仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 なんか、ちょっとやりすぎた。書きたいことが山ほどありすぎて考えがまとまりません(といいつつこれでも約一話分削ったりして)。な、長い……。
 みなさんは、小説を読む中でどのシーンでなんのbgmが頭に流れてますか?と突然聞いてみたりする。


ゼロの使い魔の世界2-16

リンゴーン

 

リンゴーン

 

リンゴーン

 

リンゴーン

 

リンゴーン……

 

 

 

 

 

 

 鐘がなった。あの日、あの偽りの時の中で自分が聞いたあの鐘の音が。あの時は、後何回鳴ったら自分が死ぬのだろうかと、その鐘の音をただ絶望の中で聞いていた。だが、今は彼女たちの新たな門出にふさわしい凛として、そして甲高い祝福の歓声になっている。

 

「フゥ……」

 

 祭壇の前で、緊張している一人の男の子。『サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ』は、一つ息を吐く。先ほどまでの簡素な衣装と違って、今度はこの国の貴族が冠婚葬祭の時に着る白を基調とした礼服。そして貴族の証たるマント。だが、そのどれもが彼に似合っていないようにも見えた。それは、元々彼がそれを着るべき世界にいなかったこともあるだろう。だが、それでも彼はこの世界の作法を守ってくれている。ルイズが言うには、最初は礼儀も作法も全く知らず、この世界になじまないように暮らしていたという。だが、この一年間で彼は学んでくれたようだ。我を押し通すことも大事である。だが、それも時と場合を選ぶのだということを。その時、彼の目線の先にあるドアが開いた。アンリエッタもまた、その大きく開いていくドアに注目する。

 そこにいたのはルイズである。その姿は、煌めき、そして光り輝いているように見える花嫁衣装に身を包んでいる。そこにいたのはついこの間まで幽閉されていたとは思えないほどきれいな女の子だ。手にはブーケを持っている。薄いピンク色の花で作られたブーケは、彼女の純粋な思いを表しているかのようだ。彼女は父、ラ・ヴァリエール公爵のエスコートで、式場に入って行く。今日は、彼女と、サイトの結婚式だ。

 たくさんの出席者の間に敷かれているレッドカーペット、その上をゆっくりと歩み、サイトの元へと向かう。出席者の中には見覚えのある顔がたくさんあった。もちろんシエスタの姿も、キュルケの姿も、ティファニアの姿も見える。当然、カリーヌやカトレア、エレオノールの姿も見て取れる。学院の同級生たちや先生たちの姿もそこにはある。アンリエッタとシャルロットは、王族として来賓席のようなものに座っている。アンリエッタは無論トリステインの、シャルロットはガリアの王女として。アニエスとイルククゥは彼女たちの隣に立っている。皆、ここにいる。

 だが、一人姿が見当たらない人間がいた。夏海やユウスケ、麻帆良学園の四人は確かに出席者の中にいる。あのキュアハートの相田マナの姿すらもある。麻帆良学園の四人は、礼服を持っていないので学校の制服らしい。だが肝心の門矢士の姿が見当たらない。彼はどこにいるというのだろうか。

 

「ん?牧師はいないのかね?」

 

 ヴァリエール公爵はそう言った。確かに、普通ならいるはずの牧師の姿が見えない。どうしたのだろうか。

 

「ここにいる」

 

 その時だ、ルイズの現れたドアから牧師が、というか士が現れたのは。

 

「士!?」

「ディケイド!?なんで牧師の恰好なんて……」

「これが本来の俺の役割だったようだ」

 

 彼が使い魔代理だったのはさっきまでの事。偽物の歴史の間だけだ。だから、本来の歴史に戻り、サイトという本当の使い魔が帰ってきた今、彼もまた本来の役割に戻ったのだそうだ。士は、ルイズが歩いてきた道をなぞるように進んでいき、そして祭壇の前まで行くと振り返り言う。

 

