機動戦士ガンダムArbiter   作:ルーワン

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中立国の姫君

 NT-Dの稼働限界時間を引き延ばす訓練の最中、何かを感じ取ったリュートは、命令を無視してユニコーンを動かす。異常な行動をとった彼を慌てた様子で追いかけるアークエンジェルの後方で様子を監視していたレウルーラの索敵士がジェイやヒューイに伝達すると、ジェイは少々驚いた表情で索敵士に確認を取るために繰り返して言う。

 

「アークエンジェルが進路を変更しただと?」

 

 これを聞いたレウルーラの艦長は、焦燥感を露にしながらジェイに自分があると思える可能性を示唆する。

 

「もしかして、俺たちに感づいたんじゃ……」

「いや。ならば、すでに全速でこのまま真っ直ぐ地球へ向かうか、あるいは何かしらこちらに先手を打っているはずだ。それはないだろう」

 

 ジェイはヒューイが出したその可能性をおそらく取るであろう行動を添えながら否定し、今いる宙域やアークエンジェルがとった行動を基に別の可能性を模索している。

 

「では、大佐はどのようなお考えで?」

 

 ジェイはアークエンジェルがいる座標に人差し指を置き、進路変更したと思われる方角に真っ直ぐとなぞっていくと、その延長線上にはとあるコロニーにたどり着く。

 そのコロニーはかつて、アースノイドとスペースノイドが互いが互いを憎みいがみ合い、対立するきっかけになった廃墟となったコロニー――アイランド・イフィッシュ。

 そこにはジェイにとってあまり良い記憶ではなく、仮面越しにしかめっ面がより増していることがうかがえたが、沸き立つ私情よりも任務を優先するよう冷静になる。

 

「この方角に何があるのか分からないが、アークエンジェルを追跡を続行する。念のため、モビルスーツで先行する。各員、第一戦闘配備に備えろ」

 

 下されたジェイの命令によってグワダンはブースターを使用してスピードを上げ、進路を変更したアークエンジェルを追いかける。突然起きた艦の方角変更には、次の戦闘に備えるため休憩室で本を読んで英気を養っているソアルも気付いていた。

 

「艦がやや右に傾いている……。何かあったのか?」

 

 ソアルは、この違和感を知るためにカルロスたちを置いてブリッジへと向かう。宇宙袋の中にあるオレンジジュースを飲みながら羽根休めしていたラーナは、ただならぬ様子で出ていった彼を見逃さなかった。

 

「あ、ちょっとぉ~。ソアル、どこ行くの!?」

「あいつ、ブリッジの方角に向かったぞ。何かあったのかもしれん」

「私たちも行きましょう」

「あ、待ってよ~」

 

 ソアルの様子を悟ったカルロスやアイーシャも後を追い、焦りながらもやっとジュースを飲み終えたラーナも急いで2人の後を追う。

 

 〇 〇 〇

 

 アークエンジェルがユニコーンの追跡中、カレヴィとレーアはルル艦長の指示で自分のモビルスーツに乗っていた。訳も分からずに乗っていた2人は、ブリッジで訓練を見届けていたルルとエイリーから聞かされると、リュートが思いがけない行動に出たことに唖然していた。それは、その場にいたルルやエイリーも同じでいまだに混乱していた。

 

《リュートが単独で向かっただと!?》

《どういうことなんですか、エイリーさん!?》

 

 まだ日は浅くともリュートの性格をある程度知っていた一同からすれば、起こしたその行動自体、リュートの身に何かあったのかあるいは異常とも捉えていた。

 先ほどまで訓練に付き合っていたエイリー・ビスタルなら何か分かるかもしれないと尋ねてみたが、返ってきた答えは2人が予想していたものになった。

 

《私に聞かれても分からないよ……! まだあんたたちより、付き合い短いんだから!》

 

 周知はしていたが、彼女の最もな言い分を怒涛の声に乗せ、これ以上何も言えなかった。これまでなかったリュートの異常な行動の究明をしたいレーアとカレヴィの眉を八の字にさせる。

 

《それに今、ユニコーンの方向先にちょうど広範囲に及ぶ磁場が発生していてとてもじゃないが、特定できそうにない》

《磁気嵐の影響か》

 

 磁気嵐――。地磁気が通常の状態から変化し、乱れが生じることを言う。磁気嵐は目に見えないが、金属に触れると、磁場が発生する。一度発生すれば、当分の間レーダー等が使い物にならなくなるのだ。

 

《……見つけ出すのは困難が極まる、ということか。さすがに磁場の中枢まで行くことはないだろうが、それを差し引いてもそこに何があるのかだけは確実だろうな》

《そういうことだね。あぁ、そうそう、ウイングとエクシア》

《声……? オープンチャンネルにでも設定してたのか……?》

《それがノエル曹長の話を聞いた限り、近くに機影は見つからないんです。ただ、リュートさんの様子や声を聞いた限り、どこか慌てているようにも見えて……》

 

 顎を手の上に乗せてリュートが起こした行動の模索をしているエイリーが発した言葉に、レーアは変わり始めたリュートが言っていた言葉と重ねると、1つの結論に至るが、ふと思いついた可能性を首で横に振って真っ向否定した。

 

《レーアさんはモビルスーツで先行してください。カレヴィさんは、アークエンジェルの護衛をお願いします。理由はどうであれ、今はリュートさんの保護を最優先としてください!》

《そうですね……。一刻も早くリュートを連れ戻しましょう、カレヴィ》

 

 レーアの意見にカレヴィは賛同すると、エイリーが朗報を持って再び現れる。

 

《わかったよ、2人とも。ユニコーンが向かうとされる場所が判明した》

《思ったよりも早かったな。どこなんだ?》

 

 エイリーに表示されたのは、ノイズを除去してわずかにデータ化されたアークエンジェル周辺の座標地図。その進行方向に広大な宇宙の中から見つけてほしいと言わんばかりに1つの白骨化した巨大な建造物が佇んでいた。

 

「この建造物……アイランド・イフィッシュか」

「そう。2年前に元党首が主催のアースノイドとスペースノイドの和平式典が開かれた場所。かつてコロニー・イフィッシュと呼ばれた廃墟コロニーだよ。おそらく、磁場の発生源はあそこだ」

 

 その名を告げると、レーアの目は大きく見開き、忘却していたはずの忌々しい光景が蘇る。

 側にいたカレヴィは明らかに様子がおかしいと悟り、額から汗を垂れ流し、怯えた表情で過呼吸状態になって屈んでいるレーアに立ち寄る。

 

「おい、どうしたんだ? レーア、大丈夫か?」

 

 何度尋ねてもレーアは、答えてくれなかった。

 カレヴィは答えてくれるまでレーアの名を叫び続けると、レーアは我を取り戻し、発作が止まった。

 

「ごめんなさい……。なんでもないわ……」

「……あの場所で何があったのか?」

「いいえ、大丈夫よ。すぐ治まるから……」

 

 今回は出撃を控えて強引にもアークエンジェルで待機させることもできたが、レーアの瞳を見たカレヴィは、何かしらの意志を感じ取れた。

 

「……無理だと思ったら、すぐにでもアークエンジェルに帰還しろ」

 

 過呼吸状態が止まってから比べるほどでもないほど落ち着いていたが、カレヴィの気配りでこれ以上の究明は彼女自身にも気遣うのでできなかった。

 

「……分かったわ」

 

 計画を共有してなすべきことを伝えて通信を終えると、カレヴィはすぐにウイングに乗った。それと同時に一回ため息を吐き、リュートの行動の考察に入る。

 

(何を考えてんだ、リュート……。あそこに何かがあるのか?)

