機動戦士ガンダムArbiter   作:ルーワン

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前回のあらすじ
 ガンダムバトルシミュレーターに乗り込み、突然のアクシデントで戦争が勃発した世界に迷い込んでしまった漆原リュート。古びた倉庫内で敵に追われていた老人が何かしら関わっていたユニコーンガンダムを託され、命を落とした。
 いまだ現状が混濁しながらも老人の願いを受け止め、決意する。その後に2機のガンダムと遭遇し、彼らと共に脱出を試みる。


目覚める光

 フロンティアⅣ内で囮役として買って出た、主に市街地での混乱を目的で動いていたデナン・ゾン部隊は2つ目の守備部隊の戦力を削ぐことに成功していた。

 デナン・ゾン部隊の鎮圧として向かっていたジムやジェガン、ストライクダガー、ジェノアスの編成部隊は、市街地のあちらこちらに無残な姿になっていた。

 中には爆発による炎が機体を纏っている物やコックピットに穴が開いている物、腕や足と言ったパーツが散乱している物などだ。

 それに対してデナン・ゾン部隊の損失は多少あるものの、フロンティアⅣの編成部隊と比べれば一目瞭然で少なく、勝利を導いた。

 デナン・ゾン部隊を率いる隊長が休憩がてらに通信を使って雇い主との連絡を取り、本命の進行具合の確認をすると、自分の予想とは全く違う結果を突き付けられる。

 

《何ッ!? 失敗しただぁ!?》

《……特務大佐の部下から話を聞いた限り、どうやら隠し玉を持ってたらしくてね。先に奪われてしまったようなんだ》

《ちぃっ! しゃーね、俺たちが一本角を捕獲しに行く! 雇い主様の尻拭いはお役御免だが、これに成功すれば、ボーナスも入れとけとお偉いさんにも言っておけよ!》

《了解だよ。これが先ほど工業地帯に派遣した兵士の1人が残した、例の機体の映像と消失した座標です。くれぐれも油断しないように、オーゲン》

《わかってら! 聞いたな! 休憩は終りだ! 目標をとっ捕まえに行くぞ!》

 

 オーゲンという名の気迫のある男性パイロットは、その雇い主からビーム・マグナムをこちらに向けて射撃した映像とユニコーンが眠っていた古い倉庫の座標のデータを手

 

に入れ、6名の部下を率いてリュートの乗るユニコーンを奪取するため、雇い主から得た座標を頼りに向かった。

 

 〇 〇 〇

 

 リュートとエクシアのパイロットであるレーアはウイングの男パイロットの後に付いて移動していた。

 ユニコーンのコックピットに乗っているリュートはフルスクリーンのモニターを確認すると、それぞれの機体にタグみたいなのが表示されている。

 どうやら他の機体をフルスクリーンのモニターに移してマークすると、自動的に照合される。

 青と白のフレームに胸部の真ん中にに黄緑に光っているコアのようなものがあるのが【TYPE:GN-001 NAME:GUNDAM EXIA】、後ろに翼が生えたガンダムが【TYPE:XXXG-01W 

 

NAME:WING GUNDAM】と書かれていたが、それ以前にリュートは不思議に読めてしまっているのも自分自身でも驚いている。

 そんな中、ウイングのパイロットが通信越しで1つの提案する。

 

《今んとこ、この近くに敵はいなさそうだな。少し休憩がてらに簡単な自己紹介でもしとくか?》

 

 今置かれている状況は、フロンティアⅣは所属不明の機動兵器部隊によって襲撃を晒されている。

 少なくとも2機はそれぞれ単独行動していたところ、偶然出くわし、利害の一致ということで共闘することになったとリュートは読んでいた。

 だとすれば、互いに見ず知らずの人間にとってこれは、今後共闘する関係にあたって必要不可欠であるのは確かだ。

 

《そうね。でも、まずはあなたの顔から見せてもらえます?》

《ん、なんだ? 俺に興味が沸いてきたか、お嬢さん?》

《いつまでそのヘルメットを被っているおつもり?》

《こりゃあ、手強いお嬢さんだな》

 

 と、隙を見せないレーアに手詰まりを感じたウイングガンダムのパイロットは仕方なくヘルメットを脱ぐと、その正体はトップはストレート、襟足は若干カールした茶髪ロ

 

ン毛に同色の顎鬚と眉を生やした中年の男だ。

 

《俺はカレヴィ、カレヴィ・ユハ・キウルだ。地球軍所属で階級は少尉だ》

 

 カレヴィと名乗ったその男の後にエメラルドのような碧色の大きな瞳をした金髪の少女――レーアが名乗り出る。

 

《私はレーア・ハルンク。このフロンティアⅣの機動警備隊のクルーでしたが、警備隊は壊滅させられ、今はどの軍にも所属しないフリーのパイロットですけど》

《へぇ、その若さでか。中々優秀なパイロットとお見受けする》

《セクハラのつもりでそう仰ったなら、たとえ軍人さんでも訴訟しますよ?》

 

 一応紳士と淑女の立場を利用して接待をしたつもりのカレヴィだったが、先ほどのレーアの発言にとっつきにくくなり、危ぶみの表情を隠せなかった。

 

《……全く、ガードがお硬いことで。んで、最後はその最新鋭っぽいモビルスーツに乗っているお前さんだ。さぁ、俺たちを救ってくれたそのお顔を拝ませてもらおうか》

 

 カレヴィはウイングからユニコーンにコックピット越しにテレビ通信要請を送ると、自動的にエクシアとウイングのコックピットのモニターにリュートの顔が映し出す。

 まだ幼げが残る顔つきを見て未成年だと見抜いたレーアとカレヴィは、ただ驚くしかなかった。

 

《って、おいおい、まだ子供じゃねぇか!?》

《声からして妙に若いなぁとは思ったけど……。……私より年下かも?》

 

 と、幼げさが微かに残っているリュートを見て最後の一言はボソッと小言で言うレーア。

 

《……お前さん、名前は何だ?》

 

 モニター越しからとはいえ、蛇の如く睨まれるようにも見えたリュートは思わず委縮するが、話し合う時には自分が気を付けないといけない事項が3つある。

 1つ目は、自分の正体を隠すこと。これは第一条件かつ当たり前なことなのだが、自ら異世界から来たと言っても誰も信じてはくれないのは見えている。

 2つ目は、ガンダムに関する知識を必要最低限に出して話を合わせると。無知に越したことはないが、逆に過剰に出し過ぎると、怪しまれるからだ。

 3つ目は、この世界の住人と誰かと友達以上恋人未満に止めておくこと。仮に元の世界に戻れたとしても、これ以上関係を持ててしまっては、通信手段がないので両者が辛

 

くなってしまう。

 これらを持って対話するしかリュートが生き延びることに必要な条件だが、見ず知らずの人と対話することに緊張しているリュートは口が震えている。

 

《……う、漆原リュートです。一応、僕は民間人ですけど……》

 

 同行すると言っても赤の他人を心の内から信頼していないので警戒しているリュートは、顔を険しくして他者に愛嬌を感じさせない自己紹介する。

 そのような反応は範疇かつ自然な反応なのだが、先ほどの行為から予想以上に警戒していて防御が硬い。

 モニター越しで見ていた彼の表情に精神的に参ったウイングガンダムのパイロットは、お手上げ状態だ。

 

《……そんなこわばった顔すんなよ。休憩とは言っても今は戦闘中だ。そんな状態じゃ身が持たねえぞ?》

 

 と、信頼を勝ち取るために説得するが、そのような生温いもので信頼を勝ち取るには難しい手強い相手だとカレヴィは常に参っている。

 

《ま、短い間だろうが、よろしく頼む》

《……ところで、リュートのその機体は一体何なの? 見たことのないモビルスーツだけど?》

 

 レーアの質問で一瞬身震いしたリュートは恐れていた質問とは全く違うので少し安堵していた。

 自分が機動兵器――つまり、モビルスーツについてある程度知っているという設定で話しかける。

 レーアやカレヴィの反応からしてこのモビルスーツは、最新鋭の機体でほぼ間違いなく、リュートは話に合わせて答える。

 

《あ、えーっと、この機体は、ユニコーンっていう名前らしいんだ》

《ユニコーン……。幻獣の一種の名前だな。ずっとあの倉庫に保管していたのか?》

《僕もそこ辺りはあんまりわかんないけど、たぶんそうみたい。それと、1つ聞きたいことがあるんだ。このコロニーを襲撃している奴らは何なんだ?》

 

 この世界に関わりを持たないリュートにとっては素朴な質問だが、カレヴィはその質問を渋々だが答える。

 

《たぶん雇われ兵の集団とかだろうな。ここまで規模があったのは、予想外だが》

《それだけじゃないわ。コロニー連合軍もこのフロンティアⅣ襲撃に一枚噛んでる可能性もある》

 

