国王をギルドまで保護してきた俺達は、馬車で迎えに来た家臣の人たちと一緒にアルスター城へと向かった。とりあえずは屋敷で意識を取り戻すのを待つらしい。今の国王の状態を見たエレナはどう思うだろうか…そんな不安を胸に馬車は街道を走っていく。
「お父様!」
城に到着するやいなや屋敷の入り口で待っていたエレナが駆け寄り、声をかける。だがまだ意識を失ったままの国王から返事はない。
「あぁ、どうしてこんなことに…」
予想はしていたが悲しそうなエレナの顔を見るのは辛い。だが俺にはどうすることもできずに早く回復するのを祈るしかなかった。
心配そうな俺の様子に気付き、エレナが声をかけてくれる。
「ワタル達がお父様を助けてくださったと聞いています。あとはこちらでなんとかします。命を救ってくださったことを感謝致します」
そう言ってエレナは頭を下げる。
「いいよお礼なんて、それより父ちゃんに付いててあげな」
俺の言葉を聞いたエレナは不安を宿した笑顔を俺に向け、もう一度感謝を伝えると、屋敷の中へ入って行った。俺は、心配するエレナのためにも、早く良くなってくれと願った。
流石に屋敷には居づらかった俺達はギルドへと戻ってきた。今回のクエストは散々だったな。
だがそれにしても…
「国王の護衛がブロンズに貼られてるっておかしくね?」
俺は受付のお姉さんにツッコんでみる。
「私だって驚きましたよ。というよりこのクエストはただの荷車の護衛としか受注していません。恐らく、国王の護衛と書くとかえって危険が増すと考えたのでしょうね。かと言ってシルバーやゴールドランクで荷車の護衛程度のクエストがあるのも不自然ですし、ブロンズに紛れ込ませたほうが安全だと考えたのでしょう」
「なーるほどね」
俺達はとんでもないクエストを引いちまったってわけだ。
「以前から思っていたのですが、あなたが受けるクエストはいつも何かに巻き込まれますね。それでもなんとかなっているので運がいいのやら悪いのやら…」
たしかにその通りだ。俺は苦笑いするしかなかった。
エレナと国王のことは心配だが、どうしようもないものはどうしようもない。だから俺は今できることを考える。
「俺、短剣のスキルを磨きたいと思う」
それを聞いた三人から驚きの声が上がる。
「それは良い、腕を磨いておいて損はないからな!」
「スキルが使えるようになればワタルも立派な戦力ですよ!」
「がんばって下さいね」
俺の提案を肯定してくれる二人、そして他人事のレア。
「お前も何か覚えるんだよ、この寄生女神がっ」
俺はレアの頭を掴みながら言い放つ。
「そんな横暴な!私は女神の力で十分役に立ってます!戦闘はあなた方がやって下さい!」
「ったく、分かったよ、じゃあ戦闘はしなくていいから補助の魔法を覚えてくれよ。それなら問題ないだろ?」
「まぁ…それなら…」
なんでそれすら嫌そうなんだよ、ガチ寄生とかパーティから蹴るぞこの女神。
「それで、武器の扱いとかスキルってどうやって覚えればいいんだ?」
俺は初歩中の初歩から尋ねる。
「武器の練度を上げるには教えてもらうのが一番早い。そして武器によっておおよその職というのが決まってくるんだ」
「剣なら戦士、杖なら魔法使いってわけか分かりやすくていいな。で、短剣は?」
「狩人ですよ、ハンターとも呼びますよ。短剣や弓を主に使いますよ」
おぉ、なかなかかっこいいな。気に入ったぜ。
「それで狩人の師匠はどこにいるんだ?」
俺は当然気になる質問をしてみた。が、二人は訝しげな顔をしている。
「あまり詳しくは知らないんだが、その、なんというか…変わった人らしい。名前はアンセット」
「街の外の廃墟に住んでいる人らしく、腕は確かですが、あまり良い噂を聞きませんよ」
なんだそりゃ、嫌な予感がぷんぷんする。
