人が作れる物は色々ある。農家は野菜とかを作るだろうし、鍛冶屋は剣を打ったりするだろう。俺でも料理くらいは作れる。けれどこの世には作れないモノも存在する。
「街の住人から行方不明者が出てる?」
「はい、そうです」
ギルドの受付で依頼の報告をするついでに受付嬢と適当な話でもしようと思っていた俺だったが、予想外の情報が入って来た。
「現在は三人。いずれも昼夜、場所を問わず、出掛けたまま帰って来ないとのことです」
「おいおい、それじゃ何か?誰かが攫ってるって言うのか?」
「子供、大人、老人。まるで接点のない三人なので理由は検討も付きませんが恐らくそうかと思われます。なので気を付けて下さい」
「無差別か…怖いな。ありがとう、仲間にも言っとくよ」
俺は受付を離れ、仲間の待つテーブルへ戻ると、その話を伝える。
「そんなことがあったのか…この街に住む以上は他人事ではないな」
「そうですね。けどギルドメンバーではなく普通の街人を狙う辺り、あまり脅威ではないのかもしれませんよ」
「確かにそうかもな。まぁ念のためになるべく一人で行動するのは止めとこう」
「そうだな。とりあえず犯人が捕まるまではそうしよう」
「メイルはどっちみち夜道は一人じゃ帰れないしな」
「それは関係ないですよ!」
なんて、軽口を叩いていた。もし襲われても逆に捕まえてやろうとまで考えていた。何も知らずに。
数日後、それから行方不明者が出たという話は聞かず、俺はその話を聞いたことすら忘れかけていた。最初はなるべく二人で、なんて言っていたが、今はもう以前通り一人で修行にも行くし一人で帰る。それが当たり前といえば当たり前なんだが。
その日は天気も良く、絶好の修行日和だと思ったが、昼からアンセットに用事があるということで、半日で修行を終えた俺は屋敷へと戻ろうとしていた。だが、帰っても特にすることも無さそうなのであえていつもと違う道から帰ってみたりする。
大通りから少し外れると途端に人が少なくなる。この時間は特に少ないようだ。しかし、俺はそんなことなど気にも留めず、街道を歩いて行く。遠くに見える城を眺めながら
目線を上に向けながら歩いていた俺は、路地から出て来た人影に気が付かず、派手にぶつかった。突き飛ばされる形になった俺は地面に手をつく。
「大丈夫ですか。申し訳ありません」
少女が俺に手を差し伸べていた。というか一緒にぶつかったのにふっ飛ばされたのは俺だけかよ情けない。
「あぁ、大丈夫大丈夫。そっちは…大丈夫そうだな」
ふと相手の足元を見たが、全く足跡がズレていない。かなりの衝撃だったにも関わらず、恐らく体が揺らいですらいないんじゃないだろうか。
「はい」
「おーい、何やってるのー?置いてくよー」
少し離れたところからもう一人の少女が彼女を呼んでいる。俺とぶつかったせいで余計な時間を取らせてしまったようだ。
「申し訳ありません。失礼致します」
「あ、あぁ。手間を取らせて悪かった」
少女がもう一度頭を下げて駆け足で去るのを見送り、しばらくして俺も立ち上がる。そして自分の服に着いた砂埃を払い、再び屋敷へ向かおうとしたが路地から微かに聞こえた声に足を止めた。
呻くような声。正直、あまり聞いていたくない声だ。だが俺はその声を辿り、路地を進んで行く。
少し開けた場所に男が壁に寄り掛かっていた。頭と体からは血が流れ、そこかしこの地面にも飛び散るように血痕が残っていた。
「おい、大丈夫か!?どうしたんだ?」
「白い髪の女に…あいつ…人間じゃ…ねえ…」
男はそれだけ言って意識を失った。幸い、息はしている。俺は来た道を引き返し、路地を飛び出すと、偶然通りかかった人に人が倒れていることを伝え、任せることにした。
そして、さっき歩いて行った二人組を追った。白い髪の女…そうはいない。恐らくさっきの子のことだ。