 カレヴィが出した答えに一部訂正を求めるレーアが物申した発言の中にあった気になる1つの言葉をリュートが復唱した。

 

《コロニー連合軍?》

《だが、根拠は? 前の戦闘で奴らがこっそり回収して改造を施したってことも考えられるが?》

《改造されたにはやけに新品に見えたし、装備も正規軍だったと思うけど?》

《……随分とコロニー連合軍に詳しいじゃないか、レーア》

《……ええ、だって私は元コロニー連合軍の軍人よ》

 

 レーアのカミングアウトで今回の戦いでそれ程数は見ていないのにコロニー連合軍の所有物だと言い当てたことの裏付けになったのだが、残る疑問はなぜコロニー連合軍を

 

辞めることになったその理由だ。

 

《レーアがコロニー連合軍の元軍人……!?》

《……なるほどな。道理でコロニー連合軍のモビルスーツを知り尽くしてはいるか》

《それ程物知りじゃないけどね。私はもうコロニー連合軍の人間ではないけど、それとも私を情報を持った捕虜として地球軍本部でも売り渡すおつもり?》

《いや、やめておこう。すでに軍を抜けた身なら軍の決まりでこちらから強制する権利はないし、そもそも俺はそういうのはしない主義だ》

《でも、どうしてコロニー連合軍を辞めたんだ?》

 

 リュートがその質問をした瞬間、カレヴィが2人の間に割って入り、クローズ回線に切り替えてリュートにこう伝えた。

 

《おい、そんな質問をするのは野暮だぞ》

《うん?》

 

 女性と話したことすらなかったリュートはカレヴィの発言での意味が分からず、首を傾ける。

 

《……複雑な事情があるからよ。そういえば、リュートはなぜあの古い倉庫に居たの? 避難勧告は、すでに出されたはずだけど?》

《うっ……》

 

 一回ため息を吐いたレーアが痛いとこを付いていく質問にリュートは再び瞬間的な身震いして激しく動揺する。

 余計なことを言ったカレヴィにぶちかませたいところだが、今はレーアの質問に対して納得のいく答えを出すことが先決だ。

 この状況において、ある程度把握していたが、いざ質問攻めをされると、どう言い訳を言ったらいいか全く思いつかない状態でいた。

 いきなり単刀直入に「異世界から来た」と言っても、信じててもらえるかどうかの不安の要素が残ってしまう。

 ここに入って避難していたら、偶然こんなものがあったと言っても不自然に思われがちだ。

 レーアもカレヴィもリュートを一応民間人と認識しているが、避難勧告を出してなお、倉庫に居続けた理由に説明がつかないことから疑問を抱いていた。

 モニター越しといえども、特に彼女の睨んだ目が蛇のように見えて多少恐怖を感じ、蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだ、と思ったリュートは彼女の威圧に押されてしま

 

い、ついには目が泳ぎ始める。

 白衣の老人と同じ手でレーアやカレヴィに、にわかに信じがたい、言い分に聞こえるであろう事実を信じてくれるかどうか試してみることにする。いや、リュートの場合、

 

これしか説得方法が思い付かなかった。

 苦渋の決断に迫られたリュートは一度深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

《……その、落ち着いて聞いてほしい。実は……》

《……休憩タイムは終わりだ。どうやら、お客さんのお出ましのようだ……!》

 

 自分が今に至るまでの経緯を打ち明けようとした時、カレヴィがウイングの熱源レーダーに反応があり、リュートやレーアに警戒を促す。

 せっかく覚悟を決め、告白しようとしたのに敵が来たことに台無しになってしまった。不幸中の幸いだが、それでも敵に感謝すればいいのかどうか悩んでいた。

 

《えっ、敵……!?》

 

 そして、ユニコーンのコックピット中に警告音が鳴り出し、モニターには赤い文字で【CAUTION】と表示される。

 レーダーを見ると、時計の数字になぞって10時の方角に敵機体と思われる反応があり、その数5は超えているアイコンがこちらに向かっている。

 警戒態勢に入り、敵がこちらに向かって来ている方角にリュートは、ユニコーンが装備されている【ビーム・マグナム】をいつでも撃てるよう発射態勢を整えるが、カレヴ

 

ィはウイングの左アームでマグナム銃本体を下させる。

 

「あれはデナン・ゾン……! でも、まだこれだけ距離が離れてるなら……!」

《待て、あそこの方角には街がある! まだ市民が避難しきれてない可能性もある! 下手に当たれば、下敷きになるぞ!》

 

 あの大規模の街にはそれ相応の避難シェルターがあるが、唐突の出来事でパニックになり、まだ避難の誘導が終えていないことをカレヴィは向かう途中で情報を得ていた。

 戦艦の主砲並みの威力と射程距離がある【ビーム・マグナム】では、第二次被害が起こり得る可能性がある。

 あの威力を初めて見てそう見据えていたカレヴィは、誘導してからどれぐらい経っているか時間を計って憶測で止めさせた。

 

《じゃあ、どうすれば……!》

《幸いにも奴らは俺たちにしか眼中になさそうだ。まずはこちらにおびき寄せて、あの街から遠ざけることに専念するんだ!》

 

 カレヴィの指示は的確でレーアも彼の意見に賛同し、街とは真逆の方向に移動して敵をおびき寄せる。

 4倍スコープでユニコーンの姿を捉えたオーゲンは、デナン・ゾン部隊とザク部隊に指示する。

 

《見つけた! リックとマーフィンは部下を連れて他の2機を押さえろ! その間俺たちは一本角を鹵獲する!》

 

 オーゲンの指示でザク部隊はデナン・ゾン部隊の左右に展開し、エクシア、ウイングそれぞれに集中攻撃する。

 これ以上無関係の人間が死ぬところを見たくないカレヴィは、自分やリュートやレーアを囮に敵機体をこちらに引き寄せるも数的にはリュート側が不利。

 質が同等以上でならば分かれて戦うか、そのまま後退し続けながら戦い、勝機を見出すしか選択しか無かった。

 その刹那に2機のバズーカ装備のザクがそれぞれ3機に向けてに同時に撃ち出すと、カレヴィの掛け声で3機はそれぞれ違う法学に向けて散開した。

 着弾した場所は、先ほどまで立っていた場所の手前だった。着弾による爆風がリュートたちの機体に襲い掛かる。

 敵の指揮官機が、部下たちに機体によるジェスチャーで3つのグループに分かれ、バズーカ装備ザクⅡはマシンガンに持ち替え、2つのグループに分けて、さらに追い打ち

 

をかけるかのようにレーアとカレヴィの両方に攻撃を仕掛ける。

 この戦略にカレヴィだけは違和感が拭いきれなかった。だがようやくオーエンたちの真の狙いがようやく見えた。

 それぞれの2機ずつに分かれたザクⅡがウイングとエクシアの相手にして主武装のサブマシンガンやバズーカで足止めしている間に残りの指揮官機も含めたデナン・ゾンの

 

3機は、まっすぐユニコーンに向かっていく。

 

「貰ったぞ、一本角!」

 

 指揮官機である黒いデナン・ゾンが【ビームライフル】でユニコーンに向けて数発撃ってくる。

 その一発のビームがユニコーンの胸部コックピットに向かっていた。

 ユニコーンの捕獲のつもりが戦闘で熱くなって本来の目的を忘れていたオーゲンが我に返り、「しまった」と言わんばかりに焦り始める。

 

「イチかバチか……!」

 

 リュートは目を瞑ってここで死んでしまうんだと思っていたが、ユニコーンが自動的に左アームでシールドを使い、防御に徹していた。

 ビームの弾丸がシールドに命中しそうになった瞬間、武装していたシールドの一部が変形し、着弾することなく、四散したのだ。

 何か変だと思ったリュートはゆっくりと目を開けると、無事だということに気付く。

 

「やっぱり、Ⅰフィールドは機能してくれた……! とりあえずここは逃げないと……!」

 

 リュートがいきなり上手く操縦ができるようになったわけではない。

 ユニコーンに搭載されている管制システムがリュートの防衛本能の思考を解析し、ユニコーンの動作を指示していたのだ。

 すぐさま威嚇射撃のつもりでバルカンを撃ちながら後退しつつ、敵から引き離せるルートを探る。

 

《チィッ……! 回り込め、挟み撃ちだ!》

 

 後退で移動した先に一直線の道路に出ると、そこに先回りした2機の灰色のデナン・ゾンが迫りくる2つの壁のようにユニコーンの前と後ろを塞いでいた。

 片方は【ビームライフル】装備のデナン・ゾン。もう片方は中世の槍をモチーフにした【ショットランサー】を装備したデナン・ゾンだ。

 ブースターで加速して徐々に距離が迫ると同時にライフル装備のデナン・ゾンはショットランサーを捨て、【ビームサーベル】のグリップを取り出して振りかざした瞬間、

 