「新郎、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ……もとい平賀才人」

「え?」

「汝は始祖ブリミルの名においてこの者を……はぁ、長いから以下略ともかく、愛し守ることを誓うか?」

「誓います」

 

 その士の色々な意味で異例な行動に、士の事をあまり知らない出席者はどよめく。だが、士の事をよく知っているキュルケやアンリエッタ達は、その行動に笑みをこぼし、夏海達光写真館の面々は、呆れていた。夏海に至っては、『笑いのツボ』を繰り出すべく飛び出そうとしたほどだ。が、取りあえずそれは隣にいるマナによって止められた。

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵家三女ルイズ、お前も誓うか?」

「はい、誓うわ」

「では、誓いのキスを」

 

 ルイズとサイトは向かい合い、そしてサイトがルイズの手を取って言う。

 

「ルイズ、きれいだ」

「もう、そんなに見つめないで……」

「必ず幸せにする」

「当たり前じゃない。しなかったらお仕置きなんだからね」

 

 当たり前。そう、当たり前のことだ。なんてったって、彼女と約束したから。ルイズを幸せにしてくれと、頼まれたんだ。俺はここに誓う。ルイズを守り、そして幸せにするということを。これからも一緒に歩いていくということを。そう平賀才人は心の中で宣言しながら二人はキスをする。これで何度目になるのか分からない。だが、その中でも一番甘く、そして心地よく、何より、暖かいものだったことは確かだ。そして、そんな二人を祝福するようにステンドグラスから光が降り注ぐ。色鮮やかな中を通った光は、たくさんの色をなして二人を包み込み、そして二人の影をひとつに重ねていた。

 

 

 

 それから数十分後。

 

「ふぅ、疲れた……」

「士君!!」

 

 夏海の『笑いのツボ』は、やっぱりさく裂した。

 

「アッハハハハハ!!!!な、なにをする!夏ミカン!!」

「どうしてあんなに適当にするんですか!」

「そうだよ!結婚式なんて、一生に一度の事だっていうのに!」

 

 と、桜子にまで怒られてしまう。当然と言えば当然だ。

 

「いいだろ別に……。あいつらには、言葉なんて必要ない」

「まぁ確かに、それで緊張もほぐれていたみたいだしね。これもこれで、いい思い出になったんじゃないかな?」

 

 と、ユウスケがフォローを入れる。現在彼らは他の出席者共々教会の前の階段の四段目に整列している。ルイズとサイトは一段目の真ん中、鳴滝姉妹は小さい為一番前で、カトレアのすぐ隣にいる。そう、これからこの国で初めてとなる写真撮影を行うのだ。無論撮影者は栄次郎である。士がやったら一大事になる恐れがあるし。

 

「それじゃ、行きますよ!ハイ、チーズ!」

「ん?」

 

 その時、風が通り過ぎたような気がした。

 

 続いて、教会の前に女性陣がたむろし始めた。何となく何をするのかは分かる。

 

「んで、ブーケトスか」

「この世界にもあるんだね」

 

 何故その文化は共通であるのだろうか。ルイズがブーケを投げようとする瞬間、ほとんどの女性が我先にとなだれ込むようにルイズのでブーケを取ろうとわさわさしている。こういう時は、平民も貴族ももはや関係なかった。特に気合いを入れているのはエレオノールてあったことはここだけの話。

 そして、ルイズはブーケを投げる。花びらが宙を舞う。女性たちの手が伸びる。影が一つ横切ってブーケが消える。

 

「ってえ?」

 

 ブーケが消える。消えた。いったいどこに……。その時、声が聞こえる。

 

「大したお宝じゃないけれど、取りあえずもらっていくよ」

「あ、海東さん!!」

 

 教会の屋根、そこにブーケを持った海東が得意げな表情でいた。これに激怒しているのはエレオノールである。

 

「こらディエンド!!あんたには関係ないでしょ!!」

 

 ブーケトスは、現在はそれを取った人間が次に結婚することができるといういわれのようなものを持つが、もともと参列者が花嫁の幸せにあやかるために身に付けていた装飾品や、衣装などを盗むという風習のような、恒例行事のような物が大本であり、ブーケトスは花嫁が参列者から逃げる際の囮として始まった物なのであるとか。

