機動戦士ガンダムArbiter   作:ルーワン

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前回のあらすじ
 コロニー連合軍によって送り込まれた巨大モビルアーマー、ビグ・ザムの撃破に成功し、後退させたリュートたち。しかし地球に戻ろうとするも、燃料が切れる寸前でしばらく時間がかかるらしい。そこでルルが取った行動は――


偽りの友情

 ある一方、フロンティアⅠ内にある総督府の会議室でコロニー連合行政統制機関、略して【CUACA(クアッカ)】の定例会議が執り行われていた。

 それぞれに1つのデスクを持ち、中央にある大型のモニターを囲うように各局の代表と補佐役が座っている。行政統制局がまとめ役を買って出て貫禄のある面子が各自で集計したデータの状況報告や新たな目標の開示だけではなく、各局が導きだした提案の提出などができる。

 そして、1枚の紙を持った厚生労働局代表の男性が今、状況報告をしていた。

 

「――以上が厚生労働局の状況報告です」

 

 厚生労働局代表の男が座りながらマイクで言い終えると、各局のよりひと際目立つデスクに肘を付けて聞いていた行政統制局の代表が指揮を執る。

 

「ありがとう、レインバー代表。では最後に、ハイゼンベルグ代表。状況報告を」

 

 すると、ヴァルターは突然立ち上がり、各局に向けてゆっくりと最初の口述をする。

 

「……各局の皆さん、まずはモニターをご覧ください」

 

 中央のモニターに手を向けると、その合図で座っていた補佐役が端末を操作する。

 映し出されたのは、ガンダム形態になったユニコーンを捉えた画像。これを見た各局の代表は思わず驚き、会議室は騒然とする。

 思いがけない展開に行政統制局は、各局に落ち着くよう伝える。

 

「静粛に。皆さん、静粛に。ハイゼンベルグ局長、これは一体どういことですか?」

「脅威です」

 

 このようなことを起こした理由に単刀直入に結果論を答えたヴァルター・ハイゼンベルグに行政統制局の代表は困惑の表情を強いる。

 ヴァルターは、彼らがすべてがすべてを把握しきれないまま話を続ける。

 

「そのモニターに映し出された機体は、識別番号RX-0、名はユニコーン。かつて我が盟友だったレオ・ビスタルの遺産とも呼べる最新鋭の機体。私は、それを極秘裏に部隊を動かして盟友とその機体の奪取を試みた結果、残念ながら彼は死に、機体は敵の手に渡ってしまいました。そして、その機体の性能は未知数。ある時には複数の我が軍の手腕のパイロットたちが成す術もなく蹂躙され、またある時には、要塞と呼ぶにふさわしい破壊不可能の巨大モビルアーマーをたった1機で撃墜したと聞きます」

「それほどまで恐ろしいのか、そのユニコーンというのは……」

「だからこそ、この定例会議で報告する必要があったのです。この脅威を放置すれば、後の禍根となる。今すぐ、手を打たなければならないのです!」

 

 ヴァルターは各局よりかは行政統制局の代表の心に訴えるように思いっきりデスクを叩く。

 行政統制局の代表はヴァルターの真意をある程度把握した。それが本当なら、スペースノイドのために一刻も早い対応をしなければならない。

 代表は出席した同じ局の者たちと相談し合い、先に他の局の者たちを返した方がいいと判断した。

 

「……あなたの意図は分かりました。詳細は後日にそちらに連絡をし、手続きが終え次第、伺いに参ります。それでいいですね、ハイゼンベルグ局長?」

「お待ちしております、私たちが知っていることであれば、何でも話しましょう」

「本会議はこれにて閉廷します」

 

 このクアッカには過去10年間、今までこのような状況報告はなかった。だが、あの男が築いた軍の中に切り札と呼べる者がいる。その者がユニコーンと戦闘した場合、勝利の有無の確認も確かめなければならない。彼の意見がこのコロニー連盟の存続に関わるからだ。

 その一方ヴァルターは顔色一つも変えず、補佐を連れて他の局共々会議室を後にした。

 

 〇 〇 〇

 

 マリアージュ・ミコットとヴォルガ・ライゴンはそれぞれの愛機であるガーベラ・テトラとジ・Oで駈けて中佐以上が持つことが許されている戦艦――ナスカ級戦艦、通称ヴェサリウスに乗り込んでリュートたちがビグ・ザムと戦闘している間、船舶していた第1ゲートから脱走し、フォン・ブラウンから辛うじて抜け出すことに成功した。

 格納庫と隣接しているパイロット用の待機ルームでマリアージュとヴォルガは宇宙用給水ボトルで摂取しながら休憩を取っていたが、マリアージュは左手でボトルを強く握りしめながら右手で壁に拳をぶつけて悔しい表情をしていた。

 

「くっ、まさかこの私がここまで追いつめられるとは……!」

「落ち着けよ、マリア。失敗は誰にもあるぜ。ジェイがいい例だ」

「あんな得体の知れない奴と一緒にするな!」

 

 と、気楽なヴォルガににらみつけて叱咤するマリアージュはより不機嫌になった。

 彼女の性格をよく理解して配慮したつもりのヴォルガだったが、我ながら地雷を踏んでしまったなと後悔していた。

 気まずい沈黙の間を割り込む、壁に設置している連絡端末からコールが鳴り響く。

 一番近くにいたマリアージュがその端末のコールスイッチを押して対応する。

 

《なんだ、アシュリー?》

《ミコット少佐、ハイゼンベルグ総帥から通信が入っております》

《総帥から……? わかった、少し時間を頂戴したいと伝えてくれ。すぐ行く》

《了解しました》

 

 マリアージュは通信を切り、颯爽と待機ルームを抜け出て軍服に着替えてブリッジに向かい、通信越しで対面した。

 ブリッジのモニターには、前回と同じく椅子に座ったまま貫禄を醸し出しているヴァルターにマリアージュは敬礼する。

 

《遅くなり、申し訳ありません。ハイゼンベルグ総帥、その、御用と言うのは……?》

《用は他でもない。ユニコーンについてだ。ユニコーンを奪還対象から破壊対象に変更することを伝えに来たのだ》

 

 ヴァルターが発したその言葉にマリアージュは考えた。

 戦局を左右すると言われているユニコーンをまだ奪還できていない最中に手放すということは、自ら負け戦にしていることと同じことだ。

 それでもなお、ヴァルターの心からこみ上げってくる自信ありげの発言にマリアージュは消去法で残された1つの提案事項に絞り出す。

 

《……そのことを申すということは、ユニコーンと同等以上の物が手に入った、と》

《察しがいいですね、ミコット少佐》

 

 モニター画面の外からフラッと現れたトルドアスはここが自分の立ち位置と主張しているかのように自然とヴァルターの後ろに立つ。

 

《トルドアス……。まさかお前が……!?》

《ビスタル・メカラニカに古い友人がいましてね、僕はお互いに対等の立場でビジネスの話を持ち掛けて交渉したに過ぎません》

《トルドアスの機転がなければ、今後の戦闘で苦戦に強いられていただろう》

 

 コロニー連合軍に入って間もないトルドアスの軍に対する功績はすべて紛れもない事実で華々しいものだ。

 だが、トルドアスよりもキャリアがあるマリアージュだけは、自分自身が持つ個人情報だけを提供しない者になぜ信頼を置くことができるのか腑に落ちなかった。

 

《……どうした? 不満があるなら申してみよ、ミコット少佐》

《……いえ。何もありません》

 

 納得できない相手の目前でその話をするわけにはいかず、元より総帥であるヴァルターの耳に煩わせれば、自分自身に危害が及ぶことにもなりかねない。

 ここでは黙ることが一番の最善策だ。

 

《そうか。ミコット少佐、貴君の健闘を祈る》

 

 と、総帥という上に立つ者として軍人への激励をしたヴァルターが通信を切った直後、マリアージュはため息を吐いた。

 

「マリア、大丈夫か?」

「……ああ。アシュリー、回頭30。アクシズに向かう」

「アクシズ……? そうか、奴らが次に向かうとするなら地球か!」

 

 彼らの言うアクシズは、地球とコロニーの間にある小惑星を改装した秘密基地の1つでコロニー連合軍からすれば、やや地球圏寄りの前線基地だ。

 地球軍のものとなってしまったアークエンジェルは、人材や情報交換などするために地球に降りなければならない。

 アークエンジェルよりも一足早く、地球に近いアクシズに向かって補給を行い、奇襲を仕掛ける算段だ。

 

「了解しました。回頭30! これよりアクシズに向かう!」

 

 マリアージュの意図をくみ取ったアシュリーという名の女艦長は大声を発し、ヴェサリウスをアクシズに向けて発進させた。

 

 〇 〇 〇

 

 月面でビグ・ザム撃破及びコロニー連合軍の撤退に成功した1人であるリュートは、アークエンジェルの4人部屋にある1つのベッドで身を任せて横たわっていた。

 戦闘という命の取り合いを経験したばかりのリュートの表情から体力的にも精神的にも疲れ果てていることを物語っていた。

 

(正直、ここまで生き延びるなんて思ってもいなかったなぁ……。今思うと、あれに乗ったことが始まりだったんだよなぁ……。そう、あのガンプラバトルシミュレーターに乗ったことから何もかもが始まったんだ……)

 

 ガンプラバトルシミュレーターに乗ったリュートが知らぬ間にこの世界に飛ばされて、託された初めて会った老人にユニコーンガンダムと呼ばれた機体、偶然出くわした軍人のカレヴィや元コロニー連合軍でありながらも機動警備隊に所属していたレーアとの共闘、ユニコーンを狙うコロニー連合軍。そして、フォン・ブラウンの防衛。

 ここまで色々な出来事があったのにそこまで経った時間はたった1日だ。

 飛ばされた時代が戦争の真っ只中で立て続けに起こったやむを得ない戦闘という不幸が同時に重なっていて今生きていることを喜ぶべきか、元のいた世界とは疎遠の、しかもモビルスーツという人型機動兵器が流通しているこの戦争時代に飛ばされ、いずれ死ぬのかも分からない今後に絶望しても元の世界に戻れる保証もない。

 

(そして、NT-Dシステムが発動した時のあの感覚……。考えるのは、やめだ。もう寝よう……)

 

 ユニコーンがNT-Dを発動した時に金縛りのような怪現象に考えることを後にしたリュートは、目を瞑って睡眠を取る。

 

(ここは、家……?)