リュートの視界に一瞬動きが遅く見えた。【ビームサーベル】の振る軌道が遅く見えたことで、先の軌道の予測もできるようになる。

 敵はコックピットは狙わず、無力化目論見で右腕の切断を狙い、右斜め上から入る。

 リュートはデナン・ゾンの動きを見た瞬間、左斜め上の振りかざしと予想し、ユニコーンを左側ギリギリで避けさせて両前腕のボックスタイプ収納備された【ビームサーベ

 

ル】を右マニピュレータで取り出す。

 

「うあああああッ!!」

 

 もう1機の敵の懐に飛び込み、発振した【ビームサーベル】を横にして機体を真っ二つに斬ると、デナン・ゾンの上半身は地面に落ち、下半身は倒れた。

 得意とする死にゲーを何度もプレイしたことで必然的に養って身につけた判断力と行動力が功を奏したのだ。

 後ろにいたもう1機のデナン・ゾンが敵討ちのつもりでスラスターの出力を上げて【ショットランサー】で突貫しようと試みる。

 ユニコーンの脚力と2つのスラスターの勢いでジャンプし、着地ギリギリのところで左手で【ビーム・マグナム】を撃ち、もう1機のデナン・ゾンを撃破した。

 だがリュートは、無我夢中で生き残ることだけを考えているだけなのだが、慣れない戦闘だからかすでに息が上がっている。

 

「こ、このぉ……ぶっ殺してやる!!」 

 

 仲間と呼ぶ者をリュートに殺されたことで怒りに狂ったオーゲンは、自分の機体でユニコーンに突進してくる。

 

「はぁ……はぁ……。まだ来るのか……!」

 

 デナン・ゾンは左アームに内蔵されている【ビームシールド】を展開し、右マニピュレーターで【ビームライフル】を取り出して撃ってきた。

 リュートはシールドを使って防御しつつ、【バルカン砲】で威嚇しながら後退したが、オーゲンは怒りに呑まれてるのか一向に退こうとはせず、むしろスラスターを上げて

 

猪突猛進の進撃をする。

 ついには【バルカン砲】の弾薬が切れる寸前。それにこれだけ接近を許されては、頼れる綱は【ビームサーベル】だけの接近戦しかなかった。

 ユニコーンに【ビームサーベル】を右マニピュレーターで持たせて、デナン・ゾンを待ち構えると、突如通信が入る。

 

《リュート、下がって!》

「な、何……!? がぁッ……!」

 

 レーアからだ。指揮官のデナン・ゾンのバックパックが爆発し、地面に墜落する。

 リュートは最初は何が起こったのかわからなかったが、デナン・ゾンの背後からレーアがエクシアのライフルモードにした【GNソード】でブースターを狙い、破壊した。

 

《大丈夫、リュート? カレヴィ、今よ!》

《お前ら、下がってろよぉ! こいつを食らえ!》

「ク、クソがぁぁぁッ!!」

 

 真上にいたウイングが【バスターライフル】で銃口を敵に向かって引き金を引き、銃口から眩い黄色の光が指揮官機に直撃する。

 2,3秒後、黄色いビーム砲弾が消え、黒いデナン・ゾンは跡形もなく消えた。ただ、1つ残ったのが、撃たれた機体の真下に穴が開いてしまったことぐらいだ。

 戦闘が終わった直後、初めての戦闘を経験したリュートは、生き残ることだけに使っていた集中力が切れて糸が切れた操り人形のようになっていた。

 

「なんとかなった……」

 

 腕で額をこすって、リュートにはまだ気力があった。

 リュートは先程から自分を見ているカレヴィやレーアにこんな変な雰囲気を和らげようとするのだが、なぜか解消しない。

 

《なあ、リュート。さっきお前の戦闘を見ていたんだが……》

《そ、それがどうしたのか、カレヴィ?》

 

 顔が少々下がり気味になっていたリュートは何を言い出すのかわからなかったので唾を飲み、覚悟を決めた。

 

《すごいな、どこで操縦を覚えたんだ? 2機で挟み撃ちにされても乗り切れるなんて、並大抵の操縦技術じゃできないぞ!》

「へ……?」

 

 リュートは意外な返答に腑抜けてしまった。偶然できたものをカレヴィから称賛されてしまい、拍子抜けに緊迫していた体全体の筋肉がほぐれ脱力する。

 確かにユニコーンに搭載されているインテンション・オートマチック・システムで自分が思っただけで機体がその通りになることは事実。しかし、脳の反射神経によるで対

 

応できるとしたら、それなりの努力や技量を要する。一般人でもあり、素人であるこの少年にどのような素質を持たせてしまったとしか考えようがない。

 

《確かに素人の動きじゃなかったわ。それに、ちらっと見たけどそのシールド……ちょっと特別製ね》

 

 レーアがエクシアをユニコーンの左側に移動させ、左アームに装備している白いシールドについて指摘すると、それに乗っかって自然に戦闘時にシールドが機能したことを

 

思い出す振りをした。

 

《あ、ああ、そういえば、ビームが当たりそうなったとき、このシールドの一部が変形したら、分散したんだ》

《……やっぱりね》

《やっぱりって……?》

《そのシールドは、【Iフィールド】というビーム系の武器を無効化にできるシステムが内蔵されている。兵器の中じゃぁそんなに出回らない代物だ》

 

 うん、それは知ってる、と思いながら小さく頷くリュート。

 さすがは軍人に属しているカレヴィ、兵器の種類やその特徴を熟知している。

 リュートは知らない振りしながらレーアにⅠフィールドの。

 

《えーっと、要はこれは対ビームバリア……みたいなものなの?》

《まぁ、だいたいそんな感じね》

《……そ、そういえば、カレヴィ。他に仲間はいないの?》

 

 と、リュートがいいタイミングで話を切り出して話題を変える。

 

《いや、元から単独行動だ。仲間は連れてきてない》

《レーアは?》

《私の方は仲間というより同僚がいたんだけど、戦闘中に私以外全滅してしまったのか応答がないの》

《そうか……》

《となると、実質上俺たちだけの孤立無援状態という訳か。んじゃ、先に進むか。お前ら、俺の後に付いて来い》

 

 当てがあるのか突然カレヴィが言い出すと、「え?」とリュートもレーアも同じタイミングで同じ唖然とした表情をしながら同じ言葉を発声した。

 そして何を考えているのだろうかといった志向も全く同じだった。

 明らかに疑問を抱いている2人を見て感づいたカレヴィは、焦った顔をしながらも必死に奨めた。

 

《とにかく生き残りたけりゃ、俺に付いて来い!》

 

 怪しい目で見ている2人は、考える時間が欲しいとカレヴィに伝えて一度オープン回線を切り、他の回線を傍受しないように互いにクローズ回線に切り替えて相談しあう。

 とは言うもの、スクリーンに出してる表示の中に回線の切り替えする表示があるのだが、操縦はなんとかできても機械をいじるのは初めてでどれを触ればいいのかさえも分

 

からず、ましてや、ここは同じ科学文明でも異世界の機械であることに変わりはない。

 と、リュートが悩ましく考えている隙に液晶パネルに表示されている文字がいつの間にか日本語に改訂されていた。

 すかさずリュートは、液晶パネルをタップしてレーアの乗るエクシアとのクローズ回線の接続に成功する。

 

《あーあー、聞こえる?》

《ええ、聞こえるわよ》

《それでどうする? 僕はここに来たばかりだから地の利が無いんだ。レーアの意見が聞きたいんだけど……》

《正直不本意だけど、他に行く当ても無い。仮に脱出できたとしても、どのコロニーへの入港もできないし、下手をすれば、宇宙で彷徨うはめになることも……》

《うぅ、考えたくもないなぁ……。ここはカレヴィに任せるしかないってことだよね》

 

 リュートもレーアも他の案が出ない以上、これしか答えることができなかった。やむを得ず、リュートがカレヴィに繋ぎ、同行することを伝える。

 カレヴィは了解を得た直後、付いてこいと言わんばかりに勝手に移動し始め、2人の少年少女はウイングの背中を追う。

 移動してから何分か経ち、カレヴィが立ち止まった場所は橋だ。所々に穴が開いていて、全体的にボロボロで今にも崩れそうな状態だった。

 その崩れそうな橋の奥に巨大な建造物があった。

 その建造物について疑問に思ったレーアはカレヴィにいくつか質問攻めをする。

 

《ここ港だけど?》

《知ってるよ》

《真っ先に制圧されたって聞いたけど?》

《言ったよ》

《何か考えがあるなら、先に教えてくださる?》

 

 カレヴィに何度も質問したレーアは、本人の狙いが今まで黙っていたことに少々呆れていた。

 

《カレヴィ、あの建物に何かあるの?》

 

 その後に訪ねたリュートもレーアも最初は全くもってカレヴィがやろうとしていることがよくわからずにいた。ここでカレヴィが正解を口にする。

 