 

「確かに僕には関係ない。けど、これが君たちにとって大切な物なら、宝物さ」

「それちょっとこじつけじゃない?」

「大したお宝が見つからなくてひねくれているみたいだな」

 

 それが聞こえたのか、海東は士に向かって銃を撃つポーズをして言う。

 

「次の世界ではもっといいお宝を手に入れる。楽しみにしたまえ」

 

 そして海東は教会の屋根を伝って奥へと消えていった。

 

「あっ!待ちなさい!!……おのれ、ディエンドォォォ!!!!!」

 

 士はその言葉に懐かしみを覚える。はて、そういえばここ最近見ていないが奴はどうしているのだろうか。

 

 

 そのころ、薄暗い空間に一人の男の姿があった。

 

「まさかこの世界にディケイドが現れるとはな……」

 

 彼、鳴滝にとってもディケイドが現れたことは想定外の事であった。そもそもこの世界に来た理由として、第一に新兵器の試運転、第二にルイズという計画における最大の弊害の始末を理由にしていた。だが、まさかディケイドがこの世界に立ち寄るなんて夢にも思わなかったのだ。

 

「いいんじゃな~い?機械がちゃんと動くことも確認できたことだし」

 

 と言いながら暗闇の奥にひっそりといた女性が言う。パソコンに何かのデータを叩きこんでいるようだ。

 

「君には感謝している。おかげで未完成のままであったディー博士の歴史改変マシンを完成させてくれたのだからな」

「あんなの朝飯前だよ~」

 

 ディー博士とはショッカーに所属している研究者である。もともと歴史改変マシンの試作機を作り上げ、完成させるまであと一歩というところまできたものの、重要な部品を作る前に爆死してしまった。その四十三年後にとある方法でコピーが復活し、その重要部品を作り上げ、そのデータを元にしてショッカーは歴史改変マシンを作り上げた。その際途中まで作り上げたところで機械的な欠陥を見つけたため、一人の科学者を連れてきて完成させたのが、ゼロの使い魔の世界を混乱に陥れた『試作型歴史改変マシン』である。多少省略。

 

「まぁ、ゼロを封印することは叶わなかったが、当初の目的が達成されたことはよしとしよう。それに、彼女たちのデータも手に入れることができた……二つの世界同様な……」

 

 鳴滝は、そう言いながら一つの黄色い指輪と三つのモノ、それぞれ黒、緑、そして灰色をしているモノを見た。モノを形容することは簡単にはできないが、上半分は透明、下半分は何やら文字が多数書いているようだが、細かすぎて読めない。とだけ評しておく。

 

「では、今回もたの……」

「できたよ~」

 

 と言いながら女性は二つのUSBメモリを鳴滝に見せ渡す。一つは桃色、一つは緑色をしている。

 

「いつもながら早いな……」

「当たり前だよ。こんなの……『束』さんにかかればね……」

「フッ……」

 

 鳴滝はUSBのボタンを押す。

 

≪ZERO!≫

≪GANDAーLFR!!≫

 

 そして、その音を聞いた束は……。

 

「ウフフッ……アハハハハハ!!!!」

 

 ただ、笑うだけであった。その眼は、正気の沙汰にないように見える。

 

 

 一方こちらは夜も更けたトリステイン魔法学院だ。

 

「ルイズ、おめでとう」

「おめでとう」

「ちい姉さま、キュルケ……ありがとう」

 

 今夜の主役であるルイズ、そしてサイトの二人はそこで開かれたパーティーでたくさんの祝福を受けていた。本当は結婚式が終わった後すぐに新婚旅行に行く予定になっていたが、その予定を少し遅らせたのだ。理由は色々とあるのだが、もっとも大きいのは、一日ぐらい休みたいというものだった。

 

「サイト、おめでとう。心から祝福をするよ」

「ギーシュ……ありがとう」

 