 

 まだ出合って日が浅いのもあるが、リュート本人がいきなり行動を起こすこと自体初めてのことだった。

 だが、ルルやエイリーの証言を足して鑑みたカレヴィは、リュートが起こした行動には何か意味があるのだと悟ってはいたが、その何かまでは見当が付かなかった。

 

「ま、行ってみれば、分かるってことか」

『進路クリア! キウル機、どうぞ!』

「カレヴィ・ユハ・キウル! ウイングガンダム、出る!」

 

 アークエンジェルのブリッジから見て左側のカタパルトデッキが開き、ウイングが射出され、アークエンジェルの上に乗った。

 続いてエクシアが自動アームによってカタパルトまで運ばれ、呼吸が安定してきたレーアはリュートの無事を祈ることだけを考えながら射出態勢に入る。

 

『続いて、ハルンク機、どうぞ!』

「レーア・ハルンク! ガンダムエクシア、出ます!」

 

 アークエンジェルから射出された2機のガンダムタイプはユニコーンを追いかけるためにアークエンジェルより先にアイランド・イフィッシュへ急行する。

 

 ○ ○ 〇

 

 アイランド・イフィッシュと呼ばれるコロニー付近の無法宙域で見た光の発生源を調べるため、リュートはユニコーンを前へと進めていく。

 光だけではない。リュートが頭痛と共に襲った脳内に響くような声と思しき音も直感ながらあの方角からだった。その光と音とそしてルルが言っていたこのエリアを航行する艦が行方不明になる噂を繋げた結果、リュートは最悪の事態を予想していた。

 リュートはユニコーンを一度立ち止まらせ、周囲を見渡す。それでも確認が取れなかったのでレーダーを目視するが、すでに磁場の影響を受けていてノイズが走っていた。

 

「レーダーが使えない……。この辺りのはずなんだけど……」

 

 もう一度リュートは周囲を見渡していると、突如自分の脳内に語りかけるような不可解なものが聞こえ始める。

 

【助けて……怖い、怖い……】

 

「まただ……でも、前よりは聞こえやすくなっている……。確実にこの辺りにいるはずだ……」

 

 確証はないが、リュートの感覚では確実にこの近くだと感じていた。再び周囲を注意深く見渡していると、再び光が先ほど見た時よりも大きく点滅した。それをリュートは逃さなかった。

 光が少しずつ大きくなどから点滅している光が距離が縮まるたびに徐々に大きくなっていて点滅する箇所も離れている。それも1つだけではない。場所こそ違うが、立て続けに3連続点滅している瞬間もあった。

 リュートが最悪の事態一歩手前の予想は合っていた。それは――。

 

「間違いない、あれは戦闘の光だ!」

 

 地球とコロニーで噂が飛び交うこのエリアで光があらゆる場所で発するものといえば、火薬や熱暴走の光。そして、この世界において点滅するその光は、戦闘によるモビルスーツが爆発した光でほぼ確定した。

 

「助けを求めている人がいる……。急がないと……!」

 

 助けを呼ぶ声がもし本当なら、手遅れになる前にリュートはもう一度ペダルを踏んでユニコーンの推進力を加速させた。

 

 ○ ○ 〇

 

 追尾中に見失ったアークエンジェルを探して走行しているレウルーラの中で1人の一般兵士が観測中に手掛かりと言えるものが見つかった。それをモニターで録画し、端末にアップロードさせた後にジェイ・アレギオスに見せる。

 

「不規則に点滅する光……。それにいくつもあり、座標もバラバラ……。間違いない、アークエンジェルはそこにいる」

 

 様々な要点を見つけたジェイは、これを戦闘による爆発の光だと推測した。方向からして、点滅しているのはその方角だけでアークエンジェルがそこに関与していていることは確実だった。

 だがその方角にもう一つの巨大建造物の存在も確認された。かつて、宇宙西暦最悪の事件と言わしめられた狂乱のクリスマス・イブ事変の舞台となったコロニー、アイランド・イフィッシュだ。

 これを見たジェイは、悩んでいた。

 

「……皆、揃ったな」

 

 ジェイの号令の下、ブリーフィングルームで集められたのはアルドレア隊の4人。無言で大佐に向けて敬礼した後、まずアークエンジェルの居場所について話しかける。

 

「まず、アークエンジェルの居場所が特定した。あの艦は廃墟となったコロニー・イフィッシュの近くにいる」

 

 オルドレア隊の目の前にある巨大なスクリーンに映し出されたのは、巨大な廃墟コロニー、アイランド・イフィッシュが映る宙域。

 これを見たオルドレア隊の4人は脳内でトラウマを思い出し、その影響で表情はポーカフェイスを保てず、息も荒々しくなっていく。

 彼らの父であるジェイもこればかりは、見ていられなかった。迷わずすぐさま、父としての意見を述べる。

 

「まだあの過去を引きずっているのなら、無理強いは――」

「……問題ありません、すぐ治まります。なぁ、みんな?」

 

 顔を見上げたソアルたちの額から多量の汗が流れていた。そして、まだ息も乱れている。が、何でもなかったかのように平然としていて首を縦に振る。

 彼らから強い意志を感じたジェイは、同じ軍の上官としても彼らの1人の父親としてもこれ以上に喜ばしいことはなかった。

 

「……お前たちは、本当に強くなったな。では、作戦内容を通達する」

 

 ○ ○ 〇

 

 10キロを切った所にあるアイランド・イフィッシュ周辺にはコロニーのパーツが無尽蔵に漂う空間が存在し、そこにアーガマと特に戦艦サイズはある巨大なパーツに隠れる3隻のザンジバルが対峙していた。

 アーガマは少しずつ後進し、ザンジバルとの距離を保っている。その2つの艦の間にアーガマを防衛している深緑色の小型モビルスーツ【ガンイージ】と緑と黒のツートンカラーの【ネモ】で構成された少数編隊。それらの機体の一部に地球をバックに3つの剣が1点に交わるマークが張られていたとそれらの2倍はあるカラーリングが黄土色で統一されている、【ストライクダガー】や【ザクⅡ】、【ジン】、【リックドム】といった旧式機体の混同編成部隊。どちらかが正規軍なのかは一目瞭然だった。

 3機のリックドムが編隊を組んでバズーカ砲でアーガマに一斉攻撃。外れはすれど爆風でアーガマ及びその乗組員には少なからずともダメージは残る。

 これ以上攻撃をさせないパイロットが自分の愛機を駆ってこれらを至近距離で阻害する。サイドスカートから取り出したサーベルで砲身を溶断。そして、右腕と胴体の関節部を手刀で切断する。僚機が襲われていることに気付いた2機のドムはその機体に攻撃を仕掛けると、マニピュレーターでドムの頭部を鷲掴み、これを盾替わりとして身を守る。2機のドムは再び砲撃でこれを一網打尽にし、爆散したと思いきや、爆炎から生じた煙の中から浮かび上がる光と共に宇宙全体に響き渡るような声が轟く。

 

「アタシのこの手が光って唸る! アンタを倒せと輝き叫ぶ! シャァァァニィィィング……フィンガァァァァァァッ!!!」

 

 その機体に乗っていたのは、女性だった。そして、煙を突っ切って1機の機体がドムたちの前に現れたのは、右手に光を纏い、急接近するのは格闘を駆使したガンダムタイプの1つ――その名は【シャイニングガンダム】。

 ファイター系統のガンダムタイプが先頭に立って右拳でピンポイントで敵モビルスーツの頭部を鷲掴みし、更にもう1機を右マニピュレーターと同様に左マニピュレーターを光らせ、持ち前の機動力で攻撃をかわし最終的には再び頭部を鷲掴みする。

 

「ヒィィィィト……! エンドォッ!!」

 

 その言葉を最後に鷲掴みされた2機のドムは持ち上げられると、機体のあらゆる個所から熱を帯びて風船のように膨張し、遂には爆散した。

 

《クソ……! これじゃ囲まれる……!》

《臆するんじゃないよ、厄介なのは数だけさね! 訓練の通りに連携を取って1機ずつ撃破しな!》

 

 幾多の危機を乗り越えた騎士のように男勝りの勇敢さと口調、そして轟くような甲高い声で兵士たちを鼓舞していると、そのガンダムタイプの後ろから1機のジンが奇襲を仕掛けてくる。

 再び接近警報が鳴り響き、目の前には機影が見られず、後方にいると気付いた女性パイロットは接敵するが、それより先に両機の間に挟んできたオレンジが強調している飛行形態のモビルアーマー。

 変形すると、ガンダムタイプのモビルスーツになり、この機体の名は【Zプラス】。有人操縦式の人型ロボット兵器「モビルスーツ」 (MS) の1つだ。地球軍事統合連盟の英表記にした略称を意味する【E.M.U】という金色に輝く文字が書かれているシールドで実弾を防御し、カウンターで接近するジンをビームスマートガンで狙い撃ちするが、距離が距離だから外れることもしばしばだが、そのパイロットは臆することなく、ビームサーベルで仕掛けやっとのことで撃破に成功した。

 息切れするZプラスのパイロット宛に通信が入る。主はシャイニングガンダムのパイロットからだ。

 

《まだまだ動きに無駄が多いよ! もっとコンパクトに生かせな、ショウマ!》

《この機体、先生のと比べて大きいんだよ! それに前へ飛び出しすぎる先生を追いかけるのに必死だったからフォローするこっちの身にもなってほしいよ!》

 

 その女性からショウマと呼ばれた少年は、呆れと怒りを乗せてぶつけると、シャイニングガンダムの女性パイロットはかかかっと笑い出す。

 

《言い訳は聞きたくないね! 数で押してるなら懐に入ったほうが、なお殺りやすいってもんだろ?》

《それは先生だけが語れる理論と経験だけであって、誰でもできるってわけじゃないんだって!》

《無駄口を叩いている暇があったら、さっさと援護しろ! 敵はまだいるんだぞ、フェズ・シーア少尉、ショウマ・シーア軍曹!》

 

 通信先はアーガマ。アーガマの艦長が言い争っている2機のガンダムタイプのパイロットに喝を入れる。

 

《んじゃ、後退しやすいようにアタシらが殿役を務めてやるよ。ショウマ!》

《あいよ、先生!》

 

