるが思いつかない。そうこうしているうちに矢が放たれる。おいおい、最近矢で狙われること多くねーか?

 

 連弩でないだけマシだが、それでも3人に同時に狙われたら連弩と大差ない。

 

 矢は目で追えるが後ろにアイヴィスがいるから避けられない。…やるしかない。

 

 俺は集中し3本の矢の矢尻を捉え弾く。

 

 「っ…!」

 

 体に痛みが走る。だが既に次の矢を装填し終え、こちらに構える賊。もう一回体は動くか?無理でもやるしかない。誰かがこの部屋に駆けつけるまで俺が時間を稼ぐしかない。

 

 「くっそ!」

 

 俺はもう一度矢を弾く。頭に鈍い痛みが走り、体が軋む。

 

 「しぶとい野郎だ。これでくたばれよ」

 

 賊がもう一度ボウガンを構える。ダメだ…。ダメじゃない!俺が守るんだ、俺しかいない。

 

 俺は集中し矢を追う…ことはできたが体がついてこなかった。1本目は弾いたが2本目、3本目が俺の足、腕にゆっくりと刺さっていくのが見えた。

 

 「っぐ、あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

 

 俺はその場に崩れ落ちた。限界を超えた集中と動き、さらに体に刺さった矢の痛みでまともに息もできない。満身創痍の俺だがそれでも賊は近づかずボウガンを俺の頭に向け、矢を放つ。あっ、これ死…

 

 俺は死を覚悟して目を閉じたが、矢が飛んでくる気配がない。これは…冷気…?恐る恐る目を開けると、目の前には氷の壁ができていた。賊が俺に構っている間に、クライスが目を覚ましたようだ。

 

 「貴様ら…」

 

 クライスは頭から血を流しながら怒りを瞳に湛え、賊達に向き直る。

 

 賊達はボウガンを構えるが引き金を引くための手は既に凍りついていた。そして、手先足先から少しずつ凍らされていき、賊達は身動きが取れなくなった。クライスってこんなに強かったんだな…そう思ったことは覚えているが、そこから先は覚えていない。俺はそこで意識を失ったようだ。


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