「はい、とりあえずはこんなものでいいでしょう」
レアがそう言うと、俺に向けていた手を離す。
「ありがとな、なんだか体が軽くなったみたいだ」
「それは良かったですね」
こちらを見ずに言うレア。優しいのか冷たいのかわかんねーな。俺がそう思っていると
扉をノックする音が聞こえ、ナタリアが扉を開ける。
「お食事をお持ちしました」
「おっ、待ってました」
「あっ、まだ無理をしてはいけません」
俺がベッドから起き上がろうとしたのを見て、ナタリアが止めようとする。
「大丈夫だって、レアに治癒魔法かけてもらったから」
そう言いながら、俺は倦怠感を覚えながらも立ち上がり、机まで移動する。既に並べられた料理の一つに手をつけ…
フォークが机に落ちる音が響く。
「あれ…?」
まだ手に力が入らないようだ。どうすっか、流石に犬食いはマズいよなぁ。なんて考えていると。
「はい、どうぞ」
レアが俺に向けて、料理の刺さったフォークを向けてくる。これはもしや。
俺は口を開けて、フォークに近づけ…
歯と歯の当たる音がした。レアがフォークを引っ込めたからだ。俺が呆けた顔をしていると
「ププッ、なに甘えてるんですか。どうしても食べたいならそこのメイドさんに食べさせてもらえばいいじゃないですか」
この野郎…。人が弱ってんの見て嬉しそうにからかいやがって…。
「ナタリア、頼めるか?」
ナタリアは快諾すると俺に料理を食べさせてくれる。まるで子供の頃のようだが悪い気分ではない。いや、決して俺が幼児プレイが好きな変態というわけではないが。
必然的にいつもより時間をかけながらの食事となったが満足だ。明日には自分で食べられるようになればいいんだが…。さて、次は風呂か?でもこの体で入るのはしんどいな、別に一日くらい入らなくても平気か。
「俺は体ダルいから今日は風呂入らない。レア、好きな時に行っていいぞ」
俺はレアにそう告げる。が、ナタリアも聞いていたようだ。
「それでしたら濡れタオルで拭くだけでもどうですか?」
その発想はなかった。俺はナタリアに頼んで持ってきてもらうことにした。すぐに用意してくるというので俺はベッドに移動し、待つ。しばらくするとナタリアが戻ってきた。
「では服を脱いで下さい」
当然のように言い放つナタリア
「へ?いやいやいや、自分でやるからいいよ」
「無理をしてはいけません」
きっぱり言い切られると断りづらいんだよなぁ。まぁ背中だけやってもらうか。そう考え、俺は上着を脱ぐ。
ナタリアは俺の背後に回り、温かいお湯にタオルを漬け、絞って俺の背中に当てる。温かい…・人に体を触られるのはむず痒いが不思議と嫌ではない。お湯に漬け直しながら背中を上から下まで拭いてくれるナタリア。そして今度は前に回りこみ…
「って前は自分でやるから!」
あまりに自然な流れに流されそうになった。危ないところだった。
「そう言わずに、私に任せて下さい」
「いや、でも…」
俺が言い切る前にナタリアが体を拭き始める。背中と違って前だとナタリアが見えるから女の子に拭いてもらってるということを意識してしまう。いかんいかん、別にやましいことはしていないんだか堂々としていればいいんだ。と思いながらも俺はどこに目線を置いていいかわからず、目を閉じた。順番に体を撫でていくナタリアに俺は指一本動かせず座っていた。そして、
「終わりました」
ようやく終わった、やたらと時間が長く感じた。
「ありがとな、気持よかったよ」
そう言って俺は上着を着ようとする。が、
「まだ下の方が終わっていませんが」
そう言ってナタリアは俺のズボンに手を伸ばし…
おいおい、何普通に脱がそうとしてんだ。このメイドは。俺はナタリアの手を掴み言い放つ。
「下はいいから!これは命令!そう、旦那様からの命令!」
俺は必死でナタリアを止める。ナタリアは残念そうな顔をして手を離す。俺のために尽くしてくれるのは嬉しいが、献身的すぎるな。まぁ悪い気分ではないのでそのままにしておこう。
「じゃああとはトイレ行って寝るから、今日はもういいぞ」
俺はナタリアに告げて立ち上がろうとする。しかしその前にナタリアが話しかける。
「それならこれをどうぞ」
「…なんだそれ?」
ナタリアが持っているのは…瓶か?なんでそんなものを今…
「し尿瓶です。トイレへ行かずともこちらでどうぞ。ささ、私がお手伝いしましょう。」
ここまで献身的だともはや病的だな。前言撤回だ。このメイドには今すぐ教育が必要だ。
俺はそれからナタリアに、自分でできることは自分ですると説明したあと、部屋へ返した。が、納得しているようなしていないような顔をしたまま部屋を出て行ったナタリアに、俺は不安の種を残したままの就寝することになった。