《あそこにはアークエンジェルがある。あれに乗って脱出する》

 

 その答えを聞いたレーアは頭を悩まし、次は状況がよく呑み込めていないリュートがカレヴィに質問攻めをした。

 

《味方の?》

《いや、敵のだ》

《本当に?》

《本当だ》

《賊のやることじゃないのか、これぇ……?》

 

 イメージとのギャップに呆れていたリュートは、カレヴィは本当に軍人なのか疑い始める。

 敵から母艦を奪取することに軍のやり方とは言えないし、むしろかけ離れている。

 

《そんなことしなくても救命ボートとか……》

 

 異世界から来た少年は、少なからずもレーアの意見で脱出した方が良いと考えてはいたが、カレヴィは先行きの理由を言って却下する。

 

《残っていると思うか? それに、ボートだけじゃ避難民は乗り切れない。あれが要る》

 

 カレヴィの説明で小刻みに頭を縦に頷いて一応納得したが、それは敵の本拠地に直接乗り込むこととほぼ同じで危険極まりない行為、死に急ぐみたいなものだ。

 かと言って、別の脱出方法も見いだすことができず、やむを得ずカレヴィの発案に賛同する。

 リュートたちは危険な橋を渡り終え、巨大な建物の中に入る。奥へ進み、片隅で様子を探っていると、徘徊している敵機体の奥に艦首両舷から前に突き出した2つの脚部の

 

ような形状のモビルスーツハッチを持つ白をベースとした戦艦が停泊している。

 

(あれはアークエンジェル……! その前にはジンクスⅢにトールギスまで……! やっぱり、いくつもののガンダム作品がこの世界に集結しているんだ……! でも、シリー

 

ズ別で統一しているわけでもなさそうだ。何か共通点とかがあるのかな?)

 

 リュートが敵に傍受されないようにクローズ回線でカレヴィに話しかけると、カレヴィは首を縦に振って「ああ」と言って肯定する。

 モニターで望遠鏡のようにズームインして索敵すると、アークエンジェルの周囲を徘徊している4機の白に塗装されたジンクスⅢと1機だけ騎士のような風格を持つ機体―

 

―【トールギス】が確認できる。おそらくそのトールギスが指揮官機のようだ。 

 

《なんだその荷物は!》

 

 怒濤の声を吐いた眼鏡をかけている淡い青紫色をした長い髪の男が機体でおよそ9平方程の大きさのコンテナを運んでいる手下に容赦なく怒鳴りつける。

 彼の部下も多少は驚いたが、心を落ち着つかせて答えた。

 

《修理用の予備パーツって聞いてます……!》

《基地に戻れば、いくらでもあるんだぞ! 捨てていけ!》

 

 わかりました、と少しおどおどしながらも指示に従った部下は、その予備パーツをすぐに元の位置に戻していくと、別の所で作業している機体のところへ向かう。

 

《もっと急げないのか》

《避難民の収容作業を中断されては?》

《ダメだ。捕虜と民間人は最優先だ》

《ですが、この人数では収容スペースも……》

《気密が保てばいい。戦闘区画も使え。備品も捨てても構わん》

 

 あくまで武器の持たない民間人や捕虜を虐殺せず、また仮に誰かが武器を持っても武器で傷を負わせるぐらいで殺さないつもりだろう。

 隊長の意図を見抜いた宇宙兵は避難民はともかく、敵である地球軍の捕虜に対しても超が付くほどのお人好しと理解して、少々呆れている。

 

《少尉は……》

《甘いか?》

《いえ、作業急ぎます》

《頼む。定時報告だ、少し外す》

 

 トールギスが宇宙港のあらゆる区画と繋がっている連絡廊へ移動した。

 残った敵モビルスーツならば艦を奪取することができるとカレヴィは判断し、好機と悟った。

 

《隊長機が消えたな。今だ、レーア、リュート!》

 

 機が熟したと言わんばかりにカレヴィがリュートとレーアに合図を送ると、リュートとレーアは同時に頷いて打ち合わせ通り行動した。

 敵は5機、隊長機がいない連中ならたった3機でも倒せると判断したのだろう。カレヴィはウイングのバスターライフルでリュートとレーアに合図代わりで強襲を仕掛け、

 

1機のジンクスⅢが爆炎を散らしながら破壊された。

 

「なっ、敵襲!? どこから入ってきた!?」

 

 その爆発音に他のジンクスⅢが現地に向かうと、施設を支える巨大な鉄骨の上にウイングガンダムが正々堂々と立ち構えていた。

 調子に乗っているカレヴィは、いかにも賊らしい顔つきとそれらしい口調でノリながら決め台詞を言い、鉄骨から飛び降りる。

 

《悪いなぁ、あの艦は貰って行くぜ!》

《いたぞ、あそこだ! 攻撃しろ!》

 

 機影を発見した1人のジンクスⅢのパイロットが応援を呼び、アークエンジェルからのスクランブル発進によってウイングの前だけで十数体が集められた。

 遠距離からウイングに向けて集中攻撃するが、飛行形態に変形したウイングの機動力では捉えられない。

 敵の攻撃が収まったその瞬間にウイングは飛行形態からモビルスーツ形態に変形してバスターライフルで反撃するもその距離にことごとく回避される。

 

《バカめ! たった1人だけでこの人数を相手にできると思っているのか!?》

《ふん、誰が"1人だけ"だって?》

 

 安心しきっていた1機のジンクスⅢのパイロットが言って装備している中世の槍をモチーフとした【GNランス】で攻撃を仕掛けた直後、その機体の右アームに真上からビー

 

ム弾が直撃し、その後エクシアが目の前に降りて刃が展開されている【GNソード】で刹那のごとくジンクスⅢを真っ二つにした。

 そしてその後にリュートは冷静に、スコープを除いてさっきの戦闘で拾ったデナン・ゾンのビームライフルで機体の頭部を正確に狙い撃ち、レーアはエクシアの機動力と【

 

GNソード】で高機動を生かした近接戦闘で他のジンクスⅢの右アームを切断して無力化する。

 1つ1つと倒れていく機体を見た他のパイロットたちは、隊長不在のこの機を狙った上での奇襲で指揮系統を失い、混乱していた。

 

「な、仲間だと!? クソッ、はめられた……!」

 

 内心、リュートもレーアもこのやり方に対しては不本意だが、生き残るためにはカレヴィのやり方に従うしかなかったのだが、カレヴィが立案した作戦に賛同していたつも

 

りのレーアがその不満さと背徳感に耐えかね、眉を八の字にしてため息を吐いた後、愚痴を言う。

 

《正直、こういうのあまり好きじゃないんだけど……》

《今頃愚痴るなよ。お前だって賛同してたじゃねぇか》

《他の手段が思い浮かばないからやむを得ず、よ。そこの所間違わないで下さる?》

《へいへい、わかりましたよっと……》

(このまま事が進めればいいんだけど……。あの隊長機が戻ってきたら、かなり危なくなる……)

 

 呆れてものが言えないカレヴィは、最後の大詰めに取り掛かる。

 ウイングはバスターライフルの銃口をジンクスⅢの胴体――つまり、コックピットに向けるが、無駄な殺生はしない主義で追い詰めた兵士をこれ以上殺そうとはしないし、

 

弾薬やエネルギーの無駄使いにもなると考えている。

 

《さあ、命が惜しければ、その艦を渡すんだ!》

《そこまでだ!》

 

 アークエンジェルの上から定時報告をしにいったトールギスが予想より早く戻ってきたことにカレヴィはこれは予想外と言わんばかりに舌を鳴らす。

 

「ちぃっ! 戻ってきやがった……!」

《た、隊長……!》

《胸騒ぎがすると思って戻ってみたらこのザマか……。一度ならず、二度までも我が艦を……。この盗人がァッ!!》

 

 その男は、隊長を務めている自分への不甲斐なさと部下を傷つき、失ったことに対する怒りに燃えていた。

 愛機であるトールギスが先手を仕掛けて【ビームサーベル】で接近戦を試みると、仕方ないともう一度舌を鳴らしたカレヴィのウイングも真正面から迎え出てシールドの格

 

納ラックから【ビームサーベル】を取り出す。

 距離が刀身が接触するところまで近づくと、の緑色に光るビーム刃とピンク色に光るビームの刃が激しく衝突し、鍔迫り合いで起こる副作用のプラズマが走る。

 

《お前らが間抜けなんだよッ!!》

《その声……! まさか、カレヴィか!?》

《ん? 誰だ、お前?》

 

 敵の隊長機パイロットから名前を呼ばれたカレヴィが真面目な顔つきでそう答えると、見事に彼の名前をいい当てたその男は、額に血管が浮いてひどく逆上する。

 

《貴様ァッ!! この私を忘れたとは言わさん!》

 

 カレヴィに侮辱された男は、その腹立たしさや屈辱に熱くなりながらも巧妙な操縦でトールギスが回し蹴りをするが、それに対する華麗な操作技術で愛機であるウイングを

 

