幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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ファーストコンタクト 【挿絵】

 メイルの宿を出た俺達は、ギルドへと向かうことにした。恐らくレアが一人で待っているだろう。少し急ぎながら俺はギルドの扉を開ける。

 

 ギルド内を見回してみるがレアの姿は見当たらない。銀色の髪は目立つからすぐにわかるはずなんだが…。

 受付でも聞いてみたがやはり見ていないらしい。俺は一瞬、昨夜、夜道を一人で城に帰るレアの姿を思い出し悪寒が走った。まさか、帰りに何か…?

 

 「悪い、ちょっと城に行ってくる!」

 

 俺は二人に告げ、走りだそうとする。

 

 「お、おい待て!私たちも一緒に行く!」

 

 「そうですよ!」

 

 付いて来てくれると言う二人の言葉に甘え、俺達は三人で城に向かった。

 

 「なんで一人にしちまったんだ?」、「レアなら女神だから大丈夫だと油断してたか?」「今この瞬間も危険な目にあってるんじゃないか?」、俺は良くないことばかり考えてしまう。レア…レア…もしお前に何かあったら俺は…

 

 「レア!」

 

 俺は城に着くなりメイド達を無視して屋敷にあがり込み、俺とレアの部屋の扉を開ける。そこには

 

 …

 …居た。寝ている。というかイビキをかいて爆睡している。俺は安堵からその場にへたり込んだ。

 

 「なんだ、レア、居るじゃないか」

 

 「ワタルが血相変えて飛び出すから何事かと思いましたよ」

 

 サリアとメイルも俺に追いつき、肩透かしを食らったような顔をしている。

 

 俺が、何事もなかったことに安心していると

 

 「ワタル!メイド達から話を聞きました。どうかされたのですか!?」

 

 エレナが心配そうな顔をしてこちらに歩いてきた。俺の様子がおかしかったことをメイドから聞いたようだ。

 

 「いや、別に大丈夫だ。ちょっとレアが心配でな…」

 

 「ならいいのですが…あら?そちらの方々は…」

 

 エレナは見慣れない二人がいることに気がついたようだ。

 

 「俺のギルド仲間だよ」

 

 それを聞いてエレナは二人に頭を下げる。それを受け、サリアとメイルは軽い自己紹介をする。

 

 「それで君は一体…?」

 

 サリアが尋ねる。意外だ、二人は王女様の顔を知らないのか。

 

 「私は…」

 

 エレナは二人に、自分が国王の一人娘であること。現在、国王が不在のこの屋敷を預かっていることなどを伝えた。

 

 「「それは失礼致しました!」」

 

 慌てて二人が片膝をつき、頭を下げる。

 えっ、王女様ってそんなに偉かったの?俺は今までの自分の気軽さを思い出し、少し動揺する。

 

 「な、なぁ、俺もエレナ様とか呼んだほうがいい…?」

 

 「そんな!私とワタルは友達ではありませんか」

 

 「そ、そうか?」

 

 エレナがいいならいいんだが、国王様が見たら怒るんじゃないだろうか。だがそれにしても

 

 「こいつ、俺達が近くで騒いでんのに起きねーな」

 

 さっきは安心したがレアのふてぶてしい寝相に今度は怒りが湧いてきた。そして俺はレアを無理矢理起こし、ギルドへと連れて行った。その道中、ふと疑問に思う。あれ?どうして俺はあんなにレアのことを心配して…

 

 

――ギルド――

 

 「それにしても、まさか二人が王女様と知り合いだったなんて意外でしたよ」

 

 メイルが至極当然の感想を俺達に伝えてくる。

 

 「まぁ、色々あってな。今はあそこに住まわせてもらってるんだよ」

 

 よく考えたら屋敷に住ませてもらってるって凄いことだよな、まぁただのラッキーなんだけど。

 

 「でも二人は王女様相手だからって緊張しすぎじゃなかったか?言っても相手はそう年も変わらないんだしさ」

 

 サリアとメイルは顔を見合わせ、「もしや」という顔をする。

 

 「もしかして国王様には会ったことがないのか?」

 

 「あぁ、ないけどそれがどうかしたのか?」

 

 エレナの話をしてたんだがなぜ国王の話を?と俺は疑問に思ったが

 

 「現アルスター帝国国王、レオムント国王は大変厳格な方で有名なんだ。粗相をして城を追い出された従者、兵士は数えきれないらしい」

 

 「私も顔は見たことが無いですがそういう話はいくらでも聞きましたよ」

 

 「マジかよ…」

 

 本気で今の態度じゃ屋敷追い出されるんじゃねーか?心配になってきた。でも、会わないことにはどうしようもないな。

 

 「まぁそれはそれとして、今日もクエスト行くか!」

 

 いつ訪れるかもわからない日のことを気にしても仕方がない。俺は前向きに今を頑張るのだ。

 

 

――街から離れた山道――

 

 俺達は今回、山道を通ってくる荷車の護衛クエストを受けた。護衛というのは初めてだが、色々なクエストを経験しておきたかったのでこれにした。何事もなければ一緒に連れ添うだけでいいというのもある。