 

 一度目が覚めると、目の前には見覚えのある木材でできた天井とひも付きのレトロな照明器具、横から吹いてくる暖かい風と照らす朝日の日差し。そして、朝の知らせを告げるスズメの鳴き声。

 リュートにとってここは間違えるはずもない、漆原家の自分の部屋だ。

 今まで見てきたものはすべて夢でいつの間にか寝てしまったのか、と息を吐いて心の底から安堵している表情が窺えた。

 ピンポーン。

 突然玄関のチャイムが鳴り出す。

 壁にかけてあった時計の短い針は7時を指していた。

 

「こんな時間に誰だろう……? じいちゃん、ばあちゃん……?」

 

 過去に対人恐怖症を持っていたリュートだったが、今ではだいぶ落ち着いているもまだ出れる気にはなれなかった。

 代わりにリュートの祖父母のどちらかが出ていたが、声をかけても返事はなかった。

 

「まだ寝てるのかな…?」

 

 ピンポーン。

 再びチャイムが鳴り出し、仕方なく、リュートは起き上がり、階段を降りて家の隅々まで探したが、祖父母の姿どころか影すらなく、困り切っていた。

 ピンポーン。

 次第に間隔が短くなっているチャイムの音に玄関に出ることが怖かったリュートは意を決して唇が震えていながら「どちら様?」と言って玄関に出ると、そこにいたのは、うつむきながら奇妙に突っ立っているもう一人の自分だった。

 

「え? 僕……?」

 

 人間を着被った、得体の知れない物がケタケタと不気味に笑いながら人間の言葉でリュートに迫り寄ってくる。

 

「う、うわぁぁぁぁぁッ!!」

 

 その怖さにリュートは悲鳴を上げてドアを閉じて鍵をかけたが、その得体の知れない物が粘土のように奇妙な形になってドアは押し破られる。

 気付けば、辺りは自分の家それでもリュートはどこか別の場所でと、遠くへ逃げるも転んでしまい、足をすくんでしまう。

 

「あ……あ……あ……」

 

 得体の知れない物がリュートに襲いかかった瞬間、天井から発光する球体が現れ、髪の長い女性の姿へと代わり得体の知れないものたちを追い払った。

 そして、リュート自信、怖さからの緊張が解けたのか急に気を失ってしまう。

 その悪夢でハッと目を覚まして起き上がったリュートだったが、その割には多くの汗をかいておらず、息も乱れていない。

 呼吸を整えるために1回深呼吸をして落ち着きを取り戻した後、ドアを開けて廊下に出ると、彼の右側から「リュート」と男の声が聞こえた。カレヴィだ。手すり型のベルトコンベヤーを使い、長い茶髪を穏やかな波のようにゆっくりと靡かせながら、リュートに向かってくる。

 

「カレヴィ……」

 

 回復はしているが、いささか声に張りが無く、まだ衰弱している。カレヴィはそのことを見逃さなかったが、あえて言わなかった。いや、言えなかったのだ。

 

「……ゆっくり眠れたか?」

「……まあね。避難民の人たちは?」

「既にフォン・ブラウンの移住の手続きを始めてる頃だろう。あ、そうそう。艦長代行がブリッジに集まってくれ、だとさ」

「ブリッジに? どうしたんだろう?」

「おそらく、次の目的地が決まった、とかだろう。とにかく行ってみるか」

 

 具体的な内容が分からない2人は、ブリッジへ向かった。

 ブリッジと廊下を繋ぐ自動ドアが開くと、ブリッジにはルル艦長代行とマドック副長代行の他にレーアも来ていた。

 

「あ、リュートさん! カレヴィさん!」

 

 その中で真っ先に声を掛けたのはルルだ。

 彼女の表情や態度からして何か嬉しいことでもあったのだろうかと思い、ルルに尋ねてみる。

 

「何があったんです?」

「はい。今回は2つ発表したいものがあるのでみなさんを呼んだんです。1つ目は次の目的地です。場所は、地球にあるニューヤーク基地です。私たちは一刻も早く地球軍本部に戻り、本隊と合流しなければならないのです」

 

 妥当で理にかなった判断だ。

 ここ、月の周囲にはコロニー連合軍の管轄エリアが張り巡らされているが、抜け道がある。

 アークエンジェルを奪取した際、データにインプットされているコロニー連合軍の管轄エリアの隙間をすり抜け、地球にまでたどり着くというものだ。

 相手も人間で地球と月の間に広がる宇宙圏の隅々まで徹底警戒することは骨だからだ。それを利用して包囲網を突破する。

 

「なるほど。それで2つ目は……?」

「そのことについては、私が説明しよう。実は補給前にエンジンの燃料を担当者に調べたのだが、ギリギリで底を尽きかけていたようなのだ。ここは軍事施設ではないので修復が完了するには早くても1日以上時間はかかってしまう」

「マドックさんと話した結果、運搬及び整備の方たちを除く全クルーは今から臨時休暇を取ることを決めました!」

「……臨時休暇?」

 

 と、リュートは首を傾げる。

 

「はい! あ、そうだ! リュートさんとレーアさんは、これから共に戦う仲間なんですから、着替えなどの必需品を揃わなければなりませんね!」

「えーっと、軍の人は私服とか持っていっていいんですか?」

「そのことなら心配いらない。軍の法律では、自分の所持品は必要最低限持っていくことを約束されている」

「そうだとしても、お金は……」

 

 リュートが所持しているのは、荷物すべてを元の世界に置いて来てしまったので何も無いので服を買えるお金がない。

 それ以前にこの世界でリュートがいた世界の硬貨や紙幣が使える可能性もかなり低い。

 どちらにせよ、自分の力だけでは物が買えないことに変わりない。

 

「それでしたら、謝礼金を使いましょう!」

「謝礼金? そんなものまで貰ってたんですか?」

「前市長から小切手をもらいまして贅沢に2人の分を使っても、半分以上は残ると思うので大丈夫だと思います」

 

 ルルがポケットから取り出した小切手をリュートは屈んで細かく見ると、桁数が多かったので数えてみたら『100万』だった。

 小切手に書かれていたその数字に思わずリュートは驚愕した。

 

「ひゃ、100万……!?」

「はい! これを使ってお二人の服を買いに行こうかと思って! あ、そうだ。カレヴィさんも一緒に行きます?」

「いや、俺はパスだ。まだやらなくちゃならんことがあるんでね。お前らだけでも遊んで来いよ」

「あと交通機関の方は大丈夫なんですか? 戦闘であっちこっち暴れまわったから……」

 

 リュートは被害が遭ったとされる広い街や都会へ渡るには欠かせない交通機関は動いているのか質問をする。

 コロニー連合軍との戦闘でアスファルトや高層ビルなどが壊れてしまっていることから復興には時間がかかるだろうと思っていたが、その心配はなかったようだ。

 

「前市長から聞いた話だと、少し遠回りになりますが、幸いにもフォン・ブラウンの次に大きいグラナダという場所と繋ぐ快速電車が今頃再開しているはずです」

「グラナダ……」

 

 グラナダは月の裏側にある、フォン・ブラウンに次ぐ2番目に大きい月面都市でフォン・ブラウンから最短距離で10,000kmも離れている。

 グラナダへ向かうには、この宇宙港から少し離れた場所に空港のジェット機に乗らなければならない。

 

「これで心配事は無くなったな」

「艦長代行の言う通り、戦争が終わるまでしばらくここしか生活できないから服とかも必要になっていくしね。ね、レーアちゃん」

「あ、はい。そうですね」

「艦長代行、それなんですが……」

 

 と、マドックが渋々と口述する。

 

「どうしたんです、マドックさん?」

「港区の入り口でどうやらメディアたちが待ち構えています」

 

 先ほどの戦闘で、フォン・ブラウンの市民たちから彼らを英雄として祀り上げている。ブリッジのモニターに居住区でユニコーン、エクシア、ウイングとコロニー連合軍のザク、ドム、グフ系統の機体の戦闘をしている光景を、ニュースを通して映し出されている。

 ノエルはこのことも考え、艦から出たときにマドックは記者やカメラマンに捕まって、予想以上に時間が掛かってしまうのではないかと不安に思っていたのだ。

 

「大丈夫です、私に考えがあります! マドックさんは、クルーたちと一緒にメディアの人たちに適当にごまかしてください」

「……分かりました」

 

 と、いらない大役を任されてしまったと言わんばかりにため息を吐くマドック。

 何かを閃いたノエルは自信ありげに言ったが、何も言わずになぜかルルも一緒に共同部屋に入り、2人にここで待てと指示をする。

 リュートとレーアは2人の女性軍人の用が終わるまで部屋の外でしばらくの間無言の状態で待機していた。

 