傷1つ付けること無く見事にかわす。

 その様子に爆笑したカレヴィは、忘れてはいなかった。遊び半分で根っからの真面目なエイナルを愚弄していただけなのだ。

 

《ははッ! 相っ変わらず暑苦しいなぁ、エイナル!》

 

 2機の機体は足を地面に着くと、2人はお互いににらみ合いをして相手の動きを窺いながら立ち往生した。

 そのそばで2人の戦闘を見ていたレーアがエクシアを動かし、右腕に装備しているライフルモードにチェンジした【GNソード】でトールギスに狙いをつける。

 

《援護する!》

《バカ! 手ぇ出すな!》

 

 旧友であるエイナルのことを理解しているカレヴィはレーアに警告するが、時はすでに遅く、トールギスが急接近してビームサーベルでエクシアに攻撃を仕掛ける。

 

「目障りだな!」

《レーア、危ない!!》

 

 リュートは反射的に足元のペダルを思いっきり踏んでスラスターを上げた。ユニコーンはシールドを捨てて少しでも機体を軽くし、エクシアに向かう。

 

「速い……!」

 

 レーアはやられると思い、瞬発的に目を閉じた。だが、何も起きないと疑問に思ったレーアは目をゆっくりと開くと、目の前に違う方向から別のビームの刀身が出ていた。

 

ビーム同士の衝突で火花を散らしながらもトールギスの攻撃を受け止めていたのは、ユニコーンだ。

 ユニコーンが腕に付けたまま発振した【ビームトンファー】で攻撃を間一髪で食い止め、機体ごと前に出してトールギスを押し返す。

 

《ハァ、ハァ、危なかった……。大丈夫か、レーア!》

《え、ええ……》

 

 無事だということを確認して安堵した同時に心臓が止まるかと思い、内心ひやひやしていた。

 もしタイミングを間違えていたらレーアは死に、今頃止められなかった自分がナーバスになっていたのだろう。

 問題は合い見えてしまったこの強敵をどう切り抜けるか。ただレーアを助けたい、攻撃を食い止めるだけを考えていたのでその後の作戦は一切考えていない。

 ましてやこのまま見逃してくれるという可能性も皆無。まさに月とスッポンだ。

 カレヴィでさえ互角のやり様とエクシアに急接近したその腕前にリュートは恐怖を抑え、冷静になって立ち尽くすことが精一杯だった。

 

「ほう、私の攻撃を受け止めた挙句押し返すとは……。……面白い!」

 

 顔色が変わったエイナルはカレヴィ以外との兵に巡り合えたことで自分の中に眠る闘争心が目覚め、猛りだす。

 その闘争心に火が付くと、誰であろうと関係なく勝敗が決するまで刃を交え続ける、彼の体質をよく知っているカレヴィは再び戦闘に入ったらリュートの命が危険だと判断

 

し、リュートに警告を促す。

 

《まずい……! リュート、レーアを連れて今すぐそいつから離れろ!》

《え……!? ……ッ!!》

 

 エイナルはこの隙を逃さずスラスターを展開し、凄まじいスピードでユニコーンに向けてトールギスを突進させる。

 カレヴィの助言が意味不明よそ見していたリュートは反応が遅れ、ユニコーンが頭部バルカンでけん制しながら左腕のラックから【ビームサーベル】のグリップをなるべく

 

早く取るが、トールギスは避ける素振りもなく、むしろバルカンの弾丸をすべて盾で受け止め、そのままユニコーンに蹴とばした。

 

「うわあああッ!!」

「きゃぁっ!!」

 

 恐れ知らずの凄まじい突進力でユニコーンは後ろに飛ばされ、後ろに立っていたエクシアも巻き添えを食らってしまう。

 

《リュート! レーア!!》

 

 カレヴィはすぐさま援護に向かうが、エイナル直属の部下たちが乗る複数機のジンクスⅢが射撃モードのGNランスでウイングを攻撃して足止めする。

 いち早く気づいたカレヴィはシールドで防御する。

 バスターライフルを使って敵機体を一網打尽にしたいどころだが、攻撃を仕掛けたジンクスⅢは奪還目標であるアークエンジェルの前に位置していてここで使えば、航行に

 

支障する甚大な損傷を与えかねない。

 

「チィッ!!」

 

 狙いが相手にも知られている以上、嫌とする手で打って出られたと思ったカレヴィは舌打ちをしてしまう。

 

《いててて……。レーア、大丈夫!?》

《な、なんとか……。リュート、上!!》

「もらった!」

 

 跳躍したトールギスはビームサーベルを前に突き出してそのまま下にいるユニコーンとエクシアに串刺ししようとする。

 

《リュート、シールドを使って!》

《シールド……? そうか……! レーアは離れて……!》

 

 咄嗟に下したレーアの判断にリュートは近くに転がり落ちていたシールドを前に出すと、同時にシールドの中心に位置する装甲が再びスライドして変形した。

 トールギスのビームサーベルとユニコーンのシールドが衝突すると、青白色に発行している【Ⅰフィールド】によってビームサーベルの形状がゆがみ始め、ビームが四方向

 

に流れ出る。

 その光景がエイナルに苦渋の表情を浮かばせた。

 

「くぅっ、Ⅰフィールドか!!」

「こんのぉ……!」

 

 ユニコーンはその隙に足をトールギスの腹部辺りに忍ばせて蹴り上げるが、モビルスーツの操作に熟知しているエイナルは微調整をしてすぐにトールギスの態勢を整える。

 だが、同時に違和感を覚えていた。機体の反応速度はトールギスよりも上、にも関わらず1つ1つの動きがあまりにも遅すぎるし、蛇足しているのだ。

 考えた末、導きだされた答えをエイナルは口ずさむ。

 

「あのパイロット、素人か……?」

 

 もしそうだとしたら、己の力で真剣に剣を交えたいエイナルからすれば侮辱されたことと同じだった。

 歯ぎしりしながらレバーを強く握りしめ、怒りに狂ったエイナルは、トールギスを再びユニコーンに突進させ、シールドは飛ばされたものの立て直したばかりの態勢が再び

 

崩れて突き飛ばされる。

 リュートは歯を食いしばって衝撃に耐えているが、先ほどの攻撃で反応速度や判断能力が鈍ってきている自覚はあるもの、連戦の疲れからかフラフラして自分の力で立って

 

いるのもやっとな状態。だが、生き残ることを信念に戦うことを覚悟しているリュートはここで引くわけにはいかなかった。

 

「こんな所で……こんな所で死んでたまるかぁッ!!」

 

 生き残るという強い意志を持って自分を奮い立たせた時、リュートの瞳孔が大きく見開き、身体の奥から異様な鼓動が発し、それは徐々に早くなっていく。

 足元からモニターが動き、そして【NT—D】と書かれた文字が表示されると同時に瞳はルビーのように徐々に赤く変色して発光し、コックピットシートも違う形に変形する。

 戦闘中にスクリーン越しからユニコーンの動きが止まったことに気付いたカレヴィとレーアの目が釘付けになる。

 

「リュート、何やってる!? まさか、さっきの衝撃で機体が動かないのか!?」

「そんな……。リュート……!」

「無様に死ねぇぇぇッ!!」

《エイナル、やめろォォーッ!!!》

 

 トールギスが再びビームサーベルを横にしてコックピットごとユニコーンを串刺ししようと突きたてた瞬間、僅か数十センチのところでビームサーベルのビーム刃の先端が

 

Iフィールドとは違う見えないバリアと衝突し、プラズマを発したそれは、ビームサーベルどころか機体ごと空中に弾き返す。

 

「な、何ッ!? うわっ!!」

 

 エイナルは熟練の操縦技術によるスラスターの出力の微調整を施し、なんとか態勢を立て直した。

 何をしたのだと言わんばかりにユニコーンを再び見ると、ユニコーンの各部位の装甲と装甲とバックパックの装甲の間の溝から体全体を駆け巡る線のような溝が全部位同時

 

に赤く発光した後、赤い粒子が放出される。

 下から順に、足は踵がスライドで持ち上がったことでハイヒールの形になり、それぞれのサイドの装甲が上に向けるように変形し、踝は前の形態で足の一部となっていた装

 

甲が持ち上がり、足首の装甲板と合体し、その上で少し上にスライドすることでサイコフレームが露出する。

 脹脛は特に後ろの装甲がスライドしたことで収納されていたブースターが展開され、膝の部分は内側からサイコフレームの突起物が押すことで前の形態の膝の装甲が割れた

 

のような形状になる。

 太ももは上に持ち上がるように、フロントスカートの一部は外側に、サイドスカートの下の部分は下にスライドし、リアスカートはそれぞえ1基ずつ収納されていたブース

 