 フェズの掛け声でショウマは機体をモビルアーマーに変形。シャイニングガンダムを乗せて敵陣営のど真ん中に向かう。

 

《おい、どこに行く!? 勝手な行動はするな!》

 

 再び通信で同じ軍隊としてあるまじき行為を行おうとする2人の応答を問いかけようとしていると、その隙に1隻のサンジバルがコロニーのパーツと思われるデブリの影から少しずつ艦体を晒して、アーガマに向けて砲撃をする。

 アーガマの艦長は回避をしようにも周囲を漂うモビルスーツ並の大きさのデブリが進路を阻み、身動きが取れず、遂には左尾翼に被弾。艦全体に振動が響き渡る。

 ブリッジにある機器につかまって体を安定させて振動に耐えながら必死にモニターで目を通しているオペレーターが艦内の被弾状況を口述する。

 

「左尾翼及びサブエンジン、被弾! 推力、70%にまで低下!」

「サンジバル級より新たに敵モビルスーツを確認! 尚接近中!」

「主砲とミサイルで弾幕を厚くすると伝えろ!」

 

 こげ茶の肌をした白髪の艦長は、速やかに対応するも苦々しい表情をしながら部隊やブリッジクルーに指示を出す。

 他の部隊よりも前に突出しているジェガン編成部隊はいくつも漂うデブリに隠れながら攻撃してくるストライクダガーを発見すると、その機体は一目散に退避する。

 その機体を確実に撃墜するため、追いかける2機のジェガン。だがたどり着いた先にストライクダガーの姿はなく、レーダーを通して四方八方にはストライクダガーとザクⅡの部隊がその2機に標準を合わせて、蜂の巣にする。

 

《くそ! 他は前に出過ぎるな! 陣形を立て直せ!》

 

 ストライクダガーを追いかけなかった残党のジェガン部隊は艦長の命令を聞いてアーガマ付近にまで後退した後、アーガマの目の前の1つの船一隻入れるほどの大きさのデブリからもう1隻のザンジバルが再び現れ、砲撃を仕掛ける。

 

「12時の方向に砲撃!」

「回避ー!」

 

 艦体の右側のサブスラスターで左にスライドして回避に成功したが、その手前に配備していたネモの編成部隊の内の数機が撃墜してしまう。

 謎に包まれた敵による、ここら一帯に漂うデブリ群を利用した絶え間ないヒット&アウェイ戦法に対抗する術がなく、己の無力さを痛感していた艦長は嘆いていた。

 

「クソぉ! これじゃ、ジリ貧だぞ……!」

 

 モビルスーツ隊を前に出さない理由は、周囲にデブリ群が漂っているため死角が多く、すでに敵に囲まれている。それも要因の1つだが、彼らにとってもう1つある。それはアーガマに絶対に守らねばならない対象が乗っているからだ。

 開く音がした後ろのドアから宇宙服を着た、黄緑色の瞳と淡い紫色をしたポニーテールの少女が現れ、艦長に尋ねる。

 

「グランおじさま! 戦況はどのように……!」

「パルウェ嬢!? ここにいては危険です! すぐに戻りください!」

 

 身の安全を、と艦長は必死に主張するも、『パルウェ』と呼ばれたその少女は首を横に振って一向に食い下がらない。

 

「戦場に成り果ててしまった被災地に赴くと決めた時から既に覚悟はできております! それに私にもこの戦場を見届ける義務があります!」

「無茶言わんでください! うわっ!」

「きゃっ……!」

 

 再び被弾による振動が艦内を響き渡り、そして再びオペレーターが被害状況を口述する。

 

「第2居住ブロックに被弾! 損害重大……!」

「やむを得ん、パージしろ!」

 

 艦長の指示通りに艦体から見て、被弾の後が見受けられる左側の居住ブロックを切り離した瞬間、僅か数秒で爆発し、難を逃れた。幸いにもそのブロックには人はいなかった。

 アーガマが集中砲火している間にショウマのZプラスの機動力を借りてシャイニングガンダムがザンジバルに近づく。それに気付いた敵たちは防衛するためにすぐに対応するが、すでに遅かった。

 シャイニングガンダムはZプラスを飛び降りて、周囲のデブリを利用して自機をピンポール玉のように宙域を移動。ある程度スピードにのったところでザンジバルに向けてブースターを最大出力にまで上げて蹴りを入れる。

 ファイタータイプの機体は格闘を重視しているため、他の機体と比べてとても頑丈に作られている。それにより、ザンジバルに風穴が開き、所々に爆炎が生じて遂には1隻轟沈した。

 

「一丁上がり!」

「やったぜ!」

 

 だが、喜ぶのも束の間だった。レーダーを監視していたアーガマ・オペレーターの1人が僚機に伝達した。

 

《フェズ・シーア少尉、ショウマ・シーア軍曹! 我が艦の7時の方向に敵モビルスーツがアーガマに接近している! 即刻に援護されたし!》

《ちっ、後ろに回り込まれてたか! 仕方ない、ショウマ、一度アーガマに戻るよ!》

《分かってる! 乗って!》

 

 母艦の危機であればさすがに見逃すわけにはいかない。シャイニングガンダムとZプラスを除く4機の守備部隊のモビルスーツの火力とアーガマのブリッジ下部にある迎撃ミサイルと後部上面中央にある1門の主砲でこれらを迎撃。その内の1機のストライクダガーが接近戦に不向きなネモに向かってビームサーベルで攻撃を仕掛け、2機は徐々にアーガマに戻ろうとした途端、後方から伏兵のドムがデブリから現れる。

 不覚を取られたネモのパイロットは、ドムのヒートサーベルによって腹部を中心に両断された。

 

「ラグベル機、シグナルロスト……!」

 

 アーガマでナビゲートをしていた男性軍人から告げられたアーガマの艦長は、一瞬ハッと驚いた表情をしたその後に歯を噛みしめ旧友の名を口にする。

 

「ギルバート……! すぐに状況を報告しろ!」

「後部主砲、被弾! 敵モビルスーツ、会敵します!」

 

 だが、落ち込んではいられない。一瞬の油断が全滅へ導くからだ。

 みんなの命を預かっている艦長として同じ戦線に立つものとして、凄まじい精神力でその無念を断ち切り、各クルーに気迫交じりの指示を出す。

 

「弾幕が薄い! すべての武装を使ってもっと濃くしろ!」

 

 ブリッジのコントロールで標準を合わせた主砲は1機のストライクダガーに向けて砲撃し、コックピットごと貫く。

 主砲は威力こそ高いが、その分クールダウンの時間が長く、それまでの間はミサイルを発射して時間を補わなければならない。

 ストライクダガーの小隊はそれをすでに見抜いていて、その内の1機が主砲に向けてビームライフルで攻撃し、ビーム弾は主砲の砲口を掠り、その部分が熱暴走で爆発し、アーガマを振動させる。

 その様をモニターで見ていたフェズも徐々に焦りが増していき、それはショウマにもその勢いを言葉と共にぶつけてくる。

 

《まずい! ショウマ、もっと早く――》

《やってるよ! でも、あいつらが近づけさせてくれねぇんだって……!》

 

 Zプラスの足元から数機のジンがマシンガンで狙い撃ちしている。シャイニングガンダムを乗せているZプラスを操る今のショウマの操作技術では回避するのがやっとの状態。

 アーガマより遥かに上回る数的物量に分断され、危機的状況にまで陥っている。それを証明するかのように1機のストライクダガーが弾幕をすり抜け、アーガマを右側から回り込んでブリッジと確認。ブリッジに向けてライフルを突き付ける。

 これを見た艦長は咄嗟に艦長席から離れ、傍にいたパルウェを窓に背を向けて守るように抱きしめた。だが、パルウェは額から汗を垂れ流しても決して目を逸らさなかった。パルウェを含むブリッジのクルーたちが自分たちの最期だと覚悟していると、横から淡い赤色に輝く閃光の弾がストライクダガーのビームライフルを溶解し貫いた。狙撃されたストライクダガーは一度後退し、ビーム弾が放たれた方角に頭部カメラを回すと、次は頭部が狙撃された。

 

《なんだ!? 狙撃か!?》

《いや、今のは狙撃用のライフルじゃない、普通のビームライフルだよ……!》

 

 一瞬で駆け巡るビーム弾の軌道を見逃さなかった挙句、使用された武器やその武器に装填されているビーム弾の種類も言い当てたフェズの口述に驚いたショウマは撃ってきた方角を見ていると、一筋の光を見つける。

 

《え、あの距離で……って、先生、あれ!》

 

 指さした先にそれはフェズらがいるエリアに向かって接近していた。道中のデブリの中を掻い潜り、ストライクダガーに向けて突進してくる白い影――リュートが乗るユニコーンだった。

