食事も終わり、すっかり夜も更けたため、俺達は寝ることにした。だがベッドは一つしかない。一人で住んでいるのだから当然だ。
「じゃあ俺は床で寝るわ」
家主をベッドからどけるわけにはいかないので、俺は至極真っ当な案をサリアに提案する。
「なぜわざわざ床で?床で寝るのが好きなのか?」
「そんなわけないだろ、どんな就寝環境だよそれ」
「じゃあベッドで寝ればいいじゃないか」
話が噛み合ってないな、サリアがベッドで寝れるように俺は床で寝ると言っているのに。
「ほら、ここに来ると良い」
そう言ってベッドをポンポンと叩く、嫌な予感がしてサリアに確認を取る。
「まさか同じベッドで寝ろって言うんじゃないだろうな」
「?何か問題があるのか?」
やっぱりか、サリアの仲間との距離感はやはりおかしい。なにか言い訳を考えていると
「私と寝るのは嫌なのか…?」
「嫌じゃないです」
チクショウ、サリアに悪気がないのが余計に質が悪い。今度、一度話し合ったほうがいいかもしれない。
「失礼します…」
そう言って俺はサリアの隣の並ぶようにして横になる。やばいな、たぶんこれ寝れねーわ。俺が入眠に関して不安を感じていると
「私は…」
サリアがつぶやくように話し始めた。
「私は、今までどのパーティでもクエストに行くとすぐに迷惑をかけて、”仲間”と呼べるような人は出来なかったんだ。だが、『一人でも生きていけないわけではない』。『一人でも別に構わない』そう思っていた」
「だが今、私には仲間と呼べる人がいる。今までまともに話す人もいなかったのに、3人もいる。当然今まで部屋に連れてくることなどなかったし、私の料理を食べてもらったのも初めてだ」
「正直、親しくなった人とどう接していいかわからなくて迷惑をかけてしまったかもしれない、それでもまた、私の部屋に遊びに来てくれるか…?」
正直、サリアの距離感には俺も驚いたし、ドン引きする人もいるかもしれない。でもサリアの仲良くしたいという気持ちは伝わった。だから俺はこの不器用な女の子と…
「あぁ、当たり前だろ?もう来るなって言われるまで来てやるよ」
サリアは目を閉じながら微笑んでいた。その顔を見ていると女の子と一緒に寝るなんてことを気にしてた俺が馬鹿みたいに思えてきた。そして、いつもと違う、そばに人がいるという暖かさを感じていると俺は次第に夢に落ちていった。
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――チュンチュン
「あれ?どこだここ…見慣れない天井だ…」
俺はハッとして起き上がる。そうだ俺は昨日サリアと一緒に寝て…。横を見るがサリアはいない。あれは夢だったのか?なんてことを思っていると
「起きたか、食事はできているぞ」
ちょうど皿に料理を盛りつけようとしているサリアの姿があった。やばい、朝起きて女の子がご飯用意してくれてるシチュエーションって最高だな、惚れそう。なんてアホなことを考えていると
「どうした?冷めないうちに食べよう」
「あ、あぁ」
俺は冴えない頭で椅子に座り、サリアと向い合って座る。そしてふと見覚えのある剣が目に止まった。
「あれ?その剣…」
「あぁ、これか?ワタルが当分起きそうになかったから一人で買いに行かせてもらった。何度も付き合わせるのは悪いしな」
そう言われて時計を見ると既に昼前だ。女の子の部屋なのに熟睡してしまった。
「悪い悪い寝心地が良くてさ、でも起こしてくれてもよかったのに」
「あまりに気持ちよさそうに寝ていたのでな」
サリアに寝顔を見られていたと思うと恥ずかしいが、相手がサリアでよかった。レアだったら何をされてたかわかったもんじゃない。
そして俺達は食事を終え、ギルドへと向かった。今日も良い一日になりそうだ!