 

 「うーん、遅いな」

 

 約束では山道の途中で俺達と合流して街まで行くことになっているんだが、話に聞いていた時間になっても荷車は現れない。

 

 「来ないんじゃ仕方ないですね、帰りますか」

 

 レアが仕事を放棄して帰ろうとするのを俺が止めようとしたその時

 

――ガサガサッ

 

 俺は、側の茂みから音がして振り向く。すると

 

 「た、助けてくれ!」

 

 一人の男が飛び出してきた。息を荒げながら、俺達に助けを求めてくる。

 

 「お、おい!大丈夫かよおっさん!」

 

 俺は男に声をかける。だが、男は限界だったようで、倒れてしまった。

 

 「おい!しっかりしろ!」

 

 俺は男を支え、なんとか体を起こす。

 

 「こ、ここに来る途中で荷車が賊に襲われたのだ…。狙いすましてというよりはたまたま襲われたようだ。私以外の者は既に…ぐっ…!」

 

 「もうわかった、それ以上はしゃべらなくていい」

 

 俺は男を傍にあった木に、もたれさせる。その直後

 

 「おい!まだ仲間が居たみたいだぜ!」

 

 いかにも賊、と言った風体の男が現れる。その後ろにも数人の仲間がいるようだ。一番前にいるのが親玉か?

 

 「おい、そいつをこっちに渡せ。あとそこの女達もだ」

 

 賊は下衆な笑みを浮かべ、俺達に近づいてくる。

 

 「ふざけんな!誰が渡すかよ!」

 

 俺は賊に言われた言葉を拒否する。それが癇に障ったらしい。

 

 「チッ、おい、やっちまえ」

 

 賊の一人が鎖の先に鉄球が付いたようなものを振り回し、次の瞬間、鎖を撓らせ、俺の方へ鉄球を飛ばす。流石にあれは短剣じゃ防げねーぞ…俺は即座に声をかける。

 

 「サリア!」

 

 「あぁ!まかせろ!」

 

――ガンッ

 

 サリアが俺の前に立ちはだかり剣で鉄球を受け止め、弾く。流石、頼りになるぜ。

 そして、サリアは地面に落ちた鉄球を見下ろすと、鉄球に向けて剣を突き下ろし、一刀両断する。金属同士が触れ合うような嫌な音が響く。鉄球は真っ二つだ。

 

 「おい、私の仲間に手を出すな」

 

 サリアが賊を睨みつける。賊は明らかに動揺していたが、それでも引かなかった。

 

 「それがなんだってんだよ!魔法は剣じゃ防げないだろうが!おい!」

 

 そう言って賊の一人が両手を前に出し、何やらぶつぶつ言っている。マジかよ、賊のくせに魔法使えるやつまで居るのかよ。以外と偏差値たけーなおい。でもな…

 

 「メイル!」

 

 「分かってますよ!」

 

 俺はメイルに応戦するよう言ったが、相手の方が一瞬早く、魔法を放つ。あれは氷か?氷柱のようなものが俺に近づき…

 

 「フレイムピラー!」

 

 メイルが魔法を唱えた瞬間、相手の魔法は消えてなくなった。というか視界が火柱で覆われてよく見えない。良かった、たぶん50%くらいの精度は引けたみたいだ。

 

 「こいつらマジかよ…」

 

 賊は明らかに困惑していた。俺はチャンスとばかりに短剣を賊に向け、言い放つ。

 

 「おい、まだやるってなら相手になるぜ?(サリアとメイルが)」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「…く、くそっ、覚えてろよ!」

 

 テンプレのような捨て台詞を吐きながら賊達は逃げていった。結局荷物は取り戻せなかったが一人だけでも助けられたのは不幸中の幸いというやつだろう。

 

 俺は男に声をかける。

 

 「おーい、おっさーん。もう大丈夫だぞー」

 

 「ふぅ…ありがとう、なんと礼を言えばよいやら…」

 

 そう言うと男は緊張の糸が切れたのか、気絶してしまった。仕方がない、ギルドまで担いていくか。

 

 

 

――ギルド――

 

 「おーい、受付のお姉さーん」

 

 俺はギルドの入り口から声をかける。ギルド中に保護した人はどうすればいいのか聞くためだ。

 

 「このおっさんをクエスト中に保護したんだけど…」

 

 「どなたですか?もう、こんなに汚れてしまって……っ!?」

 

 受付嬢が目を見開く

 

 「国王様!」

 

 へ?なんて?コクオウサマって人か?変わった名前だな。ってそんなわけないよな。

 

 「ええええええええ!?」

 

 俺は驚きの声を上げる。当たり前だ。

 俺が散々、タメ口でおっさんおっさん言ってた相手が国王だったなんて…やべえよこれ…第一印象から終わってんじゃねーか…

 俺はおっさん…じゃなくてレオムント国王が目を覚ました時のことを考えると、とても気が重たくなった。起きたらさっきまでのこと忘れててくれないかな…


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