 ストライクダガーはバルカンで牽制をしつつ近接レンジに入り、シールドをバックパックのサーベルラックからビームサーベルを取り出して間合いに入る。

 対するユニコーンもスラスターを使って接近しつつ左マニピュレーターにビームサーベルを装備し、脚部スラスターの逆噴射で減速しながらシールドごと左アーム、頭部と順番に溶断する。

 2度の閃光と爆発音が聞こえたことに違和感を覚えたパルウェは恐る恐る目を開けて周囲を見渡していると、自分や艦長、見慣れたブリッジクルーたちがまだ生きていることに驚いていた。

 

「生き、てる……?」

「な、なにが起きたんだ?」

「かか、艦長! 前を見てください!」

 

 驚いている操舵士の言うとおりにブリッジクルーたちが前を見ると、こちらを撃つはずだったストライクダガーがいつの間にか既に戦闘不能の状態になっていた。

 その横でユニコーンがアーガマを背中にして立ち尽くしている。まさに救世主と呼ぶにふさわしいその姿にパルウェは目を見開き、発する言葉も見つからないままただ恍惚としていた。

 

「なんだ、あのモビルスーツは……? 俺たちを助けてくれたのか?」

 

 交戦しているシャイニングガンダムとZプラスが周囲にいる敵機を排除し、ある程度クリアリングできた頃合いを見計らってアーガマへ向かうと、ユニコーンを見たフェズらもアーガマクルーと同じ反応をする。

 

《先生、あの機体……!》

《初めて見るタイプのモビルスーツ……。新型?》

 

 フェズがユニコーンガンダムを凝視している間にショウマが予めZプラスに搭載されている索敵機器で調べていたが、ユニコーンが来たとされる方角に他の機体の影も形もなかった。

 

《さっき撃ったビームもあの機体の武器で間違いなさそう。でも、どこから来たんだ? 別の中立コロニーから来たとは考えにくいけど……》

《少なくとも敵には思えない。とりあえず合流するよ》

 

 間一髪の所で突如現れたユニコーンの姿に驚いた2人はとりあえずアーガマとの合流を果たそうとしていると、Zプラスの方で再び警報が発せられた。

 

《先生、4時の方向に3機のモビルスーツが接近してる! そして、その後方に5……いや、6!》

《くそっ、どうも敵さんは帰してくれるつもりはないみたいさね!》

 

 正面から前衛の守備陣営を突破した3機のストライクダガーがこちらに迫ってくる。リュートもレーダーで敵の接近に気付き、アーガマを守るためにユニコーンを前に出して接敵する行動を取る。

 少なくとも彼らと同じ敵ではないことは間違いないのだが、どこにも所属していない傭兵がこちらに味方するメリットがどこにあるのかとグラン艦長は状況証拠を整理する。

 どの立場に置いても敵側の方が数は多く、数の利だけではなく、ここ周辺の地理の利も乏しいこちらに手を貸してまで戦うメリットに艦長は角の生えた純白のモビルスーツのパイロットの意図が読み取れずにいた。

 接敵すると、左アームでシールドを構えながらユニコーンに向けてビームライフルを連射する。リュートもブリッジをやらせはしないようにとユニコーンにシールドを前に出させ、Iフィールドを展開。シールドを構えながらビームライフルを連射し、機動戦闘を行いながらけん制するが、リュートが思う以上に戦闘は熾烈を増していく。後方にジンやザクⅡの部隊が接近しつつあったのだ。

 リュートはこの場でNT-Dを使用したくはなかったが、己1人でアーガマを守ることに手一杯でこの手段しか乗り切る方法がなく、アーガマに協力を仰ぐしかなかった。

 

「艦長、あの機体からオープン回線での通信が来ています! 応じますか?」

「……ああ。だが、油断はするな」

 

 初めて見る機体に救われたとしても、まだ信用していない艦長はクルーたちに密かに攻撃指示がいつでも出せるよう万全な状態にしてから首を1回縦に振ってオペレーターに合図を送り、ユニコーンとの通信回線を入れさせた。

 

《……よかった、繋がった! こちらユニコーン! アーガマ、聞こえますか!? 聞こえているなら、応答してください!》

「声がまだ若い……? モニターに切り替えれるか?」

「や、やってみます……!」

 

 オープンチャンネルなので多少ノイズが混じっているのだが、リュートの声を聞いた壮年の艦長は、まだその声に張りがあって若々しく聞こえた。

 指示でモニターに移し替えると、リュートの顔を見た艦長とブリッジクルー一同は思わず騒然とする。

 

「子供……!? あれに乗っているのは子供なのか……!?」

 

 機体性能の良さを差し引いてもまだ20も満たしていないであろう子供が5機のストライクダガーやジンを圧倒したことに驚いていたが、まだ油断はできなかった艦長はそれを押し殺しながら、冷静に言葉を選びながら相手の素性や目的を見抜いていく。

 

《……こちら、ルージニス中立公国、第06機動艦アーガマ艦長、グラン・デオ・ビリオ少佐だ。援護に感謝するが、君は一体何者だ? 所属を提示されたし》

(ルージニス中立公国……? 初めて聞いた名前だ……。公国って言ってたから地球かコロニーにある大きな国、なのか? それに中立公国でこんな軍事力持っているのなら、まるでコズミック・イラの世界のオーブだ……)

《えーっと、僕は、地球軍事統合連盟……志願兵の漆原リュートと言います!》

《志願兵……だと?》

 

 少年が発した言葉にグランの脳内は、疑問だらけになっていた。疑問を抱いたグラン艦長がリュートに色々と尋ねようとすると、突如警報が鳴りだす。

 

「11時の方向に敵MS出現! 数30!」

《ちっ、まだ敵がいたか……! 漆原リュートと言ったか。今、アーガマは敵の奇襲で動けない状態だ。すまないが、力を貸してくれないか》

 

 艦長から出た己の名にリュートは、焦りと言った後ろめたさから一転してアーガマに乗っている人たちの信頼に応えたい、使命を全うしたいと情熱に満ちた目に変わった。そして、それから連なるように自ら鼓舞する。

 

《……はい!》

 

 リュートも高らかに声を上げてユニコーンのスラスターを起動し、アーガマに接近中の敵MSの迎撃に向かわせる。

 グラン艦長はリュートのまっすぐな表情を見ると、不安な要素がなく、ましてやいつの間にか大船に乗ったような気分に浸っていた。そして、一度息を吐いて敵陣営に向かっていくユニコーンのブースターの光に対して一言呟いたのだった。

 

「あの少年……。もしかしたら、この世界を変えてくれるかもしれん」

「なぜ、そう思うのですか?」

「……分からん。だが、あの少年は、何事もやり遂げそうな気がしてな」

 

 艦長に問いかけたクルーの1人そがの言葉を聞いてもただ謎に満ちたまま言葉を失っていた。

 距離がまだあるが、モニターを拡大して敵の編成部隊が見えてきた。ザクやAEUイナクト、ジンやジムと言った量産型MSが無規則に隊列していた。統一性がないように思われるこれらの機体は、どれも開発初期に作られた機体で機体性能もそこまで高くはない。が、数はユニコーンやアーガマに搭載されている機体よりも圧倒的に多い。分断され囲まれると、全滅も免れない。そうならないためには――

 

(ここは、1機ずつ減らしていくしかないか……!)

 

 真剣な眼差しでモニターで機体を区別しながら分析していると、話の区切りにリュートの目の前にシャイニングガンダムがひょっこりと現れる。これにはリュートも驚き、思わず声を上げる。

 

「シャ、シャイニングガンダム!? モビルファイターの機体まであるのか……!?」

 

 モビルファイター――。元来、スポーツ目的として作られた機体でパイロットの動きや五感をフィードバックして機体にそのまま反映される《モビルトレースシステム》が搭載されており、それによって性能はモビルスーツよりも上回っている。

 驚いている間に突如通信回線の通知音が鳴り響く。グラン艦長からかと思ったリュートはその通信回線をオンにすると、モニターに現れたのは、淡い紫色の髪をした、初めて見る女性だった。

 

《アーガマを助けてありがとな、見かけないMSのパイロット……って、まだガキんちょじゃないか!》

《え、マジで!? うわ、俺とあんまり年変わらんじゃん!》

 

 そして、フェズの言葉に釣られたかのようにショウマもモニターでリュートの顔を見ると、嬉しさと驚きが同時に表情に出した。

 嵐のように突如現れた2人にリュートは、何を話せばいいか戸惑っていた。リュートの顔の表情を見たフェズは察し、自分から声をかける。

 

《っとと、悪い悪い! 自己紹介がまだだったね、あたしは地球軍事統合連盟所属のフェズ・シーア少尉だ。そして、こいつが――》

《ショウマ・シーア軍曹だ、よろしく!》

《ち、地球軍事統合連盟……!? なぜルージニス中立公国と行動を共にしているんですか!?》

 

 ガンダム作品だけではなく、戦争の中の世界を描いたあらゆるロボット作品を見ていれば、中立というからには地球軍事統合連盟という枠組みで入るわけではなかったのは明らかだった。