「遅いなぁ、ノエルさんと艦長代行」

 

 この2人若い男女の間の沈黙を漂う空気を打破したのは、リュートだった。

 ため息を吐いたレーアも無言状態に飽きてきたのかリュートに女子のことについて少し説明をした。

 

「女の子というのは、こういうのに結構手間取るのよ」

「そ、そうなの……?」

 

 レーアは、助言でますます女子の不思議に不思議を重ねていき、ついには分からなくなっていくリュートの顔というより頭を見つめて、どこかしら変に思っていると、何となくわかった。

 

「ところで、どうしてフードなんて被ってるの?」

 

 リュートにとって一番触れられたくない部分をピンポイントで当ててきたレーアに少し嫌気がさしていたのか顔を少し険しくする。

 だが、彼女の怖さは既に知っているのでなるべく穏便な言い方でごまかす。

 

「そ、それはお気になさらずに……」

「そんなこと言われたら、余計気になるじゃない。それに、その恰好だと怪しく思われるわよ。今すぐそれはやめて」

「大きなお世話だよ」

 

 聞かれたくなかったリュートの冷淡な発言にレーアは、不機嫌になって少年の頬をつねる。

 

「いてててッ!! な、なにしゅるんなにょ(何するんだよ)!」

「あなたがフード取るまで離してあげないから!」

 

 そう言いつつ、レーアのつまむ力はますます強くなってくる。

 また透き通った爪が当たっていて余計に痛さが増していてこれ以上の痛みに耐えられなかったリュートは、降参せざるを得なかった。

 

わふぁった(わかった)わふぁったふぁら(わかったから)!」

 

 すぐさまフードを取り、レーアは頬を抓ている手を離す。

 リュートの頬は赤く腫れて、触れた際につめ跡が残っている。余程レーアの力が見た目以上に強く、痛かったのだろう。

 

「うー……痛かった……」

「お待たせしました!」

「ごめんごめん、待たせちゃったね!」

 

 部屋から出て2人を詫びるノエルとルル。ノエルの服装は肩まで素肌を晒すピンク色のワンピースに青いデニムとカラフルな組み合わせだ。また左肩におしゃれな紐の長い鞄をぶら下げている。

 ルルは、優しい感じのパープルカラーのちょっとしたドレスのような可愛らしい私服にショートパンツのデニム、そして靴底が少し厚い白いサンダルを履いていた。

 女の子としての性分でテンションが上がっているルルは、リュートたちに感想を訊く。

 

「ジャジャーン! えへへ、どうですか? 似合います?」

 

 ルルはくるりと回転し、ひらひらしたスカートを親指と人差し指で摘まんで可愛さをアピールする。

 

「うふふ、とても可愛いですよ」

「ところでこれは一体……?」

「変装です!」

「そう。これなら誰も軍人だとは思わないでしょ?」

「まあ、それは……」

 

 ノエルの言う通り、確かに2人の姿からしたら誰も彼女らを軍人とは到底思えない。

 これならば、誰からも声をかけられずにスムーズに行けるとリュートたちの首が2、3回縦に頷き、納得した。

 その後にノエルが一言付け加えみんなに注意を促す。

 

「あと、艦長代行と相談してたんですけど、万が一の場合のことも考えて、仮の身分で統一しようとみんなに教えてあげようと思って」

「その仮の身分って?」

「私たちは、異母兄弟という設定だよ。見てわかると思うけど、私が最初に生まれた人との間で生まれた長女で、レーアちゃんは2人目で、リュートくんが3人目、そして艦長代行が……」

 

 リュートたちを見たルルはしかめっ面しながらカエルみたく両頬を膨らませ、不機嫌な態度になる。それを見たリュートやレーアも苦笑いしながら察した。

 

「……4人目で末っ子という訳ですか」

「多少不本意ですが、仕方ないっちゃ仕方ないですけどー……」

 

 と、その表情をしたままぷいっとそっぽを向ける。

 ルルの悪い癖をとっくに知っていたノエルは、一回ため息を吐いて口述する。

 

「ま、まあ、その姿でねだったら大好きなスイーツが手に入るかもしれませんよ、多分……」

「……。そ、それじゃ、行きましょう!」

 

 ノエルのおかげで寄りを取り戻したルルは、3人の先陣に出てアークエンジェルの裏口から小型の宇宙ボートで出ると、マドックの言う通り、宇宙皆との出入り口で多くのメディア待ち構えていた。

 なんとか彼らの目を盗んで出られることに成功し、空港へ向かった。

 空港に着いたリュート一行はチケットを買ってグラナダ行きのジェット機に乗り、グラナダへ向かった。

 ジェット機の一列の座席が3席、4席、3席の中から2つの廊下に挟まれている4席、進行方向で右側からルル、ノエル、レーア、リュートの順で座る。

 しばらく宇宙遊覧している最中、ひじを付いて窓越しで眺めていたリュートはあるものを見る。それは【機動新世紀ガンダムX】に登場する巨大な宇宙太陽光発電だ。

 

(宇宙太陽光発電まであるのか……。なんかもう、至れり尽くせりだな……)

 

 この世界に来てから様々なガンダム作品に登場する機体や施設を見てきてさすがに驚きを通り越して呆れ始めている。

 正午12時が過ぎた頃に3層の台がある台車を手押してきたキャビンアテンダントから昼食が手渡され、リュートらはご馳走したその1時間後の午後1時過ぎ、ジェット機は宇宙空港を通してグラナダ市に到着し、リュート一行は降りた先に一番近いショッピングモールを探した結果、『ジャソンモール』だ。

 そのモノレール・ステーションに向かって歩いている中、どこか落ち着かない様子のレーアが3人に声をかける。

 

「あの、すみません。ちょっとトイレに行ってもいいですか?」

「まだ時間はあるので大丈夫ですよ。なるべく早く戻ってきてくださいね」

「はい、すぐ戻りますから」

 

 駆け足で急いだレーアはステーション内にあるトイレで用を済まして手を洗ってから出た瞬間、入り口前の壁に背もたれをした、青緑で染まった髪の男から声をかけられるる。

 

「……まさか軍を抜けたあなたがあのコロニーで暮らしていたとは驚きましたよ、レーアお嬢さん」

 

 その男の声はレーアにとっては身に覚えのある声でその時同じ場所にいたことを証明する言葉も使っていた。

 無視するわけにはいかなかったレーアは立ち止まり、冷静を保ったままその男に返答した。

 

「……こっちも驚いたわよ。中立の立場にいたフロンティアⅣを襲撃するなんてね、ルスラン」

「私は、私を救ってくれたあの方の指示に従ったまでのこと……。同盟を組まなかったフロンティアⅣは破壊しても構わないとの仰せだったので」

 

 ルスランと呼ばれた男が言う『あの方』が誰なのか、元コロニー連合軍の出身であるレーアはすぐに検討が付いた。

 コロニー連合軍を統括する総帥――ヴァルター・ハイゼンベルグだ。性格もよく知っている。

 己の意見とそぐわない者には死を、従う者には隷属をと、甚だしい独裁政権にレーアは怒りで覚えていたが、場所が場所なので抑えて次の題について話をする。

 

「……あなたたちの目的は、ユニコーンなんでしょ? まさか最新鋭だからの理由で狙っているわけじゃないわよね?」

「そのことについてはお答えしかねます。私も詳しいことは伝えられていないので」

「……そう。私は行くわ。友人が待っているの」

 

 これ以上話を深掘りしても情報を得られる物はないと悟ったレーアは足を前に出して立ち去ろうとした時、ルスランが再び声をかける。

 

「最後にもう1つ。レーアお嬢さん、あなたは今地球軍に属しているんですか? あの少年のことはともかく、2人の女性は地球軍の軍人です」

「……そうだとしたら?」

「その時は……私の手であなたを討ちます」

 

 意志は既に固まっているルスランが言い放った言葉にひたむきな表情をしていたレーアの体は強張り、額から1粒の汗が流れていた。

 

「おーい、レーア!」

 

 後ろから行き交う人々の声や発車時刻のアナウンスの声を掻い潜ってリュートの声に気付いたレーアはすぐに首を前に戻してリュートを見る。

 

「あっ、リュート……」

「あまりにも遅いからルルさんもノエルさんも心配してたんだよ」

「……ごめんなさい。誰かに話しかけられた気がしたんだけど、気のせいだったみたい」

 

 気を取られていたレーアは再び後ろを振り返ったが、さっきまでそこにいたルスランの姿はなかった。

 

「もうすぐモノレールが来るよ。早く……え?」

 

 リュートは後ろから何かを感じて再び後ろを見ると、行き交う人込みの中でただポツンと立っている、白い気を纏ったレオ・ビスタルの姿が彼の瞳に映った。

 だが、一瞬にしてその姿はなくなった。慌てて辺りを見回しても同じだ。

 

「リュート、どうしたの?」

「……いや、なんでもない。行こう」

 

 顔だけ見ると、どこかおぼつかない表情をしている。ルスランが言い放ったあの言葉がまだ頭から離れずにいたのだ。

 だが、レーアはこのことを皆の前で言うつもりもなく、適当にごまかす。

 リュートとレーアはルルとノエルが待っているジャソンモール行きのモノレールへ向かう最中、レーアも再び後ろを振り返った後、身寄りのルスランに対して罪悪感を感じた。

 

(ごめんなさい、ルスラン……。私は、私が信じる道を行くわ……!)