 そして、そこには魔法学院の同級生たちも集まっていた。ギーシュもまた。歴史が改変された世界で死んだ者たちは全員生き返って帰ってきた。

 

「ジャンにも、この晴れ姿を見てもらいたかったわね……」

「えぇ……」

 

 ただ一人を除いて。

 歴史は修復されたものの、一人だけ取りこぼしがあった。それが、ジャンコルベール先生の死。あの日、助かったはずの彼の命は、歴史が元に戻っても無くなっていた。その事実に、ルイズは愕然とした。コルベールは、魔法が使えなかった自分をいつも励ましてくれ、そして努力は無駄にならないということを教えてくれた。間違った歴史の中であっても、彼は実家に逐一手紙を送って近況を教えてくれていたらしい。そんな彼にこそ、自分が真に幸せになった姿を見てもらいたかった。そして、もう一人……。

 

「テファ……」

「……」

 

 ティファニアに声をかけたのはアニエスだ。その顔は、かなり暗い。それを見て、ティファニアも覚悟を決めた。そもそもがおかしかったのだ。どうして彼女は、この時間軸で自分に会いに来なかったのか。例え忙しくても、自分がトリステイン魔法学院に行っていたとしても、一度くらいは接触があってもおかしくはないはずだ。その答え、それを今アニエスが持っている。そして、ティファニアは聞く、真実を。

 

「タルブの村の近くの森……そこで、一部白骨化した遺体が見つかった……所持品からフーケ、いやマチルダの物と分かった……」

「そうですか……」

 

 歴史が元に戻る瞬間、消えていく世界の中で彼女はマチルダの声を聞いていた。

 

『テファ……』

『マチルダ姉さん?』

『ごめんね……私は、もうあんたの側にいられない……』

『え?』

『タルブの村の近くの森……そこに私はいるから』

『姉さん……』

『テファ……あんたのおかげで私はいい人生を送れた……だから後悔はしていないから……』

『マチルダ姉さん!』

『じゃあねテファ……あなたもいい人生を送って』

『姉さん!マチルダ姉さん!!』

 

 その瞬間、彼女は歴史の中に消えた。彼女がどうして死んだのか、苦しんで死んだのか、それとも後悔の中で死んでいったのか、今の自分には分かるはずがない。その時の彼女の表情は、思い出そうとも思い出せない。泣いていたのか、笑っていたのか、ただその時の彼女は少なくても幸せだったはずだ。女神のような顔を見せて、マチルダは消えたのだと、彼女は信じたかった。

 

「……」

 

 テファはバルコニーから空を見上げた。そこには星々がたくさん並んでいる。サイトは言ってくれた。人は、死んだら星になると地球では言われているのだと。あの星のどれかがマチルダ姉さんなのだろうか。あそこにあるのが父なのだろうか、母なのだろうか。それとも……その時、一つの星が落ちていった。まるで涙のように線を描いて、流れていった。

 

「テファ、彼女の遺体はトリステインで預かった……明日には、元サウスゴータ領に向かい……埋葬しようと思っている」

「……だったら、お願いがあります……お墓には、姉さんの名前を記してください……」

「分かっている……彼女は間違いなく。マチルダ・オブ・サウスゴータだ」

「……ありがとうございます」

 

 彼女の家は取り潰され、彼女もまたサウスゴータという名前を取り上げられ、没落貴族として生きるしかなくなった。そのため、マチルダ・オブ・サウスゴータという名前は公式ではない。だが、そんなことは関係ない。彼女はマチルダ・オブ・サウスゴータなのだから。それは間違いないのだから。どれだけ名前を取り上げられようとも、その人物の眠る墓に、本当の名前が書かれないのはあってはならない事なのだから。