ターが展開され、腹を含めた胴体の部分や肩、両アームはスライドでサイコフレームが露出されるだけでなく、ボリュームも増していく。

 バックパックは収納されていた2つのブースターが展開されて合計4つになるだけでなく、ビームサーベルバックパックの両サイドに移動して取り出し可能になる。

 頭部の白い仮面は収納されてツインアイズが現れ、額の角はV字型に割れて黄金に輝くアンテナになり、頭部のサイド装甲は180度回転する。

 そう、ユニコーンは、モビルスーツの到達点の1つである、ガンダム形態へと変形を遂げたのだ。

 内から出てくる赤く輝く透明な膜みたいなものが一瞬にしてユニコーンを包み込む。そして、ユニコーンが変形したその姿を見たレーアが無意識にその名を口にする。

 

「ガン、ダム……?」

 

 唐突な出来事にレーアとカレヴィ、そして対峙したエイナルは一瞬の驚きを隠せず、言葉を失うも一瞬我に返り、アークエンジェルの手前まで一度後退する。

 

「あの機体は一体何なんだ!? ガンダムタイプに変身……いや、変形しただと……!?」

《エイナル、聞こえるか?》

《アレギオス特務大佐……! どうされたのですか!?》

 

 エイナルがトールギスを下がらせた後、ジェイがエイナルに通信を寄越し、会話に出る。

 この状況で通信が入るということは、何かあったのだろうかと悟っていた。

 

《作戦は失敗した。エイナルたちも帰投しろ》

《りょ、了解です……! それと現在宇宙港で3機の敵機体と交戦中……、その中の1機が変形し、ガンダムタイプになりました……!》

《ガンダムタイプに変形しただと……? ……わかった、艦をフロンティアⅣの近くまで移動させる。あとで合流して話を聞こう》

 

 通信を切り、戦闘に戻って集中しなおしたエイナルはガンダムタイプに変形したユニコーンに対して攻撃をすることだけを考える。

 エイナルは変形したユニコーンから先ほどとは全く違うオーラを感じ取り、より警戒心を高めてパターンの読めない相手に真剣かつ、慎重に行動を取る。

 そして真剣勝負がどうのこうの言うより、今この場にいる部下にはユニコーン相手では、手に余る。そうさせないためにも、部下を使ってウイングやエクシアを足止めする

 

よう指示を与える。

 

《私はあの機体を抑える! 他に動ける者がいたら、他の2機に攻撃し、負傷者を逃がせ!》

《りょ、了解です!》

 

 エイナルはユニコーンとの戦闘を続行し、ジンクスⅢのパイロットはエイナルの指示通りにカレヴィの乗るウイングとレーアの乗るエクシアを狙って攻撃する。

 

《エイナルのやろぉ……! 強制的に分断させようって魂胆か!》

《このままじゃ、リュートが……!》

《今はこいつらを叩くことが優先だ、レーア!》

 

 カレヴィの言う通り、今は目の前の敵に集中することが第一優先だ。レーアとカレヴィは囲う6機の相手をし、1機ずつ確実に仕留めるが、エイナルが育てただけであって

 

そしてそれぞれ3機に相手になっているので容易に倒れてはくれない。

 エクシアは、GNソードで得意のレンジで攻撃を仕掛けるが3機のジンクスⅢは散開し、それぞれの角度から遠距離射撃をする。レーアは、GNソードをライフルモードに切り

 

替えてこれらを迎撃する。

 カレヴィもやむをえず格闘戦法で3機を相手にするが、ウイングはどちらかというと射撃戦が自分のレンジなので接近戦は苦手と言うべきだろう。だがそれでも、カレヴィ

 

はやりこなして他の2人と合流するのだと心に決めていたのだ。

 隊長であるエイナル率いる隊員らの攻撃により、カレヴィとレーアはユニコーンからみるみるうちに離されていく。

 動きを見せない直立不動のユニコーンにエイナルは、一か八かの機転で速攻を仕掛けることで畏怖している自分を奮い立たせる。

 トールギスがシールドからビームサーベルを取り出してブースターで加速し、ユニコーンに向かって突進すると、ユニコーンはジャンプし、バックパックの格納ラックから

 

ビームサーベルを手に取って振りかざす。

 トールギスは間合いに入る前にそのまま後退してその攻撃をかわすが、高出力のビーム刃に触れた鋼鉄製のフロアは1秒もしないうちに溶解し始める。

 両足が着地して1秒もしないうちにバックパックスラスターを点火して急加速し、ユニコーンに向けて脚力の瞬発力で突進してビームサーベルを再び振りかざすカウンター

 

攻撃を仕掛ける。

 ユニコーンはシールドを捨てて機体を身軽にし、左アームのビームトンファーを展開して曲げたアームを前に出してトールギスのビームサーベルを食い止める。

 態勢的にトールギスが有利だが、ビームトンファーの出力が徐々に上がり、トールギスのビームサーベルを押し上げる。

 その隙にユニコーンは機体の重心を前に出してトールギスを押し返した。

 エイナルはトールギスの両足とビームサーベルのビーム刃を地面に着かせて失速させると、今度はユニコーントールギスの間合いを取りながら刹那の速さでビームサーベル

 

とビームトンファーの見事なまでの連撃攻撃を繰り出す。

 

「なんだ、この得体の知れない力は……! まるで次元の違う相手と戦っているかのようだ……!」

 

 攻撃を仕掛けても防がれてしまい、反撃を仕掛けるもその隙を見いだせずにいたエイナルは、思わず焦りが見え始める。

 ビームサーベルの刀身同士が衝突してプラズマが勢いよく迸る。

 高出力で発振したユニコーンのビームサーベルがトールギスのビームサーベルを飲み込むかのようになっていた。

 真正面にぶつかれば勝てないと判断したエイナルはトールギスを一旦バックステップで退き、ユニコーンとの距離を置く。

 息が乱れているエイナルは一度集中し、再びユニコーンに挑む。

 

「ならば、これはどうだ!」

 

 軍で上位階級を持ち、いくつものモビルスーツ同士の白兵戦で勝ち続けているエイナルは臆することはなかった。

 円盤型のシールドで発光したユニコーンの攻撃を受け流して弾かせると、その隙が見え始める。エイナルはそれを逃さなかった。

 

「終りだァッ!!」

 

 トールギスがビームサーベルの刀身を横に倒し、コックピットを突こうとした瞬間、ユニコーンの両腕の内、左腕のボックスタイプに収納されている【ビームトンファー】

 

を手に持たずに180度回転して展開すると同時に左腕を素早く振り上げ、トールギスの右腕と胴体を繋ぐ間接部を斬った。

 

「な、何……!? あの一瞬で、だと……!?」

 

 白兵戦では軍一と勝ち誇っていたエイナル自身のプライドは、斬り落とされたトールギスの右腕が地面に落ちた時金属が発する鈍く重々しい音と同時に崩れ落ちた。

 裏に突けこまれた挙句、トールギスの右腕を失われた以上、勝算が無くなってしまったエイナルは一度後退し、再びユニコーンとの距離を取る。

 白兵戦はガンダム形態になったユニコーンが勝利を収め、連戦連勝の白兵戦が誇りだったエイナルにとっては屈辱的だった。

 

「クソォッ!!」

《隊長……! あ、トールギスの右腕が……!》

 

 トールギスの右腕を見たエイナルの部下が感傷に浸っていると、再びジェイと呼ばれる男の声が無線通信を通して響きだす。

 

《エイナル、こちらの準備は整った。もういい、帰還しろ》

《……クッ、限界か!! カレヴィ、勝負は預ける! そして、そこの正体不明機とそのパイロット! この屈辱は忘れん!!》

 

 落胆から立ち上がったエイナルと残った残党機はターミナルから離れ、撤退していくと同時にタイムリミットが来たのか、ユニコーンのサイコフレームに赤い光が失い、元

 

の形態――ユニコーンモードに戻っていた。

 

「ガハァ……ッ!! ハァ、ハァ、ハァ……。し、心臓が、破裂しそうだ……!」

 

 ユニコーンのコックピットの中では、同時に額から多く汗を垂れ流し、呼吸をかなり乱れてはいるが、リュートも正気に戻っていたが、右手が心臓を強く押さえている。

 部隊と共に宇宙港を離れる際に発言したエイナルの捨て台詞にカレヴィは顔を苦々しくする。

 

「勝負とか言ってんなよ、恥ずかしい……」

「なん、だったんだ、今のは……。隊長機が突っ込んできたのは覚えてるけど、その後は、意識が持っていかれて……。ダメだ、何も覚えてない……」

 

 心臓が苦しくするほど無我夢中で戦っていたのだろうかと、錯覚に思えたリュートが自分の顔に右手の掌で覆っていると、カレヴィから通信が入る。

 

《リュート、大丈夫か?》

《う、うん、大丈夫……》

《それにしてもリュート、お前はすげぇよ! まさかスイッチが入ったエイナルとここまでやりあえるとはなぁ!》

《ま、まぐれだよ……》

 