 

 市街地までの距離は多少あったので徒歩で少し移動したところにモノレールステーションがあり、自動運転からアナウンスまでを完璧にこなすAIを搭載したモール直行便のモノレールに乗ってグラナダ市街地から少し離れたところにある『ジャソンモール』に向かう。

 多く建ち並ぶビルとビルの間を走行してジャソンモールまであと10キロメートルほど距離があったのでリュートは暇つぶしに外の景色を見ていると、いくつものの重工機械を使ったビルの建築や外で公園で犬を連れて散歩する人、ボールで遊ぶ家族、道路の上で走り続けている多くの車と、自分がいた世界と変わりなく、どこか親近感を感じた。

 

〔間もなく終点。ジャソンモール、ジャソンモールです〕

 

 AIがジャソンモールの到着をアナウンスをすると、窓から1つの巨大な施設が見え始める。

 1人の少年と3人の少女が目的地としている、ジャソンモールは縦幅1000メートル、横幅500メートル、全長30メートルの長方形型に近い巨大なモールだ。

 その施設の一番目立つ所にフランスを彷彿させる筆記体で『JASON』と書いていて、その駐車場もまだ10時半なのに多種多様の車にほぼ埋め尽くされている。

 このモノレールのステーションは、ジャソンモールと直結しているので行きも帰りも楽だ。

 飛行機とターミナルを繋ぐモバイル・ラウンジのような通路を通り改札口に切符を入れて通過してジャソンモールに入ると、ゲートにあるこの広さに見合った人盛りも出店している店もかなり賑やかに振舞っていて多くの人も行き交っていた。

 

「すごく広いなぁ……。ここだったら、なんでも揃ってそう」

「じゃあ行ってみようよ、レーアちゃん! 結構良いのがあるかもよ?」

「そうですね。行きましょう」

 

 ショッピングにウキウキしているのか、テンションが上がっているノエルとルル。後を追う2人もやれやれと少々呆れていた様子でモール内を進む。

 彼らが今いる位置は、ジャソンモールの3階の西エリア。服が売っているエリアは、その下の階の2階にある、彼らが向かう場所だ。

 途中人々がよく利用するカートが使う時だけ宙に浮いているこの光景を見たリュートは、自分がいた世界より発展した近未来の文化や技術に驚いて自分の目を疑った。

 

「何してるの?」

「あっ、いや…ちょっとこれ見て驚いてただけだよ」

「リュートって、どれだけ田舎に住んでいるのよ……」

「あ、あはは……」

 

 呆れた様子で言うレーアだったが、リュートに関しては、これらのような近未来な物を驚かないわけにはいかない。

 彼の居た世界と比べて、少なくとも発展しているのは明らかで自分の世界よりも遥かに文明が先進したのだろうと考察した。

 若干遠目で見ていたノエルは、リュートのぼさぼさヘアに視点を置き、首を傾げながら睨み付ける。

 

「ねぇ、リュート君。今思ったんだけど、その髪型だと、不衛生に思われるから先に髪を切ってきたらどう? ちょうどここには理髪店があるし」

「散髪、ですか……」

 

 ノエルの発したその言葉にリュートはひたすら伸びた前髪やもみあげを触る。

 あの事件以来、ずっと外に出ることはなかったし、かなりご無沙汰だったので、"過去の自分を脱ぎ捨てる"という意味で快く賛同した。

 

「ヘルメットを被るとき、髪の毛が鬱陶しかったんでちょうどいいかなと思います」

「よし、かん……いや、ルルさん、レーアちゃん、私はリュート君を理髪店に行ってくるので先にレーアちゃんの買い物を済ましてください」

 

 と、ノエルはカバンから札束を取り出し、ルルに手渡す。

 月面都市で使われるお金がどんなものか少し興味があったリュートは、ちらっとその札束を見る。

 その札束はノエルの手で見えない部分もあったが、黄緑色の製紙に100という数字と人物像が描かれているものは見えた。

 

(見た限り、アメリカのドル札に近いな……)

「分かりました! いってらっしゃーい!」

 

 と見送ると、ノエルも子供っぽく笑顔で手を振って返し、傍で見て恥ずかしがるリュートを引き連れ、マップを確認しながら理髪店へ向かった。

 

「さ、私たちも行きましょう、レーアさん!」

「は、はい!」

 

 ルル達と別れた地点から距離はそこまでなかったものの、休日である今日の人の多さに多少時間はかかったが、ようやく理髪店があるエリアに到着した。

 だが安堵も束の間、中が見えるガラスから待機スペースと思われる場所に人の多さがうかがえた。ドアの前にある黒板型の広告板にはチョークで"およそ30分待ち"と書かれていた。

 30分ならば、それ程待てる時間だとリュートもノエルも考え、そのドアノブに手をかける。

 ドアを開けた先には、セットチェアと鑑が奥につれて両側に3つずつあり、それぞれに1人ずつ係員が対応している。

 現在の待機している人数は、リュートを除いておよそ16人。待っている間、リュートは近くに置いている雑誌入れの棚から漫画を選ぶ。

 その中の一冊に『宇宙守護神ガルジアン』というタイトルの漫画を見つけると、興味を持ったリュートはその漫画を手に取る。

 表紙には、少年がその手に持っている何かを見つめ、悲しい表情になっているイラストで飾られている。

 最初の1ページを開いて見てみると、男主人公がロボットに乗って人間の姿をした敵側の宇宙人と戦う少年漫画の続巻だった。さらに次のページに見ると、"マサキ"と呼ばれる主人公は、連戦連勝しているうちに、戦うことに嫌気が差し、母船からかなり離れ、無我夢中で走り続けていた所から始まった。

 途中に土砂降りの雨に見舞われ、迷子になってしまったマサキは、1つの小屋を見つけ、持ち主である老人に雨が止むまでを条件として入れさせてもらった。

 なぜこのような所に子供がと疑問に思った老人はマサキに問うと、暖かいココアを飲みながら自分の素性とこれまでの経緯を少しだけ明かした。

 事情を知った老人は、マサキに向けて「自分が今、成そうとするその意味を見つけろ」とアドバイスを送る。

 

「成そうとする意味……」

 

 リュートもそのセリフを追って言うと、今まである言葉をふと思い出す。

 

――己を貫き、可能性を示せ

 

 この漫画を通して父が残したその言葉の意味をリュートは、少しだけ理解できた。

 

「次のお客様どうぞー」

 

 整髪スペースから現れた女性の理髪師の声かけにノエルが気付き、リュートにも促した。

 

「はーい。リュートくん、順番が来たよ」

「あ、はい」

 

 リュートはその漫画を所定の位置に戻し、女性理髪師の指示に従って整髪スペースへ向かい、セットチェアに座る。

 理髪師の手で着々と準備をするも、リュートは漫画で読んだそのセリフをこの胸に刻み、鏡に映る自分の姿に向けて決意を固めるのであった。

 

 〇 〇 〇

 

 同時刻、ルルとレーアの2人は若い女子に人気のレディースショップであまり目立たないカジュアルな服やラフな服を選んでいるのだが、どの服が個人的に一番似合っているのか、選び迷っていたのだ。

 レーアは「う~ん」と唸り声を出しながら違う2つの服を交互に自分と重ねて似合うかどうか比べている途中、違う服を持ってきたルルに声をかけられる。

 

「レーアさん、これも持ってきたよ。まだ、迷ってますね……。試着室で着替えてみたらどうでしょう?」

「……そう、します」

 

 金髪の少女は、ルルが持ってきた服と一緒に持っていき、試着室の中に入る。

 カーテンがめくるたびに、持ってきた服で様々なコーディネートが紹介される。まるでファッションショーみたいだ。

 そして様々な服に着替えるレーアを見ているルルは、ファッションショーに来たたった一人の来客。自分では選びきれないレーアは、正直困っていたのだ。

 肝心の服選びなのに時間を取らせてしまっては、他のお客さんに申し訳ないと気持ちでいっぱいだった。

 

「う~ん……レーアさん、何でも似合っちゃうから、こっちも選ぶのに一苦労なんですよねぇ。どの服を着ても素敵に見えちゃいますから」

「そ、そうですか……」

「だったら、これが良いんじゃないかしら?」

 

 そこに2人が発した一言に照れながら恐縮するレーアとどのような服を選べばいいかわからないルルの間に黒髪のツインテールをした褐色肌の少女が突如割り込んでレーアにどこから取り出したのか白のカーディガンと黄色のレース、ジーンズのショートパンツを渡す。レーアより少し小さい体格からして明らかに店員ではなく、客人の少女だ。

 

「え? ど、どうも……」

「えっへん! どう――イタタタタタッ!!!」

「ごめんなさい、うちのバカが余計なことを!」

 

 突然後ろからその褐色少女の腰まで届く長いツインテールの片方を掴む。

 痛い思いをしながら引っ張り出されるその少女と相反するかのように色白の肌に肩まで乗っかるぐらいの長さの白銀色のボブカットの髪に氷のようなスカイブルーの瞳をしたもう1人の少女が現れ、代わりにレーアたちに慌てて謝罪する。

 

「バカはいいでしょ、バカは! それにあたしはただこの子におススメの服をチョイスしただけなんだけど!?」

「それが余計だって言ってるの、ラーナ! 他人には他人の選び方ってものがあるんだから!」

「見た限りこの子は服選びに迷ってたのよ! これも人助けだとあたしは思うわよ、アイーシャ!」

 