 アニエスもまたテファと同じように空を見上げる。コルベールが死んだ。いや、自分が殺したのだ。そして、修復されてもそこに彼は帰ってこなかった。この罪にどう向き合えばいいのだろうか。向き合い、どう生きていけばいいのだろうか。アニエスは彼に聞きたかった。だが、その時が来ることは二度とない。だからこそ、自分で見つけ出そう。自分の歩く道を、自分の生きていく道を彼女の、アンリエッタの側にいることで、彼女を守ることで必ず見つけよう。そう、彼女は空の星に誓った。

 

「シャルロット姫、楽しんでいますか?」

「えぇ……」

 

 シャルロットは笑顔でそう返した。すぐそばでは、イルククゥが大量の料理を皿の上に乗せ食べている。

 

「これから、忙しくなりますね」

「うん、でも大丈夫……」

「え?」

「いざとなったら、友達に助けてもらうから」

「……フフッ」

 

 言葉は少なかった。でも、確かにシャルロットは感じていた。同盟だとか、政略的な物とかはない、そこにあったのは紛れもなく友情という一つの単語だった。

 

「はぁ……」

「どうしたエレオノール?」

「いえ、お父様……覚悟はしていたとはいえ……妹に先を越されたのが……」

「女々しいですよエレオノール」

「だって、お母様……」

 

 エレオノール、ルイズに先を越された上に、ブーケを海東に取られて傷心中である。

 

「そんなことでごちゃごちゃ言っているんだから、結婚できないんじゃないかな?」

「ぐぬぬ……」

 

 と、ブーケを隠して戻ってきた海東にぐうの音もでない言葉を言われてしまった。確かに、あれを取った取らないで自分の運命が決まるわけではない。しかし、心の支えぐらいは欲しいものではないか。と、エレオノールは思ったものの言わなかった。

 

「まぁいいわ。遅れをとった物の、いつかルイズがうらやましがるような貴族をものにして……」

「高望みばかりするからダメなんじゃないかな?」

「確かに」

「貴族たるもの、少しは余裕という物を持ちなさいエレオノール」

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

 ついに両親にまで言われてしまった。だが、それもいいかもしれない。高望みばかりするのではなく同格を見てもいいかもしれない。貴族なんてこの世界に腐るほどいるのである。一人くらいは自分に興味を示すものが現れるかもしれない。婚約云々なしにして、すぐに結婚を迫るぐらいの勢いで行けば何とかなるはずだ。と、もはや暴走寸前の考えを浮かび上がらせていた。まぁ、彼女なら多分大丈夫だろう。いざとなったら力づくでも止めてくれる両親がいるのであるから。

 公爵は、はるか遠くにいるルイズを見る。なんとも楽しそうだ。笑顔で、そして未来に希望を見出している。最初は、平民の男との結婚について、少しだけ迷っていた。そんな男にルイズを守ることができるのかと。だが、あの戦いをみてはっきりとわかった。彼になら、ルイズを任せることができると。ルイズの幸せを願って、そして守り抜いてくれると。

 

「彼なら、ルイズをいつまでも守ってくれるでしょうね」

「あぁ、そうだな……」

 

 公爵は隣にいるカリーヌの肩を抱き、引き寄せる。巣立つ我が子を見て、心細くなったのかもしれない。だが、この言葉だけは送ろう。彼らは聞いていないがしかし、心の内に秘めるだけでは少し物足りないその言葉を。

 

「おめでとう、ルイズ……そして、サイト君」

 

 彼女の、もう一人の娘の託した未来、それを十分に生きて欲しいと、願う公爵とカリーヌの姿がそこにはあった。

 

「シエスタ、この料理持って行ってくれ!」

「はい、マルトーさん!」

 