 リュートは悟られないよう激痛に耐えながらも喜びで高らかに笑うカレヴィの話に付き合い、愛想笑いをした。

 自分自身には見覚えのない奮闘に興奮して声を荒げてるカレヴィとの間に別からの通信が割り込んでくる。レーアだ。

 

《リュート。その、ありがとう、助けてくれて……》

 

 無意識にも髪の毛をいじって少し照れ隠ししながら感謝するレーアにリュートは彼女が無事だったということだけでも大満足だった。

 あと少し遅ければ、殺されるところだったところを助けたあの瞬間は、何もせずに死んでまた新たなトラウマを引きずるよりかは遥かに爽快感があった。

 

《……とにかくレーアが無事で良かったよ》

《べ、別に助けてって言ったわけじゃないから……、そこはちゃんと理解してよね!》

 

 レーアのツンデレっぷりにリュートは、思わずのほほんと癒されていくのであった。

 

(うわぁ、テンプレだぁ……)

《あーあー、聞こえますか? こちらアークエンジェルブリッジ。ルル・ルティエンス中佐です》

 

 一同は第一声からしてその声の主は女性だと分かっていたが、女性にしては何か幼げがあると思い、テレビ通信を付けると、シーツに座っている女性が写し出された。

 シーツの大きさからして体格は小学生か中学生並みに小さく、地球軍の軍服を着ている紫色をした、首まで届いているボブカットで大きな黄色い瞳がクリクリとしている。

 

《現時刻よりアークエンジェル艦長代行に着任しました》

《そういや、地球に降ろすために人を送るって聞いてたな。ずいぶん早い到着だが、今までどちらに?》

《えーと、それは……》

 

 言わずもがな、ルルが口をもごもごしている辺り、カレヴィはおおよそ1つの答えにたどり着き、彼女の代わりに答える。

 

《捕虜になってた、と》

《うぅー……》

 

 何も言い返してこない、ということは、図星だったようだ。

 大変だったのはわかっているのでここら辺りで話を切ると、今度はカレヴィよりも年をとった男がそのタイミングで出てくる。

 

《副長代行のマドック少佐だ。すまんが、発進のため宇宙港を開けてもらいたい》

 

 ルルの次に現れたマドックという男は、左目の近くに十字傷を負った軍人の男だ。

 間を置き、カレヴィが「了解だ」と承諾を得て、宇宙港の全体図のデータを受け取り、宇宙港に向けて発進した。

 データで地図を見ると、ここから宇宙港の機関室に着くにはモビルスーツで行っても3分はかからない場所にあったため少し補給を受けた後にハッチに向けて移動した。

 ハッチに向かう連絡廊の通っていると、激痛を迸っていた心臓がやっと落ち着き、息遣いの安定からリュートの苦々しかった表情がほころんだ。

 

(やっと心臓が落ち着いた……。それにしても、どうしてあの時だけ、記憶がなかったんだだろうか……。少なくとも記憶がなくなる以前の出来事は覚えているのに……)

 

 突然かつ一時的な記憶喪失の原因を考えた末にリュートはあることを思い出す。

 

(そういえば、あのトールギスと対立していたとき、無意識にもあの発言してしまった後から記憶が消えた。なら、自分のその発言かその意思が発動キーなのかも?)

《艦長代行、ずいぶん若く見えたけど……》

 

 と、レーアが通信を通してルルに関して語り始めると、深く考え込んでいたリュートは少しリフレッシュ気分で口に出した。

 

《ああ、僕も思ったよ。まさかあんな小さい女の子が艦長代行だなんて……。おまけに階級が中佐だってもう驚きだよ》 

《お偉いさんのご息女らしくてな。安全な移送任務を与えられたんだろうが……》

 

 カレヴィの話を聞く限り、所謂『依怙贔屓(えこひいき)』というやつだ。

 それが軍の出身ではない身内ならまだ納得いくが、男が多く、厳しい訓練を積んでいるイメージを持つ軍にルルのような華奢な軍人には甘く接している彼女の身内である父

 

親がいるとなると、軍の印象にも支障が来たす。

 

《愛されてるってことでしょ?》

《……そうだろうね》

 

 正直この話を聞いて呆れていたリュートとレーアが宇宙港を開ける機関室の目の前の扉まで来ると、突然警報が発令して警報機で辺りが真っ赤に染まり、3人は警戒態勢に

 

入る。

 

《接近警報!》

「な、なんだ!?」

 

 突如、天井からいくつか眩しい光が降り注いで来た。

 リュートたちは機体のシールドを使って影を作っても眩しさは変わらず、やむを得ず瞼を閉じる。

 

《2人とも、大丈……、って、ええーっ!?》

 

 眩しい光は徐々に消え始め、視界が見えるようになり、リュートは近くにいるカレヴィやレーアの安否を取ろうとした。

 奥まで見えるようになると、フロンティアⅣが木端微塵に破壊されて、部品が浮遊しながら全体に散らばっていた。

 この光景を見たカレヴィやレーアも思わず驚愕する。

 

「コロニーが……。なんてこった……!」

「こんなの……こんなのって……」

 

 たった一撃の攻撃で無残な姿になったフロンティアⅣを見たリュートは、これをしでかした奴に対して初めて怒りを覚えた。

 幸いにもフロンティアⅣ内に点在する脱出ポットや救命ボートが機能し、外壁からいくつも射出されていた。

 

《ネズミが。逃げられると思うな! このガンダムと私が来たのだからなぁ!》

「あれはデンドロビウム……! でも、なんなんだあの大きさ……!」

 

 声と共にどこからともなく現れたのは、ガンダム頭を中核に、左右にあるコンテナ、右腕に相当する細長い筒状のビーム砲と左腕の収容型の大型ビームサーベルを持った巨

 

大なモビルアーマー――【デンドロビウム】だ。ユニコーンのモニターには【TYPE:RX-78GP03D NAME:GP03 DENDOROBIUM】と表示される。

 オープン回線で聴いたその声にレーアは心当たりがあった。そして、その声の持ち主の名前を小言だが、思わずその名を口にしてしまう。

 

「ルスラン・シュレーカー……」

《2人とも、来るぞ!!》

 

 デンドロビウムが突撃し、右腕に当たる巨大な細長い筒のようなものからビーム砲を発射してきたが、各自はその射線軸の外に回避した。

 そのビーム砲は直線を描き、フロンティアⅣ・宇宙港の残骸に直撃し、跡形もなく消えた。

 戦闘の最中に、アークエンジェルから通信が入ってきた。艦長代行であるルルからだ。

 

《こちらアークエンジェルです! 今の振動はなんですか?》

《アークエンジェル! 良かった……》

《ドックは無事だったか! アークエンジェルはそのままそこで隠れてろ!》

 

 通信で艦長でもないカレヴィが勝手に停止命令を出して艦長代行は困惑する。

 

《はいぃッ!? 港のハッチはどうしたんですか!?》

《その辺に浮いてるんじゃねぇのか!? それより敵と交戦中だ! 絶対出てくるなよ!》

 

 カレヴィは、戦闘に集中するためアークエンジェルとの通信を切った。

 

「副長代行、ハッチって浮かぶんですか?」

「古今東西、ハッチは開くものです」

 

 こちらに真っ直ぐに向かってくるデンドロビウムにカレヴィはスコープを展開し、狙いを定めながらバスターライフルで迎撃する。

 だが、直撃することなく照射されたビームは四方向に四散してしまう。

 

「何!? Ⅰフィールドか!!」

 

 デンドロビウムの反撃に移り、オーキスと呼ばれる巨大アームドベースの砲身から再び高火力のビーム砲を打ち出し、左アームには大型ビームサーベルで薙ぎ払いをする。

 デンドロビウムの異常なまでに卓越した機動力と火力、おまけにⅠフィールドを搭載しているとなれば、リュートたちは、成す術もなく苦戦していた。

 ここをどう打破するか考えていたカレヴィがリュートにしか頼めない対抗策を出す。

 

《リュート! またあの時のようになってくれないか!?》

《あの時って?》

《お前の乗っているユニコーンがガンダムになったんだ。そいつになれば、何とかなるかもしれん!》

《こいつが、ガンダムに……?》

(やっぱりなれるんだ……!)