 互いに自分の主張を言い張り、引けを取らない2人の少女は睨み続ける。

 

「で、でも、ありがとうございます……! せっかく選んできてくれたんですから、ちょっと着てみますね!」

 

 このままでは、事態の収拾がつかず、せっかく持ってきてくれた褐色の少女に対して申し訳なさを感じたレーアは、再び試着室に入ってドアを閉めて褐色少女が持ってきてくれた服を試着する。

 鏡で着替え終わったその姿を見たレーアは、これが自分なのかと思うほど自分でも何気なく見惚れていた。

 

(……しばらくこんなおしゃれな服に着替えてなかったからか、なんだかすごく新鮮に感じる……)

 

 と、一番ときめいていた。

 

「レーアさーん、まだですかー?」

「あ、もうすぐ出ます……!」

 

 ルルの呼びかけで我に返ったレーアは、緊張しながらドアを開き、その服に着替えた自分の姿を見せる。

 彼女の姿を見たルルは目を見開いて思わずの詠嘆を漏らし、ラーナと呼ばれた褐色の少女はの表情を見せ、アイーシャと白肌の少女はラーナに対して呆れていたが、服との相性に文句を付けず、微笑む。

 

「おー!」

「ふふん、やっぱり私のセンスに狂いはなかったわ!」

「というより、この人が美形だけなんだからじゃないの? でも、すごく似合ってますよ」

 

 彼女らの言葉にレーアは少々恥ずかしく感じたが、コーディネートされるのも悪くないと心から思えていた。

 そして、感謝の意を込めてラーナとアイーシャに向けて会釈した。

 

「あ、あの、ありがとうございました……!」

「あーいいのよ、いいのよ! これも人助けと思えばどうってことないわよ」

 

 と、高らかに声を上げて鼻を高くしているラーナの様子にアイーシャは、一回ため息を吐く。

 

「まったく調子乗って……。次からは自重――」

「さぁ、どんどん持っていくわよ!」

「って、人の話を聞きなさいよ!」

 

 いつの間にか両手に服を持っていたラーナを見たアイーシャ。最低限のエチケットを守ってほしいという彼女の願いは、数秒も持たずに打ち砕かれた。

 

 〇 〇 〇

 

 リュートとノエルが理髪店に入り、髪を切り始めてから15分が経過した。

 最後の仕上げで髪切りばさみを置いた女性理髪師は、リュートの頭に付いている髪の切れ端を小さなほうきでさっさっとはたき落とし、我ながら上出来と言わんばかりに一回首を縦に振る。

 

「……終わりましたよ!」

 

 久しぶりに髪を切ってイメチェンした自分の姿を見たリュートは一瞬驚き、そしてまた1つ揺るがない決意で満ち溢れていた。

 自分の髪を切ってくれた女性理髪師に感謝した後、ノエルと合流すると、彼女もまた驚きの顔を隠せずにいた。

 

「おぉー、よく似合ってる!」

 

 ぼさぼさだったリュートの髪は全体的にきれいに整えられ、サラサラしていた髪を生かしたヘアスタイルになった。

 

「そ、そう、ですか……?」

「リュートくん、元から顔立ちがいいからたぶん女の子も寄ってくると思うよ!」

「は、はぁ……」

 

 ノエルは散髪代を払い、リュートと共に服がたくさん売られているエリアへと向かう。

 

「この辺りで服を買おうか。さすがにリュートくんはまだ未成年だからお金を渡せられないけど、代わりに最後まで付き合うよ」

 

 と、ノエルは微笑む。

 だが、リュートは、少し申し訳なさを感じたのか右頬を人差し指でこすり出しながら言い始める。

 

「たぶん、女の人よりかは早く終わると思いますよ? 男の人は、オシャレを目指すために服選びに時間をかける人もいますけど、着れればそれでいいと思う人もいると思うので。じゃぁ、あの店にしましょう」

 

 リュートは指さしたその店は、見せびらかすように店の前の掛け軸にそれぞれ違うワイルドなロゴが入ったパーカーや黒いデニムパンツなどかなりラフな男性服がかけられている。

 

「あ、あー、そういうことなのね……」

 

 これを見たノエルは、多少引いた様子で興味があったリュートのことが少しだけ理解できたような気がした。

 その間にリュートは、様々な店の色んな服から適当に選び、試着して、気に入った服をそのままかごに入れていく。

 最終的に決定したのは、黒、灰色、白といった3色の半袖タイプのパーカーに半袖や長袖、ジーンズ、寝巻用のジャージ、下着、靴下を3日分、これだけあれば日替わり交代ができるようになるのでかごに入れた。

 レジで会計した結果、金額自体は大層なものだったが、予算内に買うことができた。

 自分のものなのでもちろんリュートの両手には1つずつの大きなビニール袋を持っている。その間、ノエルはリュートの服を買った際にもらったレシートをまじまじと見ていた。

 

「これだけ買ってこの値段かー。店にもよるけど、これは少し破格かなぁ~。ちょっと得しちゃった」

「まあ、お金のない人だったらさっきみいたいな見せ来ると思いますよ。そう言えば、2人は今頃何やってるんだろ?」

「たぶんまだレーアちゃんの服を選んでいる最中じゃないかなぁ?」

「色々と思うんだけど、女の人って本当におしゃれがすきって……うわッ!!」

 

 曲がり角を曲がると、走っている誰かと激突した。

 床に散乱した服を袋の中に戻しているノエルの視線の先には黒のジャケットと色々な文字が書かれているデザインの白のTシャツ、そしてジーンズを着こなす自分とそんなに年が変わらない多少ツンツンとした赤髪が特徴の少年が自分と同じ体勢で転んでいた。

 

「リュートくん、大丈夫!?」

「いてて……。あっ! だ、大丈夫ですか!?」

「い、いや、平気。それよりこっちこそすまない。周りを見ていなかった」

 

 口調からして悪い人ではないと判断したリュートは無意識にその少年に手を差し伸べると、リュートは一度立ち止まって考え始める。

 自分の手を見たリュートはいつの間にか自分から離れていた赤の他人と自然に会話できるようになっているだけでなく、手を差し伸べている自分に驚いてしまい、思わず言葉が詰まる。

 輪切りにしたレモンのような黄色い瞳で見てリュートの動きを不審に思った赤髪をした少年が声をかける。

 

「あのぉ、大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫です……! それにしても、なんか急いでいたようですけど……」

「……恥ずかしいことにこう見えて方向音痴なんだ。だから、慌ててはぐれてしまった皆と所に向かおうとしているのだけれど……」

 

 一瞬手を開きながら再び赤髪の少年の腕を掴んで立ち上がらせて少年の事情に納得したリュートはこのままでは可哀想だと思い、助け舟を出す。

 

「あの……自分も探しましょうか……?」

「えっ? いいよ。これは自分がやらかしたことだし、さすがに赤の他人に手伝ってもらうわけにも……」

「でも、方向音痴なんでしょ?」

 

 自分が告白したものとはいえ、それを言ってしまえば、何も言えなくなった赤髪の少年は意地を張るのはやめて、素直に出してくれた助け舟をありがたく使う。

 

「……わかった。確か友達に服を買いに来た女の子がいるんだけど、たぶんそこにいるかもしれない」

 

 幸いにも自分たちが元々レーアたちと合流するために向かう方角だった。そのエリアを見て回れば、すぐに見つかるだろうと思い、そのエリアに向かう。

 

「偶然ですね。実は、僕も行こうとしてたところなんです。道もわかるんでもしかしたら途中で会うかもしれませんし」

「そうか。道中よろしく頼むよ、えーっと……」

「……あっ、名前言ってませんでしたね。僕は、リュート。漆原リュートと言います。こちらは、ノエル……姉さん」

「よ、よろしくね~」

「俺はソアル――ソアル・ガエリオスだ。短いかもしれんが、よろしくな」

 

 互いに自己紹介を終えたところで、さっそくレーアたちがいるエリアに向かうと、1人のオールバックの茶髪に今にも青単色のTシャツが張り千切れそうな筋肉質でリュートやソアルより背の高い男が陸上アスリート並みに完璧なフォームで人と人の間を走りながら現れ、2人の前にピタッと止まる。

 

「ソアル。探したぞ」

「カルロス! ラーナとアイーシャはまだいるか?」

「ああ、今のところはな。ところで、このお2人は?」

 

 身長の高さから見下ろされる眼光と屈強な体格にリュートとノエルは少し怖気づく。

 

「ど、どうも……」

「こいつはリュートって言って、今から皆の所に行くところなんだ。んで、このガタイのいい奴がカルロスだ。こう見えてこいつは、俺より年下なんだぜ?」

「えっ、そうなんですか!?」

 

 減らず口のソアルの発言にカルロスと呼ばれる男は太い眉の間にしわを寄せて表情を渋くし、その男の見た目に見合わない年齢を聞いたリュートも驚いてしまう。

 

「『こう見えて』は、余計だからやめてくれ。改めて俺は、カルロスだ。よろしく」

「は、はい……」

 

 握手を求めているカルロスにまだ他人に慣れていないリュートとノエルは恐る恐る右手を差し出すと、カルロスの方からぐいっと手を引っ張って握手する。

 コミュニケーションを久しくやっていなかったリュートから見れば、お人よしかつやや積極的で社交性を持つソアルをまぶしく見えていた。

 

「よし、改めて皆の所へ行こう」

 