「けど腕が確かだってんなら、その人に教わるのが一番の近道なんだろ?俺、行くよ」
そう告げた俺だったが、内心では不安が一杯だ。
ギルドの外に出た俺達は、俺とレアの修行を頼みに行くため、一旦別れる。二人は俺に付いて来てくれると言ったが、そもそも二人に甘え過ぎなのが事の発端だ。だから俺は一人で廃墟まで行くことにした。
俺は街から少し離れ、教えてもらった廃墟を目指して歩いていた。俺は息を切らしながら鬱蒼と生い茂る雑草をかき分け進んでいく。
「はぁはぁ…本当にこんなところにあるのかよ…」
あまりに荒れ果てた道に俺は思わず愚痴をつぶやく。そして、一際大きな草をかき分けるとそこには
古い石造りの建物、損傷がひどく、草は伸び放題で建物にまで蔦が絡まっているが、それなりに大きい。だが人が住んでいるようには見えないんだが…俺は場所を間違えたんじゃないかという不安を覚えながらも、石の門のようなものをくぐり抜け…
俺は背中から気配を感じ、腰から短剣を抜き振り向く。が、既に影は俺の目の前まで迫っていた。
――ギィン
俺は反射的に顔に短剣を構えていた。それがたまたま相手の武器と当たったようだ。相手の武器も…短剣?フードを被り、ローブのようなものに身を包んでいて分かりにくいがコイツ、女か…?俺が考察をしている間にも短剣を構え、ジリジリとこちらに近づいてくる。
「お、おい待ってくれ!俺の名前はワタル!怪しい者じゃない!アンセットって人を探しに来たんだ!」
俺はすぐにでも戦闘が始まりそうだったため率直に内容を伝えた。すると女は不審がるような様子で俺に尋ねる。
「…誰に聞いてきた」
「俺の仲間だよ!でもたぶん知り合いってわけじゃない、アンセットってやつは変人ってことで街では結構有名なんだよ!」
俺は相手に納得してもらおうと必死で言った。だが
「アハハハハ!変わったやつだと影で言われることはあったが、面と向かって言われたのは初めてだよ!」
話が飲み込めず、俺が呆けた顔をしていると、女はフードを下げた。
「アンセットは私だよ」
「えええええええええ!?」
俺は思わず声を上げた。そりゃそうだ、いきなり人に短剣ぶっ刺そうとする人が俺の師匠候補だったのだから。
「で?”変人”の私に何の用で?」
毒のある言葉を混ぜながらアンセットは俺に聞いてくる。
「なんていうか、その、俺は強くならなくちゃいけないんだ。だからあんたに短剣の扱い方を教わりに来た」
俺はここに来た理由をそのまま伝えたつもりだったが、アンセットは納得していない様子だ
「別にわざわざこんな辺鄙なところに来なくても短剣を使える奴なんて他にもいるだろう?」
至極当然な疑問だ、だが
「俺はあんたの腕が確かだという話を聞いたからここに来た」
まっすぐにアンセットを見ながら、本気であることを目で訴えた。
「ま、まぁたしかに他の狩人に負けない自信はあるけどね」
褒められることに慣れていないのかアンセットは目をそらしながら言った。
「頼む、俺に短剣の使い方を教えてくれ!」
俺は土下座して頼み込む。異世界人に土下座が通じるかはわからないが。
「私は才能のない奴に狩人としての戦い方を教えるつもりはない」
くっ、ダメか。そう思った俺だったが
「だが、アンタは私の気配に気が付き、しかも私の短剣を防いだ。全力で襲った私の攻撃をだ。そういう土壇場での動きってのは教えてできるもんじゃない。センスあるよ、アンタ」
「じゃ、じゃあ…!」
「修行は明日からだ。準備もあるからね」
「よろしく頼むよ、アンセット!」
そう言い放った俺をアンセットはアッパーで殴ってきた。目がチカチカする。
「アンセット師匠、だ」
「は、はい…」
そうして俺には狩人の師匠ができた。明日からだという修行に備えて今日は帰ることにした。レアの方はどうだろうか?無事に教わることができていればいいんだが…