 

《訳は後で話すよ。んで、あんたの名は?》

《リュ、リュート……。漆原リュート、です……》

《リュートか、よろしくな!》

《自己紹介はそれぐらいにしな! さぁ、敵さんのお待ちかねさね!》

 

 顔を見て身が引き締まっているのが見て取れるフェズの言葉にリュートやショウマも先の敵部隊を見ると、敵部隊から一斉攻撃を仕掛けられる。

 先手を打たれたリュートらは回避に専念、散開した。

 載せていたシャイニングを降ろさせ、Zプラスはモビルスーツ形態に変形した。そして、手持ちで武装しているビームスマートガンで先頭に立っているザクに狙いを定める。

 

「動くなよ……当たれぇ!」

 

 アシストシステムを使って補いながらショウマの直感と技量をもってトリガーを引く。

 一発目は容易く回避させられたが、次に出る行動を先読みしながら狙い撃つと、その直感は的中し、見事にコックピットを貫いた。

 

「よっしゃ! 一丁上がり!」

《次来るよ、ショウマ!》

 

 だが、喜びは束の間だった。飛行形態に変形したイナクト2機が電磁力で弾丸を飛ばすリニアライフルでZプラスを集中攻撃する。

 ショウマはまずいと言わんばかりに飛行形態に変形し、回避を試みるもイナクトの方が機動性が上、どれだけ振り切ろうとも必ず追いついてくる。

 埒が明かないと判断したショウマはやむを得ず、モビルスーツ形態に再変形。Zプラスの腰に内臓されている《大腿部ビーム・カノン》でビームをばらまいて迎撃を開始した。

 2機のイナクトが急旋回してこれを回避すると、その進行方向に仁王立ちしているシャイニングがそこにいた。右手首を上に2,3回曲げて挑発する。

 挑発に乗ったかどうかは不明だが、そのまま突っ切るイナクト2機は先端に取りついているリニアライフルを撃ち続けるが、シャイニングは腰部の《ビームソード》を取り出して素早い連撃で弾丸をすべて切り落とした。

 

「逃がしゃしないよ!」

 

 フェズはバックパックのスラスターで機体を移動させ、追撃を開始すると、シャイニングの真上から弾丸の雨が降り注ぐ。奇襲を仕掛けたのは3機のジンだ。

 【76mm重突撃機銃】と呼ばれるフルオート式のアサルトライフルでバラまくように攻撃。遠距離から仕掛けられた挙句、周囲には機体が隠れそうな物がない。頭部のバルカンで牽制しながら、苦行を強いられているフェズはやむを得ず一時離脱を図る。

 ファイタータイプの機体はその名の通り格闘を重視した機体であり、それに見合った対実弾、対ビームコーティングが施されていて頑丈に設計されているが、今のような集中砲火を食らうと、単機ではカバーしきれない。

 

「ちっ……!」

 

 フェズは舌打ちをしたが、その後にわずかに微笑んだ。

 今まさにイナクトがシャイニングに向けて集中攻撃を仕掛けようとすると、横やりからピンク色に光るプラズマがその内の1機のイナクトの腕を貫通、爆散した。

 その方角を見やると、その延長線上にはリュートの乗るユニコーンの姿があった。その機体が装備しているビームライフルの排出口から煙が出ている。

 もう1機のイナクトは状況が一気に危うくなったと判断し、撤退を試みるが、シャイニングを駆るフェズに止められ、ビームサーベルで一刀両断。爆破した。

 だいぶ戦闘に慣れたリュートだったが、それでも張りつめていた緊張は解け、ほぼ同じタイミングで安堵の息を吐いていると、突如通信が入る。フェズからだ。

 

《サンキュー、リュート。援護助かった!》

《い、いえ……》

 

 その直後、再び通信が入る。ショウマが乗るZプラスからだ。

 

《油断するなよ、10時の方向から増援だ! 数は……30!? このままアーガマに向かってくるぞ!》

 

 長所とも呼べるZプラスの索敵能力でショウマは、敵の増援の情報をすでに手に入れていた。

 リュートらでもスコープによる視認はできた。敵の数は前よりもはるかに多かった。近くに敵の増援の母艦がいない限り、このような数にはなりえない。また今の勢力では、ガンダム形態のユニコーンの力を持って継戦できたとしても最終的には数に押され、全滅も免れないのは自明の理だった。

 

《このままだと、数で潰されちゃう! そうなる前に早く撤退しないと!》

《そうは言うけど、アーガマはまだ動けないんでしょ!?》

《なら、耐え凌ぐしかなさそうさね……! まずはチャールズとアーノルドのおっさんと合流する! 2人とも、全速力だよ!》

 

 気合の入ったフェズの呼びかけでリュートやショウマも覚悟を決め、未だに修理が終えていないアーガマを今持っている最大戦力で死守するためにフェズが名を呼んだ2人がいる宙域までそれぞれが乗る機体の最高速度と最短ルートで移動する。

 3人の視界に最初入ったのは、飛び交い合う色の違うビーム。スコープで覗いてみると、大規模の敵モビルスーツ軍に苦戦を強いられているジム・カスタムとネモⅢ、そしてその後方にアーガマがあった。

 ジム・カスタムとネモⅢは少しずつ後退、アーガマは砲撃で2機の援護射撃をするが、いずれは全滅してしまう。刻は一刻を争う。

 

《くそ、もうあそこまで接近してたか!》

 

 交戦するアーガマとアーガマのモビルスーツは防戦一方。砲撃やミサイルなどを出し惜しみせず迎撃に使っていても迫ってくる敵の数が想定以上に多く、処理しきれずにいた。

 すぐに先手を打つ必要があったフェズはリュートとショウマに指示を出す。

 

《2人とも、横っ腹から分断してアーガマへの負荷を少なくするよ! リュート、付いてきな!》

《は、はい……!》

 

 Zプラスに乗ったシャイニングとユニコーンは軍列の横からそれぞれが武装している射撃武器の中で一番射程距離のある武器で攻撃を仕掛けようとすると、それに気づいていたかのように先に攻撃を開始する。

 

《気づかれていたか……! 1回後退するよ!》

 

 不意を衝かれた、と言うことはまさにこのことだった。思わずリュートは2機の前に立ってシールドで防御をする。

 敵のモビルスーツ軍が先に狙ったのは、1機になっているユニコーンだった。攻撃を仕掛けられたリュートはすぐに回避するにもまた別の敵に攻撃を仕掛けられ、手も足も出ない状態だった。NT-Dを使ってこの場を切り抜けたかったのだが、前にルティエンス艦長と【NT-Dを使わない】という約束をしてしまったがために苦し紛れに使うことを躊躇っていた。

 苦戦しているユニコーンを見たフェズとショウマ合流するために周囲の敵機を次々と落としていくが、いまだに敵機の数は数十とある。リュートは、NT-Dを使うという最終手段が脳裏に浮かんだ。

 

「これじゃ埒が明かないさね……! 仕方ない、はああああぁぁぁ……ッ!!」

 

 構えの態勢に入ったフェズが気合を込めると、シャイニングのフェイスカバーと頭部フィン、アームカバー、ショルダーカバーとレッグカバーが同時に展開、そして足部アウトリガーが設置された。そして、緑色のコアからシャイニングガンダムが金色に上塗りされていき、周囲に分かるように光輝いていた。

 その様子をリュートやユニコーンを囲っていた敵機がその輝きに注目し、リュートも光輝くシャイニングガンダムを見てこうつぶやいた。

 

「あれは、真スーパーモード……!」

 

 あまりの眩しさにリュートは思わず腕を前に出し、影を作って光から目を守っていると、突如通信が入る。Zプラスからだ。

 

《リュート、早くそこから離れるんだ! 先生の大技が来るぞ!》

《え、大技……!?》

 

 ショウマからの警告を聞いたリュートは、その中にあった大技という言葉に気づき、射程圏外までユニコーンを移動させた。その様子を望遠カメラで確認したショウマは通信でフェズに連絡した。

 

《先生、リュートが離れたよ!》

《OK! んじゃ、派手にやろうさね!》

 

 腰にマウントしているビームサーベルのラックを取り出すと、両手で持ち直し、携えた直後に出力口から機体よりも長いビームの刃が出現した。

 

《流派が奥義、シャイニングフィンガーソードォォォォォ!!》

 

 シャイニングを覆っていた黄金がすべてビームソードに吸収され、超巨大に成り果てたビームソードを敵陣に向けて横薙ぎに払い、一振りだけで相当な数の敵機の撃墜に成功した。

 が、それでも敵はまだいる。残った敵は引くどころか、その場にいる数でリュートらの機体に攻撃を仕掛け、袋叩きを仕掛けようとする。

 

《くそ、まだいるのか! ここは一度後退して――》

 

 すぐに後退しようとしたその時、シャイニングは1ミリたりとも動かない。敵が動かないシャイニングに向けて攻撃しようと仕掛ける。

 すぐさまリュートはユニコーンをシャイニングの前に出し、シールドで守り、ビームライフルで迎撃する。

 