 3人の少年と1人の女性は、それぞれが待っている自分たちの連れの所に向かった。

 道中、リュートたちはモール内で空中に映し出されるスクリーンからテレビを見る。ちょうどニュースをやっていた。

 

〔……続きまして、フロンティアⅣのニュースです。昨日未明、機動調査委員会が帰還しました。突如フロンティアⅣが壊滅した原因は何だったでしょうか?〕

 

 と、女性アナウンサーが発声したと同時に『機動調査委員会帰還。壊滅したフロンティアⅣの原因は?』というテロップや壊滅したフロンティアⅣの写真も表示される。

 画面が移り変わり、頭部がスキンヘッドでメガネをかけた男が映し出され、写真のフラッシュに照らされ続けながら手に持っている紙を読み上げる。

 

〔これまでの調査を踏まえた結果、外骨格にはレーザー級のビームに照射されたであろう溶け後があり、内部には第1及び第2、第3世代のモビルスーツの残骸をいくつか発見しました。これらによって、第三者による襲撃が壊滅の原因と断定いたしました〕

 

 と、判定結果を言ったその男にリュートは、敵だったデンドロビウムとの戦闘前のあの光景を思い出す。

 他人の住む場所を守れなかったことにただただ悔しかった。別世界とは言え、誰かに壊されていく光景におそらく誰でも慣れないだろう。

 拳を強く握りしめているリュートを見たソアルは、声をかける。

 

「リュート、どうしたんだ?」

「え……? あ、ああ、いや、何でもないんだ……」

「もしかして、フロンティアⅣの住民とか?」

 

 自分にとって再びあまり言いたくないところに突っ込んできたソアルにリュートは、苦々しく虚実を言う。

 

「そ、そのはずだったんだけどね……。変なタイミングで戦闘が起こってそれどころじゃ、なかったんだよね……」

「……そうだったのか。大変だったろ? でも、どうしてここに?」

 

 これに関しては初めての質問にリュートは、自然な回答はないものかと脳内をフル回転した結果、咄嗟にある言葉を思い出し、口述する。

 

「え、えーっと、たまたま近くを通ってた民間企業の船に乗せてってもらったんだ……。行き先は、フォン・ブラウンだったけど、グラナダにノエル姉さんが住んでたから昨日こっちに移動したんだ」

「へぇ~」

 

 と、納得するソアルにリュートが何とかごまかせた安堵よりもまたしても誰かに嘘を言ってしまったことの背徳感のため息をついていると、カルロスが小走りになる。

 

「お、着いたぞ! おい、ラーナ! アイーシャ!」

 

 カルロスが指さした先には、試着室の前でトークしながら待っている褐色肌の少女ラーナと白肌の少女アイーシャ、そしてルルがいた。

 カルロスの声に気付いたアイーシャは、ソアルに近づいて怒りを表しながら説教する。

 

「ソアル! もーどこ行ってたのよ!」

 

 怒られたソアルも左手で自分の後頭部を撫でながら面目ないと苦笑いをする。

 

「すまんすまん、アイーシャ。ちょっと道に迷っててさ、その時リュートとノエルさんとカルロスに助けてもらってたんだ」

「あ、リュートさんも終わってたんですね」

「ソアルとカルロスに出会って目的が同じだったんで一緒に行動していたんです。ところでレーアは?」

「あー、レーアは今……」

「ラーナさん、この水着のコーデはどうですか?」

 

 話の途中に試着室のカーテンが開き、腰に付いている大きなリボンが特徴のイラスト付きの黄色い紐とひらひらが付いた水着と黄色の短パンのセパレート型の水着を着たレーアが現れる。

 これを見た男性陣は両頬を赤くして絶句し、女性陣は目が輝き出す。

 

「おー!!」

 

 照れながらも自分でコーデした服を見せびらかしたレーアは辺りを見渡すと、後方にリュート、ソアル、カルロスの男性陣がいることに気づき、異性の前の恥ずかしさに顔が真っ赤に染まり出す。

 

「あぁ……あ……あ……。キャーッ!! 見ないでー!!」

 

 思わずレーアは試着室のカーテンを締めて叫び出すと、叫びに気付いた女性店員たちは駆け付け、慌てた一同はリュートら男性陣を即刻店の外に出した。

 しばらくすると、元の服に着替え、試着室から出てきたレーアは女性店員たちやリュートら、他のお客さんにも謝罪した。

 その後、会計を済ましてソアルたちと一緒に店を後にした。

 

「全く、びっくりしたよ……」

「本当にごめんなさい……」

「もう済んだことだ、これ以上謝る必要はないぞ」

「でも……」

 

 不本意だったとはいえ、特に男性相手の人生を狂わせかねない事をした事にレーアは、罪悪感で一杯だった。

 

「レーア、そんなに落ち込まないで。僕やソアルたちは大丈夫だからさ」

「リュート……。あ、リュ――」

 

 リュートの髪型が変わっていたことに今頃気付いたレーアは再び彼の名を呼ぶが、絶妙なタイミングでラーナが2人に近づいて嗅ぎながら声をかけられ、遮られてしまう。

 

「ねぇ、2人ともお風呂に入った? なんか妙に臭いがあるんだけど……」

 

 全体的に思い返すと、フロンティアⅣからの脱出やフォン・ブラウンでの戦闘……、事の連続で体を洗う余裕なんて無かったが、この状況では真新しいレーアの件を言っておいた方が自然で有効だろうとリュートは判断し、口述した。

 

「……あー言われてみれば。さっきまでドタバタしてたから汗かいたかもしれない」

「だったら、ちょうどこの近くに人工温泉がありますよ」

「えっ、温泉があるんですか!?」

 

 ルルは端末機器でマップを開き、温泉があることを確認する。

 未だに月への移住どころか大規模な建設さえしていない世界に住んでいるリュートは月面にただ施設が建てられているだけでなく、水質や水温まで管理していることにも驚愕する。

 

「はい! 体を清めるついでに選んだ服のコーディネイトも見れますから一石二鳥です!」

「おぉ、それいいね! ね、ソアルも行こうよ!」

「んー、でもなぁ……」

 

 と、ラーナは言うが、ソアルは他人の邪魔にならないだろうかと懸念していたが、その必要はなかったようだ。

 

「ソアルくんたちがいいなら、私たちは構いませんよ?」

「……では、お言葉に甘えさせていただきます」

「よーし、それじゃあ温泉へレッツラゴー!!」

 

 リュートとソアルたちは、ジャソンモール内にある人工温泉浴場行きのバス停へ向かった。

 リュート一行は、温泉行きのAIを搭載している直行バスに乗り、人工温泉へ向かった。

 バスに乗っている間、リュートとソアルはお互いの情報を知人にも伝えたり、談笑したりなどと楽しい時間を過ごした。

 だが、その時間もあっという間に過ぎ去り、人工森林に囲まれたエリアの前方には、煙が上がっている施設が見えて来る。恐らく目的地の人工温泉がある施設だ。

 

「ここが月面温泉かぁ~」

「早く温泉に入りたーい! 中に入ろ!」

 

 辿り着いた温泉がある施設には「月面温泉」と書かれていて、その建物の天井や露出している骨組みに杉の木が使われていた。

 それをいち早く気付いたのは、カルロスだ。

 

「ほう、日本に植生している杉の木だな。これを建てた人は、よっぽど日本が好きだったとみる」

「そういえば、リュートは日本人だよね?」

「うん、そうだけど? それがどうしたの?」

 

 アイーシャの質問の意図にリュートは理解できなかったので質問で返すと、アイーシャはふと笑みをこぼす。

 

「ううん、名前からしてそう思っただけ。あたしたちにも共通の友達がいるけど、日本の友達は初めてだと思うから」

「友達……」

 

 その言葉を最後に聞いたのは、いつぐらいだろうか。ああ、そうだ。たしか幼稚園児の時だったなとあの日を懐かしむように思い浮かんでいた。

 

「どうしたんだ、リュート?」

「あ、いや、ずっと前まで友達がいなかったからさ、その、嬉しいんだ……」

「……過去に何があったか知らないけど、ここで運が回ってきたな」

 

 その浴場も建物で和をイメージしていて大半本物の木材で建造されていて、内装にも屋根を支える支柱や壁が主だった。

 駐車場は停まれる車がないほど混雑しており、また次々と浴場に入っていく客人たちも後が絶たない。

 生まれた時からこの造りを見てきたリュートにとってはどこか懐かしく思えていた。

 いざ中に入ってみると、まだ真昼間にも関わらず、人で溢れかえっていた。

 

「す、すごい人気だな……」

「え、ええ……」

「これが温泉かぁ~。初めてくるから緊張しちゃう~」

 

 いつの時代も色あせることのないおの光景にリュートにとっては驚愕するしかなかった。

 廊下や壁、案内の看板や支柱も外壁に使用していた木材で作られていて休憩所の床もすべて畳と和を徹底的に追及している。

 これを採用して造らせた人は、よほどの温泉マニアか日本の温泉に心を奪われたのかもしれない。

 

「と、僕が前に出ないと。みんな、靴はこっちに入れて」

 

 日本人のリュートが日本のマナーのお手本となるため先導する。

 現在の時刻は、午後3時30分。リュートとレーアは券を買い、モールで買った服とバスタオルを持ち出してそれぞれの脱衣所に向かった。

 女湯では、レーア、ラーナ、アイーシャの3人が温泉の中にあるカウンターに並んで汗でまみれた体を洗っていた。

 そんな中、頭から水を流してさっぱりしているラーナが興味津々に浮かれながら頭を洗っているレーアに問い尋ねる。

 