――ジィーッ
ギルドに到着し、レアとメイルの居る席に移動した俺を二人は睨みつけていた。
「お、おい。どうしたんだよ?」
二人が不機嫌な理由がわからず俺は尋ねる。
「私、昨日、知ってる人の居場所が分かるって言いましたよね」
そういえばそんなことを言っていたな、だがそれがなぜ…
「それで…なぜ昨夜はあなたとサリアがずっと同じ場所に居たんですか…?」
「男と女が一緒の部屋で一夜を過ごすなんて…不純ですよ!」
あっ。俺は二人の言いたいことがわかり、即座に頭をフル稼働させ、言い訳を考える。
「いや、それは、そう!部屋が空いてなくてさ!どうしようもなかったからサリアの部屋を貸してもらったんだ!別に何もなかった!そうだよな?サリア?」
どうだこの言い訳は、何の矛盾もない完璧な…
「何もなかったことはないだろう?一緒に風呂にも入ったし一緒に寝たじゃないか」
サリアが平然と言い放つ。こいつ、空気を読むって言葉知らないのか?知らないんだろうな。
「…」
「…」
あ、アカンこれ。レアとメイルの目がより細くなる。
「へぇ…そうなんですか…」
「ワタルがそういう人だったなんて思いませんでしたよ…」
「違うんだよおおおおおおお!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――というわけだ」
俺の言葉はまるで信用してもらえそうになかったのでサリアに説明してもらう。
「サリア、危険ですよ、男はみんな欲望の塊なんですよ!襲われなかったのが奇跡ですよ!」
「その通りです。しかもこの男は、私の体をいやらしい目で見てくる変態なんですからね」
言いたい放題である。そして、いやらしい目でなんて見てねーよ。
でもまぁ、誤解が解けて良かった。ホントどうでもいい時に女神の力を発揮しやがって、こいつは。
「ところで二人にはまだ聞いてなかったんですが」
レアがサリアとメイルに話しかける、珍しいな。
「「女神と対話するアイテム?」」
レアが聞きたかったのは例のアイテムのことらしい。だが二人の反応を見る限り知らなそうだな。まぁそりゃそうか、二人とも俺と同じブロンズだし、ぼっちだし。
「はぁ、そうですか…やはりシルバーやゴールドにならないと駄目みたいですね」
最近、レアは天界に帰る話をしていなかったがやはり帰りたいようだ。だがここに来た時ほど必死ではない。俺も正直、ここでの暮らしも悪く無いと思ってきている。そして俺はレアの話に乗っかる。
「そういやブロンズからシルバーに上がるにはどうすればいいんだ?二人は知ってるか?」
首を横に振る二人、そもそもランクへのこだわり自体がないようだ。
「じゃあちょっと聞いてくるわ」
そう言って俺は受付へと向かう。簡単だといいんだが…
「シルバーへのなり方ですか?ずいぶんと気の早いお話ですね。」
受付嬢はブロンズになったばかりの俺がシルバーになりたいと言うのを疑問に思ったらしい。それでも説明してくれる。
「シルバーになるにはブロンズのクエストをこなす必要があります。そしてその結果、ギルドに大きく貢献度していると判断された場合に、自動的にシルバーに上がるようになっています。つまりはシルバーとはギルドメンバーへ対する信頼の証なのです」
なるほどな、そりゃ新入りの俺が聞くのはおこがましいわけだ。だがそれにしても曖昧な基準だ。
「その貢献度の判断って誰がするんだ?」
俺は当然疑問に思うことを聞いてみる。
「ギルドマスターです」
ギルドマスター…そりゃギルドを取り仕切る人は居るわな、でもそんな人がいるなら話をすれば融通してくれたりするんじゃないか?
「なぁ、そのギルドマスター?は今どこに居るんだ?」
「言えません」
Oh…冷たい。恐らく触れてはいけないことだったのだろう。
「一つ言えるのはギルドマスターは今、アルスター帝国内には居ません。ギルドマスターに依頼される仕事は極秘となっているため、これ以上は教えることはできません」
「そ、そっか。まぁでもわかったよ、ありがとう」
うーん、一度顔くらいは見ておきたかったが難しそうだ。ギルドに戻ってくるという話を聞いたら会いに来るとしよう。
「聞いてきたぞー」
俺は再び三人の待つ席に戻り、シルバーになる方法を伝えた。
「そうだったのか、思っていたより大変そうだな」
「ギルドマスターなんて知りませんでしたよ」
普通にパーティ仲間がいればこのくらいの話はすると思うのだが、そう考えると胸が苦しい。
「コツコツやりしかないってんなら、今日もクエストに行くとするか!」
「ああ!」
「はいですよ」
「はぁ、面倒くさいですね…」