一旦、アルスター城を離れ、俺達はギルドへ向かった。クエスト完了の報告をするためだ。
俺達はギルドの扉を開け、真っ先に受付へと向かう。依頼主からの完了印をもらったクエスト用紙を渡す。何かを成し遂げたあとの気分は最高だ。
「このクエストを達成できたのですか!?」
受付でクエスト用紙を受け取った受付嬢は驚いていた。なぜそんなに驚くのだろう。俺達が不思議そうにしていると…
「だってこのクエストは『この日のこの時間に城の警備兵が初心者になりますよ』と公言しているようなものですから、城を襲う人間からしたらチャンスでしかないですよね」
「あっ」
確かにそうだ、よく考えたらこのクエストって地雷だったんじゃないか?
「まあたしかに賊が一人現れたわけだから、無事ではなかったな」
「一人だけとはツイていましたね…下手をすれば警備兵の人数よりも多くの賊が襲撃をしていてもおかしくありませんでしたよ」
たしかに、城門前が戦場になっていてもおかしくなかったな。想像するのも恐ろしい。今更になって寒気がしてきた。
「ですが、あなた方はクエストを完了してきました。もう初心者ではありません。立派なギルドメンバーです。」
「それではこちらをどうぞ」
そう言ってブロンズのバッジを手渡される。死にかけて得たものがこれだと思うと割に合わないが、結果良ければ全て良しとしよう。でもこれからはあんまり危ないクエストは貼らないで下さいね。
ブロンズのバッジを胸に付け、俺達は堂々とギルドメンバーに話しかける。…が
「ハハハ!ブロンズなんて男なら誰でもなれるっての!」
「ブロンズの中でも序列があんのよ、アンタらはその一番下」
「新入りが馴れ馴れしく話しかけてんじゃねーよ」
シルバー、ゴールドとなれば有益な情報も集まってくるらしいが、ブロンズなりたての俺達には、まだまだ先は長そうだ。
ギルドでブロンズのバッジを受け取った俺達は、そろそろ日が沈むということもあり、アルスター城へと帰路についていた。
そして、警備兵の詰所の前を通り過ぎようとした時、ふと兵士達の話が耳に入ってきた。
「…なぜこんなことに…」
「あぁ…賊一人に…」
暗い様子で話をしているところを見ると、あまり良い話題ではないらしい。俺は”賊”という単語が気になり話を聞くことにした。
「あの~、もしかして、昨日の賊の話っすか?」
兵士達は訝しげな表情をこちらに向けるが、昨日、一緒に仕事をした仲間だと気づくと、話を教えてくれた。
「あぁ、君は矢で撃たれたあと気絶していたから覚えていないと思うが…」
「あのあと、賊を捕らえた時に兵士が一人、重症を負い…死んだ」
「なっ…」
俺は思わず声を漏らしてしまった。俺が気絶してる間にそんなことがあったなんて…
「取り押さえられた賊が苦し紛れに振り回した短剣が兵士の首元に…それから即座に治療を行ったが間に合わなかった」
「私は、この城で働いて長いが、兵士が怪我を負うことはあっても、死者が出たのは初めてのことだ。あぁ…なんて…」
俺にはショックでそれ以上の言葉が耳に入らなかった。下手をすれば自分が死んでいたと思うと悪寒が走る。俺は兵士という仕事を甘く見すぎていたのかもしれない。そして、それはレアも同じだ。
「なあ、レア。俺達、結構危なかったんだな」
「そうですね、ですが命を落とさなくて済んでよかったではないですか。”あなたは”」
こちらを向かずにレアはそう言ったが、少し冷たさを感じたのは俺の気のせいだろうか。