「ねぇねぇ、レーア」

「うん、何?」

「リュートのこと、どう思ってるの?」

「い、いきなりなんの話!?」

 

 予想だにしなかった問いにレーアは思わず、顔を真っ赤にし声を荒げる。

 

「もし、リュートが異母兄弟じゃなかったら、付き合っちゃうんじゃないかと思って。もちろん、あたしの感なんだけど」

 

 フロンティアⅣの宇宙港での戦闘以降、そこまでリュートに対する意識は向いていなかった。

 ただ、若干弱きな彼はやるときはやる男でこれまでの戦闘で勝利を収めていた。それだけは、評価するが、ほかは全くもって無関心だ。

 

「……そんなわけないでしょう。それにリュートもわたしのこと、ノエル……姉さんと同じくただの姉として見てるだけかもしれないし」

「それはまだ分かんないじゃん。他の3人に会ってからそこまで経ってないでしょ?」

「それは、そうだけど……」

 

 その様子を見たラーナの焦点は顔から胸へと代わり、良いこと思い付いたとニヤリと笑う。そして、レーアの後ろに回って胸を鷲掴みする。

 

「いいから、素直になりたまえ! 本当はリュートのこと、どう思ってるの?」

「ちょ、ちょっとラーナ! やめて! ひゃっ……!」

 

 多少感じながらもラーナに止めるように説得するもラーナは止めない。

 貧相な体を持つラーナにはレーアの胸に嫉妬していないわけではないのだが、思春期のお年ごろが興味のわく恋バナがうやむやになっていて気になっているのだ。

 

「良いではないか、良いではないか! 本当のこと言うまで、無駄に育ってるその2つの脂肪の塊をもみ続けるぞよ!」

 

 テンションが上がってきた所で黙々と体を洗っていたアイーシャは体に水をかけた直後、すぐさまレーアをいじめているラーナに目を向ける。

 

「ラーナ」

 

 アイーシャの甘い声と共に背後から悪寒を感じたラーナは、危機を感じて一瞬硬直した後、その場から離れるように2人に言い分する。

 

「さ、さあ、体も心も洗ったし、先に入ってくるね……!」

 

 ラーナは駆け足でお風呂に入り、悪寒で冷え切った体を温めなおす。

 その間にアイーシャは一回ため息を吐き、視線をレーアに向ける。

 

「ごめんなさいね、レーア。全く、ラーナは……」

「い、いいのよ……。その辺りで許してあげて……」

「……まあ、多少は懲りたでしょ。私たちも温泉に入りましょうか」

「ええ!」

 

 と、レーアとアイーシャは温泉に入り、疲れ切ったその体をゆっくりと癒されていった。

 

 〇 〇 〇

 

 一方、男湯では、リュートたちが汗で染みている服を脱いでいると、物が落ちた音が聞こえた。落ちた物の正体はレオ・ビスタルから貰った長方形の黒い物体だ。

 立て続けに起きた出来事で忘れていたリュートは形見と思っているその物体を取り、レオ・ビスタルの信念と思うたびに強く握った。

 リュートたちは体を洗い、温泉に入って水温がちょうどいいのか気持ちよさそうに肩まで浸かるリュートは慣れない色々な疲れが取れるまで長風呂するつもりだ。

 ここでふとリュートは思い出す。それはソアルに対してだ。

 

「あ、そういえば、ソアル。ショッピングモールで言いかけたことって何なの?」

「ああ、あれか。……ノエルさんとお前、兄弟って言ってたけど、あんまり似てないんだなって思ってさ」

 

 ルルの万が一の予想が当たったと思ったばかりにリュートは、内面では驚いていた。

 そして、ルルから教わっていたその設定を口に出した。

 

「あ、あぁ、兄弟って言っても異母兄弟なんだ……。それは似てなくて当然かな」

「そうか。……俺たちも似たようなものだな」

「……どういうこと?」

「俺たちも本当は兄弟じゃないのさ」

 

 と、ソアルの軽々しいカミングアウトを聞いたリュートは、2つの相反する感情に侵されていた。

 初めての知人としてソアルたちと共有する秘密を持てたことによる喜びと偽りの諸事情で自分たちと同じだと共感させたことによる罪悪感。

 後者のことですぐに真実を言おうとするが、嘘を言った理由、ルルとの約束、今後のことを考えたリュートは、悔しながらも思いとどまり、別の質問をする。

 

「……それは、どういう?」

 

 その質問にカルロスが過去の経緯を流暢に答えた。

 

「……小さい時、戦争で親を亡くしてな。戦場の中逃げ回って何気なく集まったはいいが、どこに行けばいいのかすら分からず、体力はすり減らされ、喉はカラカラ、もうだめかと思ったときもあった。でも、そんな時、俺たちを救ってくれたのは、今の父さんなんだ」

「……そのお父さんってすごくいい人なんだね」

「ああ! 俺たちの父さんは、強くて、かっこよくて、優しくて、暖かくて……。俺たちにとって自慢の父親さ」

 

 自分たちの父親について明るく話すソアルたちにリュートが背負う罪悪感は徐々に増してくる。

 レーアたちだけでとどまらず、初めて出会ったソアルたちにも本当のことが言えないこそばゆさと罪悪感にリュートは、少し冷静になるためにソアルと距離を置く。

 

「……ちょっと熱かったみたい。先に上がるよ」

「ん? おお……」

 

 何か普通と違うと感じて疑問を抱いていたソアルは、リュートの背中を見つめていた。

 脱衣所に上がったリュートは、皮膚に付着している水分を売店で買ったバスタオルで拭き取って服に着替えた。

 袖のないTシャツに裾がふくらはぎまで届くパーカーと膝まで届くデニムとシューズの組み合わせだ。そして、黒い物体もポケットの中にしまい込む。

 リュートは髪にまだ付いている水分をタオルで拭き取りながら脱衣所を出ると、ちょうど男湯の向かい側にある女湯と書かれた暖簾からレーアと鉢合せになった。

 

「あっ、リュート」

「おっ、レーア。どうだった、この温泉は?」

「ええ、気持ちよかったわ……」

 

 ラーナとの会話でリュートのことで少し気になっていたが、再びリュートを見てもレーアの心にはときめかなかった。

 じーっと見つめて来るレーアにリュートは、引き腰気味に尋ねる。

 

「……どうかしたの?」

「う、ううん、何でもない……」

 

 と言ったものの、会話が続かない。これは気まずいと感じた2人は、何かしゃべろうと話題を作る。

 

「お、おかげでリフレッシュできたし、ノエルさんたちの所に戻るか」

「そのことなんだけど……」

 

 苦笑いするレーアの後ろから、大きい影と小さい影が彼女に近づいてくる。

 朧げだが首にはタオルをかけ、片手には牛乳瓶を持って口まで運び、クビックビッと音を出しながら爽快そうに飲む2人の少女なのは確かだ。

 

「はぁ、さっぱりしたぁ~。良い温泉でしたね、艦長代行!」

「はい! やっぱり、温泉はいいですね! あっ、リュートさん。そっちも上がってたんですね」

 

 ノエルとルルだった。2人とも全く違った服装で暖簾を通り、リュートとの再会を果たした。

 

「ルルにノエルさん!? 入ってたんですか!?」

「はい! ちょうど着替えの服もありますので!」

 

 リュートはレーアの服の量が想像以上に多かった謎が今解けた。

 おそらく用意周到の2人は、こっそりと自分の分まで買っておいたのだろう。ルルは困惑の表情を兼ねて舌を出し、にっこりと笑った。

 

「えへへ、女の子はついつい買っちゃうものなんです」

 

 と、ルルが可愛らしく反省していると、彼らの背後からぞろぞろと人が出始める。ソアルたちだ。

 

「ふぅ~、さっぱりした~。初めての温泉は格別だな」

「湯が適温より少々高かったが、かなり疲れが取れた気がする」

 

 ソアルとカルロスが、ラーナとアイーシャが話していると、ちょうど目線があった。

 

「お、ソアルやカルロスも上がったんだ。そっちはどうだった?」

「ああ、結構いいお湯だったぞ」

「こっちもだよ、たまにはいいかもね。温泉。今度、暇ができたらお父さんも連れてこ」

「……そうだな。きっと父さんも喜ぶだろうな。そう言えば、リュート。どうしたんだよ、先に上がっちゃうなんてさ」

「ええと、それは……」

 

 ソアルに対して言い訳を考えていたリュートが悩みに悩んでいる内にちょうど腹の虫が鳴り始める。

 その音はソアルを含むここにいるみんなにも聞こえていた。

 

「あ……」

「何だ、お腹がすいていたのか。俺たちにも言ってくれればよかったのに」

 

 と、爆笑を引き起こした。

 

「……あはは、面目ない」

「そういえば、何も食べていませんでしたね。あっ、あっちに食堂があります。あそこで何か食べて帰りましょう」

 

 ルルの機転でリュートたちは賛同し、この施設の中にある食堂に向かうことにした。

 声をかけてきたリュートに首を思いっきり横を振ると、様子を窺っていたラーナが気になってあることを言い出す。

 

「もしかして……さっきの怒ってる?」

「さっきの?」

 

 その言葉にリュートは少し気になり出したが、ハッと気付いたレーアはなんでもない、なんでもないとあたふたしながら話を逸らそうとしている。

 

「い、いや、別に怒ってないから! リュートも気にしないで!」

「そ、そうです! なんでもないですよ、ねえ、ノエルさん!」

 

