「きっつい…」
俺は忘れていた。この中で一番、体力がなかったことを。アンセットの元で修行をして基礎体力が付いたとは言え、まだ修行を初めて一ヶ月も経っていないので、今までとそれほど大差がない。
「大丈夫か?荷物を持とう」
「お、おう、助かるぜ」
サリアが俺を気遣って荷物を持ってくれる。優しいな、サリアは。
「情けないですね…、それでも男ですか」
こいつ本当に女神か?少しは人を労れよ。
街を出発してどれだけ時間が経っただろう。山道を歩いて、2時間?3時間?わからないが腹が減ってきた。
「ちょっと休憩にしようぜ…」
「私も賛成ですよ…」
俺は息を切らしながら提案する。メイルも少し疲れたようだ、魔法使いが体力がないのは当然だろうな。
俺達は山道脇の岩場に腰掛ける。
「地図で見ると近いけど歩くと遠いな」
俺は持ってきた食料をかじりながら三人に話しかける。
「なに、この山を超えればすぐだ。あと半分と言ったところだろう」
「まだ半分かよ…」
正直、キツいが山だからこれから下りになるだろう。そう考えると幾ばくか気持ちが楽だ。
「そういやウォルダムってどんなところなんだ?」
「聞いた話でしかありませんが、大きな川沿いにある国で、水の街というイメージのようですよ」
レアに聞けばもっと詳しいことがわかるんだろうが、見てのお楽しみということにしておこう。
「ウォルダムの国王は知ってるか?」
「名前だけは知っている。ジルスタン国王だ。面識はない、だがレオムント国王とは旧知の間柄で仲が良いらしい」
「へえ、じゃあこれはプレゼントか何かかね」
そう言って俺は小箱を取り出す。振っても音はしない。中身気になるな…でも開けちゃいけないんだよな。ちょっとくらい開けたって…
「中身が気になりますね。別に開けちゃってもバレないんじゃないですか?」
いかん、このクズ女神と考えが被るなんて。
「ダメに決まってんだろ!」
俺が咎めるとレアは頬を膨らませる。子供か、こいつは。
「うっし!んじゃそろそろ行くか!メイルも大丈夫か?」
「私は大丈夫ですよ。むしろワタルが心配ですよ」
ぐうの音も出ない。下手したらもう一度休憩なんてことになりそうだ。頑張ろう。
しばらく行くと峠を超えたのか、道が下りになった。
上りよりも若干ペースを上げ、山道を歩いていると遠くに塔のようなものが見える。もしかして
「なぁ、あの塔ってもしかして」
「あぁ、もうすぐでウォルダムだな」
「やっとですか、疲れましたよ」
俺は目的地が見えたことで俄然やる気が出てきた。よし、あと少し頑張ろう…
俺が気合を入れ直したその時、体に悪寒が走る。
俺が短剣で矢を弾くと、辺りに金属音が響く。
「誰だ!」
俺が草むらに向かって声をかけると、簡素な装備を身につけた人間が目視できるだけでも4人現れた。賊か?全員、仮面のようなものをつけている。なぜ顔を隠す?
「お前の持っている小箱を渡せ」
賊の一人が俺に向かって小箱を要求する。なんで俺がコレを持ってるって知ってんだ?どこかから情報が漏れたのか?だとしたらマズい。
「いやだね、これは大事なもんだ絶対渡さねえ」
俺がそう告げると賊は何も言わずに陣形を取る。
「力ずくってわけだ…」
俺を含めパーティ全員が武器を構える。相手も簡単には近寄って来ない、なら…
「フレイムバースト!」
メイルが火魔法を放つ。遠距離攻撃はメイルの仕事だ、喰らいやがれ。
だが、相手も同じことを考えていたらしい。
「フレイムバースト!」
一瞬遅れて賊も魔法を放つ。同じ魔法のようだ。大丈夫か…?
俺の心配はすぐに杞憂に変わった。明らかにメイルの火力の方が高く、相手の火を飲み込み、術者ごと吹き飛ばした。おいおい、死んでないだろうなアレ…。流石に人相手だと殺すのはマズい。だが、体を痙攣させているところを見ると生きてはいるようだ。
「はあああああ!」
仲間を一人倒され、呆気に取られている賊にサリアが斬りかかる。しかし、隙だらけだった賊に攻撃を当てることはできなかった。あいつ空振りやがった。
俺はサリアの相変わらずの命中率に愕然とした。が
賊の後ろにあった太い木が幹の部分から切り裂かれ、滑り落ち、倒れた。おいおい、その攻撃は敵に当てろよ。と俺は心の中でツッコンだが。賊をビビらせるにはちょうどよかったかな。
賊は予想外の二人の戦闘力にたじろいでいる様子だ。これなら行けるか?と思っていたが甘くなかった。賊の一人が俺に目をつけ、剣を構えて突っ込んでくる。水平に切り払った剣は俺の体に触れることなく弾かれる、レアの魔法だ。剣を弾かれた隙を見逃さない。俺は賊の剣の持ち手に短剣を突き立てる。剣は弾き飛ばされ、遠くの地面に突き刺さった。
しょうがないよな、人相手に短剣ぶっさすわけにもいかねーし。俺がそう考えていると
賊達は何やら小声で話し合ったあと、気絶した仲間を抱えて去っていった。
「ふぅ、なんとかなってよかったぜ…」
なんとかなってみんな安堵している様子だ。とんだ邪魔が入ったが目的地はすぐそこだ。俺達は再びウォルダムに向けて歩き出した。