 シエスタは、大皿に盛られた料理を持ってパーティー会場へと急ぐ。こっちの世界に戻ってきたことで、タルブの村は元通り復活し、死んだ人たちも帰ってきた。だが、あの時間の中で契約したルイズとシエスタの主従関係も失われ、彼女は元の職場であるトリステイン魔法学院所属に戻った。マルトーや、他のメイドたち、そして先生たちにも、当然のことながらあの時間軸での記憶はない。そのため、ルイズがシエスタを買ったという記憶も記録もなくなって、マルトーは元の貴族嫌いに戻った。とはいえ、少しは記憶が残っているのか前よりはおとなしくなった風に感じる。自分とルイズの関係は恋敵に、いやもうサイトはルイズを選んでしまったため、ただの友人というだけになってしまった。だが、それでいいのかもしれない。元々そう言う世界の中で生きていたのだから。今まで通りに元に戻ったのだから。いづれ、彼女はこの魔法学院を卒業して、サイトと一緒にどこか遠くへと去るだろう。なら、その時まで魔法学院で働く者として、生徒であるルイズに尽くすだけだ。そうシエスタは思いながらパーティー会場へと入って行く。

 

「あっ、ちょっとごめんなさい。サイト、ちょっと一緒に来て」

「え?あ、あぁ」

 

 キュルケ、カトレアにそう告げると、ルイズはサイトと一緒にある場所へと向かう。それはもちろん彼女、シエスタの所だ。

 

「シエスタ」

「あっ、ルイズ様、いえルイズさんいえ、えっと……」

 

 ルイズ様というのは、あの時間軸の中でシエスタが呼んでいた名称、ルイズさんというのは元の時間軸の中で呼んでいた名称だ。実は、シエスタの中でどちらの名称で呼ぶべきなのか迷っている節があった。もはや主従関係がないので元の呼び名にしなければならないのだが、今ルイズはまだ魔法学院に在籍している身のため、ルイズ様という呼び名の方が適切なのかと思ったり、ともかく、何やかんやの理由でどちらの名称で彼女を呼ぶべきなのか混乱していた。そんなシエスタにルイズは笑いながら言う。

 

「いっそのこと呼び捨てでも構わないわよ」

「いえ、そんな……いくらなんでも私とあなたは平民と貴族の関係です。呼び捨てなんて……」

「それじゃ、それ以上の関係にしてあげるわ」

「え?」

 

 と言ってルイズが取り出したのは一枚の紙だ。それは、シエスタにも見覚えがある紙であった。いわゆる雇用契約書のようなものである。

 

「さっきね、オスマン学院長に掛け合ってあなたを雇ったの……これでまた私と貴方は主人とメイドの関係になったわ」

「あぁ、それじゃまた……」

「でもね、貴方をメイドとして側に置きたいわけじゃないの……」

「え?」

「友達として……傍に置いておきたいのよ」

「ルイズさん……」

「私とサイト、新婚旅行はあなたのおじい様の故郷である地球に行こうと思ってるの」

「え、そんなこと……」

「『世界扉』があれば簡単よ」

 

 世界扉というのは、その名前の通りゲートのようなもの。虚無の魔法の一つで、異世界への扉を開く魔法だ。それによってルイズはサイトと一緒に地球に行こうと考えているのだ。

 

「あの時間の中で、もしもあなたがいなかったら私はサイトに再会できなかったし、貴方が私の事を励ましてくれたから、士が来るまで耐えることができた」

「……」

「もう一度言うわシエスタ。私、あなたに依存しちゃったのかもしれない。でもね、私には、サイトと……シエスタ、二人が必要なの。側にいて、シエスタ……」

 

 依存と友情は紙一重である。上手くバランスがとられていれば何の問題もない。しかし、一度それが崩れてしまえば相手が側にいないだけでパニックを起こし、イライラし、そしてそれが独占欲へと変わってしまう。今のルイズは、まさにその一歩手前にまで来てしまっているのかもしれない。彼女への恩義、それが引き金となって勘違いして、ルイズ自身にもそれは分かっている。だが、止める事なんてできない。止められない、この心の内からあふれ出すこの思いを。

 

「……いやです」

「!」

「シエスタ……」

 

 ルイズ自身には止めることはできない。だからこそ、

 

「依存なんかで、壊したくないです。私たちの友情を……」

「それじゃ……」

「だから、友達として一緒にいましょう……ルイズ」

「ありがとう……シエスタ」

 