《シーア少尉、どうしたんですか!? 返事してください!》

 

 シャイニングに向けて必死に呼びかけていると、何度も息を切らして今でも危篤状態に陥りかねないフェズがリュートに向けて通信で言い始める。

 

《……リュート、アーガマを守って、くれ……! シャイニングは……アタシは、奥義を発動したら、しばらく動けなくなる、んだ……!》

《そんな……!》

《アタシのことは、いい……。アーガマ、を守ってくれ、あれには、お姫さんたちが、乗っ……てる……》

《姫……?》

《リュート、あとは俺に任せて、アーガマの援護を頼む!》

《でも……わかった》

 

 2人を残してアーガマの守りに入ってもショウマとフェズの安全は確保できないのは明らかだった、ショウマがいくら腕が立つといってもいくらでも湧き上がる敵には到底無理なのは分かり切っていた。

 リュートはユニコーンをシャイニングの前に出させ、シールドで敵の猛攻を防いでいる間に大技を繰り出した反動で動けないシャイニングをZプラスが救助して敵との距離を取るが、中々差が広がらない。

 リュートもユニコーンが今持っている武装で対応しているが、敵から凌ぐことだけを考えていて気が付けば弾数も残りわずかでこのままでは全滅も免れない。

 心拍数が徐々に上がっていく中、敵の接近がすぐそこまで来ているアーガマをモニターで見ていたリュートは、人を見殺しにできない気持ちが強く感じたため、艦長との約束を破ってNT-Dを使うことを決意する。

 

「艦長、ごめんなさい……。……僕は、この力を使います!」

《ショウマ、フェズさん少尉を連れて少し離れてくれ》

《あんた、一体何を……?》

 

 力に溺れて自我が崩壊するのを恐れない、その力を自分の制御の下に置く――、そういう自分自身に自己暗示をかけてリュートはNT-Dを起動した。

 複数の敵機がライフル等の射撃武器で一斉射撃を行うと、ユニコーンの各装甲の隙間から赤い光を発し、その機体を守る見えないバリアで弾道の軌道を屈折した。その時、リュートは苦痛にもがいていた。

 

「思い出すんだ……! デンドロビウムと戦ってた時のように、自分の意志で……あいつらを倒すと……!」

 

 前の戦いでは、ただ勢いだけでNT-Dを発動していたが、今回は自分の意志でNT-Dを発動しつつ、意識を保ったままにすることに集中していた。

 手に携えていたレバーをいつも強く握り、歯を思いっきり食いしばって、システムなんかに負けないようにと強い意志を抱いて自我を保とうとする。

 そしてユニコーンは、ガンダム形態へ変形。その苦痛に耐え凌いだリュートの意識は辛うじて健在だが、額から流れ出る汗の量からしてそう長くは戦闘ができないことを物語っていた。

 

《な、なんだユニコーンが変形してる!?》

《あれは、ガンダムタイプ、だと……!?》

 

 変形した機体の背中を見ていたフェズとショウマはガンダムタイプに変形する機体を見たことがない理由から唖然するしかなかった。

 同時刻、アーガマ艦内のとある部屋。戦闘による揺れ以外は何も感じない暗闇の中で佇む1つの影が何かを感じたようにベッドからハッと目を覚ます。

 そして、体をゆっくりと持ち上げて自身が強い力を感じた方向に向けると、口角を少し上げてこう呟いた。

 

「王子様が来てくれた……」

 

 ユニコーンは後ろにいる2機のガンダムタイプの機体に一度振り返り、周囲にいる複数の敵機を一瞬で排除。そして、アーガマの乗組員たちを守るために数多の敵機に向かう。

 リュートらが先行して回路切り開いている間に手薄となったアーガマ防衛網は危機に瀕していた。多くの敵モビルスーツがまる群がるゾンビのようにアーガマとそれを防衛する機体に押し寄せている。

 なんとか撃墜して食い止めているものの、このままでは弾薬が底をつき、全滅しかねない。敵の集団の横っ腹に高火力のビームが放射され、巻き添えを入れて十数機の敵機体が爆破した。

 横槍から奇襲を仕掛けたのはガンダムタイプになったユニコーンだった。接近に気づいたいくつかの敵機がユニコーンを対処するが、速すぎる速度と読みきれない挙動で中々撃墜に至らない。

 

「集団戦なら、これで!」

 

 リュートはユニコーンのバックパックにマウントされているビームマグナムと左アームにマウントされているビームガトリングガン、その他持っている武装でアーガマ周辺の敵に向けて弾を出し惜しみなく一掃した。その間にリュートはアーガマとの無線回線をつなぐ。

 

《グラン艦長! 早く艦を後退してください!》

《リュート少年か!? 磁場の影響で艦が後退できない! 殿を頼む!》

《分かりました!》

 

 艦長の言葉に従い、リュートはデストロイモードになったユニコーンの機動力を駆使して上下左右と宇宙を舞いながら1機、また1機と数秒間隔で撃墜していく。

 これをブリッジで見ていた艦長やパルウェ、クルーたちがユニコーンの活躍にただ呆然としていた。

 

「これがあの少年の、いや、あの機体の力、なのか……!?」

「数多の敵相手にここまで……。凄い……!」

 

 多くの敵機を次々と倒していくリュート。NT-Dを稼働してから間もなく5分が経過しようとしていた。連続高機動によるGに耐えつつ、レーダーを見て周囲の位置を把握しながら戦っている驚異の集中力が切れかかっていた。

 撃墜しても、撃墜しても後方から何度も敵機の増援を確認される。これにはリュートは舌打ちをする。

 

「敵は増える一方だ、このままじゃ……! あ……!」

 

 その"敵の数が減ることはない"という現状にリュートは見覚えがあった。

 

「こいつら、この前やってたゲームのボスキャラ似ている……!」

 

 ゲームのボスキャラの中には雑魚キャラの集団を駆使し、プレイヤーを攻撃してくるボスが存在する。その中にあるコアとなっているボスを倒せば、ボスキャラ共々雑魚キャラも消滅する。

 もしこの現状と同じならば、どこかにその"コア"となっているボスを倒せば、雑魚キャラ、もとい敵機の増加が止まるということになる。

 今でも探しに行きたいところだが、ガンダム形態となったユニコーンが加勢したところでなんとか拮抗状態にまで保っている。

 

「どこかにこいつらを生み出す装置か何かがあるはずなんだ……! でも、敵が多すぎて、ここを離れられない……!」

《……だったら、ここは私たちに任せなさい!》

 

 ユニコーンのレーダーの接近警報と同じタイミングで聞き覚えのある声が耳に入る。

 方角はその声に驚いたリュートが来た方角と同じ。そして、スピードも従来のモビルスーツとは比べものにならないほど速い。不審に思ったリュートは接近する機体の形式番号を調べると、見知った文字が浮かぶ上がる。

 敵モビルスーツ軍に横槍を入れて攻撃したのは、赤く光るガンダムエクシア――【TRANS-AM(トランザム)】システムが発動しているガンダムエクシアだった。

 トランザム発動により通常よりも速度がはるかに違うエクシアを捉えきれない敵モビルスーツ軍は翻弄、分断。その隙にアーガマのモビルスーツと連携を取りつつ1機ずつ確実に数を減らしていく。

 

「ガンダムエクシア……! レーアなんだね!」

《喜ぶのは後! まずはこいつらをなんとかするから、あなたは成すべきことをしなさい!》

《でも、レーア1人だけでじゃ――》

《さっき言わなかった? 私たちって――》

 

 レーアが発言した後、ユニコーンから見て2時の方角――エクシアの背後から黄色と緑色の極太のビームが多くの敵機体を焼き尽くす。

 その方角を見ると、アークエンジェルとその甲板上で立って、掃射したばかりのバスターライフルを持ったウイングガンダムがいた。

 

「アークエンジェルにウイング!? カレヴィたちまで!」

《リュート、説教は後だ! まずはこいつらを蹴散らすぞ! アークエンジェル、援護を頼む!》

「ゴットフリート、再装填急げ! 同時にヴァリアント、イーゲルシュテルン発射用意! 後部ミサイル発射管はコリントスを装填!」

《ヴァリアント掃射後、ゴットフリートで蹴散らします! ヴァリアント、てーっ!》

 

 艦の両脇にある2基のリニアガンから黄色く光る実弾が敵モビルスーツを貫き、爆散させた。

 

《カレヴィさん、行きますよ! ゴットフリート、コリントス、てーっ!!》

 

 艦長の指示に武装のゴットフリートとコリントス、そして甲板上で立っているウイングのバスターライフルによって残りの敵モビルスーツを全滅させた。

 その隙にリュートはユニコーンを動かしながらデブリだらけの宙域を見渡す。その中に一際大きなデブリがリュートの目に映った。

 その中に入ってみると、何かしらの鈍い音が響き渡る。奥へ進んでみると、そこに自動で先ほどまで戦っていた機体のフレームやパーツを造成して組み立てている、何とも不気味な機械が多数存在していた。