 

 カレヴィの発言でリュートにとってはより確信を得たのだが、先ほどから心でガンダムになれ、と念じてもユニコーンはガンダム形態になることはなかった。

 デストロイモードへの発動条件が見いだせない中、他人からいきなりなれって言われても無理な話である。

 

《とにかく俺たちの手段はそれしかないんだ!》

《そんなこと言われても、やり方なんてわかんないよ!》

《だったら、意地でなんとかしろ!》

《無茶苦茶だよ!》

 

 デンドロビウムの再度の攻撃を回避し、カレヴィの滅茶苦茶で無茶苦茶な質問にリュートは頭を悩ました。

 ユニコーンのデストロイモードがしばらく使えない限り、この巨躯に圧倒的なスピードで翻弄したリュートらには遠距離攻撃で迎え撃つしか方法が無かった。

 先ほど、ユニコーンはトールギスの右腕を切り落としたついでのドーバーガンという武器を使った。だが動きが速すぎて、狙いが定められない。

 弾数が残り3発しかないビームマグナムはあまり無駄撃ちはしたくない。相手の動きを読んで、そのタイミングに撃つ、リュートの頭の中ではそれしか方法がなかった。

 

「まとめて消し去ってくれる!」 

《また来るわ!》

 

 デンドロビウムのパイロットであるルスランは、3機が固まっているこの機にまとめて片づけると判断し、オーキスのコンテナからマイクロミサイルで攻撃する。

 

「何!?」

 

 3人は分散しつつ再び回避しつつ、追ってくるミサイルを迎撃する。

 リュートはデンドロビウムの背後に回りドーバーガンでブースターを狙って5発撃った。そのうち3つが着弾し、破壊することに成功する。

 

「よし、当たった!」

 

 デンドロビウムの姿勢が不安定になってきたところで今度はレーアがデンドロビウムに接近し、アームドベース【オーキス】の機首左側面に搭載しているⅠフィールド・ジ

 

ェネレーターをエクシアの【GNソード】で斬撃を入れて破壊する。

 

「これでビーム系の武器が効くはずよ!」

「なめるな!」

 

 デンドロビウムに再び加速した。

 Uターンしてユニコーンたちが直線状に入ったとき、次は両サイドのコンテナからミサイルが発射された。

 そのミサイルは機体よりも大きかったが、動きは遅く、簡単に回避することができる。

 

「そんなもので……!」

「馬鹿め!」

 

 大きなミサイルの一部がパージし、その中から多くの小型ミサイルがユニコーンに向けて発射する。

 リュートはペダルを踏み、スラスターを全速力にして逃げるが、10数はある誘導ミサイルが追いかけて距離も近づいてくる。

 着弾されるギリギリのところでかわすのだが、ミサイルもUターンしてユニコーンに再接近した。

 

「付いてくる!? 誘導ミサイルか……!」

 

 突如、下から黄色いビームがすべてのミサイルを撃ち、爆破させた。

 ユニコーンは爆風と衝撃に備え、シールドを使って凌ぐ。

 

《リュート! 大丈夫か!?》

《カレヴィ! 助かった……!》

 

 先ほどの攻撃はカレヴィの愛機、ウイングの【バスターライフル】だ。そして後方からもエクシアがユニコーンの援護に入る。

 

《どうするの、カレヴィ?》

《あれは火力も機動力も半端じゃない。まずは武装を無効にし、最後はコアである機体にトドメを刺しかない!》

 

 承諾した2人は、ウイングを並行して並びながらデンドロビウムに向けて直線状に突進した。

 

「たった3機でデンドロビウムに勝てると思うな!」

 

 さらにビーム砲が発射され、射線軸から退避すると、今度は再び直線状に突進しながら追尾ミサイルを積んだ大型ミサイルを発射した場所からコンテナが開く。

 

《今だ、リュート!》

「うおおおっ!!」

 

 その瞬間カレヴィがリュートに合図を送り、リュートのユニコーンは【ドーバーガン】、カレヴィのウイングは【バスターライフル】で発射される前に左右のコンテナを同

 

時に狙撃した。

 見事に命中し、両方のコンテナは大爆発を引き起こした。デンドロビウムの大半を占めるアームドベース【オーキス】の武装はほぼ無効化されたのは確実だが、コアである

 

モビルスーツが見当たらない。

 アームドベース【オーキス】を切り離したステイメンで脱出し、長引けば勝機が薄くなると考えたルスランは不本意だが、彼らの前から立ち去ろうとしている。

 カレヴィとレーアは敵機体の撤退の確認をしたが、フロンティアⅣを破壊した張本人に情けをかけない者が1人いた。

 

《逃がさない!》

 

 フロンティアⅣを破壊したルスランに対する怒りが収まっていなかったリュートは無我夢中にも再びNT-Dの発動に成功し、リュートの2つの瞳がまた赤く発光している。

 ユニコーンのシールドも連動し、真ん中の【Iフィールド】を中心にX字にサイコフレームが展開した。

 

《え、リュート!?》

《あのバカッ……!》

 

 ブースターを最大出力にすると、ユニコーンの通った後にサイコフレームによる薄っすらと赤い残像が残るほどの倍以上の速度になった。

 執念と怒りで猛狂っているリュートは異常なスピードの慣性で生じるGに耐えつつ、意識を失わないようにしながらハンドルをしっかり握ってるのがやっとだった。

 

「なんだあのスピードは……!?」

「うおおおおおッ!!」

 

 そのスピードでユニコーンはビームサーベルを取り出してトドメを刺す。

 

「バカなぁぁぁッ!!」

 

 デンドロビウムの本体であるガンダム試作3号機――通称ステイメンは破壊され、宇宙に大きな爆炎が散った。

 爆炎から小さな光が流れ星のように高速で移動しているのが見えた。おそらく爆発寸前に脱出ポットをルスランが手動で脱出装置を起動したのだ。

 そして、ガンダム形態になったユニコーンもユニコーンモードに戻り、また心臓に強く抑えているリュートはトールギス戦よりも息遣いが荒く、額から汗が止まらなくなっ

 

ていたのだが、リュートはユニコーンがデストロイモードへ変形する発動条件と思われるものを得ることができた。

 

「グゥッ……! ハァ、ハァ……!」

(あぁ、そういうことか……! デストロイモードの発動するには、敵対相手に対する強い意思が必要なんだ……!)

 

 簡単に言えば、心の底からあの敵に勝ちたい、殺したいといった明確な意思でほぼ間違いなかった。

 トールギス戦での強い生存意欲も遠回しにその敵に勝ちたいことから発動できたのだ。そして、これはこの世界でのニュータイプの存在が否定された瞬間でもある。

 だが、問題はデストロイモード形態になったその代償となる心臓が破裂しそうな程の激痛だ。

 いつでもなれるというわけではないのでタイミングが必要となってくる。

 ある程度NT-Dシステムの長所と短所が分かってきた所だが、先ほどから息苦しさが徐々に無くなる所がむしろ増すばかりで体もフラフラしている。そして遂には、目まいを

 

し始めて遠のく意識を保っていることさえやっとな状態だ。そしてこのタイミングで通信が入る。レーアからだ。

 

《リュート!》

(ああ、レーアの声が聞こえる……。返事したいけど、ダメだ……。声が出ない……。辺りもぼやけてて……)

 

 決着を付けるために向かったユニコーンを追いかけていたレーアのエクシアがやっと追いつき、そしてカレヴィのウイングも追いついた。

 

《バカ野郎!! なぜ1人で飛び出した!! 一つ間違えていれば……》

 

 何よりも命を重んじるカレヴィは画面越しに怒涛の活を入れるが、態勢が安定していないことや異常なほどの息遣いの粗さ、目の視点が合っていないことからリュートの様

 

子が明らかに違うことに気付いた。

 

《リュート……?》

《……ご、めん。もう、あんな、無茶、な……》

 

 と、シート側に倒れたリュートをモニターで見ていたレーアは焦って名前を連呼して呼びかけるも応答はない。

 

《ダメだわ、返事がない!》

《こちらカレヴィ! アークエンジェル応答してくれ!》

《こちらアークエンジェルです。カレヴィ少尉、どうしました?》

《戦闘は終わったが、1人気を失ってる! 一刻も早く合流したい! 医療班も呼んでくれ!》

《えぇっ!? そ、それは大変です!! すぐに向かいます!》

 

 フロンティアⅣを壊滅したデンドロビウムを破壊したユニコーンのパイロットは意識不明の状態に陥った。

 レーアのエクシア、カレヴィのウイングは静止したユニコーンを担いで反対側にある宇宙港へ移動し、リュートの意識回復のためにアークエンジェルに急行した。

 

 〇 〇 〇

 

「捕獲は失敗しましたか……。これは困ったものですね」

 

 その言葉遣いから戦闘で死亡したオーゲンたち雇われ兵を派遣した雇い主と思われる人物は、デスクに置いてある電光ランプだけの明るさだけで豪華なティーカップを片手

 

で持って口まで持っていき、一回すする。

 ティーカップを元に戻した後、デスクに散乱しているいくつかの写真やとある機体のデータ資料からある1枚の写真を手に取る。

 その写真はかつてリュートがこの世界に来たときに初めて会った老人が写っていた。

 

「これもあなたの意志なのですか、レオ・ビスタル……」

 

 思い通りにいかなかったことに腹が立ったのか、その男は手に取ったレオ・ビスタルと呼ばれたその老人の写真を握りつぶしていた。

 

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