 友達が、必要なのだ。愚かな道に走る寸前になろうとも、それを止める人間がいてくれる。だからこそ、人は愚かなる道を選ぶことができるのだ。彼女は今までどれだけ自分の命運を託すことのできる人間に出会ってきたのだろう。サイト、シエスタ、コルベール、そしてカトレア、士やキュルケもそうかもしれない。皆愚かな道を選ぼうとするとき、絶対に止めてくれた。それを愚かだと欠片も思わない時だって時にはあった。だからこそ、誰かに止めてもらいたかったのだ。止めてもらって、何馬鹿なことをやってるんだと言ってくれる人間。それを、ヒトは求めるのだろう。

 ルイズは思う。自分は、なんて恵まれた環境に生まれてきて来れたのだろうかと。貴族?虚無?そんなの関係ない。それはただの付属品に過ぎない。確かに、貴族でなかったら、虚無でなかったらシエスタにも、サイトにも出会うことはできなかった。でも、それはすべて結果論。虚無だから自分はルイズである。違う。貴族であるから自分はヴァリエールである。違う。自分は、自分の事をルイズだと思っている。だからこそ、自分はルイズなのだ。だからこそ、こうして友達や愛する人に出会うことができたのだ。自分は、ルイズでよかった。

 

 士は、そんな彼、彼女らの様子を写真に収めた。多分、これで綺麗な写真になっていることだろう。今回は意外と長い旅だったが、ようやく次の世界に向かうことができる。

 

「へぇ。シャルルちゃんって人間の姿になることができたんだ」

「そうシャル。でも、結構体力を使うから一時間が限界シャル」

「私の友達の妖精は、大人に変身することもできるんだよ」

「へぇ~、すごいです」

 

 と言って、麻帆良組と食事をとっているマナとシャルル。シャルルは、人間の少女の姿へと変身している。無論、不思議がられずにパーティーに参加するためだ。と、ここで夏海には士に一ついいたいことがあった。

 

「ところでルイズちゃんから聞いたんですけど、『俺にできないことはない』って堂々と言ったらしいですね?」

「ん?言ったような……言っていないような。だが、まぁ確かに俺にできないことはないな」

 

 士には、何となくうっすらと記憶にあるようなないような言葉ではあるが、しかし、まさにその通りなので自信を持って言った。が、しかし。

 

「乙女心が分からないのにですか?」

「むっ……それは男全体での課題だろ」

「写真がうまく取れないことはできないことに入らないのか?」

「うぐ……」

「士、ナマコは食べれるようになったのかい?」

「……うるさい」

 

 夏海、ユウスケ、そして海東による三段オチである。確かに、自分は乙女心は分からないし、写真も歪んでしまうし、ナマコは……多分嫌いなのだろう。確かに、ここまで欠点があるというのにできないことはないとは笑い話だ。

 

「なによ、あんたにだって欠点あるじゃない」

「ルイズ、いつからそこにいた?」

「ついさっきよ」

 

 ふと気がつけば、ルイズ、サイト、シエスタ、そしてカトレアの四人がそこにはいた。

 

「まぁあれだ。人間できない事の一つや二つあるということだ」

「何恰好つけてんだか……」

「でも、それが人間として正しいことだと思うな」

「ん?」

 

 士の言葉に、つかさず反応したのはマナである。

 

「欠点があるからこそ、誰かとそれを埋め合うことで友情を再確認することができる。完璧な人間なんて、どこの世界にもいないんだよきっと」

「そういうことだな」

「ねぇ、それよりも。ルイズちゃんの持っていたミラクルライト……あれ、どこで手に入れたの?」

「あれか、いいだろう。次の世界に行く前に教えてやる。その前に」

「その前に?」

「パーティーを楽しもう。せっかくご馳走が目の前にあるんだしな」

「……うん。そうだね」

 

 パーティーが始まってからかなりの時間が過ぎた。だが、その明るい雰囲気はとどまることを知らず、それどころか時間がたつたびに酒がまわりだしてより一層の光を放っていた。誰もが、ルイズの結婚をおめでたく思い、そして祝福している。その中で、カトレアは一人バルコニーに出て思う。この光景を、もう一人の自分にも見てもらいたかったと。