 周囲にある金属類を口とも言える部分から摂取し、パーツごとに変化している不気味な機械にリュートは既視感を感じていた。

 

「なんだこれは、まるで巨大なプラモの工場みたいだ……!」

 

 NT-Dが切れるまで時間がない。リュートは、モニターの録画で証拠として押さえ、弾薬が残っている武器ですべての機械を破壊した。その直後にユニコーンのサイコフレームは光を失い、元の形態に戻っていった。

 パイロットであるリュートも多少息は乱れているものの、意識は辛うじて保っている。訓練の成果がここで現れた。

 破壊した機械と同時に磁場が収まり、通信もレーダーもすべてクリアになった。そこに通信が入る。相手はノエル曹長だ。

 

《こちらアークエンジェル。残存の敵機体は全滅しました。速やかに帰還してください》

《こちら、リュート……。これより帰投します……》

《……それと、戻ったらみんなに何をすべきか、わかるよね?》

 

 ノエルの言いたいことをある程度分かっていた、リュートは何も言い訳も言わずに素直に答える。

 

《……はい》

 

 ヘルメットを外したリュートは息を切らしながらもユニコーンを動かし、亡骸になったモビルスーツ製造工場を後にして恐る恐るとアークエンジェルへと戻っていった。

 

 〇 〇 〇

 

 ジェイの命令にオルドレア隊一同は大佐に向けて敬礼をし、体を捻ってモビルスーツ格納庫へ向かうためブリッジを後にし、出撃準備に入る。

 ジェイ元い、レウルーラのブリッジの下にある艦首上下のカタパルトデッキのハッチが同時に開き、各員が持つ機体のコックピットに艦からの無線通信が入る。

 

《目標は磁場の中にいる。中に入れば、回復しない限りノイズで遮断されてこちらとの無線通信が――》

《――一切できなくなる。それぐらいのことは熟知していますよ、ローバック艦長》

 

 艦長の長話をこれ以上聞きたくなかったので終止符を打ったのは、アイーシャだった。その言葉とは裏腹にヒュ-イ艦長はモニター越しから発する彼女の威圧感にしどろもどろになる。

 その瞬間切り替わってきたのは、彼らの上司であるジェイ・アレギオスだ。

 

《私だ。各員、聞こえるか? ブリーフィングで言った通り、あくまで第一目標はユニコーンの奪還あるいは破壊だ》

《はいはい、わかってますよー、あのユニコーンって奴をサクッと倒して――》

《侮るな。ユニコーンの他にも手練れがいる。油断をしていると、命取りになる》

《うっ、ごめんなさい……》

 

 ジェイが一区切りして大まかな作戦の再確認を終えると、今度はソアル個人に声をかける。

 

《それと、ソアル。その機体は機動力と火力に優れているが、扱える者が少数に限られるじゃじゃ馬だ。機体に振り回されるな》

《わかっています。そのために訓練したつもりです》

 

 と、強気で二つ返事で返すソアルにジェイは、同じ軍人の隊長として、育ての親としての喜びの感情を込めて一瞬微笑みだす。

 

《……諸君らの健闘を祈る!》

 

 ジェイは通信を切り、ニック艦長とアイコンタクトをしてブリッジクルーに次の支持を出す。

 

「総員、第一戦闘配備! オルドレア隊出撃! 本艦も前に出る!」

 

 それぞれが共有する意思を背負ったオルドレア隊は、各員が持つ機体のメインシステムを起動した後、カタパルトシステムで各機体をカタパルトデッキに移した。

 

《ソアル・アレギオス! フリーダム、出撃する!》

《ラーナ・アレギオス! ノーベルで行くわ!》

 

 最初に射出されたのは、ソアル・ガエリオスが乗る、黒いラインと蒼い翼が特徴の白いガンダムタイプ【フリーダムガンダム】とラーナ・ヴァーロドムが乗る金色に輝く長髪にセーラー服やハイヒールとを着ている女性型デザインのガンダムタイプ【ノーベルガンダム】。

 射出されたフリーダムは、ソアルがスイッチを押したことでフェイズシフト装甲(以降の口述をPS装甲とする)を展開し、バックパック以外の各部位が灰色から基調となる白と強調された赤と黒、そして青のカラーリングに変色した。

 

《カルロス・アレギオス! デュナメスで出る!》

《アイーシャ・アレギオス! リィアン、発進します!》

 

 その後にカルロスが乗る、【ガンダムデュナメス】と呼ばれる、両肩アーマーの先端に追加されている緑色の装甲を持つ狙撃特化型のガンダムタイプとアイーシャが乗る【リィアン】と呼ばれる、後方に搭載している疑似太陽炉から赤いGN粒子を放出しながら飛行する小型戦艦型の支援機が射出された。

 下のカタパルトデッキから射出されたリィアンは縦軸に回転し、機体以上の長さを持つ対艦ライフルを持ったヅダを乗せてソアル機、ラーナ機と合流し、一時的に彼らが過ごしていた忌まわしい地――コロニー、アイランド・イフィッシュへ向かう。

 ブリッジで彼らを見届けるジェイに近づく足音。その持ち主は、エイナルだった。彼の後ろにエイナルと同じ志を持った僅か数人の部下たちもその場に居合わせていた。

 

「大佐、我々にも出動の許可を。……覚悟はすでにできております」

 

 フロントガラスに反射して見ゆる彼らの目を見たジェイは、彼らの持つ覚悟は本物なのかある質問をエイナルに問い、それを見極める。

 

「それは、己のプライドを守るための覚悟か?」

 

 過去の醜態を晒してしまったことのあるエイナルは内心痛いところを突き付けられたが、その質問に対する答えを口に出すのに5秒もかからなかった。

 

「いえ。我々は軍人です。軍人になったからこそ、死ぬまで……いや、真の平和が訪れるその時まで戦い続ける覚悟であります!」

 

 エイナルの必死そうな顔や言葉からの上っ面の覚悟ではなく、その奥から並々ならぬ決意を感じ取れたジェイは、自分が求めていた理想とはやや違うものの目的とは決して離れていなかった。

 

「……お前たちの意志は受け取った。先ほど、アークエンジェルが急遽進路を変更し、これをアルドレア隊が先行、及び偵察の任を与えた。ブローマン小隊は彼らの護衛を任されたい」

 

 と、ジェイからの命令を言い渡すと、エイナルとその部下たちは一糸乱れぬ敬礼をしたあと、ブリッジから離れて格納庫へ向かう。

 エイナルも部下たちの後を追おうとすると、足を止めてジェイに向けて個人的に対する宣言をする。

 

「今度は、自分を見失いません!」

 

 その言葉を聞いてエイナルの更なる成長に心の底から喜ばしく感じたジェイは微かに口角を上げてほほ笑んだ。そして、彼らにこう告げる。

 

「……頼んだぞ」

 

 〇 〇 〇

 

 発信源を頼りにユニコーンは前に進み、ようやくアークエンジェルへと帰還。モビルスーツから降りると、そこにはルルやカレヴィ、レーアが待っていた。

 最初にリュートに接近したレーアは怒りの感情を押し殺しながら頬に向けて思いっきり平手打ちをし、その音が格納庫内に響き渡り、その場にいた者たちを気圧させた。

 

「……あなたの身勝手な行動でどれだけの人が迷惑をかけたか、分かっているの?」

 

 近くで氷のように冷酷な表情で見つめられたリュートは、事実を突き付けても何も言い訳することもするつもりもなく、ただ素直に謝罪した。

 

「……ごめん」

 

 そして、リュートはルルたちの方を見て、頭を下げてもう一度謝罪した。

 

「皆さんもご迷惑をおかけして、すみませんでした……」

 

 沈黙の中、最初に啖呵を切ったのはカレヴィ。レーアの言動に多少戸惑いつつも咳をしながら、頬が腫れているリュートに向けて発言をする。

 

「……あー言いたいことはもうレーアに先に言われっちまったし、俺から言うことは……まあ、そのーなんだ。もう二度とやるなよ、リュート」

「リュートさんの場合、まだあくまで民間人の立場なので軍人からもお咎めはありません。今回は、厳重注意で事を済ませます。十分反省しているのが見て取れるので」

 

 心配していたとはいえ、無事に帰ってきたことだけでもよしと感じたカレヴィとルルの寛容にリュートは涙を流してもう一回頭を下げた。

 

「あ、それとリュートさん、実は艦内にお客様が来ているんですが、なんでもルージニス中立公国の方があなたにお会いしたいらしくて」

「ルージニス中立公国の……?」

 

 ルルの言葉にリュートは戸惑いを隠せなかった。姫君はもちろん分かっているが、なぜ姫君たちがこの宙域にいるのかが理解できなかったのだ。

 そもそもルージニス中立公国とは何なのかさえ、よく分からないので偶然にも隣にいたレーアに問いかける。

 