 と、突然焦りだすルルもレーアと話を合わせるかのようラーナに促す。

 

「う、うん! わたしと艦長代行がいたずらしてレーアちゃんのお肌がすべすべで柔らかったから触ったとかしていないから……!」

「へぇっ!?」

 

 リュートはノエルが発言した「すべすべ」や「柔らかった」の言葉を無意識にも想像してしまい、思わず顔が赤くなってしまう。

 

「ノ、ノエルさん! それ言っちゃってますよ!?」

「あ……」

 

 ルルの注意でノエルはうっかりする性格で墓穴を掘り、口を手で閉じたが、時は既に遅かった。

 まだ女心を熟知していなかったリュートは言いたくなかった訳を知らず、混乱している。

 女湯で起きた出来事にレーアの顔は思わず赤くなり、鋭い眼光の矛先を唯一の男子であるリュートに向ける。

 視線を感じて我に返ったリュートも若干萎縮し、重心をレーアから遠ざけるよう後ろに下がる。

 

「ねぇ、リュート……。まさか妄想なんてしてないわよね?」

 

 その笑顔の背景にある悍ましい何かを持ったレーアが甘い声で醸し出して問いだす。

 察知したリュートは、近くにいるだけで感じ取れる威圧感と恐怖に圧迫されてしまい、どうして自分なのかと弁解の余地を設けることができなかった。

 

「な、何も聞いてません……」

 

 彼の額やこめかみから多くの汗が流れ出て、なるべくレーアを見ないようにする。

 目が泳いでいると見て取れたレーアは、接近して彼が思っていることを追求するべくもう一度同じやり方の質問攻めをする。

 

「なぁんで目を逸らすのかなぁ?」

「そ、逸らしてなんかいません……」

 

 それでも、リュートは否定し続けた。肯定してしまうと、レーアからの逆鱗に触れることを恐れていたからだ。

 

「と、とにかく食堂に急ぎましょう、2人とも! 席埋まっちゃうかもしれないんで……」

「あぁ、そうですよね。すみません」

 

 ルルは、レーアを敵に回すと恐怖が陥ることを覚えたリュートを窮地から救出した。

 リュートは小声でルルに「ありがとう」と感謝を述べ、お返しに「どういたしまして」と答えた。

 食券販売機には、並べてある料理の種類は豊富のバイキングだ。数種類の定食、トッピング付きのカレー、ラーメン、うどん、デザートなどがある。またドリンクバーまで設備されていた。

 一同はそれぞれ好きな料理を選び、1つの長方形のテーブルを囲むように座った。

 

「う~ん! おいしい! ほっぺが落ちちゃいそうです~」

 

 半分に切ったたくさんの果物とマシュマロ、アイスを載せたパフェの生クリームをスプーン1さじですくい、口に入れしっかり味わうルルとラーナ。

 スパゲティをフォークで上手く包んで食べるアイーシャ、トンカツを頬張るカルロスと食事に堪能していた。

 リュートは気にかけたが、面倒なことになると思い、話すことを止めて、唐揚げ定食のメインディッシュ――唐揚げを見ると、幼い時に実家で祖父母がよく作ってくれたから揚げが大好物の1つでよく食べていたなと言わんばかりに少し口角を上げで懐かしく思い返す。

 それと同時に家に帰りたい、祖父母に会いたい、という願望が芽生え始めていた。

 食事中、振動音が鳴り響く。

 その振動音を発していたのは、ソアルのポケットだ。音と同時に振動も感知して携帯のような端末をポケットから早く取り出し、それを耳に付けて電話に出る。

 

「はい。……はい、はい。……わかりました、彼らにもそう言っておきます」

 

 ソアルが電話機能を持つ端末をポケットの中に収納し、ラーナ、カルロス、アイーシャに声をかける。

 

「みんな、帰るぞ」

 

 ソアルの言葉を聞いたラーナは頬を膨らませてブーイングを出し、カルロスとアイーシャは少々驚いた様子で見ていた。

 

「えぇー、これからいい時なのにぃ~」

「父さんからか……?」

「ああ。ちょっと手を貸してほしいんだってさ」

 

 せめて今日、本当のことを言い出したかったリュートだったが、ソアルたちにその事を言える勇気がなかった。

 

「……そっか。……それは、仕方ないね」

「ああ、本当にすまない。でも、今日は楽しかったよ、リュート」

「僕もだよ、ソアル。……その、また会えるかな?」

「それは分からないけど、きっとどこかで会えるさ。そろそろ時間だ、じゃあな」

 

 彼らの言う『父さん』の元へと向かうソアル、カルロス、ラーナ、アイーシャの4人の少年少女はモノレールへ向かう。

 陽気に楽しんでいた彼らから見れば、嘘で塗り固められた自分しか見えていない。

 今でも罪悪感に駆られているリュートは、同時に本当の自分を見ていないことに悔しく感じていた。

 リュートは泣いた。今の今まで耐えていた苦しみを解放して、足に力が入らず腰を下ろし、拳を強く握って泣いていた。

 

「リュート!?」

「リュートさん!? どうしたんですか!?」

 

 突然泣き始めたリュートにルルとレーアは愕然し、彼のそばまで駆け寄る。

 

「実は……」

 

 話を聞いたルルは、想定してなかった実際の出来事にただ驚くしかなかった。

 

「まさか、私の立てた設定が裏目に出たなんて……」

「今回の件は仕方ありませんよ。メディアに足止めをくらわせないためとは言え、彼らが血の繋がりのない兄弟なんて誰も分かる訳ありませんでしたから……」

「彼らに嘘を言ってしまったことに変わりありません。その嘘で共感させたことに一番罪悪感を感じます……。でも……」

「一番辛いのは、リュートくんです。あの子、初めて友達ができたらしくて本当の自分をさらけ出せなかったことが悔しいんだと思います」

 

 泣きじゃくるリュートを見たルルとノエルは、このままではいつ起こるか分からない戦闘で支障がきたす恐れがある気持ちもあったが、それ以前に元気になってほしい思いが一番強かった。

 ルルはその気持ちに駆られ、リュートの前に立って説得する。

 

「リュートさん、もうこれ以上自分を責めないで下さい!! 今は戦争の真っただ中ですけど、リュートさんもその内いつかは恋人を作って、守るものができて、守りたいもののために戦って……。私は1人の人生の先輩として、リュートさんには前を見て明るい未来を謳歌してほしいんです!!」

 

 涙を流しながら必死に語りかけるルルの姿を見てもリュートの心が再び開き始めることはなかった。

 余程嘘を付いたときの罪悪感を感じていた。

 

 〇 〇 〇

 

 月の近くを漂っている微惑星群に隠れている一隻の赤い戦艦があった。それは、ジェイの母艦であるレウルーラだ。

 そのブリッジで黒一色の軍服を着た鉄仮面を被った男――ジェイが腕を組んで獲物を待ち伏せている狩人のように密かに睨みつけていた。

 そこに1人の軍人がブリッジに入ってジェイ対して敬礼した後、その後ろから3人次々とブリッジに入る。

 ジェイの後ろに綺麗に横並びで立ったのは、リュートたちがフォン・ブラウンにある『ジャソンモール』で偶然にも出会ったソアル、カルロス、ラーナ、アイーシャの4人だった。そしてソアルとアイーシャは藍色の、カルロスとラーナは小豆色の軍服を着ている。

 それぞれの軍服の左肩にはワッペンが付けられていて、ソアルは左から1つの台形が横並ぶ『少尉』、カルロスは、『/』が2つに直角三角形が1つ並ぶ『曹長』、ラーナとアイーシャは『/』の形と三角形がそれぞれ1つ並ぶ『軍曹』の階級を持っている。

 

「遅れて申し訳ありません、とうさ……いえ、大佐」

「いや、こちらの都合に合わせてしまってすまない。それより、休暇は満喫したか?」

「はい。我々にこのような貴重な時間を設けてくださり、心から感謝しています」

 

 ソアルが代表して感謝を述べた後に頭を下げたことでその赤い髪が揺らぐ。

 顔を上げると、その顔はとても生き生きしていた。艦の強化ガラスの反射で見えたジェイは一瞬にこやかになるが、表情が元通りになる。

 

「……概要だけを説明する。先ほど、ヴェサリウスから連絡が入った。ヴェサリウスはこれよりアクシズで補給を行い、地球軍に奪取されたアークエンジェル包囲網を作ると

 

のことだ。これよりグワダンは――」

「……ヴェサリウスと連携してアークエンジェルを追い込み、その後に我らがアークエンジェルに搭載されているモビルスーツを相手にする、という訳ですね」

「察しが早くて助かる。お前たち――オルドレア隊は、それまで待機だ」

 

 4人の少年少女はジェイの指示に敬礼をしてからの「了解」が見事にシンクロしてブリッジを後にし、浮遊移動しながら廊下で他愛ない会話をし始める。

 

「……いよいよだな、ソアル」

「……ああ。士官学校を卒業して初めての戦場だ。失敗は許されない」

「それに『パパ』にもいい所見せないとね!」

「……気持ちは分かるけど、ここでその言葉は厳禁よ、ラーナ。今は『アレギオス特務大佐』なんだから」

「わ、わかってるわよ……!」

「いいか、みんな。俺たち――オルドレア隊の力をコロニー連合軍とハイゼンベルグ総帥、そして『大佐』に示すぞ!」

 

 強い意志を持った4人の少年少女は、共通する願いを叶えるために彼らは地球軍に立ち向かう。

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