 

「カトレアさん」

 

 そんな中、カトレアに声をかけてくるものがいた。サイトである。

 

「サイトくん」

「俺、ルイズの幸せを守ります。だから心配しないでください」

「……ありがとう」

 

 それは、あのワームのカトレアに宣言するような形に思えた。ルイズのエクスプロージョンが収まった直後、大きな一つの爆発と共にワームは消滅した。もちろんそこにはカトレアであったワームはいなくなっていた。その後しばらく、サイトはワームがいた場所をずっと眺めていた。彼女を助けられなかった自分を恨んでいるのだろうかとも思ったが、それは違うと、カトレアは思っていた。多分、彼は決意していたのだろう。命がけで自分の妹を守ったカトレアに、貴方の分までルイズの事を守り通すということを。その時、ルイズが現れた。

 

「サイト、何してんのよ?」

「いや、ただカトレアさんと話していただけだ」

「そう。……そういえば、一つ気になっていたことがあるのよ」

「え?なんだ?」

「どうして、ちい姉さまのワームだけが改心したのかしら……だって、お父様もお母さまも、エレオノール姉さまも本心では私の事を気にかけてくれていた。なら、最後の一瞬だけでも、ちい姉さまのワームみたいに……」

 

 確かに、ルイズの言っていることも分かる。カトレア以外の三人もまた、本心ではルイズの事を気にかけていたということは、三人が三人ともカトレアのようにワームを裏切っていても良かったはずだ。それなのに、どうして……。

 

「……」

 

 カトレアにはなんとなく、答えが分かった気がした。だが、その答えは今出すべきではないと思う。彼女のために、そして彼らのためにも。

 

「ルイズ、サイトくん……」

「え?」

「はい」

「本心はどうであれ、あなたたちはそれら全部を打倒して自分たちの未来を掴んだのよ。胸を張って、幸せな家庭を築きなさい」

「ちい姉さま……」

「……分かっていますカトレアさん。俺とルイズの絆は……」

 

 そして、サイトは左手の甲を見せながら言う。そこには二人の愛の証があった。

 

「もう、絶対に消えることはありません」

 

 どんな危機も乗り越えて見せる。だから、安心してくれ。そう言っているようだった。

 

「がんばってね、二人とも……」

「「はい」」

「さぁ、主賓がいつまでも席を外していてはだめよ。私はもうしばらくここにいるわ」

「分かりました。行こうルイズ」

「えぇ、ちい姉さま。それでは失礼します」

「えぇ……」

 

 そして、二人はバルコニーから離れながら語る。

 

「幸せな家庭か……なぁ、ルイズ。子供は何人欲しい?」

「え、いきなりそれ!?」

「だってよ、幸せな家庭って言ったら家と子供とペットとかじゃねぇか」

「う~んそうね……あっその前にシエスタに無断で手を出したら友達として私が許さないから」

「分かってるって……ん?」

「どうしたの?」

「いや、何でもない」

 

 二人の漫才のような幸せな未来予想図。それを見てカトレアは一つ笑みがこぼれる。その時、バルコニーのすぐ下に見える木が少し揺れた。




 シャルロット、アンリエッタ組の言葉が少ないのはちょっと申し訳ない……。あんなに双方友情を深め合っていたから、逆に書くことが無くなってしまった……。
 それと、ナマコ嫌いは実は海東の方であるという設定を見かけましたが、この際半分無視しております。
 あと、今ちょっとやらかしている最中のためエピローグはまだ先になります。
 因みに、『俺にできないことはない』というのは、実際には言っていません。実はこのセリフ、読者さんから送られてきたある場面の改定案の中にあった言葉なのです。結果的に使わないままになってしまいましたが、わざわざこんな私のために色々と考えてくれて申し訳がない為、少しだけ使わせてもらいました。

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