「レーア、ルージニス中立公国って何?」

「知らないの? コロニー・サイド6にある世界規模の軍事力を誇る中立公国よ。あくまでルージニス中立公国は自衛のための軍事って主張していて戦争、紛争も一度も起こしたことがないって聞くけど……」

「あの、アーガマ……っていう艦は、ルージニス中立公国のものなのかな?」

「さぁ、そこまではわからないけど……」

 

 アーガマの所持者がルージニス中立公国のものという点は些細なことでしかない。仮に肯定した場合、なぜあそこで屯っていたのかがリュートにとって最大の疑問だった。中立を貫いている国であれば、尚更だ。

 自問自答を繰り返しているうちに身のこなしを整え、保健室に行ってレーアにぶたれた頬をガーゼで手当てし、気が付けば、ルージニス中立公国の姫君がいる応接室の前まで来ていた。

 先にルルがドアをノックしてしばらくすると、マドックが出迎えてる。その後にカレヴィ、レーア、リュートの順番で入っていくと、彼の目に映ったのはアーガマの艦長グランの隣に姫君と呼ぶにふさわしい気品を漂わせる少女が2人座っていた。

 それぞれメインカラーがオレンジ色と淡い紫色の同じドレスコートを着ており、オレンジ色のドレスコートを着ている少女は金髪で短めに髪留めをしており、年もリュートやレーアとほとんど変わらない。

 

(……貴族から招かれるなんて思ってもみなかったけど、間近で見ると、結構華やかなだな)

 

「遅くなり申し訳ございません。私は、アークエンジェル艦長代理のルル・ルティエンス中佐です。隣にいる方はマドック・ハニガン少佐、その後方には右からカレヴィ・ユハ・キウル少尉、レーア・ハルンク志願兵、そしてリュート・ウルシバラ志願兵です」

 

 服装からして姫君と思われる2人の少女は立ち上がり、タイミングを見計らって真ん中に座っている髪留めをしている姫君が最初に穏やかで流暢に口に出した。

 

(わたくし)たちからも改めて自己紹介を。私は、ルージニス中立公国第8公王、アーサー・ストランドが長女、パルウェ・ストランドと申します。こちらが――」

「執事のユースタス・ラグウェイと申します」

「此度は危機に瀕していた中、援護及び救助していただき、ルージニス中立公国代表として感謝を申し上げます」

 

 ルージニス中立公国の姫君はスカートの裾をつまんで華麗にお辞儀をし、感謝の意を述べると、アークエンジェル・クルー一同が一番気になっていたことをルルが代弁して問いかける。

 

「あの、さっそく本題に入りますけど、どうしてルージニス中立公国のお嬢様方がこのような場所におられたのですか?」

「話が長くなってしまいますが、私たちは父の派遣の元、あなた方地球軍とコロニー連合軍から許可を得て戦場と化した被災地へ赴き、戦争の被害者の方々を施してきました。いわば、ボランティアです。今回はあなた方地球軍事統合連盟の制空権にあるサイド6だったので今はここにはいませんが、用心棒としてフェズ・シーア少尉とショウマ・シーア軍曹を要請した次第です。帰りの途中に原因不明の磁場の発生による艦の機器の故障、そして多数のMSに襲撃されました」

「……そこにウルシバラ志願兵が援護に駆けつけ、窮地を脱した、というわけですか」

 

 経緯を述べているうちにルルが勝手に納得していると、パルウェは席を立ち、リュートの前まで移動する。

 

「リュート・ウルシバラさん、あなたが私たちを見つけたおかげで九死に一生を得ました。このご恩は決して忘れることはないでしょう」

 

 高潔を身に纏っている相手に話すこと自体、貴重な経験なのでリュートも変に舞い上がっている。それに、美麗な顔立ちに透き通るような香水の香りにリュートの冷静さは失われつつあった。

 彼の両側で様子を見ていたレーアは少々呆れていて、カレヴィは思いっきり口を開けまいと閉じて震えながらも笑いを必死に堪え、咳をして誤魔化していた。

 高鳴る鼓動を落ち着かせてリュートも本心をパルウェに伝える。

 

「……あ、いえ。あの時、気にしないふりをしていたらきっと後悔していたと思うんです。僕もあなた方を見つけて良かったです。本当に、良かった……」

 

 それはリュートの本心でもあった。戦争の中、死ななくてもいい人たちを助けられたことがリュートにとっては唯一の救いになっていた。それを見抜いてたかのように微笑みだすパルウェは、1つリュートとレーアに個人的に気になっていたことを話す。

 

「それにしても、あなたとレーアさんは私とそこまで歳が変わらないことに驚きました。それと失礼を承知ですが、ルティエンス艦長も女性で、しかもここまでお若い方とは思いませんでした」

「……よく言われます」

 

 と、毎回初見の人と会うたび必ず言われることに既に慣れたルルが苦笑いすると、パルウェは今思いついたことを提案をする。

 

「そうだ。リュートさんとレーアさん、これから()()()とお話してくれませんか?」

「私ならまだわかりますけど、なぜリュートまで……?」

「詳細は、後でお話しします。ルティエンス艦長、このお二人をお借りしてもよろしいですか?」

「……一応、彼らは民間人の身分ですのでお二人を束縛する義務はありませんが、念のため監視はさせていただきます」

 

 そう告げ口を言うと、パルウェは問題なしと言い、リュートらの付き添いとしてノエル・クリンプトン曹長が抜擢された。

 場所をアーガマに移したいとパルウェ本人の願いを聞き入れ、承諾。ユースタスの誘導でアーガマに乗り移るカーゴ船に向かう最中、リュートはパルウェの提案の中にどうにも気になった言葉があった。

 

「あの、パルウェ、姫。先ほどから気になっていたのですが、その、『私たち』という言葉がどうも気になるのですが……」

 

 リュートの疑問を聞いたパルウェは、一瞬辛そうな顔を隠すように下を向き、そして上げて彼らに彼女だけが知っている秘密を打ち明かす。

 

「……実は私には妹がいます。名前はサリィー。もうすぐ15になるというのにまだ家族以外人馴れしていません。ですから、少なくとも妹が年相応であるあなた方だけでも慣れるお手伝いをしてほしいのです」

「なるほど、そういうことだったんですね。まあ、僕たちができることであれば、喜んでお引き受けします」

「……ありがとうございます、リュートさん」

 

 パルウェのカミングアウトに首を縦に振って納得するリュート。その2人の後ろで間に目をつぶり、顎に手を添えていて何やら考え事をしていたノエルの傍らで気になっていたレーアが問いかける。

 

「ノエルさん。さっきからずっとこんな感じですけど、何か気になることでもあるんですか?」

「……姉とは違い、とてもシャイな妹分のお姫様かぁ。これはありかも……!」

「……連れていく人を間違えたかもしれないわね」

 

 と、レーアは苦笑いして呆れていた。

 

「……着きました、こちらです。この部屋にマリィーお嬢様がおられます」

 

 修理中のアーガマに移り、たどり着いたのは応接室。この部屋にパルウェの妹がいると聞いたリュートらは、パルウェと会った時とは全く違った緊張感を持っていた。

 最初にパルウェが一歩前に出てドアをノックをする。

 

「マリィー、私です。姉のパルウェです」

 

 サリィーと呼ばれる妹の姫君から声で5秒も経たないうちにドアは横にスライドして開くと、何者かが飛び掛かりそのままリュートに抱き着く。

 何が起きたのかとゆっくり下を見下ろすと、リュートの胸に飛び込んできたのは、パルウェと色違いのドレスを着た一回り小さい女の子だった。

 

「えーっと、マリィー……姫?」

 

 恐る恐る声をかけてみるもその少女の手は震え、泣きじゃくっていた。何かあったのかと思ったリュートはパルウェに確認を取らせると、間違いないと首を縦に振る。そして、そのことを知ったリュートは再びその少女に問いかける。

 

「あの、何かあったのですか? マリィー姫? 僕でよければ、相談に乗ります」

 

 リュートは一度少女を離して少しかがんで経緯と問いかけると、俯いて聞こえずらくて最初は何を言っているのか分からなかった。だが、何度も問いかけて震えた口から聞こえてきた言葉は――。

 

「た……」

「た?」

「……た、助けてありがとうございます、救世主様」

 

 彼女の目に涙が溢れ、頬は赤く染まり、リュートに向くその笑顔は恋をしているかのような表情をしていた。

 

「へ、救世主……様?」

 

 問いかけてきた返答は、予想を遥かに上回っていた。そしてサリィーがまんざらでもなく放った「救世主様」という言葉はリュートを驚嘆させ、レーア、ノエル、パルウェ、ユースタスを茫然自失させた。




都合が悪く、投稿が遅れて申し訳ありません。
次の投稿は、なるべく早く投稿できるよう心がけます。
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