夕食を終えた俺は、先に風呂を終え、ベッドに腰掛けていた。今日は手に力も戻り、問題なく食事も風呂も自力で行うことができた。今はレアが風呂に入っている。
「はぁ…なんか体がダルいんだよなぁ…」
身体の物理的な損傷は治ったようだが、俺は疲労感が拭えないでいた。それを、洗濯物を取りに来たナタリアに伝えてみる。
「なんか栄養剤みたいなのってないか?」
「そのようなものはないと思われます。ですが、よろしければマッサージを致しましょうか」
考えもしなかった返答だが、いい提案だ。
「おぉ、頼むよ」
そう言って俺は上着を脱ぎ、ベッドにうつ伏せで寝る。
「では、失礼します」
ナタリアはそう言うと俺の腰の上に跨ってきた。軽い、体重をかけないようにしているようだ。
「もし痛みがあれば言って下さい」
そう言ってナタリアは俺の背中に手を当て、親指を押しこむようにして力を込める。心地よい。
「いい感じだ、その調子で頼む」
俺はしばらくマッサージを受けていたが、慣れてくると物足りなく感じてきた。
「もっと力いれても大丈夫だぞ?」
「えっ、もっとですか…?」
ナタリアの反応からすると既に限界だったようだ。まぁ女の子だもんな。じゃあ…
「手の力じゃ限界があるよな、足でしてくれていいぞ」
「あ、足でですか!?できません、旦那様を踏むなんて!」
ナタリアは即座に否定してきたが、俺は踏まれることに特になんの抵抗もない。
「俺がして欲しいんだからいいんだって、ほら、やっちゃってくれよ」
ナタリアはしばらく考えていたが、立ち上がった。
「本当によろしいのですね」
俺が頷くのを見て、ナタリアがそっと足を出し、俺の背中に乗せ、体重をかける。しかし、軽い。気を使っているんだろうか?
「もっと体重かけても大丈夫だぞ」
俺がそう言うとナタリアは先程より少し体重をかける。が、まだまだだ。
「もっともっと…」
俺はもっと体重をかけるよう促すがナタリアは少しずつ様子を見ながら体重をかけてくる。
「そんなんじゃ気持ちよくないぞ!もっと本気で踏んでくれよ!」
俺はじれったくてナタリアに強めに催促した。
…ところを風呂から上がったレアが見ていた。目があれだ、変態を見る目だ。「俺は違うんだよ」と言いたかったが、上半身裸で、メイドに困った顔をさせながら背中を踏ませて、あまつさえ「もっと本気で踏め」と言う今の俺を他人からどう見えるかを考えると、何を言葉にすればいいのか分からなかった。
「……レアもどうだ?」
俺は絞りだすような声でレアに話しかけた。
「どっちをですか?踏む方をですか?踏まれる方をですか?どっちにしろSMプレイは人目につかないところでやってくださいね」
そう言ってレアは自分のベッドに歩いて行き、腰掛けた。
俺はレアへの弁明は後にして、ナタリアに声をかける。
「ありがとな、気持ちよかったよ。今日はもう休んでくれ」
そう言うとナタリアは頭を下げて何も言わずに部屋から出て行った。恐らく、俺を気づかって何も言わないでおいてくれたんだろう。すまない、ナタリアまで巻き込んでしまって。さて、とりあえずレアの誤解を解かないとな…
俺の体はマッサージを受けて軽くなったが、心は逆に重たくなっていた。